潮風の中の少女
海の匂い、波がゆっくりと打ち寄せる心地良い音。
彼女の故郷と同じ潮風が吹いていた。
そんな海辺に建てられた海の家で、孫尚香は大の字に寝ていた。
彼女が寝転がっているのは『畳』という日本で利用されている伝統的な床材であるのだが、そんなこと知る由もない。
ただその表面を覆う、編みこまれたイグサの香りがなんとも気持よかった。
名簿を確認したところ、自分の知り合いは5人。
姉である雪華、蓮華に劉備、関羽、張飛。
なぜか劉備三姉妹の名前だけ二回記入されていたけど、分からないことだらけだし今はいいや。
劉備はどうか知らないけど関羽、張飛の二人はすごく強いしできれば合流したい。
雪華姉様も生半可な強さじゃないし、心配いらないだろう。
蓮華姉様は素手で賊を取り押さえちゃうくらいの腕だけど、無益な争いを嫌う人だからちょっと心配。
早めにシャオが迎えにいってあげたほうがいいかな?
この殺し合いという異常な状況の中でも、孫尚香は特に取り乱すこともなく落ち着いていた。
自分の知り合いはみんな腕に覚えがある人だし、自分だって呉の王族として戦闘訓練は積んでいる。
正直自分が死ぬ気がしないし、劉備たちや姉たちも死ぬとは思えないのだ。
それに悪いのはこんな殺し合いをさせるスカリエッティに決まっている。
雪華姉様たちと一緒に早くこらしめてやらなきゃだめね。
そのためにも他のみんなと合流したい。
だけど地図を見ても、姉や劉備たちが行きそうなところなんて検討がつかない。
雪華姉様は王様だから王宮とか?劉備なんかはのんびりした性格だから今ごろ温泉にでも入ってるかも。
「わあっ、綺麗……」
起き上がりデイバッグの中身を漁ってみると、紫色の宝石が出てきた。
縦に伸ばした六角形の形に加工されており、首からかけられるよう金の鎖がついている。
大きな宝石だからきっと高価なものなのだろう。とりあえず着けてみる。
うん、自分で言うのもなんだけどけっこう似合ってる。
こんな殺し合いの場には不釣合いだけど、女の子としては嬉しい支給品に思わず笑みがこぼれてしまう。
よく見ると裏に「説明書」と書かれた紙が貼ってあった。剥がして読んでみる。
『ブリッツキャリバー:ローラーブーツ型デバイス。
マッハキャリバーの姉妹機でインテリジェントデバイスの一種。
リボルバーナックルの収納・瞬間装着・カートリッジロードを制御可能。
またリボルバーナックルとのシンクロ機能搭載。』
「……意味わかんない」
理解出来ない単語が多すぎる。
意味わからないしこの紙くしゃくしゃにして捨てちゃおうかな、とか考えていると突然声が聞こえた。
「Hai」
「えっ、ちょ!誰?どこっ!?」
周りを見渡しても人影はない。
声は確かに聞こえた。それにあんなはっきり聞こえたのだからすぐ近くにいるはず。
「I'm here. Where is Ginga?」
声のした方向は自分の首のすぐ下。つまりこれって。
「うそっ、この宝石喋るの!?すごーい!」
バカには見えない布や、上面が塞がって底が抜けている不思議な湯のみは知っている。
でも喋る宝石なんてそのどれよりも珍しい。
「Who are you? Please answer.」
「えーとっ……、あー……」
「Where is here? Do you know where my master is?」
「あっー!もう、うっさい!!シャオのわかんない言葉で喋んないでよ!ちょっと黙ってて!」
確かにめずらしいし、綺麗な宝石だけどちょっとうるさい。
私が怒るとそれきり喋る宝石は黙ってしまった。
でも姉様達だってこんなもの持っていないだろうし、張飛に見せたらきっと羨ましがる。
もし会ったら思いっきり自慢してやろっと。
――どっごおおおおおおんっ
内心誇らしげな気分に浸っていると、南の方角からなにか大きな音が聞こえた。
橋の向こうにある離れ島でなにかあったのかもしれない。
どうせ劉備たちや姉様たちの居場所もわからないし、行ってみるのも面白そう。
「じゃ、そろそろ行こっかな。雪華姉様も蓮華姉様も、私がいなきゃ寂しがるもんね!」
なにも言わなくなった宝石を首にかけ、小さな小さなおてんば姫の冒険がはじまった。
【F-1/海水浴場/日中】
【孫尚香@真・恋姫†無双】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服
[装備]:ブリッツキャリバー(待機モード)
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜2
[方針・思考]
基本:姉様たちと一緒にスカリエッティをこらしめる。
1:南の方がなんだか騒がしいし、行ってみよっと。
2:孫策、孫権、劉備姉妹と合流したい。
3:早く張飛に喋る宝石を自慢したい。
[備考]
※ブリッツキャリバーは孫尚香の許可が出るまで喋るつもりはありません。
【ブリッツキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
ギンガの使用するローラーブーツ型インテリジェントデバイス。
クリスタルの色は紫。待機モード中はネックレス型になり携帯できる。
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