灯台






がたっと音がした。鈴木信也が、テーブルの上にあったウージーサブマシンガンを手にして、
ほかのみんなに向けて構えていた。武井も含め、4人(武井・いとう・しんが・小畑)
が反射的に東直輝の死体から横や後ろへ動いた。
鈴木が叫んだ。
「誰da!誰がやっta!誰が毒を入れta!?」
思わず口調が自分のキャラになっているが、気にせずに小畑が叫んだ。
「やめるんだ!銃を降ろせ。これは何かの間違いだ!」
「間違いなもんka!」
それからいとうをみやって言った。
「いとう先生が料理してたna!」
「僕だけじゃない、しんが君だって――」
「ひどい。僕そんなことしてない。コレは密室殺人だよ。」
しんがのぶっとんだ思考を切れ目にいとうが向き直った。
「大体、そんなふうにムキになるのっておかしいんじゃないかな鈴木君」
「んだと?ノルマンディー打ち切られたからって、俺のミスフルが絶好調だからって
 言いがかり言うna!」
「なっ…それは言っちゃいけないことだぞ鈴木君!あれも素敵な青春の1ページだったんだ!」
「いとう先生も鈴木先生もやめてくれ!」
「リーダーぶらないでくださいyo。あんた、佐為みたいなユーレイ使って毒入れたんじゃないka?」
「鈴木君―――」
まだそれは使ってないよ――と小畑は返したかった。
武井はただ呆然としていた。

―――言わなければならない、オーバーソウルを使って毒を入れたと。
このままではめちゃくちゃなことになってしまう。
ふいにしんがが紙やすりを持ち鈴木に迫った。鈴木が撃ち返した。
「なにするんだ!」
「なんだ、紙やすりを俺の顔にすりつけようとしたからだ。犯人だからだ。」
「君も銃を取った!小畑先生!撃って下さい!鈴木君を!」
鈴木はためらいなしに撃ちまくった。
小畑が倒れると同じにポケットに含ませていた碁石をばらつかせ、
いとうはいつの間にか首からぶら下げていた鉄扇がばら…と開いて倒れた。
鉄扇には『それも素敵な青春の1ページ』と書き綴られていた。
鈴木は銃を武井に向けた。
「武井先生は、違いますよね?」
武井はただ、ぶるぶるふるえながら鈴木の顔をみつめていた。
「さ、佐為ーーー!!」
小畑は最後の気力をふりしぼって佐為を呼び出し、鈴木を呪い倒した。
鈴木は最後に『デリーシャスでしたよ…』と呟き事切れた。
残された武井はただ、その蒼然とした死体たちを床を眺めまわしていた。


小畑、いとう、しんが、鈴木、東(いつのまにやら) 打ち切り。

灯台から落下した武井の片腕を藤崎は必死で掴んだ。
「いやだー!君の新連載と同じに打ち切られるくらいならキユの新連載で潰された方がマシだ!
 離せ!離せよ!」
「暴れるな!ふんばれ!」
藤崎の体はぼろぼろで飛びかけていた魂魄が武井の肩を撫でた。
どう――して?どうしてそんなに辛いのに――俺を助けようとするんだ?
その時武井の脳裏を懐かしい記憶が掠めた。
社の連載パーティーの時、しきりに自分の作品を誉めてくれた顔。
君の作品の方がいいよと言って『僕のは原作付きですから』と言ってくれた顔。
何気に現連載作品より『仏ゾーン』の方が好きですよと言ってくれた顔。
―――ああ、俺、心がおかしくなっていたんだ。――そして、そのせいでみんな――。
せっかくアニメ化したヒカ碁も、なんとなく人気上昇中だったミスフルも、
やっと新連載までこぎつけた東先生の作品も(名前忘れたけど、ソ…なんとかいう)
打ち切りにめげず頑張っているいとう君の新作も、しんが…はまぁ置いといて。
全部、もう、そして、俺ももう―――かけない。
なんて―――ヌルい人生。
「いいですか!武井先生!!」
「だめ。だめ。俺のせいでみんなが―――みんなが―――」
武井の手が藤崎の手をもぎ離すように離れた。
藤崎を見上げた武井の顔が遠ざかり――ばたん、と音がして小さな光がどこかへ
飛んでいった。
「魂魄が…」
封神台に飛んで行く魂魄は―――それは綺麗だった。


武井  打ち切り
【残り8人】




前話   目次   次話