3人組






「行くよ」
和道一文字を握りしめ、茂みの外に歩み出しかけたが、荒木がその尾田の左腕をがちっと握り締めた。
「よせ!」
「なんでです!」尾田の声が高くなった。「見殺しにしろってんですか?」意識しないまま、声がうわずり、言葉がこぼれ出した。
「このまま生き残るのに俺がいなくなったら不都合だってんですか?結局そういうことなんですか?あんたは俺たちの敵なのか?」
「尾田先生やめて――」
岸本が悲痛な声を上げたが、尾田はまだ何かを言いかけ――そして気づいた。
自分の腕を握り締めている荒木の顔がすうっと静かになっているのに。
荒木が言った。
「おまえが打ち切られるのは勝手だけどな。お前が逝って帰ってこなかったら、一人で叩きにさらされた岸本が打ち切られる可能性はぐっと上がるぞ」
「しかし――」
荒木は静かに続けた。
「こんなことは百も承知だろうがな、尾田。誰かの信者になるっていうのは、別の誰かを晒すっていうことだ。岸本が大事なら、行くな」
「だけど――」
尾田は泣きたいような気分だった。

「だけど、じゃあ、どうしろっていうんです?見殺しにするんですか?」
「そうは言ってない」
荒木は尾田からすっと手を離すと、久保が叫び続けている山頂の方に向き直り、波紋の呼吸をとった。
「ちょっとだけ俺たちの生存確率を下げる。ちょっとだけだ」
荒木は言うなり、空に向かってWRYYYYYYYYっと叫んだ。
間近で発したその奇声はものすごく、一瞬、尾田は鼓膜がぶっ飛んだかと思った。
その声が、山の斜面に、反響した。
なるほど――。この奇声で久保帯人と矢吹健太朗は、脅えて呼びかけるのをやめ、隠れてくれるかも知れなかった。



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