常在戦場
「皆殺しにしなければ脱出できない島ですか……」
C-2エリアの廃寺に奇妙な風体の武者が佇んでいる。
牛若丸――十二世紀の武将、源義経九郎の若き日の姿であるはずなのだが、その姿は多くの日本人が想像する姿とは大きく違っていた。
まず第一に、少女であるということ。
そして第二に、甲冑とは名ばかりの異様な軽装であるということ。
胸部と胴体、そして腰の前部を守る装甲が一切欠落し、肩から胸部にかけてを覆う前垂れの板だけが胸を覆っている。
本人はその格好を全く気にせず、むしろ適切な装備だと言わんばかりの平然さで、与えられた専用スマートフォン端末を弄っていた。
「なるほど、取り決めは把握できました。まずは武器を手に入れるのが先決ですね。さっそく試してみましょう」
スマートフォンのショップアプリを起動して、交換石を三つ消費する。
思わせぶりな演出の後に表示されたのは、発煙手榴弾という兵器の入手を示す画面だった。
あくまで煙幕や信号として使われる道具であって、攻撃力は全くない。
「……召喚で一喜一憂する主殿の気持ちが少し分かりました」
牛若丸は露骨にがっかりしながら、もう一回支給品の引換を実行した。
「む……今度はいいものだ」
口元に笑みを浮かべ、手に入れた武器の詳細を表示する。
愛刀の薄緑に近い刃長の太刀、鶯丸。
日本刀としての質は間違いなく最高峰の逸品だ。
刀工・友成の作刀の素晴らしさは、牛若丸が生きた時代でも知れ渡っていた。
「これならば主殿をお救いする武器として相応しい。さっそく出立するとしましょう」
四つの石をストレージに残したまま、牛若丸は廃寺の境内に降り立った。
「名簿に記された名のうち、見覚えがあるものは六人。同名の可能性が低く、私が知る方だと断言できるのはマシュ殿のみ……刀や刀工の名まで並んでいるあたり、他は名を偽っている可能性も否定はできませんね」
実体化させた蛍丸を佩き、境内の大樹に飛び移る。
「まぁいいでしょう。ひとまずマシュ殿とカルデアのサーヴァント以外は斬り捨てればいいだけのこと。最悪でも、私が自ら首を刎ねてマシュ殿をお送りすればいいのです。そうすれば主殿もきっとお喜びになる」
まるで息をするような自然さで皆殺しを宣言する。
躊躇は微塵もなく、良心の呵責も一切ない。決意と呼べるほどの葛藤など皆無。
扉が閉まっているのなら開けて通ろう、という程度の当たり前の発想として、牛若丸は皆殺しを当面の方針と定めた。
主君に忠義を尽くすこと――それだけが彼女の望み。
しかし彼女は人心を読み取ることができず、あらゆる面において冷徹に最短距離を突き進む『獣』だった。
生前は兄のために能率的な殺戮手段をもって勝利を重ね、サーヴァントとして召喚されてからはマスターのために敵の屍を積み上げた。
たとえこの島にかつての部下や無辜の民草がいようとも、彼女は冷酷かつ嗜虐的に刃を振るうだろう。
忠犬じみた一面は主に対してだけのもの。囚われの主を救うために殺戮を成さない理由などない。
「さて、まずはどこから探りましょうか」
大樹の枝を蹴って加速する。
瞬きほどの間に、獣は朝日を浴びる山の中へと消えていた。
【1日目/朝/C-2 廃寺】
【牛若丸@Fate/Grand Order】
【状態】無傷
【所持品】蛍丸@刀剣乱舞、一日分の水(残量100%)
【ストレージ】交換石4個、煙幕手榴弾(3個)@現実
【思考】
基本方針:マスターを救い出す
1:マシュ以外は基本的に皆殺し
2:カルデアのサーヴァントについては一旦保留
【備考】
※外見は第三再臨時のものです
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