河下水希・1
河下水希は茂みの中で震えていた。
ジャンプ連載陣なんてだれも信用できない。憧れていた少年漫画の
世界だったが、こうなってはみんな敵だ。
敵――そうだ。連載陣が自分に襲いかかってくる。
たかが打ち切りにいい大人が殺しあいの大騒ぎをして。
そこまで考えて、ぞくっと冷たいものが背中を駆け抜けた。
打ち切り?あたしはもう、打ち切りなの?
水希は必死で、バッグの中から自分で描いた同人誌をとりだした。
それは、少女漫画誌に連載していたころに趣味で描いていた
ホモ同人誌だった。
見つめているうちに、落ち着きが戻ってくる。
ああ――やっぱりあたし、ホモが好きなんだ。ねえ、あたしを
打ち切りから守ってね。そのためなら頑張って巨乳も描くから。
ざっと背後で音がして、水希はふりむいた。うすたが見ている!
後ろに回られていた!知らない間に!
水希は夢中で同人誌を巻き散らかしながら走って逃げた。
もういやだ。打ち切りに怯えて逃げ回るなんて。
でも、油断したらこっちがやられる!男の読者向けに可愛い
女キャラをやまほど出して、サービスカットだって嫌がらずに!
うすたのように巻末に行くのはいや!死ぬのもいや!
水希は涙をぽろぽろこぼしていた。
容赦なく。萌えキャラを!打ち切り。おかあさん、おとうさん!
巨乳。パンチラ!パンチラ!容赦なく!
水希は狂いかけていた。
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