助手と天才






「やあ、お目覚めかな?」

 目覚めたら、とびっきりの美女がにやにやと笑みを浮かべてこちらを見ていた。
見れば見る程美しい。自らの所属している騎空団にも美女はいるが、ここまでハイレベルな美女は相当のものである。

「――――は?」

正直、訳がわからない。スタンは眼をパチクリとしながら、無言で驚いた。
状況が全く掴めない以上、何も喋ることができないし、美女もマイペースにじろじろと此方を見ているだけだ。
数秒間、色々と思考を巡らせてみるも、状況は理解できない。
そもそもスタンは、このような美女とは縁がない。それだけは確かに言える。

「あの、ここは……」
「私の発明品、スピンクスメギド号の上だね。いやぁ、感謝して欲しいね。
 最初に見つけたのが私でなかったら、君は死んでいたよ?」
「それは大袈裟では?」
「大袈裟なもんか。絶海の孤島で殺し合い、その始まりが路上で倒れてましたというシチュエーション!
 殺意ある参加者だったら殺してる所さ」

 美女の口から放たれる衝撃の真実、ますます訳がわからない。
反論の言葉を紡ごうとするも、うまく声が出ない。
そもそも、自分は先程までタルウィの荒野で死にかけていたはずだ。
不治の病にかかり、アリーザを押し退けて一人で死のうとした。
そして、限界が来て倒れ、それから――。
最後に何らかの語らいをしたことまでは覚えている。
けれど、それ以降は全く頭にない。気づいたら、この美女に拾われていた。

「殺し、合い?」
「なんだ、説明を聞いていなかったのかい? 最初に集められた時に聞こえたはずだよ。
 最後の一人になるまで生き残れって」

 そこからはスムーズだった。美女はぺらぺらとただ事実を語る。
殺し合い。絶海の孤島。最後の一人。聖杯。
スタンからすると馬鹿げているとしか言えないものばかりだ。


「……死後の世界じゃねぇんだな、ここ」
「死後なものか。いや、死後か? ともかくだ、どうやら私達は殺し合うことを強いられているみたいだよ?
 いやぁ困った困った。天才たる私もこれにはお手上げさ」

 そんな馬鹿げている事実をこの美女は淡々と並べていく。
全然困ったような表情も見せず、あっけらかんと。

「とはいえ、何もせずに死ぬなんて真っ平御免だ。私は最後まで抗う。
 こんな面白くないお祭りに放り込んだ怒りは頂点だ!」
「だから、俺を殺さなかったんですか?」
「そうとも。何をするにしろ人手は必要だ。無論、私は万能なので大抵のことは鼻歌交じりでできるが、やはり一人では限界がある。
 そこでちょろそうで雑用ができる助手を探していたら、君を見つけたという訳だ」
「つまり、俺は……って、ちょろそうってなんだよ!」
「おっと敬語が取れてきたね。絆レベルも上がったかな? さすがにそれは早すぎかぁ、はっはっはっ」

 何だ、この女。スタンの表情も段々と険しいものへと変わっていく。
これ以上関わっていたら碌な目に合わない。それは、あの騒がしい騎空団で散々学んだことだ。

「ともかくだ! 君を助手一号に任命する。炊事洗濯データのまとめその他諸々。きりきりと働いてくれたまえ」
「……断ると言ったらどうするんです。俺にだって断る権利はある」
「へぇ〜〜〜〜そういうことを言っちゃうんだぁ〜〜〜〜。倒れていた君を保護していた私に対して、そんな事を言っちゃうのか!
 受けた恩を返さずさようならしちゃう薄情な少年だったのか〜〜〜〜そうかそうか、悲しい、私は非常に悲しいよ!」
「情に訴えても無駄ですよ。そもそも、俺だって優勝を目指して――」
「ムリムリ。見た感じ、君じゃあ優勝できないって。私が知っている限りでは、出会って即逃亡したくなる危険人物たくさんいるし。
 大人しく、別の手段で生き残る方が楽だと思うなあ」

 確かに、美女の言う言葉は真実だ。
自分は未だ未熟。つい先程まで、不治の病で死にかけていた奴が優勝できるかと言ったらノーだ。
何故か体調は良くなっているが、失った体力はまだ戻っていない。
今すぐに戦えと言われたら正直厳しい所だ。

「それに、優勝して本当に聖杯が貰えるかどうかすら怪しいのに。
 こういうのは最後に嘘でしたって騙して始末されるのがお約束だろう?」

 理知的に、言葉を塞いでいく美女に対して、スタンは何も言い返せなかった。
この美女、とんでもなく口がうまい。そして、頭もいい。
スタンが考えてもいないことをその頭の中で幾つも構築している。


39 : 助手と天才 ◆yOownq0BQs :2018/01/31(水) 01:59:29 VUM53hrc0

「ともかくだ。私達には情報が足りない。それに、拠点も欲しい所だ。
 ああ、脱出手段を考慮しつつ、君以外の人員も確保したいな。ないものばかりで辛いが、やるしかない。
 これは愚痴になってしまうんだが、正直手放しで信用できる人間がほぼいなくてね。私の知ってる彼らではない可能性を考慮すると、現状の手札は君だけだ。
 なので、君は逃さない。私の計画に遠慮なく組み込ませてもらう」
「は、はぁ」
「それに、助けなくちゃいけない子もいるから、大忙しさ。こう見えても、結構焦っているんだよ。
 けれど、焦っても事態は好転しない。このような時だからこそ、冷静に行動しなくてはね」

 これはどうあっても、逃してくれない。
言葉通り、黙って従うのが一番利口な選択だろう。
とりあえず、彼女の言う通り、優勝というのも非現実的であるし、何より武器がない。
剣士であるスタンが無手で戦って並み居る強者を押し退けられる訳もなく。
この自称天才に付いていき、殺し合いから抜け出す。
流れるままではあったが、そうしようと決めたのだ。

「さてと、ある程度は落ち着いたみたいだし、後は移動をしながら語るよ。
 道中の移動は、私の発明品が快適さを約束しよう」
「わかった。ひとまず、あんたについていくよ。えっと、その……」
「ああ、私としたことが見落としていた。いい加減名前の共有ぐらいはしておかないとね。
 では、名乗ってくれたまえ。親愛を込めて、その名前を呼ぶからさ」
「……スタン」
「いい名前だ。では、スタン。私は、レオナルド・ダヴィンチ。君も親しみを込めてダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ」

 本当に大丈夫なのだろうか。
そんな心配はエンジン音に巻かれて消えていった。
 


【1日目/朝/E-3】
【レオナルド・ダ・ヴィンチ@Fate/Grand Order】
【状態】無傷
【所持品】全戦局対応型万能籠手@Fate/Grand Order、スピンクスメギド号@Fate/Grand Order、一日分の水(残量100%)
【ストレージ】交換石4個
【思考】
基本方針:マスターを助けて脱出。協力してくれる人員が欲しい。
1:色々と考えているけれど、今はな・い・し・ょ。隠し事は美女の常だろう?
【備考】

【スタン@GRANBLUE FANTASY】
【状態】消耗
【所持品】一日分の水(残量100%)
【ストレージ】交換石10個
【思考】
基本方針:とりあえず、死なない。
1:ひとまずダ・ヴィンチちゃんについていく。
【備考】
※剣と脚に想いを乗せて第5話、エピソード1終了後から参戦。
 不治の病は治っていますが、消耗した体力は戻っていません。
※名簿をまだ見ていません。



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