のろし






「煙だ」荒木はそう言うと、すぐにまたネームをはじめた。
尾田も慌てて顔を上げた。岸本のペン入れを手伝いながら、一緒に
空を仰ぎ見た。
幾分弱くなった雨の中、目をこらすと確かに、空に煙が漂っていた。
北の山のちょうど反対側辺りから、白っぽい煙の塊がはっきり見えた。
ボスケテ。
「うおー!」
尾田は思わず知らず、ルフィ流に小さく叫んでいた。岸本と視線が
合い、同じようにぱっと笑顔を浮かべた岸本が「うすた先生、無事
だったんですね」と言った。
荒木はポケットから石けん水を取り出し、煙の方を見ながら、
シャボン玉をふりまいた。波紋によって割れなくなったシャボン玉
が、雨の中へ広がった。



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