モンスターエンジン
グランドモール一階、食品売り場の菓子パンコーナーに、太った男性がぶつぶつと呟いている。
「あんドーナツ。どこか、懐かしい、味わい……。
しっとり生地で、粒あんを、とじこめました。
……それでは、食べて行きたいと思うます」
支給品であるハンディカメラをカートに設置し、自分の姿を映している。
彼の名はたれぞう。インターネット動画サイトyoutubeに食品レビュー動画を投稿する男だ。
よもやこのような殺し合いの場で動画撮影とは、一体何を考えているのだろうか。
確かに、あの超能力で人を殺したロン毛の男に「殺しあわなければ殺す」と脅されている身だ。
だがそれで迷いなく人を殺して回れるほど、たれぞうは吹っ切れてはいなかった。
どうしたものかと悩んだ挙句、心の平穏を求めて動画撮影をする事にしたのだ。
これは人間として、当然の本能なのだ。
「うん、OC。口の中に、あんこの甘みが広がって……OCです」
純粋無垢な笑顔を浮かべ、あんドーナツを貪るたれぞう。その背後に這い寄る混沌――。
邪神ニャルラトホテプ!(ナイアーラトテップより呼びやすいだろ?)
殺し合いとか馬鹿馬鹿しいが、他ならぬGO神からのメッセージともなれば従わざるを得ない。
とりあえずこの食欲に塗れた男を消し去るとしよう。
音もなく近づいて、衝撃波の呪文を詠唱する。
「ザンマ!」
食品棚が吹っ飛び、床がえぐれ、砂煙が舞い上がる。
普通の人間であれば間違いなく木っ端微塵だろう。
だが……。
ニャルラトホテプの眼前に、男の顔がドアップで迫っていた。
即座に防御呪文を展開ッ!
「っ……テトラカーン!!」
ギリギリの所で頭突きを反射。15メートルほど後方に飛んだたれぞうは、傷付いた自身のひたいをさすった。
そんな馬鹿な、あの一撃でほとんど無傷だと……と慄くニャルラトホテプに対し、たれぞうは真名を明かした。
「ZEUS」
「なんですと!? アンタも神々だったと言う事ですかァッ!?」
「それではこれから、目の前の邪神を――」
人を殺して回ったりはしない。だが、相手が人外とあれば別だ。
たれぞうは不敵な笑みを携えて、ペロリと舌なめずりをした。
「食べて行きたいと思うます」
悪意とは無縁にも思われる屈託のない微笑みが、ニャルラトホテプの背筋を凍らせた。
【グランドモール1階/イオンスタイル(食品売り場)/一日目/深夜】
【たれぞう@youtuber】
[状態]ひたいに軽傷
[所持]基本支給品一式、ハンディカメラ(大破)、ランダム支給品0〜2
[思考]食品レビューをする
※彼はZEUSでした
【邪神ニャルラトホテプ@クトゥルフ神話】
[状態]健康
[所持]基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]全知全能の神GOに従い、殺し合いを行う
1:やべぇゼウスに喧嘩売っちゃった
※ザンマ、マハザンマ、テトラカーン、リカーム、麻痺引っかき、吸い付きを習得(制限によりリカームは無効)
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