愛する者のために






「先輩! ちょっ! っと!?」

アンニュイな表情でうつむく野獣先輩に、必死に手を伸ばす。
だけどその手が届く前に、指先が透き通り、体が消えて、そしてこの場所にいた。
深夜のデパート。街頭と月明かりがぼんやりと周囲を照らしている。

殺し合いなんてしたくない。
だけど、一人の男の命を意図も容易く奪った爆弾は、自分の首にしっかりと巻き付いている。
言うとおりにしなければ、あのチャラ男に始末されてしまう。

デイバッグに入ったサバイバルナイフを手に、遠野は決意する。
先輩だけは殺させない。だから僕が先輩のために戦う、と。



「遊びに来たぜ!」

ファミリーモール二階のアイスクリームショップ。
UDK姉貴はこのイオンモールに誰も居ないのを良いことに勝手にアイスを食べていた。

「やっぱりアイスは美味いなぁ。
 生地がしっとりとしていて、それでいてベタつかない、スッキリした甘さだ。
 ココアはヴァンホーテンのものを使用したのかな」

とんちんかんな感想を述べながらパクパクと食らいついていた。
そうして、うん?と顔を上げた先には、ナイフを手にした爬虫類顔の男が迫っているではないか。

「あああああああああ!! 忘れてたああああ!!!」

何を忘れていたかと言うと、敵に見つからないように配慮する事を忘れていたのだ。
この際好き勝手するのは良いとしても、あんまりにも堂々としていれば当然危険人物に狙われる可能性が高まるだろう。

「いやいやいやちょ、待……ウワーッハッ!!」

制止の声も効かず、遠野は刃を振り下ろした。
UDK姉貴はその細腕で身を庇い、結果深々と肉を切り裂かれた。

「ごのままいげば、死んじゃうかもしれない……!
 もう傷をズーッ……抉るような事はしないでください、ズーッ……」

壁際でうずくまり涙を流す少女の姿に、遠野は躊躇ってしまった。
そして次の瞬間に、遠野の視界がチカッと光り、後頭部に強烈な痛みが走った。

「アーン!(高音)」

何度も、何度も。誰かに、石か何かで殴られているらしい。
遠野が倒れた後もしばらく攻撃は続いた。

「うふふ、お粗末さまでした」
「アリスゥ〜……ありがとう!」
「いいのよそんなこと。私は魔理沙と一緒にいられるだけで幸せを感じられるんだから」

アリスことALCは、優しい声でUDK姉貴に語りかけた。
彼女も遠野と同じく、愛する者のためにその手を血に染める決意していた。
だから一切の躊躇いは無い。

「はい、もういっか〜い」
「アーン!(高音)」

サバイバルナイフを取り、遠野の胸に一刺し。
ALCは今や、笑いながら人を殺せる畜生と化した。
普段のUDK姉貴ならばそんな彼女を恐れたかもしれない。
しかし、一度危機に陥った事もあり、もはやALCの存在に対して心強さしか感じなかった。

「私は負けない!」


【ファミリーモール二階/サーティワン付近/1日目/深夜】

【UDK姉貴@クッキー☆】
[状態]腕に深い切り傷
[所持]基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]生きて帰りたい

【ALC@クッキー☆】
[状態]健康
[所持]基本支給品一式、石、サバイバルナイフ、ランダム支給品0〜2+遠野の支給品0〜2
[思考]UDK姉貴以外の殲滅

【遠野@真夏の夜の淫夢シリーズ】
[状態]後頭部を重症、胸に深い刺し傷
[所持]
[思考]先輩のために戦う
※致命傷です



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