久保、矢吹






「なぁ、矢吹」
久保はバッグの中にあったマッチ棒サイズの日本刀を磨きながら言った。
「なんですか?」
矢吹は矢吹で支給された水鉄砲で遊んでいる。
「俺、本当は誰も殺し合いなんかしたくないと思うんだ」
「ええ、僕もしたくないです」
「みんなに呼びかけてなんとかこんなふざけたゲームやめさせよう」
久保は矢吹の手を握ってその目に訴えかけた。
「……わかりました。僕だって自分だけ生き残ったって冨樫先生や荒木先生の作品がなければ漫画が描けません」
矢吹は屈託のない笑顔でそう云った。
「お前なぁ。プライドないのかよ?」
久保は呆れて深く溜め息をつく。
「久保さんこそ、自分に週刊少年ジャンプの看板なんて務まるわけないと思ってるんでしょう?」
「ぐっ」
久保の顔が歪む。
「ネット上で散々暴言吐いたって、所詮パクらなきゃ萌えキャラ出さなきゃ打ち切り回避する自信がないんでしょう?
 僕もそうです。僕達は似たもの同士なんです。一人では生きていけない。だから、久保さんはさっき僕に声をかけたんでしょう?」
おそらく矢吹に悪意はない。久保もそんなことわかりきっていた。

「だから、一緒に皆さんを説得しましょう!」
矢吹はさっき島の公民館らしきところから拝借してきた拡張器を出した。

『皆さん、聞いてください!』
若い男の声が響き渡る。当然編集長高橋ではない。
『戦いをやめてください!』
「矢吹か?」尾田はその台詞に苦笑いを浮かべた。
声のする方に視線をやると男の影が二つ見えた。
「もう一人は?」
そこで別の声がした。
『お願いです。戦いをやめてみんな出てきてください!
 みんな本当は戦いたくなんかないんですよね?
 僕達は2人でいます。戦う気なんてありません!』
「久保か」
再び矢吹が拡張器を奪う。
『僕は皆さんの漫画が好きなんです。荒木先生のジョジョも冨樫先生のハンターも尾田先生のワンピースも。
 皆さんの漫画の載っていないジャンプなんて価値がないです。そんなジャンプで連載なんて出来ません。
 皆さんの漫画がなかったら、僕は……』
『もうやめろっ!』
涙声の矢吹の言葉を遮るように久保が拡張器を奪い返す。
『普段は打ちきりだ何だ言ってるけど、このゲームはあまりに狂ってる。
 同じ雑誌で連載しているもの同士仲良くしましょう!だから……
 トリシマなんて、こんなゲームなんてクソ食らえ!」

ぱらららららら
タイプライターのような音が鳴った。

「パクらなきゃ漫画が描けねー凡人が甘っちょろいことほざいてるんじゃねェよ!」
冨樫は二人の若い漫画家の死体を踏みつけた。

久保帯人&矢吹健太朗打ち切り。
【残り27人】




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