魔人の生まれた日





「…………」


孫呉の次代の王、―――孫権仲謀は身を伏せ周囲の様子を伺っていた。
そこは木々に覆われた山中の中腹。そう人がいるとも思えぬし、まだ日は高いがこう見通しが悪いと奇襲を受ける危険性があった。
五感の全てを聴力に傾ける。

そよそよと吹く風にときおり揺れる木々の音、それに伴い緑葉同士がこすれあう。
動物や人間が動くような音はないようだ。
しかし小鳥のさえずる声すら聞こえない。
奇妙だとは思ったが、突然襲われることはないと判断し息を付く。


「今のところ外敵は……いないようね……」


　 とりあえず支給品を確認している最中に襲われることだけは避けたかった。
殺し合い。何の冗談か、まるで現実味がない。だがこれが認めざるを得ない現実だ。

　 こんなことならばもっと武技を磨いておくべきであったな……。
今さらこんな反省をしたところでどうにもなるものではない。
まずは自分になにができるか、なにをすべきなのかを考えなくては。
彼女は手近に転がるデイバッグに手を伸ばす。


……出てきたのはハサミだ。そう、髪を切ったり紙を切ったりするあれだ。
なんだこれは。ハサミで殺し合いをしろなどふざけているのかあの男は？
使えない、とも思ったが一応刃物であるし、『いざ』というときには使えるかもしれない。
これは懐に忍ばせておくことにする。

もうひとつ出てきたのは弓矢か、これならば私にも使える。
民政や兵法に重きを置いていたため武芸は得意、というわけでもないが、一応訓練を受けたことはある。

そして最後に取り出したのは変わった趣向の兜と直垂と服。
直垂と兜はともかく服は着れないな。無理矢理来てもきっと窮屈だろう。……特に胸とお尻の部分が。


次に私は参加者の名前が書かれた紙を見つけた。


「姉様！？それに小蓮まで！？」


それだけじゃない、劉備、関羽、張飛の名前まである。
私は今まで、こんな殺し合いに積極的に参加などしたくなかった。
だが雪蓮姉様と小蓮が参加させられているなら話は大きく変わる。

生き残れるのはたったの一組。
私はどうすればいい？
自分が生き残るために関羽殿を殺す？
――無理だ、できない。彼女のような素晴らしい武人を倒すなど、技量の面でも、私の心の面でも。

それじゃああのスカリエッティと言う男を殺す？
――できない、できるわけがない。
妖術を用い、離れたところから好きに相手の首を爆破出来る相手に勝てるはずが無いし、そもそもこの島にいることすら疑わしい。
それになんだこの首輪は？つるりとしたなめらかな感触、どう加工すればこんな鉄の首輪を作れるというのだ？

さらに最も恐れるべきことは私たち孫家全員が死亡してしまった場合だ。
周瑜や黄蓋がいれば、一ヶ月程度なら国主が不在でもなんとか持ちこたえられる。
だがそれ以上は難しい。不在となった王の地位をめぐり、親族や家臣間で内紛が起こる。
地方豪族や長江流域を根倉にする河族も反旗を掲げるだろう。
そうなれば確実に他国も動く。指導者を失いまとまりを欠いた大国を盗るなどそう難しくはないからだ。


戦火に巻き込まれ、多くの民が泣く。私の守りたかった人が死ぬ。
偉大なる王、孫堅文台。そして小覇王、孫策伯符。
母様が命を掛け築き、姉様が死に物狂いでまとめ、万の怨嗟にも耐え纏め上げた国がなくなる。


やるしか、ない。母様のため、孫呉の民のため、他の参加者を殺して、姉様と小蓮を生き残らせる。



「――守るんだ、私が。姉様と小蓮を。孫呉の民を。みんな私が守るんだ」


彼女は血塗られた道を歩むことを決めた。
支給された兜を被り、民を思う施政者から、民のために他者を殺戮する魔人へと変貌する。


【D-6/山中/一日目・日中】

【孫権＠真・恋姫無双】
[状態]：健康
[服装]：通常
[装備]：ゼロのマント、ゼロの仮面、夏侯淵の弓矢（残数20本）、庭師の鋏
[道具]：支給品一式、ゼロの服
[方針・思考]
　基本： 孫呉を守るため優勝する。
　１：孫家以外の者を殺し生き残る。


【ゼロの衣装セット＠コードギアス　反逆のルルーシュ】
ルルーシュ・ランペルージがゼロとなるとき使用する仮面と服とマントの衣装セット。
仮面にはボイスチェンジャー機能が搭載されており、左目に当たる部分は開閉可能。
視界は狭そうに見えるが、スザクはこれをつけたまま機関砲を避けたりしているので、おそらくセンサーなどを内蔵して視覚を補っていると思われる。

【夏侯淵の弓矢＠蒼天航路】
王たる臣、夏侯淵妙才が使用した弓矢。矢筒付きで矢の本数は20本。
名人である夏侯淵は三本の矢を一度に射撃し、劉備を追い詰めている。

【庭師の鋏＠ローゼンメイデン】
人の夢の中に存在する「心の樹」の手入れをする事が出来る鋏。
他にも斬撃という形で肉体的なダメージを与える事が出来る能力を持っている。
その切れ味は本物であり、蒼星石が鞄に掛かった鍵を一撃で断ち切った程。
大きさは恐らく通常の鋏程度。ドールである蒼星石が片手でも両手でも扱えるサイズである。
だが一般人が彼女の如く100％の力を発揮できるかは不明。


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