漆黒と薔薇の花
鏡の中で薔薇は問う。
「どうして……?」
どうして、ここにいるのだろう。
問いかける。
けれど答えは無い。
全てが終わった。その筈だった。
あの時、確かに壊れてしまったのだ。
身も、心も、あの人も、全て。
全てを手に入れようとして、手に入れて、なのに何もかもがそこで終わってしまった。
壊れていく体。壊れていく心。失われていくあの人。
確かにそれを見、そして消えた、筈なのに。
「私は……」
なのに、まだ、ここにいる。
何よりも完璧で何よりも強くてそして何よりも、所詮贋作だった紛い物。
何も持たず、持てず、持てば壊れた模造品。ジャンクにも劣る劣悪品。
決して本物には届かない。偽物ドール。
それが、淡い薔薇の正体だった筈なのに。
「お父様」
だけどいま、機会が与えられた。
ありえない筈のリスタート。
もう叶わない筈の、ワンチャンスが巡ってきた。
だから、
「だから――」
だから薔薇はもう一度、咲きたいと願っていた。
◇ ◇ ◇
「誰だ?」
問いかける。
「誰……?」
問い返す。
「お前は誰だ?」
問いかけて。
「貴方は……誰?」
問い返して。
「名乗らなければ、名乗るつもりも無いと?」
意を解して。
「名乗らなければ……名乗るつもりはないわ……」
意を解されて。
「俺は――ルルーシュ・ランペルージ」
名を名乗り。
「…ルルーシュ。……私はローゼンメイデン…第七ドール……」
名乗った。
「ローゼン……メイデン……?」
その名を。
「……薔薇水晶」
その意味を、この出会いと共に。
◆ ◆ ◆
立方体で構成された小部屋は闇で満たされていた。
無味、無臭、無機質、無感、無の世界にはやはり漆黒のみが佇んでいる。
漆黒は男の影を形取り、闇の中に君臨する。
「殲滅、強襲、奇襲、撹乱、情報操作」
紡がれし言葉は破滅の呪言に相当する。
聞こえてくる攻め手の羅列。
内、如何なる手段を実行に移そうと、何者かが傷つき果てる。
これはそういう災いの行列なのだ。
「だがいずれ、駒の位置が分らない間は有効には働かない」
小さな椅子に腰掛けるその男の容姿は長身細身の青年だった。
黒い髪、紫色の瞳、そしてやはり黒い服を身に纏い、
鋭い眼光でもって闇の向こうを見据えている。
「ならば自然、事象の把握が優先されるな……」
青年は手の中に何かを握っている。
しかしそれは闇の渦中では輝かず、見ることは叶わない。
今はただ闇の中に埋もれる何かにしかなりえなかった。
「そして……」
「そし……て?」
動く、漆黒が立ち上がる。
深淵が蠢き這い出るように、闇より尚暗いそれは正常なる世界を侵す黒。
黒き知の、智の毒だ。
「俺は……」
「貴方は……?」
そしていま正に男が扉を開けようとする。
その時であった。
「俺はこれから、どうするか?」
男の背後に小さく。
か細い声が聞こえたのは。
「貴方は……これから……どうするの?」
いつからなのか、定かではない。
それは異なる世界が侵食をするように。
暗がりには煌く結晶が降っていた。
ぱらぱら、と。
コールタールで満たされた箱に、さながら砂糖をまぶすが如く。
淡い白紫の少女が、闇の中に現れる。
「殺すか否か、を聞いているのか?」
雪の様な長髪。
濃い紫のロングドレス。
ガラス細工の様な黄色い右目。
そして蒼い薔薇の眼帯に覆われた左目。
人形の様な少女が一人、漆黒の渦中へと降り立つ。
「殺すん…でしょう……? だって…貴方には……」
「……は」
その問いかけに、漆黒の青年は揺らがない。
ゆっくりと振り返り、白紫の少女と向き合った。
「人に物を聞くときはまず自分から、が礼儀なんだろう? 薔薇の水晶?」
哂う男の歪んだ口端。
「――」
変わらない少女の表情。
「――――ふ」
しかし直ぐに追いついて、
少女もまた少しだけ何かを貌に滲ませる。
「変な人……」
そうして告げた。
「あたりまえ……私は…殺すわ……」
闇を純白に染めながら、嘯くように、夢見るように。
「……だってお父様の…為だもの」
少しだけ、誇らしげにそう言った。
「貴方は……?」
そして聞いた。手を差し伸べて、それをもう一度。
これから血に染まる白の、黒への問いかけ。
貴方はこれから、何色に染まるのか。
「それこそ、答えるまでもない」
漆黒は言う。
「俺はこのゲームに勝つ」
紅だ。
混じる色に、それ以外は無い。
「それだけだろう? 俺も、お前も」
そして理詰めに計算尽くされた計算と計略。
語り騙る姿など。
一周して、コイントスの様なものであると。
「そう…なら…私たちは……」
「ああ、そうだな俺達は――」
結ばれる手。
ならばこの時が、仮初の契約。
そこには何の保障も烙印も無い。
ただ漆黒の投げたコインの表裏を、淡い白紫の薔薇が裏であると指名した。
これはただ、それだけの事なのだから。
「始めようか、ゲーム(殺し合い)とやらを」
「ええ…(アリス)ゲームを始めましょう……」
黒の王と薔薇は出会い。
混じりあい、そして災厄の種が芽吹きだす。
やがて、このゲームを侵す。
何もかもを破滅させる漆黒と薔薇の花。
いま――その侵食が始まった。
【F-7のどこか/一日目/日中】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態] :健康
[服装] :ゼロの服
[装備] :不明
[道具] :不明
[方針・思考]
基本:ゲーム(殺し合い)を始めようか。
1:――――
[備考]
※参戦時期:指定なし
【薔薇水晶@ローゼンメイデン】
[状態]:健康。
[服装]:いつものドレス。
[装備]:不明
[道具]:不明
[方針・思考]
基本:(アリス)ゲームを……始めましょう。
1: …………。
[備考]
※参戦時期:本編終了後
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