仮面ライダーを知る者






―少女が森の中を走る。

―鎧を身に纏った男がそれを追いかける。

―強者が弱者を狩る。

―殺し合いという場ではごくありふれた光景。

逃げる少女の名は園田真理。
彼女には美容師になるという夢がある。
そしてオルフェノクの記号を埋め込まれ、その運命に抗っている。
その彼女もここでは一人の参加者に過ぎない。

追う男の名はヨロイ元帥。
主催者の一人、大首領が裏で操っていたとされる組織の一つデストロンの幹部を務める男。
デストロンという組織の中でも最も卑怯、そして残虐であると恐れられた男。
彼がこのゲームで目指す事はもちろん、優勝であった。

真理も暗闇の中、足元に気をつけながら走っていた。
が、疲労と焦りからか少女は木の根に躓き転ぶ。
「なかなかしぶとかったな。だが、ここまでだ。」
仮面の隙間から見える男の目は醜く歪んでいた。
自分を助けてくれる者は今は居ない。
助かるには自分で何とかしなければと少女はナップサックの中を漁る。
その間にも鎧の男は近づいてくる。
「抵抗しなければ、楽に殺してやろう。」
男の手には赤い棒の様な物が握られている。
「嫌よ!誰がアンタみたいな奴にっ!」
臆した雰囲気を相手に見せないよう、強気な態度を見せる。
だが、全身の震えばかりは隠し通す事は出来なかった。

少女はナップサックの中からカプセルを取り出す。どうやらこれが支給品の様だ。
「何よ・・・これ。」
使い方が分かれば事態は好転したかもしれない。
だが、説明書を見るなどという悠長な時間が彼女に有る筈も無かった。
「ハッ!そんな物で何が出来る?」
ヨロイ元帥の武器の先端がマジックハンドの如く、真理の首を掴む。
「うっ・・・」
「この武器はボウケンボーと言ってな。先端には刀身が仕込んである。
 このまま首を圧し折られるか、頭と体を離れ離れにするか、どちらが良い?」
苦しさでヨロイ元帥の言葉も殆どを聞き流すだけとなる。
力の入らなくなった真理の手からカプセルがこぼれ落ちた。

その瞬間、二人の間を何かが割って入った。
それはボウケンボーを弾き、おかげで真理もマジックハンドから解放される。
朦朧とする意識の中、真理はその何かの正体を目で追う。
青く、弾丸の様な速さ。
それは形状から見ても青いクワガタムシと形容するのが正しかった。

「そこまでだ!」
高台から見下ろす形で一人の青年が現われる。
「な、何奴!」
先程飛んできた青いクワガタムシ―ガタックゼクター―
それを青年が掴む。
「変身!!」
腰のベルト部分にそれを取り付けると、ベルトを中心に青い装甲が全身を覆う。
それはヨロイ元帥の良く知る存在に酷似していた。
「あれは『仮面ライダー』!?」
そう彼らの組織に仇なす、正義の改造人間と。

―朱色の鎧を身に纏った悪が少女を襲う。

―青色の鎧を身に纏った正義が少女を助ける。

―正義と悪が対峙する。

―そんな殺し合いの場には似つかない風景。

ガタックの資格者である加賀美新は驚いていた。
目の前に居るヨロイの男はマスクドライダーの存在を知っている素振りを見せたからだ。
マスクドライダーの存在はZECTの人間しか知らない筈だというのに。
この男は何か知っているのだろうか。
ZECTに所属する自分でさえも知らないマスクドライダー計画の事を。
しかし、今はそれ所ではない。少女の安全を確保するべきである。

ヨロイ元帥に向け両肩のガタックバルカンを発射する。
最初の数発は命中したものの、ヨロイ元帥は後方に飛び、避ける。
重装備の鎧を着込んだ姿で避ける荒業、さすがデストロン大幹部の称号は伊達ではない。
外れたガタックバルカンは地面の土や木葉を巻き上げ、さながら噴煙と成す。
暗闇の上、噴煙で視界が最悪の状況のを利用し、ガタックはヨロイ元帥の元へ駆け寄る。
しかし、既にそこにはヨロイ元帥の姿は無い。
(しまった。逃げられた・・・?)
そう思った瞬間、背後からの気配に気付く。
迎撃の暇も無く、ボウケンボーで高く放り投げられる。
「子供だましの目暗ましに引っ掛るとでも思ったか!」
ヨロイ元帥はそう叫ぶと落ちてくるガタックに対しボウケンジャベリンを掲げる。
(一筋縄で倒せる相手じゃないって事か!なら・・・)
このままボウケンジャベリンに刺されば、いかなガタックと言えどただではすまない。
加賀美は空中でのキャストオフを実行に移す。
ガタックゼクターに手を伸ばし、角の部分を両脇に畳む。
「キャスト・オフ!」
― CAST OFF ―
電子音の発生、それとほぼ同時にマスクドアーマーが弾け飛ぶ。
「なんだとっ!」
ヨロイ元帥は何が起きたのか、把握すら出来ぬまま飛んできたアーマーを喰らう。
その間にもガタックの頭部左右に倒れていたガタックホーンが起き上がり、定位置に納まる。
― CHANGE STAG BEETLE ―
再び、電子音の発生。
地面に降り立ったガタックは先程までとは違い身軽な印象の姿になっていた。
そのままガタックはヨロイ元帥の元に近づく。

「お前、マスクドライダー計画の事を知ってるのか?」
そう加賀美は口にする。
ヨロイ元帥は戦闘の最中のこの質問にいささか困惑する。
しかし、しばしの沈黙の間、彼はこう答えた。
「ああ、ある程度の事までは知っている。」
もちろん、はったりである。
が、彼にはマスクドライダー計画についてのある程度の推測もついていた。
正直言って、このライダーの性能は未知数な所が多い。
これ以上長く戦う事は後々のゲームで不利になると考えた。
ここでヨロイ元帥は加賀美に交渉を持ちかける。振りをする。
「どうだね。ここで見逃してくれればそれに関するあることを教えよう。」
加賀美はその提案を受け入れるか思案する。
その一瞬の隙をヨロイ元帥は見逃さず、ボウケンロッドでガタックを吹き飛ばす。
「馬鹿な男だ!隙を見せれば死に繋がるぞっ!」
そう言いながら、ヨロイ元帥は森の奥へと進んでいた。



「あの野郎っ・・・」
加賀美は一瞬でもあの男との交渉に応じてしまっていた事が悔しくなった。
あの男を逃す事は先程の少女のように襲われる人々が出てきてしまうからだ。
しかし、追いかけることは出来なかった。
あの襲われていた少女を守らなければいけないと変身を解除し彼女の元に行く。
彼女は先程、襲われたせいか気絶していた。
加賀美はひよりの事を思い出していた。

【加賀美新@仮面ライダーカブト】
 状態:健康
 道具:荷物一式、(支給品不明)
 基本行動指針:ゲームを潰し、主催者を倒す
 第一行動指針:真理と共に行動する
 第二行動指針:ひよりを捜す
 備考:クロックアップやガタックバルカンに関する制限に気が付いていません
【現在位置:D-05】

【園田真理@仮面ライダー555】
 状態:健康 気絶中
 道具:荷物一式、カプセル怪獣ミクラス
 基本行動指針:巧に会いたい
 第一行動指針:気絶中
【現在位置:D-05】

【備考】
 ・クロックアップの時間は原作よりもかなり短め
 ・ガタックバルカンは弾が無限というわけではない

【現在時刻:1日目 12:30】



前話   目次   次話