艦と刀






「どうしよう……今の提督だった……よね?」

C-6エリア展望台。島の右半分を見渡せるその場所で、吹雪は混乱に頭を悩ませていた。
いつものように演習を終えて眠りについたはずが、目を覚ませばこの見知らぬ土地。
艤装はなく、手元にあるのはペットボトルが三本入った鞄とモバイル端末が一つだけ。
提督らしき人物の姿を見たのも一瞬だけで、本人だったのかどうかの確証も持ちきれない。

「殺し合い? どうしてそんな……と、とにかく、何か武器になるものは……」

スマートフォンで武器を得られるという話を思い出し、吹雪はとにかくそれを実行してみることにした。
――結果は拳銃が一つ。
普段から使っている艤装と比べると頼りないことこの上ないが、今は贅沢を言っていられない。
吹雪が立ち上がってその場を離れようとした矢先、近くの茂みがガサガサと揺れた。

「だ、誰っ!」
「待って! 何もしないから!」

とっさに銃口を向けた先から現れたのは、新撰組の時代劇に出てくるような服を着込んで刀を差した、時代錯誤な印象を受ける格好の少年だった。

「君、殺し合いに関わる気はないんだよね? それなら少し話をしないかい?」
「……少しだけなら」

吹雪は銃口を反らし、しかしグリップは握ったままで少年と会話することにした。
襲われるリスクは減らしたいが、それよりも情報を集めたいという思いが上回った。

少年の名は大和守安定。故あって素性は明かせないとのことだったので、吹雪も自分の立場を説明するのは止めた。

「いきなり信用して貰えるとは思わないけど、僕は殺し合いに乗るつもりはないんだ。仲間と合流して、首謀者を打ち倒すか島から逃れたいと思ってる」

安定が挙げた仲間の名前は、名簿の表示順で和泉守兼定、大倶利伽羅、加州清光、蜻蛉切、堀川国広、三日月宗近の六人。
どれも時代がかった名前だなと吹雪は思った。現代の人名らしく聞こえるのは堀川国広くらいだろうか。

「どれも信頼できる人達だよ。大倶利伽羅っていう人以外は絶対に協力してくれるはずだ」
「その人、何か問題が……?」
「ああ、えっとね、何て言うか……団体行動が物凄く苦手なんだ。事あるごとに、馴れ合うつもりはないとか、群れるつもりはないとか。皆の馬の世話の当番になっただけで嫌そうな顔してさ。でも、悪い人じゃないんだよ?」

そう言って、安定は困ったような笑顔を浮かべた。
首謀者の打倒と島からの脱出。それ自体は吹雪にとっても望ましい展開だ。
問題は安定という少年にどの程度の信頼を置くかである。

「提案なんだけど、ひとまず近くの町まで一緒に行動しないか。その後のことは町についてから決めるとしてさ」
「うーん……」

吹雪は口元に手を当てて、少しばかり考え込んだ。

「……分かりました、そうしましょう」
「よし、決まりだ。それじゃあ行こうか」

 



◇ ◇ ◇



この子は間違いなく軍事教練を受けている――安定からの吹雪に対する第一印象はこういったものだった。
何よりもまず、短筒を構える姿に戸惑いも躊躇いもなかった。
『敵の可能性があるものに武器を向ける』という行動の素早さが、彼女が普段からそうした環境で生きていることを物語っていた。

もしも自分が姿を表すのがもう少し遅かったら、彼女は間違いなく引き金を引いていただろう。
安定はそんなことを思いながら、やや距離を置いて隣を歩く吹雪をさり気なく見やった。

純朴な田舎娘といった容貌に、西洋の水兵服に似た服装。軍に関わりがあるとすれば海軍か。
けれども、歴史改変を防ぐ戦いを通じて得た知識の中に、こんな年端もいかない少女を海兵に仕立て上げた事例は存在しない。

「(戦う力はあるのかもしれないけど……やっぱり嫌だなぁ)」

安定は吹雪のことを、戦力候補ではなく保護対象と認識していた。
同行を申し出たのも彼女を凶刃から守るべきだと感じたからだ。

更に、安定にとっての不安材料がもう一つ。

「……土方、歳三……」

安定のかつての主である沖田総司の同士であり、同じ審神者に仕える堀川国広と和泉守兼定のかつての主。
もしもこの『土方歳三』なる人物が、偽名や同姓同名の類ではなくあの土方歳三本人だとしたら。
そのときに堀川国広と和泉守兼定がどう動くのか、安定には予想しきれなかった。

「今、何か言いました?」
「え? いや、歴史上の人物まで名簿にあったけど、どうしてなのか気になってさ」
「そういえばそうですね。牛若丸もいましたよ。まさか本物だったりして!」
「あはは。だったらビックリだね」

互いに一定の距離を保ちながら、それでも表面上は警戒心を見せることなく、二人はB-5エリアの町を目指して歩き続ける。銃と刀を携えたままで。





【1日目/朝/C-6 展望台】
【吹雪@艦隊これくしょん】
【状態】無傷
【所持品】ベレッタM92(残弾15/15)@現実、一日分の水(残量100%)
【ストレージ】交換石7個
【思考】
1:B-5の町へ向かう
2:安定が信頼できるか考える
【備考】
※提督が捕らえられていることについては半信半疑

【大和守安定@刀剣乱舞】
【状態】無傷
【所持品】大和守安定@刀剣乱舞、一日分の水(残量100%)
【ストレージ】交換石5個
【思考】
基本方針:主催者の打倒か島からの脱出
1:仲間と合流する
2:B-5の町へ向かう
【備考】
※審神者の映像は見えなかったようです



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