大きさに比例したダメージ
南東駐車場。
立ち並ぶ自動車のうち一台がギシギシと揺れている。
大伴家持は壁に寄りかかってそれを眺め、深いため息をついた。
「殺し合いを強いられてるのに、我々は何してんだろ」
師匠こと在原業平の、イルヤ殿とのセックスが終わるのを待つ。
この時間の虚しさと言ったら……もはや詩にする気力も沸かない。
ふと物音に気が付き、顔を上げるとそこには、雪のように透き通った肌のおなごが居た。
あまりの美しさに呆然と眺めていると、おなごは奇妙な装置を取り出した。
次の瞬間、家持は喉が枯れ果てる程の悲鳴をあげる事となった。
そう、陰部が爆発したのだった。
「どうした家持殿!」
「き……来てはいけない!」
異変に気づいて自動車から飛び出した業平を、家持は必死に止めようとした。
だが、既に遅い。司波深雪はニヤリと笑い、陰部爆破装置を業平へと向けてボタンを押した。
「アバーッ!」
「な、業平殿ッ!」
「お兄ちゃん!」
業平は陰茎が爆破された痛みで即死した。
HIKAKINや家持は少なくとも息をしているはずだったのに、何故即死? と思う方もいるかもしれない。
だが、考えてほしい。前述されたように、業平のソレは人並み以上に大きいのだ。
ゆえに、陰部を爆破された際のダメージは、ソレが小さい人よりも甚大なものとなる。常識である。
一方、家持んこはマイクロであるため、業平ほどの苦痛は免れている。
それでも正直脂汗が止まらない程度にはギリギリであるため、家持は腹を括ることにした。
「もはや男としての本懐を成し遂げられなくなった僕に、生きる価値は無い。
僕があのおなごを食い止める、その間にイルヤ殿はお逃げくだされ!」
すぐさまボウガンを構える深雪へと、家持は特攻をかけるッ!
矢が放たれるより早く、彼の拳は振るわれた。
「触らないでくださいっ」
しかし、その拳は深雪に触れる事すら叶わなかった。
司波深雪が本来、武器としているのは魔法。物体の分子運動を減速される事による、冷却魔法だ。
家持の肉体は深雪の目の前に氷結し、石像のように固まってしまった。
「お兄様のためですもの。あなたなんかには邪魔をさせません」
先ほど咄嗟に足元へ置いた陰部爆破装置に深雪は手を伸ばした。
――装置が破壊されている。いつの間にか、一本の短剣が突き刺さっていた。
すぐさま周囲を見渡す。金髪で、赤いジャケットの男が逃げ去るのが見えた。
確か、負傷によって、滑り台の前でうずくまっていた男だ。
逃げられたと思っていたら、跡を付けられていたらしい。
深雪はぎりりと歯噛みをした。
【大伴家持@百人一首 死亡】
【在原業平@百人一首 死亡】
【残り27人】
【南東駐車場/1日目/深夜】
【司波深雪@魔法科高校の劣等生】
[状態]全身にHIKAKINの血飛沫
[所持]基本支給品一式×2(深雪・HIKAKIN)、クロスボウガンとその矢(HIKAKINの支給品)、スマートフォン(HIKAKINの支給品)、不明支給品0〜1
[思考]お兄様と結ばれるべく、バトルロワイアルに優勝する
※殺人に対する忌避感がありません
※陰部爆破装置は破壊されました
※大伴家持の支給品は南東駐車場内に放置されています
「あなたもこのバトルロワイアルに来ていたのね。
蘭は一緒じゃないのかしら」
駐車場からグランドモール二階へと入った辺り。
アーチが振り返るとそこにはイルヤが立っていた。
かつて自身に致命傷を与えたサーヴァントの、マスターである少女。
だがアーチは平然とした様子で答えた。
「そういう君こそ、バーザーガーを連れ歩いていないようだな」
「ええ、この空間に飛ばされた際に離れ離れにされたわ。あなたもそうでしょう」
イルヤは、アーチの手の甲から滴り落ちる血に気付く。
「ねぇ、そんな怪我してたんじゃまともに戦えないでしょう? 治してあげようか」
「……どういう事だ」
「もちろん、魔力供給よ。私の魔力があれば、そんな傷すぐに治るはずよ」
「性交による同調か」
「……その代わりに、私を契約しなさい、アーチ。
私はお兄ちゃんを……在原業平を生き返らせたいの」
刹那的とは言え、その愛は決して軽いものではない。
必ず戦いに勝ち抜くという想いが、イルヤの目には宿っていた。
二人は公衆トイレへと入っていった。
【グランドモール二階/真ん中辺の公衆トイレ/1日目/深夜】
【アーチ@Faith/stay knight】
[状態]利き腕の手の甲に矢が突き刺さっている
[所持]基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
[思考]未定
1:イリヤから魔力供給を受ける
2:氷結魔法を使う司波深雪を警戒
【イルヤ@Faith/stay knight】
[状態]アーチと行為に及ぶ寸前
[所持]基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、在原業平の支給品1〜3
[思考]優勝を狙う
1:アーチと契約する
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