大神官ガジャの(梅臭い)道程
「ええい……いったい何を考えておるのだ……!」
苛立たしげな声を上げながら、古代ゴードム文明の神官であるガジャは自らの支給品を力いっぱいに掴んでいた。
それは、古びた陶器の壷であった。
いや、壷自体は単なる容器に過ぎない。彼に支給されたランダムアイテムは、壷の中に入っている物であった。
それは、梅干。
赤くて、丸くて、そして酸っぱい、紀州の高級梅干であった。
「こんな、こんな物で殺し合いをしろと言うのか!? 無理に決まっておるだろうがっ!」
ひょっとしたらこの梅干(もしくは壷)はプレシャスであり、何か特別な力を秘めているのではないか?
そう期待して梅干を調べてもみたのだが、その結果は完全なシロ。
この梅干はプレシャスでもなんでもない、ただの梅干に過ぎなかった。
……まあ、その美味さは保障するが。
「だいたい、梅干だけを渡されてどうしろと言うのだっ……!
どうせだったら、ホカホカのごはんも一緒に支給してくれたら良かったものを……!」
梅干入りの壷を律儀に持ち運びながら、ガジャは愚痴を零し続ける。
まあ、その気持ちは理解しないでもない。
技術者としての知識に関して言うならば、ガジャのそれは相当なものだ。
現代の機械に関する基礎知識こそ決して高くはないが、それを十分に補える驚異的な記憶力と理解力を持ち合わせている。
この首輪に関しても、時間を掛けて調べ上げる事が出来さえすれば、解除する事も不可能ではないだろう。
プレシャスの解析に比べれば、首輪一つ外す事など朝飯前だ。
古代ゴードム文明の大神官であるガジャには、それを可能とするだけの頭脳がある。
だが……。
「これでは、肝心の首輪を手に入れる事が出来んではないかっ!」
解析用の首輪を手に入れようとするならば、自分以外の参加者から手に入れる他に方法は無い。
しかし、あの会場内にはボウケンジャーやリュウオーンの姿が見受けられた。
そして彼等以外にも、かなりの実力者と思われる面々が確認された。
武器も無く、カースを呼び出す事も出来ない現在、自分単独の力で他参加者を倒す事は難しい。
当たり前だが、梅干で人は殺せないのだから。
「せめて毒入りの梅干ならば、まだ使い様があったものを……」
梅干を一粒口の中に放り込みながら、ガジャは弱気な声で言う。
……最終的な目的は、ゲームからの脱出である。
このバトルロワイアルを勝ち抜いた所で、得られる物など何一つ無い。無意味な殺し合いの為に命を賭けるなど、愚か者のする事と言えよう。
ならば、もしかしたら“奴等”と手を組む余地すらあるかもしれない。
ボウケンジャー。奴等ならば、この殺し合いに乗る事も無いはずだ。
プレシャスが絡まない今現在の状況であれば、一時的に手を組む事は可能であろう。
「よし……まずは、あの男を捜すとするか……」
あの男――ボウケンレッド・明石暁ならば、自分の協力を受け入れる器量も持ち合わせているはずだ。
そう考えて、大神官ガジャは過酷な山道を歩き始める。
その手に、梅干を持ちながら。
【大神官ガジャ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
状態:健康
道具:荷物一式、梅干入りの壷
基本行動指針:ゲームからの脱出
第一行動指針:ボウケンジャーの協力を取り付ける
第二行動指針:首輪の解析
備考:梅干残り127粒
【現在位置:F-05】
【現在時刻:1日目 12:45】
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