尾田、荒木、岸本・隠れてる時
「はーい、打ち切り食らった人は以上でーす」
マシリトの明朗な声が続いていた。
「続いて午後からの禁止事項と時間をいいまーす。
はい、メモしなさい、メモしなさーい。」
「まず、一時から、ベタ禁止でーす。
三時から、雲形定規はなるべく使わなーい。
五時から、誤字脱字は、即打ち切りでーす」
ベタ禁止はつらかったが、これはトーンの多重貼りで、印刷したら、ベタみたいになるだろう。
雲形定規が使えなくても、荒木さんの画力でなんとか・・・。
誤字脱字だって注意を払えば問題ない。
尾田達の作品には当面問題はなさそうだった。
「みんな、仲間が打ち切られてつらいかもしれないけど、元気出さなきゃだめだぞ。
大空翼が、くよくよしてたら日本はワールドカップにいけませーん。じゃまたな〜」
下書きの横にチェックを入れながら、尾田はため息をついた。
「もう25人だ、ちくしょう」
荒木はタバコに火をつけた。それから言った。
「言ったとおりだろ。順調に打ち切られてるわけだ」
荒木の言う意味はわかった。仲間が打ち切られれば打ち切られるほど
尾田たちの連載の可能性も広がるのだ。なおかつ時間切れも遠のく。しかし-----
「そんな言い方ないだろ」
荒木は言った。
「悪かった」
(中略)
さっきロックの話をしたときは、なんだか本当の信頼できる作家同士になれた気がしたのに
荒木にはどこか、まだなじめないところがあるように思えた。
尾田は小さくため息をつき、別のことを考えた。
マシリトが報告した、六人のうち、自分がその打ち切りを見届けてないのは、森田とつの丸だけだった。
あの2人は、昔気質の漫画家で、仲が良かったと思う。
とすると、どこかで一緒に書いていたのだろうか・・?
矢吹と久保を打ち切った、ネタの嵐が脳裏をよぎった・・。
あの”誰か”とそれは、同じ奴なのだろうか。それとも------
「尾田」
荒木が呼びかけた。
「原稿書いてないだろ、尾田。ジャンプ支給のろくでもないネタだが
マガジンから仕入れた、レイヴとクロマティがあるぜ、使おうじゃないか」
荒木は自分のデイパックから、雑誌の一部分を出して見せた。
(中略)
「岸本?」
尾田は岸本に近づいた。荒木はクロマティの表紙を手に持ったまま二人を見やっていた。
「岸本!」
岸本は青ざめた顔で、口を真一文字にくいしばっていた。
尾田はようやくきづいた。
全く動いてない手。
そして、白紙の原稿。
見てるだけで、はっきりと感じる、岸本のスランプ。
「ネタが切れてる!!荒木!」
「だい・・じょうぶ・・」
岸本が力なく言った。
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