藤崎&梅沢
「俺――」
梅沢春人が中腰になり鳥嶋をぼんやりと見つめていた。
尾田の体がぎりっと緊張した。余計なこと言っちゃだめだ、梅!
「俺には今はアシスタントはいない。誰に連絡したんだ?」
「ははあ」鳥嶋が頷いた。
「そういう人のために、君たちが尊敬している先生に連絡しておきました。そう――おっすオラ悟空の先生」
尾田の顔が歪んだ。「この――鳥山先生に何か……」
「井沢と同じだよ、尾田。可哀想だって文句言うもんだからさー。大人しくなってもらうために、ちょっと、まあ――」
鳥嶋は平然と続けた。
「四年くらい連載引き延ばしちゃったよ。あー心配しないでいいからなー。死んだりしていないから」
赤黒二色分解の怒りが尾田の中で跳ね上がったが、しかし尾田が何か言おうとするよりも
梅沢の「デストロイ!」という声が聞こえる方が早かった。
梅沢「絶対殺してやる!FUCK YOU!」
藤崎「よせっ梅っ!」
鳥嶋「あのなあ梅沢、おまえが今いってることは集英社をにたてつくってことなんだぞ」
梅沢「デストロー−−ーイ!!」
梅沢のぎょろりとした目が、一瞬さらに大きく見開かれるのを、
藤崎は斜め後ろから見た。
三丁の自動拳銃が火を吹き、梅沢の体がダンスを踊った。
一瞬の出来事だった。
藤崎「・・・梅・・・おまえのロック、絶対忘れない」
梅沢 春人 打ち切り
【残り40人】
梅沢に駆け寄ろうとした岸本に向かって編集が事務用カッターを投げつけた。
岸本が前のめりに倒れ、梅沢の体の上にばたんと倒れ込んだ。
「勝手に席を立つもんじゃないぞ、岸本」
鳥嶋が言った。尾田の方へ視線を動かした。
「君もです、尾田。席につきなさい」
鳥嶋の言葉はしかし、尾田や岸本には届いていなかった。
そのままだったら二人ともすぐに梅沢の後を追うことになっていただろう。
だが、「マシリトさ〜ん」という落ち着いた――むしろ脳天気な声で、尾田は我に返った。
藤崎竜が手を挙げていた。
「岸本センセー点穴を突かれてるから、席戻るの、手伝ったげていーですか?」
それはいつもと全く変わらない太公望然とした口調だった。
「さ、立て、岸本」
と言い、岸本の右腕の下に手を入れて、立つのを手伝った。
いつもはちょっとユーモアのある目が、今は真剣になっていた。
右側の眉だけを持ち上げてかすかに首を振るようにあごを動かし、
空いている左手をぐっと下に押し下げるように動かした。
尾田はそれで、なお茫然としてはいたものの、藤崎が、落ち着け、と言っているのだとわかった。
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