シュナイゼルの仮面






F-4に位置する公園。
普段はここで元気に駆け回るであろう子供たちの姿はなく、虚空を見据え供えられた木製のベンチに座するは1人の王。
その身に纏った服装と、醸し出す気配は普通の人間とは違う高貴な血筋であることを伺わせる。
そしてそれは、一介の貴族に過ぎない者たちともまた違う。

神聖ブリタニア帝国第2皇子・帝国宰相、シュナイゼル・エル・ブリタニア。
政治力、軍事的策略、そして的確な決断力を持つ、王としての全てを兼ね備えた男。
彼はこの殺し合いのゲームを、盤上のチェスを眺めるが如く冷静に分析していた。


「皇帝陛下の仕業……ではないようだね」


まず思い当ったのはこの殺し合いが、父・シャルルの差し金であるということ。
それならばこの会場にルルーシュや、秘かに帝位簒奪を目論むシュナイゼルがいることも納得出来る。
しかし、だとするならあまりにも無駄が多い。
当初集められた会場をざっと見回してみたが、学生など明らかに宮廷とは無関係な人物がいた。
そもそもシュナイゼルやルルーシュを抹殺するのが目的ならば、暗殺者を放てばすむ話だ。一般人を巻き込む意味が無い。

皇帝シャルルが黒幕でないとするなら、次に考察するのは主催者スカリエッティについて。
白衣を着ていたことから彼が医療、もしくは研究機関に関わるものだと推測できる。
彼が大勢の人間を瞬時に転移させることが可能な装置を開発し、実験のつもりでこのゲームを計画したのだろうか?
しかしそれほど有能な研究員ならばシュナイゼルが耳にしないはずはないし、人体実験をするにしても一般人で行えばいいことだ。
スカリエッティの情報が不足していることからこれ以上の考察を行うことは困難だが、情報を入手する手はある。
彼が呼びかけた「ウーノ」という女性。そして名簿に記された「クアットロ」、「ノーヴェ」、「ウェンディ」
これらは全てイタリア数字だ。「ウーノ」が1、「クアットロ」が4、「ノーヴェ」が9、「ウェンディ」が11。
単なる偶然で片付けるには不可解な一致。
彼ら(彼女かもしれない)がウーノ、もしくはスカリエッティと何らかの関係があり、情報を握っている公算は高い。
当面は彼らの捜索を念頭に置こう。

最後にシュナイゼルが考えるべきはこのゲームに「乗る」か、「乗らない」か。
シュナイゼル・エル・ブリタニア個人としての結論は「どちらでもいい」
50人以上の人間が殺し合いその中から生き残るのも、主催者を打倒もしくは脱出するのも、どちらも成功の確率は限りなく低いからだ。

シュナイゼル・エル・ブリタニアは生まれながらの王である。
政治にも軍事にも非凡な才能を持ち、その気になればコーネリアのように武芸すら習得できたはずだ。
万能、故に彼には執着心というものが存在しない。
だから「皇帝になれ」と言われればそうしようとなるし、「神にならねばならないか」と考えればそうかもとなる。

シュナイゼル・エル・ブリタニアは考える。この盤上の駒達が最も望むことを。
それは生きること。生物としての当然の欲求。
生存者が限られるこのゲームに置いて、その願いを数多く叶えるにはどうすればいいか。


「やはり脱出……となるね……」


王の責務とは人々の期待に答え、平和と幸福を与えること。
この盤上に集まった人々がそう願うなら、王は答えなくてはならない。
ならばまずは情報を集めないとね。シュナイゼルがそう結論づけ、行動を開始しようとしたその時だった。


「――動かないで。大人しく手をあげて、私の質問に答えなさい」


毅然とした意思を感じさせる女性、いや少女の声。
シュナイゼルは言われるままに両手をあげ、嘆息する。


「……言っておくが、僕は殺し合いには乗っていないよ」

「黙りなさい。質問は私がする。……分かったのならそのままゆっくりと、こちらを向きなさい」


手をあげたまま顔だけを背後に向ける。
美しいブルーの瞳。背丈よりも長い先がカールした金色のツインテール。
少女……というにはさらに小さい、赤いヘッドドレスを付けた人形がそこにいた。



「質問1.あなたのお名前は?」

「……シュナイゼル・エル・ブリタニア、ブリタニア帝国宰相をさせてもらっているよ。
 出来れば君の名前も教えてもらえればありがいのだがね」

「……真紅よ。これ以上余計なことは言わないで。質問2.私と似た人形に心当たりはあって?」

「……いや、生きた人形は初めてみるよ」

「質問3.今まで、誰かに会った?」

「いいや」

「そう……」


真紅はなにも言わない。シュナイゼルも余計なことは言えない。
しばらくし、真紅がシュナイゼルに向けていた指を下ろす。


「無礼を許してちょうだい。何分、状況が状況だから」

「いや、この場では当然だよ。このくらい慎重で丁度いいと、僕も思うよ」


シュナイゼルを危険な人間ではないと判断したのか、真紅は隣の席にちょこんと座る。


「ブリタニア帝国の宰相……だったかしら。そんな人間まで巻き込まれていたのね。
 ブリタニア帝国とは私は聞いたことがないのだけれど、どこかの小国かしら?」

「……いや、決して小国ではないはずだが。まぁ、我が国もまだまだ宣伝が足りないのかもね」


シュナイゼルの仮面が外れかけた。最大国家であるブリタニア帝国を知らない。ありえない話だ。
だが今は無用の混乱を招く。この話はもっと情報を集めてから考察すべきだ。



「君はどちらに住んでいたのかな?E.U.の方かい?」

「いろいろな国を渡ったけれど、今は日本に滞在しているわ。姉妹と一緒に。」

「日本……エリア11のことかい?」

「あなたの国では日本のことをそう呼ぶのかしら?変わっているのね」


日本に滞在しているのにエリア11のことすら知らない。非常に奇妙だ。この真紅という人形が無知なだけなのか?
しかし威厳や貫禄すら感じさせる彼女が、そこまで無知とは到底思えない。


「姉妹と言っていたが……君の家族も、この会場に?」

「家族…そう言ってもいいのかもしれないわ。……もしかして貴方も?」


シュナイゼルが名簿から確認した通り、このゲームには家族ぐるみで参加させられた者が多いらしい。
苗字が同じ者たちの他にも、シュナイゼルや真紅のように特殊な事情から苗字が異なっている場合もある。
それぞれの知る兄弟姉妹の情報などをお互いに交換する。
死亡したはずのユーフェミアについては生前そのままを話した。
死者が生き返ったなど信じたくはないが、今はそのことで時間を消費すべきでない。

「ギアス……恐ろしい力ね……。そのルルーシュという子には、気をつけておくわ」

「ああ、我が弟ながら彼は危険だ。妹のナナリーを生かすためならどんな策謀でもめぐらすだろう。
 たとえどれだけの罪を背負ってでもね……」


ルルーシュの持つ「絶対尊守」のギアス。
瞳を合わせた相手を服従させる魔の力。
それはシュナイゼルのいた世界でも、このゲームにおいても脅威となる。
たった一人の少年が、頭脳と機転だけを武器に黒の騎士団という大組織を構築はできない。
全ては人を操るギアスの力があればこそだ。
最も警戒するべき男の情報を伝え、シュナイゼルは真紅に問う。



「提案なのだが……しばらく行動を共にする気はないかい?
 僕はこれから研究所の方に行こうと思っている。色々と調べたいことがあってね」

「申し訳ないけれど、私は早く仲間たちと合流したいの。この子がいれば、人を見つけるくらいはできるから」


真紅の片手には金色の指輪が輝いていた。
その指輪本体と紐でつながり、振り子のようになった石がぴたりとシュナイゼルを指している。


「なるほど……それで僕を見つけたのか。探知機のようなものかい?」

「風のリングと言うらしいわ。魔力を流すと動いてくれるらしいのだけど、まだ慣れてはいないわ」

「魔力…魔法…ね……。ローゼンメイデンという君たちが存在するのだから、あってもおかしくはないね」


真紅に全てを話したわけではないが、ギアスという超能力も存在した。
ならばスカリエッティもそれに準じる、なんらかの能力を持っているのかもしれない。


「ならば6時間後、再びここで合流しよう。F-4が禁止エリアに指定されたり、近づくことが困難な場合はE-5の王宮に」

「6時間という時間の意味は?」

「君の人探しは何ぶん時間がかかりそうだからね。
 比較的人が集まりそうなのはホテル、電気街、学校、モール、病院、住宅街などの施設だけど、それぞれ距離がある。
 それに6時間後は放送でお互いの生死を確認できるから、ニアミスも防げるよ」

「縁起でもないことを言わないでほしいわね」

「ははっ、これは失言だったね。それと君の人探しにあたって、ひとつ頼みがあるんだが、いいかな?」

「……おっしゃいなさい。あなたにも、私の姉妹を探してもらわなければいけないのだから」


ありがとう、そう呟きシュナイゼルは真紅の名簿に印をつける。



「これは出来ればでいいんだが、クアットロ、ノーヴェ、ウェンディ。この三人と接触してみて欲しいんだ。
 恐らく彼らは、主催者と何らかの関係がある」

「……全員イタリア数字そのままの名前ね。
 スカリエッティと関係があるというなら、この子たちは殺し合いに乗っているのではなくて?」

「当然その可能性も高い。だから出来ればでいいんだ。君が危険と判断したのなら無理は言わないよ。
 それともうひとつ、僕はこの首輪を解除できるような技術者、もしくは知識のある人間を探している。そちらもお願いするよ」

「……結局ふたつになっているじゃない。はぁ…仕方のない人。
 でもあなたにも家族がいるのでしょう?そちらはいいの?」

「……残念ながらコーネリアも、ナナリーも、ユフィも、首輪に関する知識は持ち合わせてはいないよ。
 特にユフィとナナリーはか弱い。殺し合いに乗っているものにとっては絶好の標的だ。生存は絶望的だよ…」

「だからこそ、貴方が早急に家族を保護し守ってあげるべきなのではなくて?」


真紅には理解できなかった。血を分けた家族と他人を等価として扱うシュナイゼルを。
いや、シュナイゼルは自分の妹たちを低く見ている。情報を持つ者より、自分の妹たちは下だと。


「家族だからと言って、僕は特別扱いをしたりはしないよ。君の姉妹も含め、より多くの人が脱出できるよう努力する。
 多くの人々がそう願うのだから、僕の妹たちにはかまってあげられない。
 もちろん妹たちには生きていてほしいと思うよ。だけど今は、脱出のために最善を打ちたい」

「……あなたの言うことも理解できなくはないわ。でももう少し、妹たちを大事にしてあげて」


そう言い残し、真紅と名乗った人形は去っていった。姉妹たちと合流すべく何処かへ旅立ったのだろう。
公園にはシュナイゼルが一人残された。


シュナイゼル・エル・ブリタニアには執着心がない。
家族にも、王という地位にも、自分の命にさえも。
彼の被る仮面は無貌の仮面。感情を表に出さず王という役柄を演じているにすぎない。
その演じる理由も、本人に能力があり周囲が彼に王であることを望むから。


『……あなたの言うことも理解できなくはないわ。でももう少し、妹たちを大事にしてあげて』


ローゼンメイデン、七体の人形、アリスゲーム。
同じ人形同士が、同じ人間に作られた姉妹同士で、最後の一体になるまで殺し合うゲーム。
その第5ドールが、妹を大事にしてあげて、という。


シュナイゼル・エル・ブリタニアは王である。
人々がシュナイゼルに求めるのは「兄」という仮面ではなく、「王」という仮面。
人々が望む限り、シュナイゼルは王の役を演じなければならない。
なら人々が、シュナイゼルに王の役を求めなれけば?
―――それは誰にも分からない。シュナイゼル自身にも。



【F-4/公園/日中】

 【シュナイゼル・エル・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ】
 [状態]:健康
 [服装]:皇族服
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式、確認済み支給品1〜3
 [方針・思考]
  基本:主催者の打倒、もしくはゲームからの脱出。
  1:研究所に行き情報を集める。
  2:クアットロ、ノーヴェ、ウェンディとの接触。危険ならば無理はしない。
  3:首輪を解除できるような技術者、もしくは知識のある人間の捜索。
  4:翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀の捜索。
  5:コーネリア、ユーフェミア、ナナリーとの合流。
  6:ルルーシュの殺害。ただし脱出のためならば協力も可能。しかし信用はできない。
 [備考]
  ※ 参戦時期はTURN19「裏切り」の扇たちにゼロの正体を明かす以前。
  ※ 魔法、薔薇乙女などギアス以外の超能力が存在することを知りました。
  ※ 18時にF-4公園、もしくはE-5の王宮で真紅と合流するという約束をしました。

【シュナイゼルの考察】
・参加者には家族や兄弟など何らかの血縁関係がある者同士が参加させられている。
・スカリエッティは医療、もしくは研究機関に関わるものである可能性が高い。
・クアットロ、ノーヴェ、ウェンディはスカリエッティの関係者。
・スカリエッティはギアスや魔法など何らかの超能力を持っている可能性がある。
・このゲームに集められた人間は、それぞれ別の世界から集められた。




シュナイゼル・エル・ブリタニア。
先ほど別れ、再会を約束した男との出会いを真紅は回想する。
あの立ち振る舞い、この状況でも冷静さを失わない高貴な心。
帝国宰相という言葉はどうやら嘘ではないようね。

『――家族だからと言って、僕は特別扱いをしたりはしないよ。君の姉妹も含め、より多くの人が脱出できるよう努力する』

そうね、シュナイゼル。貴方は正しいわ。
貴方は目的のためなら、自分の実の兄弟ですら切り捨てることのできる強さがある。
でもね、シュナイゼル。自分の姉や、妹たちを犠牲にして帰ることができても、それは最悪の結果よ。
ジュンがいて、ノリがいて、翠星石と蒼星石が、雛苺がいる。
あの暖かい世界に、私は帰りたいの。

このアリスゲームから生還できるのは三人。
私たち姉妹が誰一人欠けることなく帰るにはあまりにも少ない器。
翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀、みんなどうか無事でいて。
そして――――

「――――水銀燈、薔薇水晶」

あなたたちはきっと戦うのでしょうね。
お父様のため、姉妹たちを犠牲にして。


【F-4/公園/日中】

 【真紅@ローゼンメイデン】
 [状態]:健康
 [服装]:いつもの服
 [装備]:クラールヴィント
 [道具]:支給品一式、確認済み支給品0〜2
 [方針・思考]
  基本:姉妹揃ってのゲームからの生還。
  1:人の集まりそうな場所に行き情報を集める。
  2:翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀との合流。
  3:クアットロ、ノーヴェ、ウェンディとの接触。危険ならば無理はしない。
  4:首輪を解除できるような技術者、もしくは知識のある人間の捜索。
 [備考]
※ 参戦時期は蒼星石の死亡前です。
  ※ シュナイゼルと会場内にいるその親族たちの情報を入手しました。
  ※ ルルーシュを危険人物として認識しました。またギアスの効果についても知りました。
  ※ 18時にF-4公園、もしくはE-5の王宮でシュナイゼルと合流するという約束をしました。


   【クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
湖の騎士シャマルが使用する指輪型アームドデバイス。
攻撃力がほとんど無い代わりに、探知、通信、回復など強力なサポート能力を持つ。
別名:風のリング。



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