ヒナちゃんペロペロヒナちゃん






人気のない遊園地。
普段であれば貸し切り気分で楽しめたはずだが、今は不気味でしかない。
高坂桐乃は転送された観覧車付近で名簿を確認した後に目的もなく園内を彷徨っていた。

「まじありえねー。殺し合い?ばっかじゃないの。厨二病患者はあいつ一人で充分だっつーの。つーかなに?あの頭、ウィッグ?痛すぎ、良い歳こいて
なにコスプレしてんの?ぜってーあいつ二次元に現実逃避した童貞ニートだよpgr。
付き合ってらんないわ〜、あたしはニートと違って平日の昼間は学校なのに。あんたみたいな親のすねかじりにならないように、
毎日勉強してんの!とっととハロワ行けよ地球のゴミ!」

派手なミルクティー色の髪を掻き上げ、端正な容姿には釣り合わぬほどの悪意が込められた下品な羅列を繰り出す。
そしてその中には恐怖心も含まれているのは、スカートの裾から伸びた細長い足の震えを見れば一目瞭然。
つまり、ただの強がりなのだ。

「大体なにあたしのペア。まじないわ〜、もっと役に立つような人材は居なかったわけ?
雑魚な上に地味な眼鏡大好きだし、幼なじみで妄想するようなムッツリだし、誰が見てもイケメンじゃないし…ちっ、まじ使えねー」

罵倒するにつれ内なる不安が少しずつ怒りに変換されていき、次第に声のボリュームが上がっていく。
極めつけに脳が“足元に転がる何か”としか認識しなかったものを苛立ちに任せて蹴り上げて。

「あう!」
「………?」

ここに来て初めて、他の参加者との邂逅を果たした。



「それでねそれでね、真紅っていうのはヒナの一つ前に完成したドールなんだけど…」
「じゃあ、ヒナちゃんの五人目のお姉ちゃんなんだ〜」

六人目のお姉ちゃんになったげようかつーか是非ならせてぐひひひひ。なんて言葉は胸に秘め、
園内に設けられた休憩スペースの椅子に座り、自分が頬杖を突いたテーブルに座らせた雛苺と視線を
絡めて軽い情報交換を行う。…というのは建前で、桐乃にとっては純真無垢タイプの可愛い妹キャラとコミュニケーションを
はかることが目的なわけだ。情報交換は第二目的。
とは言え、重要なことは頭にちゃんとたたき込んでいる。

まず、雛苺のこと。
先程彼女が生きたものだとは気付かず蹴飛ばしてしまったが、話によると薔薇乙女という魂の込められた人形だそう。
最初は自我をもって話すという非現実的な出来事に恐怖が蘇ったものの、彼女の天真爛漫で愛らしいキャラクターにそれは打ち消された。
今では愛しささえ覚える。もっとも、それは桐乃自身の趣味も多少なりとも関連しているだろうが。

そして姉妹達のこと。
どうやら同じような人形が他にも六体存在しているようだ。しかもここに連れてこられているらしい。
挙げられたとおりに、名簿の名前欄にチェックを入れた。

最後に契約について。
雛苺達に宿る不思議な力。そして契約をすると、その力がより強くなるということ。
流れでアリスゲームのことも聞いた。
アリスゲームとは、姉妹達がそれぞれに備えられた能力を駆使し、完全体であるアリスを目指し
最後の一体になるまで闘うというもの。まったく酷い話だ。
…一瞬、自分も今似たような状況に置かれているのを忘れて怒りだしそうになった。

こちらからは自分とは似ても似つかぬキモくてダサイ兄が居るということを説明して情報交換は終了。

次いでデイパックの中身を調べてみた。
雛苺の荷物から銃が出てきた時は引いた。軽く。
自分の支給品は簡単に見ただけだが、鏡と人型の紙、それから興味のないBL誌。
雛苺の銃以外はあまり役に立たなそうだ。もちろん、殺し合いに乗るつもりもないけれど。


「それじゃあ一緒にヒナちゃんのお姉ちゃんと妹ちゃんを捜したげる。行こっか」
「うん!ありがとうなの、キリノ!」

屈託のない笑みで大きく頷く雛苺。
かんわいいいいいい!ヒナたんペロペロ(^ω^)!と興奮しつつ抱き上げて桐乃は思う。

───気分がいいので、ついでにあの眼鏡フェチも捜してやるか。
と。


【H-5/遊園地/日中】

 【高坂桐乃@俺の妹がこんなに可愛いわけがない】
 [状態]:健康 興奮
 [服装]:制服
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式、暗黒鏡@幽☆遊☆白書、式紙@結界師、BL雑誌@お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからね!!
 [方針・思考]
  基本:殺し合いには乗らない。
  1:雛苺の姉妹を捜す
  2:ついでに兄貴(高坂京介)も。
※薔薇乙女のことを知りました。

 【雛苺@ローゼンメイデン】
 [状態]:健康
 [服装]:ピンクのベビードールのような服装。
 [装備]:無し
 [道具]:支給品一式、ベレッタM92@BLACKLAGOON、他〜2
 [方針・思考]
  基本:殺し合いには乗らない。
  1:桐乃と一緒に姉妹を捜す
※高坂京介の情報を得ました。

【暗黒鏡@幽☆遊☆白書】
満月の日に魔力を放ち、のぞいた者の欲望を映し出す鏡。映った望みを叶える代わりに自らの命を捧げなければならない
ただし、死亡者の蘇生や主催者の死亡、ゲームからの脱出など物語に大きな影響を及ぼす願いは不可。



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