無題






―――「最強」とは何が為にあるのか―――
勝負事をする人間なら、一度は考えた事であろう。
しかしそれはどういう事なのだろうか。
誰からも負けないのが「最強」なのか?
己の武をただ振るい続けるのが「最強」なのか?
それとも―――どの様な状況においても無敵を誇るのが「最強」なのか?

その「最強」を求め続けた生粋の武人が、このバトルロワイアルに今、参陣する。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「………………」

青色の装飾がされた鎧に身を纏った白髪の男であり歴戦の将、張遼文遠はただ一人立ち尽くしていた。
その張遼は彼にしては珍しく、まだこの場を把握出来ていなかった。
昨日の夜、自軍の足となる馬をすべて敵による奇襲の際に盗まれたのが最後の記憶であり、そして自身は疫病でそれをただ見るしか無かったというのが現実である。
その時はただひたすらに自分の腑甲斐なさに悔やみ、相手のあまりに卑劣な奇襲に怒り、そしてすべてを注ぎこんで育てた馬達を一瞬にして盗まれた事を憎んだ。

そんな矢先に殺し合いである。
必ず倒す、とまでは行かなくともあの時に自らが武器に手を付けようとしていたのだから奴等をまた撃破し、馬を取り返さなければならない、という使命感が今の張遼はある。
ならば今の敵は誰か?
そう。それはあの主催者である。
自らの使命を、武技を邪魔し、それを弄ぶ様な事は、先程の出来事以上、更に怒らせる理由になった。

「…ならば早いところここから脱出し、儒須へと戻らなくてはならないな…」

疫病の姿をも既に身を伏せている。あの時の様に不完全な訳では無いだろう。
それならば最高、とは言えなくとも、普段の武を振るえるだろう、と張遼は決め、再び前に歩みを進めようとした瞬間である。


―――ガサリ

「…!」

僅かながら草の音が聞こえた。
張遼はそっちの方角へと体を動かし、支給品であった刀に力を込め直す。
一触即発とはこの場の事を言うのであろうか。

「…」

黙りながらも小さく息を吐く。吐く音が耳の中の鼓膜へと入るのが確認出来た。
それに比例して張遼の呼吸が若干荒くなる。




―――――そして、遂にその影が姿を現した。

「…!」

を構えた形から相手の懐へと走りだしたその瞬間である。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!オレが悪かったのなら謝りまるからさ!だからその剣をしまってくれぇぇぇ!」
「!?」

その声は甲高く、張遼が一旦動きを止める。
そしてその影をよく見直すと、その姿が年が一回り以上下の女子だったのに気付いた時、張遼は今日二度目の「?」を作った。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「…す、すまん張遼…。何か悪い気分にさせてしまって」
「別に気にするな。俺の判断不足もある」

先程の場面と打って変わり、張遼の目の前には先程の少女が正座姿で座っていた。
そんな彼女に向かって座るのが張遼である。
少女は頭をひたすら下げ続けた(途中から地面に頭をぶつける様になったが)為か、張遼は呆れながらも流れ流されこのような形になってしまったのだ。
そもそも少女いわく、自身の友達達を探そうとしていた矢先に、張遼に目を付けられ、明らかに溢れ出る殺気に動けぬままその場に立ち往生してしまったらしく、自分に対して襲うつもりは無かったらしい。 (…しかし驚いた。まさかこんな俺達の居る場所とは無縁に近い少女が居るとは…殺し合いを開催するのならば、例えで呂布殿や夏侯惇将軍の様な強者ばかりを集めるのが道理のはずだが…)


「張遼?」
「…む、すまん。少し考え事をしていた」

張遼は考えていた事を一旦頭の隅へとやり、少女へと目を移す。
しかし話は変わるが。こうして見るに彼女は戦うすべを持っていない。
これから主催者を撃破するに当たって一応人員は必要である。
だからといって張遼は彼女を守る、という訳にも行かない。
早急に儒須へと戻るのと、自らの考える「最強」がなんたるかを、この殺し合いでもまた求める為である。
それならば、素早くここに区切りをつけ、そろそろ行動を起こさねばならない…はずなのだが。
この殺し合いの場だからこそ…張遼はその場から動く事が出来なかった。

(敵が来たのならば斬る…のは常識だ。だが、だが…こういう場合はどうすれば良い?少女を守るか、見捨てるか…俺は……)

◇◆◇◆◇◆◇◆

張遼文遠は、少女と行動する事に決めた。
だが、それは何か理由がある訳でもなく「今のところ」である。
それしか今のところ最善の方法は無い。

「…ところで…お前、名前は」
「えっ…あ!すまん!まだ名乗ってなかったよな」

そう決めたついでに張遼が尋ねると、少女は会ったばかりの様に若干慌てながらも、すぐにこちらを見て言った。

「友兼だよ。と・も・か・ね。そのまま読んでもらってかまわねぇからさ」

そう少女、友兼は張遼ににひひと笑いながら笑顔を向ける。
それに張遼は「そうか」と呟いたついでに、その場から立ち上がる。

「友…兼。俺は今からこの地図に書かれてある中心地へと行こうと思うのだが、お前はどうする?」
「勿論、オレも行くぜ!如月達も居るかもしれないしよ!」
「分かった…では、向かうとしようか」

そう張遼は言った後、友兼より若干早く、その歩みを進め始めた。
その後ろに勝気な少女を引きつれて。

【張遼文遠@蒼天航路】
【状態】怒り
【装備】日本刀@現実
【持物】基本支給品、不明支給品0〜1
【思考・行動】
基本思考:主催を倒し、儒須へと戻る。
1、一先ずはこの少女と行動する。
2、この殺し合いは何の為に…?
※合肥の戦い後、甘寧が曹操の陣へと奇襲をかけた直後からの参戦です。
【友兼@GA_芸術科アートデザインクラス】
【状態】健康、若干安心
【装備】無し
【持物】基本支給品、不明支給品0〜2
【思考・行動】
基本思考:如月達GAの仲間を探す。
1、張遼と行動する。
※原作三巻からの参戦です。



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