藤崎編・1






「とにかく俺はここから逃げることを考えた。」
島袋がうなずいた。藤崎は自分の首輪を指して続けた。
「ほんとはこいつをなんとか外したかった。こいつのおかげで逃げようと
しても爆弾に電波を送られたら爆死してしまう。だが、外すのは諦めた。
構造がわからない以上、ヘタにいじると爆発する。」
島袋がまたうなずいた。
「そこで俺は考えた。逃げるのではなくいっそのことこちらから攻撃して
やろうと。」
藤崎は続けた。
「そこで俺はこれを使うことにした。このクソゲームは私物の所持は許可
されてるみたいだ。とにかくこいつを持ってきておいてよかった。」
藤崎は指示棒のようなものを取り出し、軽く振った。風がわずかにまきお
こった。
「藤崎サン、これ・・・」
「打神鞭ってんだ。まさかこんなものが役に立つとは思わなかったぜ。」

「俺がこいつであそこを吹っ飛ばして、首輪を無効にしてやる。やつらは
あの分校のまわりを少年誌ゆえの規制とやらで囲んで安心しているが、
こいつならその外から急襲できるわけさ。チャンスは十分だ。・・・どうだ?」
島袋はもはや放心したような表情をしていた。
「すごい・・・」
放心したような表情のまま島袋が口を開いた。
「あの・・・なんで俺みたいのが藤崎サンと一緒にいるんだろう」
「なんだそりゃ?」
「だって・・・藤崎サンはすごい。だからさ、尾田みたいなのが一緒にいる
ならわかるよ、尾田も藤崎サンと同じくらい人気あるし。なんで俺みたい
な・・。」
静かな声で藤崎が言った。
「くだらないこと言うなよ、光年。俺は俺。お前はお前だ。」
藤崎は続けた。
「仮に、俺が多少絵が上手くて人気があったとしても、そんなのは漫画家
の価値を決めることじゃない。お前は面白いギャグが描ける。誰にでもい
いところはあるなんて欺瞞じゃなく、お前の漫画には、俺の好きなところ
がたくさんあるってことなんだ。」
島袋の目に涙がにじむのが見えた。
「ちくしょう・・・ありがとう、藤崎サン」
 ぶん・・・という音がした。
 藤崎は眉根を寄せていささかあわてて打神鞭を振ってみた。それはもは
やわずかなそよ風も起こさなかった。
 ばかな――。
「藤崎サン?」
 島袋が後ろから声をかけたが、藤崎は答えることができなかった。



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