ひとつの不幸、ひとつの幸運






(生き……てる……?)


月火が意識を取り戻したのは、ノーヴェがユーフェミアを追ってほどなくしてからだった。


(ケンシロウさんが北に向かって……それからユーフェミアさんとお話してたら突然撃たれて……)


殺し合いに乗っていない良い人だと思っていたのに……。
油断させて隙を狙う。常套手段とも言えるお決まりの策にかかってしまった。
ファイヤーシスターズの参謀担当がなんたる失態。


(……プラチナむかつく)


意識はあるが、動くのも喋るのも怠い。思考もうまく働かない。
銃で撃たれてなぜ生きているのかは不思議だが、運良く弾が急所を外れてくれたのかもしれない。
もうしばらくじっとしていよう。
そのうちケンシロウさんや、ノーヴェさんが戻ってくるかもしれないし。
それまでの辛抱だ。
ならこのまま眠ってしまおうかな。あれ、でもそれはマズイかな。雪山で寝たら死ぬっていうし。
寝るか寝るまいか、上手く回らない頭で考えていると足音が聞こえた。こちらに近づいてくる。


(あっ……誰かな……? ケンシロウさん……? ノーヴェさんかな……?)


月火には様々な不幸が重なっていた。
このゲームに巻き込まれたこともそうだが、ユーフェミアが『日本人を殺せ』というギアスにかかった状態で連れてこられたこと。
ケンシロウがノーヴェがいた事で気を許し、爆発音の方向に向かったこと。
そのノーヴェも血気に逸らず注意深く月火に付いていてやれば、彼女が常人と比べ異常な再生能力を持つことに気づいたかもしれないのに。





* * * *




「ふっふふ〜ん♪」

小蓮は鼻歌を歌いながら歩を進めていた。
天気がよかったのもそうだし、支給品に宝石があったのも上機嫌の理由。
だけど今のところ姉たちの居場所や、スカリエッティのことなどなにも分からない。


『なら家来を作って、そいつに探させればいいじゃない』


それが孫家の末娘たる孫尚香・小蓮の方針だ。
このバトルロワイアルというゲームに置いて、同行者を求めるという方針は悪くはない。
戦闘、探索、情報収集、そのどれもが一人で行うには限界があるからだ。
しかし小蓮は重大な思い違いをしている。

この島に、孫家の威光を知る者などほんの一握りしかいないことを。
それどころか、孫家に恨みを抱くものすらいるということを。
そしてなにより、『鍛錬を積んだ自分は、戦闘では強者に分類される』という思い違い。

小蓮は知らない。
この島に自分の生きた時代には存在しえない、未知の技術があるということを。
1800年の歴史を誇る無双の暗殺拳の使い手たちが、人間であることを辞めた人外妖魔に堕ちた者すらいるということを。


「ちょっとー!! そこのあんたー!!」


真の過失とは、過失に気づかないことである。
思い違いを知らぬまま、小蓮は初めて発見した参加者に呑気にも近づいていく。





* * * *




「――誰か来る……?」


橋の中腹に差し掛かったとき、前方に人影が見えた。
人影は隠れることもなくこちらに向かってくるようだ。いつでも『ウェザー・リポート』を顕現できるよう構えをとる。
ウェザーの視線の先、対面から駆けて来たのは髪をふたつ、輪状に結った少女だった。
だが気を抜くことはない。すでに戦いは始まっているのだ。

トコトコと小さな身体で駆けてきた少女はジッとウェザーを見上げている。
ミニのスカートにヘソを出した、風邪でも引きそうな格好。
それに宝石かガラスか知らないが、紫色のアクセサリーを下げている。
そして肌の色は健康的な小麦色だ。アジア系の人種か?


「ねぇ、そこのあなた。さっき大きな音がしたでしょ。あれなんだか知ってる?」」


首輪を付けているということはこの少女も参加者か。
すでに『ウェザー・リポート』を間違いなく叩き込める射程内に入っている。
だが無警戒過ぎる。仮にも殺し合いの場で、まるで「いつもの昼食と変わりませんよ」という態度。


「……さぁな、なんか爆発でもしたんだろ」


この少女がスタンド使いという可能性も少なからずある。だが子供というのは精神力が未熟だ。
そのため『精神の力』であるスタンドは、子供が発現してもたいした破壊力を持たない。
せいぜいがエンポリオの『幽霊の道具を使うことが出来る能力』程度。
仮に銃やナイフを使い襲いかかったとしても、そんなものウェザー・リポートの敵ではない。


(――くだらねぇ、こいつはただのガキだ。状況も理解出来ない、殺されるだけの足手まといのガキ)


そう結論づけ、少女の存在を無視し再びウェザーは歩き出す。


「ちょっとあんた、どこ行こうとしてんのよ!?」


無視されたのを怒っているのか、少女が後ろを着いて来る。
返事をするのも面倒だ。こんなガキに関わっている暇はない。


「ねえったら!私の話し聞いてんの!?」


ウェザーが歩く速度を早めると少女も歩く速度を上げ、そのままアヒルの親子のように追いかけてくる。
……正直ウザいことこの上ない。餓鬼のお守りなんて真っ平だ。


「ねぇ!ねぇ!ねぇ!」
「うるせェ!!蹴り殺すぞッ!!」


しつこく食い下がる少女にウェザーがキレた。
だが殺意を込めた怒気と、凄みのある眼光を当てても少女は恐がるどころか憤慨している。


「なんですってー! 初対面の人間に対して失礼ね!」
「てめぇがしつこく話しかけてくるからだろうが、さっきから馴れ馴れしいぞお前ッ!」
「……むうう!そんなに怒らなくてもいいなじゃないのよ!それにこんな可愛い女の子に話しかけられてるんだから少しは嬉しそうにしなさいよねっ!」


不機嫌そうに舌打ちをし、ウェザーは歩き出す。
こいつ電撃を喰らわせてマッサージ機にしてやるか?それとも溺れさせて椅子代わりにでもするか?
だが何も知らない非力な子供を、容赦なく始末するのはクズのやることだ。
能力の制御が効かなかった『ヘビー・ウェザー』ならいざ知らず、今は完全に『ウェザー・リポート』のみを制御できている。
小うるさいガキということに代わりはないが、殺す気にはなれない。殺してしまったらきっと後味の悪いものが残る。


「ねぇ、あんた今からどこ行くつもりなの?」
「……あんたじゃねぇ、ウェザーだ」
「じゃあウェザー、あなたどこ行くのよ?」


ウェザーが不愉快そうに眉間に皺を寄せる。
いつのまにか隣をシャオとか言う餓鬼が歩いていたのもそうだが、『奴』のことを思い出すだけで不快だ。
自分の人生を狂わせ、仲間と愛する者を奪った吐き気をもよおすほどの『邪悪』を。


「……行き先は決めてねぇ、ただ兄貴をぶっ殺しに行くだけだ」
「ふーん、殺すってなんで?」
「……」


兄を殺す。そのいささか刺激の強い発言にもシャオは無遠慮につっこんでくる。
もし彼女が現代の少女と同じ感性を有していたのなら、兄弟に手を掛けるウェザーを危険な男と断じていただろう。
しかし小蓮の生きた世界は違う。
己の師を侮辱された、友を殺された、賄賂を強要し私欲を満たす役人が許せなかった。


だから殺した。


もちろん人を殺せば追われる身となり法に裁かれる。
だが多くの大衆はその殺人を正当な殺人だと解釈する。
『誇り』のためならば、『命をかける』ことが許される。それが小蓮の生きた時代。


「ねぇねぇねぇねぇ!教えてよ!ちょっとぐらいいいじゃない!」
「うるせぇッ!!てめぇにゃ関係ねぇだろがッ!!」


一喝しても小蓮は頬を膨らませ、ウェザーの隣を歩きながら睨んでくる。
内心舌打ちし、眉間に皺を寄せていたウェザーが、呪詛に似た言葉を呟く。


「……あいつに、恋人と仲間を殺された。だから殺す」


復讐なんて虚しいだけだと、許すことが大切なんだという者もいる。
だがそれは、自分の最も大切なものを奪われたことのない者だけが吐ける言葉だ。
こんなことをしてもF・Fが、ペルラが還ってくるわけではない。
だが奴とのケリをつけなければ永遠に俺は前へと進めない。
『過去』に、全ての因縁に決着をつけない限りッ――!


「へぇ、恋人のために敵討ちってわけ? いいわね、気に入ったわ!あんたシャオの家来にしてあげる!」


シャオが見上げ指差す先にいるのはウェザー・リポート。
この場に他の人間がいないことを加味しても、あんたと言われ該当するのはウェザー・リポートただ一人。


(いきなりなにを言い出すんだこいつは。イカレてるのか?この状況で。)


「……それはいつ決まったんだ?」
「今さっきだけど? あんた結構カッコいいし、なかなか見込みありそうだしね」


好奇心が強く、何でも知りたがる元気娘。
自由奔放に育った彼女には突拍子のないところがある。
以前食い逃げをしたときにも、代金を立て替えさせられた関羽を勧誘するなどその傍若無人ぶりを発揮している。


「ふざけんじゃねェ!そんなのお前に勝手に決められてたまるかッ!!」
「いいじゃないべつに。あんたは江東に覇を唱える孫家の末娘、孫尚香の家来になるの! いいわねっ?」


なにが江東に覇を唱えるだ。知らねぇよそんなもん。
しかもこいつまったく話を聞いてねぇ……。
いちいち怒るのもバカらしくなってきたぞ。


「……勝手にしろ。だがひとつ言っておく、俺の邪魔だけはするな」


観念したのか、舌打ちし歩き出すウェザー。
一応釘は差しておいたが、この餓鬼が素直に聞くとは思えない。
この手合いはどうせそのうち飽きてどこかに行くだろう……。
それまでの辛抱だ。神父を殺すという目的に変更はない。


「じゃあ勝手に着いていくわ! よろしくね、ウェザー」


つっけんどんな態度のウェザーを気にもせず、シャオは上機嫌にあとを付いていく。
孫尚香――小蓮がウェザー・リポートを家来、もとい同行者に選んだ理由はいくつかある。
第一点は殺し合いを強制させられているのに、少女というか弱い外見の自分に手を出そうとしないところ。
乱暴で口も悪いが、そこまで悪い人間ではないと思えた。

それにイケメンで、スラっと伸びた脚に日焼けの肌。
容姿もそれなりに良くて当面のお供兼家来としても悪くない。
そして『誇り』のために命を掛けられる、恋人を殺されて黙っているような男ではないところ。
そんなところに好感が持てた。


小蓮にとっての幸運は、最初に出会った参加者がウェザー・リポートであること。
そして自分がまだ年端も行かない子供だったというところだろう。
記憶を取り戻したウェザー・リポートは、記憶を失っていた頃よりも気性が荒い。
当然だ、彼は自分の人生を呪っているし、世の中そのものを憎んでいるのだから。
だがそれでも、子供を殺すような殺人鬼ではない。
もし小蓮が女性と言える年齢に達しており、あんな態度をウェザーにとっていれば即座に殺されていた。
そして同様に、無警戒で戦力的にも無力といえる小蓮は、殺し合いに乗った者達からすれば絶好の獲物だ。
なによりもゲームに乗った者に出会わなかったこと。それが小蓮の幸運。




* * * *




「〜♪」


ヘンゼルは鼻歌を歌いながら、上機嫌にレストランで得物を物色していた。
銃声が発せられた場所を捜索し、そこで拾った日本人のお姉さん。致命傷と言える銃傷があったのに意識があった。
よほど生命力が強いのか、それともSF映画に出てくるサイボーグなのか。とても不思議だ。

なら確かめてみたくなる。“どこまで壊せば、壊れてしまうのか”。
お姉さんには優しく優しく声をかけてあげた。


「安全なところに僕が連れて行ってあげるよ。とにかく中へ入ろう」


あのお姉さん、僕がこれからすることを知ったらどう思うかな?
ほっとした安堵の表情、それが恐怖に歪む様。
血の滴る味も、悲鳴も、臓物の温かさも、お姉さんは知らないんだ。
だから僕が教えてあげるよ。


殺すか、殺されるしかないんだ。
 この世界はそれだけだもの。



【F-2/橋上/午後】

  【ウェザー・リポート@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン】
[状態]:健康
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3(未確認)
[方針・思考]
 基本:プッチを殺し、ヤツとの決着をつける。
 1:まずは中央に向かい、プッチを探す。
 2:さっさとプッチとの組を解消したい。
 3:プッチを殺すまでは死ねない。
 4:小蓮は放っておく。餓鬼のお守りなんざ真っ平だ。
[備考]
 ※ プッチが『緑色の赤ん坊』と合体した影響でプッチの存在を感じ取れるようになっています。
   (ただし「近くにいる」「遠くにいる」などのおおまかなことしか分かりません)

【孫尚香@真・恋姫†無双】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服
[装備]:ブリッツキャリバー(待機モード)
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2
[方針・思考]
 基本:姉様たちと一緒にスカリエッティをこらしめる。
 1:イケメンだしウェザーに着いて行ってみる。
 2:孫策、孫権、劉備姉妹と合流したい。
 3:早く張飛に喋る宝石を自慢したい。
[備考]
 ※ブリッツキャリバーは孫尚香の許可が出るまで喋るつもりはありません。


【E-2/国際展示場内、とある一室/午後】

【阿良々木月火@物語シリーズ】
[状態]:意識回復(ただし複雑な思考ができず)、腹部に多数の銃創(再生中)
[服装]:着物(銃弾による穴多数、血まみれ)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[方針・思考]
 基本:主催者を倒す
 1:まだ上手く動けないしじっとしている。ヘンゼルに保護してもらう。
[備考]
 ※しでの鳥の制限について
  このロワ内では、脳、心臓の損傷、首輪の破壊による傷は再生できない(=死ぬ)とする
  また、致命傷の回復速度も抑えられている

【E-2/国際展示場レストラン内/午後】

【ヘンゼル@ブラック・ラグーン】
[状態]:左腕部負傷、行動には支障なし。
[服装]:私服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、火炎放射器(残数70%)、ナイフとフォーク(数十本)
    不明支給品0〜2(確認済み)、張飛の支給品1〜3
[方針・思考]
 基本:楽しいね、姉様。
  1:月火が壊れるまで遊ぶ。
  2:いつもの斧が欲しい。姉様の分の武器も確保したい。
[備考]
 ※ ナイフとフォークは国際展示場内のレストランから調達したものです。



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