大戦略
「おいおい、マジで兄貴が参加してるってのかよ!?」
そこは古代ローマを思わせる、石造りの巨大な円形闘技場だった。
波紋のように高く広がる観覧席。
その一角に、アロハシャツをだらしなく着崩してサングラスを掛けた男が座っていた
気だるげに背もたれへ腕を掛けた男の姿は、そこが殺し合いの渦中とは思えないほど弛緩している。
しかし一見隙だらけに見える男の姿だが、その実、周囲への警戒を全く怠っていない。
何しろ男は、役小角を祖に持つ熊野山系の修験者の系譜を継いだ乱波(忍者)の末裔。
生まれた時より忍者となるべく訓練された、忍者のサラブレッドと言える存在なのだ。
そしてその後、旧約聖書の1つエノク書に記された人間に禁断の知識と技術を人間に与えた堕天使の名を冠する
その強大な軍事力と他を圧倒する技術水準によって世界を裏から支配するも同然の極秘組織、エグリゴリに接触。
以来その能力を買われ暗殺、戦闘指揮、技術開発等の非合法な活動を働いてきた。
そして様々な恩恵をエグリゴリから受けてきた。
社会の暗部に生き、己の欲望のために人を害して利益を得て、巨大組織を利用する。
云わば闇の世界の申し子。
それがこの男、ジェームズ・ホワンである。
背もたれに両腕を広げ空を仰ぐホワンは、隣の席に置かれた“デイパックの中”の名簿に書かれた名前を改めて確認する。
ホワンの両目に視力は無い。
しかしその代わりに、遠隔透視(リモートビューイング)と呼ばれる能力を有している。
この能力によって遠くの物を探し出して、目に頼らず視認することが可能なのだ。
遠隔と名付けられているこの能力だが、距離に制約は無い。どんな遠くの物でも見ることが出来る。
そして距離に制約が無いのだから、当然近い物でも見ることが出来るのだ。
ホワンは自分の能力使用の確認がてらに、デイパックを閉めたまま内容を改めていた。無論、周囲への警戒は怠らないまま。
それというのも、ホワンはすでに自分の遠隔透視ともう1つの特異能力を試してみたが
“地図の外”に対しては使用できないことを確認している。
能力の方が抑制されているか、外的環境の方に仕込みがあるのか定かではないが
おそらく主催者が脱出できないよう、ホワンの能力を抑制しているのだろう。
ジェームズ・ホワンを気付かない間に拉致して首輪まで嵌め、特異能力に制限まで掛ける。
スカリエッティの持つ力は相当な物だ。黒幕が存在すると見当は付けているが。
(その上あの兄貴まで連れて来てるんだから、その能力は認めざるを得ないよねぇ……
名簿にはジェームズ・ホワンと書いてあるけど…………ま、僕の正体は割れてるって考えた方が無難だな)
信用し頼れる者など誰も居ない裏の世界。そこで、幾度も修羅場を潜り抜けてきた。
今さら殺し合いごときで怖気づくはずも無い。
それでも自分の兄、高槻巌だけは例外がである。
ジェームズ・ホワンは本名を高槻崖と言う。忍者の名門、高槻の一族の者。
並の特殊部隊員やサイボーグなど、相手にもならない実力を有している。
しかし兄巌の腕は、ホワンを凌ぐほどの物だ。
何しろアメリカ合衆国の諜報機関が総がかりで挑み、敗北したほどの男なのだ。
特異能力を加味しても、まともに戦えば兄には勝てないと考えた方が良い。
そして問題となるのが、巌が殺し合いと関係なくホワンの命を狙っていることだ。
かつてホワンは自分の故郷、鐙沢村の位置情報をエグリゴリに売り
村を壊滅に追いやったことがある。
それを理由に巌はホワンを仇として追っているのだ。
ホワンと巌は組になっているが、巌のことだ。そんなことはお構い無しに殺しに来るだろう。
エグリゴリを利用して巌から10年以上逃げ延びてきたが
同じ殺し合いの場に居る以上は、これまでのように逃げ続けられると言うわけには行かない。
どう逃げ隠れしても、いずれ巌には掴まる。
即ち今のホワンに求められている物、それは殺し合いと巌、両方から生き延びる。
そのためのSTRATEGY(戦略)。
そうなると、単純に殺し合いに乗るわけには行かない。取れる手段も限られてくる。
ホワンは弛緩した表情を崩さないまま、サングラスに覆われた光の無い瞳の奥に怜悧さを湛え始めた。
長年裏の世界を潜り抜けることによって培われた才知を、その脳内で働かせる。
(…………首輪(こいつ)を使わせて貰うか)
ホワンは自分の首に嵌っている、金属製の輪を撫でる。
全ての者を殺し合いに繋ぎとめる首輪。
ホワンであろうと、巌であろうと、誰であろうとこれを嵌めている限り
殺し合いに縛られた走狗である証。
しかしこれは同時に、参加者を纏める目的となり得る。
同時に極めて有効で汎用的な、駆け引きのためのカードともなり得る。
(……満更、打つ手が無くも無いってとこだね…………。ただこの作戦、かなり大雑把で場当たり的な、しかも綱渡りになる。
ま、綱渡りは慣れっこだけどね。ただ今回はいつも以上に慎重さと速さが要求されるわけか…………)
巌の居る殺し合いを生き残るための戦略を、かろうじて見つけることが出来た。
薄氷を踏むようなそれを実行するために、ホワンは急ぎ動き出す。
その戦略は時間との勝負になる。
早急に他の参加者と接触しなくてはならない。
(……お、見ーつけた!)
リモートビューイングは、早速目当ての物を探し出す。
そしてホワンは、もう1つの特異能力を発動した。
次の瞬間、闘技場の席で座っていたはずのホワンが木々に覆われた場所に立っていた。
自分の足で動く必要が無い。空間そのものに干渉して操作する。
それがホワンのもう1つの特異能力。
ホワンの能力は卓越し、瞬間移動や空間そのものを武器にして攻撃すら出来る。
もっとも今は地図外への移動は出来ないようだが。
ホワンは周囲から上手く木陰に身を隠しながら、前方約10メートルの所を遠隔視する。
森の中でも、木々が少なく比較的開けた場所。
そこには女が1人立っていた。
年齢はまだ十代半ばくらいで、茶色を基調にしたスーツに身を包んでいる。
少年のようなあどけなさすら漂う女は、しかしこの状況に怖じている様子は無い。
むしろ憤りを覚えている様子だ。
実際、挙動の細部から女が云わば場慣れしている様を見て取れる。
つまり女は、“使える”可能性が高い。
(これは早速、当たりを引いたかな?)
木陰から身を乗り出したホワンは、女の前に姿を現す。
女は突然現れたホワンに一瞬、意表を衝かれた様子だったが
すぐさま、ホワンに対して両手を胸の高さまで上げて構えを取る。
挙動は淀み無い。習得している戦闘技術の高さを伺わせる。
しかし構える本人は動揺を隠し切れていない
(打撃系格闘技の構えか。擬装でも武器を隠してる素振りも無い。見たまんまの戦闘態勢だね。
ハハハ、ずい分判り易くて素直な子みたいじゃないか!! 結構結構、道具は扱い易いに越したことは無いからね)
僅かな接触から、ホワンは女の性質を分析する。
そしてそれに合わせ、いかに女を篭絡するかとも。
ホワンは笑いを押し隠して、両手を上げた。
「おいおい、脅かしっこ無しにしてよ。それとも何かい? 君、もしかして殺し合いに乗ってる口?」
「え? ……あ、あたしは殺し合いになんて乗ってません!!」
「よかったー! いや、ちょうど僕も乗ってなかったんだよ。奇遇だねぇ!
ああ、自己紹介がまだだったね。僕は高槻巌って言うんだ。よろしくね。君は?」
「……ス、スバル・ナカジマです…………」
スバルはホワンの勢いに呑まれたらしく、律儀に構えながら返答する。
当然、自分の名前を疑っている素振りも見られない。
手放しに信用された訳では無いらしいが、会話の主導権は握れた。
関係において常に主導し、上下関係を確立し、支配権を握り操作する。
しかもスバルがそうだと意識させないように。
それがホワンの立てたスバルとの接触におけるTACTICS(戦術)。
さらに話の中に小さく嘘を混ぜる。次なる戦術への布石となる嘘を。
無論、僅かな不信感でも持たれたら元も子もない。
ここでも綱渡りが要求されてくる。
「とりあえず、ずっとこうしてる訳にもいかないからお互い手を下ろそうよ。
それと殺し合いの最中に立ち話もなんだから、あそこで座って話さない?」
ホワンが背後に向け親指を指した先には、先ほど居た円形闘技場があった。
未だ戸惑いが直らないスバルを尻目に、ホワンは闘技場に歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って……! …………話って?」
「嫌かい? でもここでじっとしてても危ないだけで、何も始まらないよ?」
「べ、別に嫌とかじゃ無いですけど…………」
スバルも不承不承ながら素直に付いて来る。
不満があるという訳ではなく、状況の変化に付いて来れていないという様子だ。
「いやー、最初に会えたのが君みたいな良い子で助かったよ! 僕は喧嘩だの戦いだの、争いごとはホント苦手でねぇ。
取り柄と言えば機械に精通していることぐらい。何でこんな奴を、殺し合いになんか呼んだんだろうねぇ」
「……そ、そうだったんですか!」
道すがら、予め大筋立てておいた戦略に沿い、ホワンは極めて自然な抑揚で己を擬装していく。
スバルは訝っている気配さえ無い。それどころか同情さえしている素振りだ。
見立て通り、かなり素直な相手のようだ。もっともそれで油断するほど、ホワンは甘くはないが。
何よりこのスバルは、明確に普通の人間ではないからである。
しかし、もう少し踏み込んでも戦略は進められそうだ。
「で、何で機械に詳しいって言うとね。僕の職業は、まあ所謂技術屋なんだよ。
これでも最先端の科学技術を扱うインテリなんだぜ。例えば…………君がサイボーグだって分かるくらいのね」
「!!!? な、なんでそれを……!!?」
思惑通りの反応を返してきたスバルに、ホワンは悪戯っぽい笑みを返した。
「サイボーグは見慣れてるんでね。瞳の色や呼吸、関節の稼動なんかでそうだと判別できるんだよ」
「す、凄いですね…………あたしは……正確には戦闘機人なんですけどね」
ホワンがスバルをサイボーグ、その身体が機械によって構成されていると見抜いたの由縁は
スバルに説明した理由だけに尽きない。
確かにホワンはエグリゴリと協力して非合法活動をしていて何度も接触したことから、サイボーグに明るい。
説明した内容から、スバルがサイボーグではないかと見当を付けていた。
しかし確証を得たのはリモートビューイングで、スバルの体内を透視したため。
ホワンはすでにスバルの体内から衣服やデイパックの中の持ち物まで、余す所無く透視している。
別に他意があってやっているのではない。スバルに限らず、殺し合いの中で出会った者全てに同じことをするつもりだ。
そしてリモートビューイングの存在を誰にも漏らすつもりは無い。
あくまで『機械に通じているだけの無力な高槻巌』を演じるつもりだ。
感嘆しているスバルを見るに、ハッタリとしての効果も果たしたようだ。
しかし嘘ばかりではない。
世界最高峰の科学、軍事技術の坩堝であるエグリゴリで仕事をし
エグリゴリの施設のシステム管理をこなすこともあるホワンは
実際、機械技術にかなり通じているのだ。
他愛無い会話の中に小さな嘘を紛れ込ませ
大きな嘘の中に小さな真実を紛れ込み
着実に戦略の土台を積み上げていく。
全ては生き残るために。
「……どうやら、君の方は込み入った事情があるようだねぇ。良ければ聞かせてくれない?
ほら、こんな状況だし情報は多いに越したことは無い」
スバルはしばし逡巡していたが、やがて意を決してように口を開く。
そこから聞かされた話は、ホワンの想像を超える物だった。
「…………実はあたし、時空管理局の局員なんです……」
「時空……って、時間と空間の時空?」
「あはは……やっぱり知りませんよねー?」
「……ちょっと、順を追って説明してくれるかな」
◇
闘技場に着いたホワンとスバルは、隣り合ったの席に座る。
ホワンは少し疲れた様子で、天を仰いで溜息をついた。
それを横目で見ながら、スバルはおずおずと話し掛ける。
「…………信じられませんか?」
スバルの説明によれば、彼女はホワンとは別の次元世界の住人であると言うことだ。
そして多元世界を管理する組織『時空管理局』の局員だそうである。
ARMSやサイキックなど、一般的な人間にとっては充分にSFの世界の住人であるホワンにとってすら
あまりに突飛でスケールの大きな話。
常ならば信じるどころか、まともに相手にすらしない話だろう。
「……いや、この状況だ。信じるさ。君が嘘をつくようにも思えないしね」
しかしホワンの居るここは既に戦場。
どんな異常事態であれ現実を受け入れ、適合しなければ生き残れない場所だ。
ホワンはスバルの話に途中何度か質問を挟んだが、それも含めて細部まで矛盾は無く
話しているスバルの様子からも察するに、虚偽や妄想の可能性は低い。
「僕みたいな凡夫には、あまりにも現実感の無い話だからねぇ。ちょっと面食らっただけさ……」
ただ、話がかなり厄介になったことは事実である。
ホワンは今までスカリエッティの黒幕にはエグリゴリが居ると睨んでいた。
これだけ大規模な殺し合いを開催できる組織力、技術力を持つ存在はエグリゴリしか知らなかったのだから無理もない。
しかし多元世界などと言う物が存在し、スカリエッティはそれを股に掛けられる犯罪者であるとなれば話が変わってくる。
その上、話はスカリエッティだけに留まらない。
殺し合いに複数の異世界から参加者が召喚されたと言うのなら、ホワンも知らぬどんな能力や武器が存在してもおかしくないからだ。
実際、スバルの話を信じるならば彼女は魔法が使えるらしい。
未知の脅威ほど恐ろしい物は無い。
どうやらこの場では、考えていた以上に細心の注意が要るようだ。
「……だ、大丈夫です! あたしは、一応、次元犯罪から一般市民を守るプロですから! 高槻さんはあたしが必ず守ってみせます!!」
ホワンが話を信じたことで、スバルの信頼も得られたようだ。
最初に出会えたのがスバルで、実に僥倖だったと言えるだろう。
スカリエッティや多元世界に関して、信頼度の高い情報を得ることが出来たことに加え
スバル・ナカジマという強力なカードを得ることまで出来たのだから。
わざわざ“高槻巌”を演じた甲斐もあった。
本人もやる気満々のようだし、遠慮無く武器に盾に使わせて貰おう。
「それは、実に頼もしいねぇ! 僕1人じゃこんな所では、とても生きてはいけないからね。
なんでもスカリエッティの仲間だったクアットロ……だっけ? そんな危ない奴も居るんだろう?」
「……はい。……ノーヴェとウェンディは更正プログラムを受けられたけど、クアットロは捜査協力を拒否して…………」
「まして父親の主催する殺し合いじゃ、どう動くか……か。剣呑だねぇ」
スバルの話では殺し合いの参加者に知り合いは4名居るとのこと。
同じ時空管理局局員で、スバルと組になっている姉のギンガ・ナカジマ。
そしてスカリエッティの娘である元犯罪者のクアットロ、ノーヴェ、ウェンディ。
全員が戦闘機人で高い戦闘力を持つらしい。
「そう言えば君に話して貰うばかりで、僕の知り合いの話をしてなかったな。
しかし…………なるほど……君の話も合わせて考えると、どうもこの組み合わせは兄弟姉妹同士でなっているらしいね」
「…………え? てことは、高槻さんの兄弟も……?」
「うん、ジェームズ・ホワン。本名は高槻崖。僕の弟さ」
その名を語った瞬間、ホワンから先ほどまでとは別人のような張り詰めた気配を発した。
スバルも思わず身を堅くする。
「昔は仲の良い兄弟だったんだけどね、今のこいつは社会の闇の世界で数え切れないほど人を殺した非合法工作員。
平気で人を騙し、傷付け、奪う。この上なく冷酷で危険な男さ」
ホワンの立てた戦略の1つ。
それは兄弟の立場を逆転させること。
殺し合いの中で巌が取りそうな方針は、大体予想がつく。
おそらくホワンの危険性を触れ回り、自分でもホワンの命を狙いに来るのだろう。
しかしこちらも巌が流布するのと、同じ内容の情報を流せばどうなるか?
高槻巌を指して「あいつこそ高槻崖と言う名の危険人物だ」と。
巌もホワンも可能な限り自分の身元情報が他に漏れないように生活してきた特殊工作員。
さらにホワンは兄から逃げるために、巌の人脈など様々な情報を調べ上げてきている。
そこから推測できるに、おそらく殺し合いの参加者に高槻巌と高槻崖を知る者は存在しない。
ならばホワンと巌、どちらの言が正しいか余人には断定できないはずだ。
それでも巌はホワンを殺すために動くことをやめないだろう。
しかし、そうなれば一方的に殺そうとする巌の方が、信頼度と言う点で不利になる。
全く正反対のことをいっている2人の内、片方が凶器を持って殺しに掛かっているのだから
客観的に見て、どちらが危険人物と判断されるかは明らかだ。
そして巌の方が危険人物“高槻崖”となれば
殺し合いのフィールドにおいては、ホワンは巌に対し圧倒的に有利に立てる。
「ま、僕の知ってる人はそれだけかな。ごめんね、大した情報もあげられなくて」
「高槻さんの弟さんまで……」
「ま、俺もまともに殺し合いをするつもりは無いから、そんな気にしなくて良いよ。
……って言うか、むしろこの殺し合いを御破算にするつもりだからね」
「……え!?」
そしてもう1つの戦略も動かす。
スバルにはよほど予想外の話だったのか、驚き慌て始めた。
「そ、そんなことが出来るんですか!!?」
「ああ、こいつさえ外せればね」
ホワンが指で突いた物を見て、スバルは目を大きく見開く。
それはスバルの首にも巻いてある首輪だった。
「そっかー! それを外せば、殺し合いをしなくて済むんですよね!!」
「僕は機械に強いからね。首輪が僕の知識にあるような技術体系の工学器械なら、大抵解除できると思うよ。
もっとも、多元世界なんてあるんじゃあ、僕の知識や技術も通用する保証は無いけど
その辺のことは、調べてみないことには始まらないよね」
もう1つの戦略。
それはホワンが首輪解除要員となること。
殺し合いに乗らない参加者の多くは、必然的に首輪を解除することを目的とするだろう。
しかし実際に首輪を解除できなくても、その可能性がある能力を持つ者は限られてくる。
そこに“首輪解除を目的とする機械に明るい高槻巌”が現れればどうなるか。
その者は殺し合いを打破するための数少ない、あるいは唯一無二の人材だ。
必然、殺し合いの打破を目標とする者にとって、何としても守らなければならない存在となる。
中には命懸けで守ろうとする、酔狂な人間も現れるかもしれない。
そしてホワンがそうなれば、いよいよ巌に対する有利は強固な物となる。
ホワンを殺そうとすることは、殺し合いの打破を目標とする全ての参加者を敵に回すことになるからだ。
何よりこの戦略の長所は、どこにも偽りが無いことだ。
実際、首輪がホワンの知る工学技術体系の物なら、解除することも可能だろう。
そしてホワンは掛け値無く、それを目的にしている。
「でも、どうやって調べるんですか?」
「そこなんだよねぇ……誰かに嵌ってる首輪で調べるって訳にも行かないし……
スバルちゃんが良いって言うんなら、その首輪で解除実験しても良いんだけどね」
スバルは自分の首元を押さえ、大慌てで首を横に振る。
「ハハハ!! だろ? だから何処かから嵌ってない首輪を調達してきて、ってことになるだろうねぇ」
「そ、それだと誰かが死んでからってことになりますよね…………」
「ま! ここでこれ以上議論しててもしょうがないし、そろそろ出発するか!」
ホワンは出し抜けに席から立ち上がる。
「出発って、どこに行くんです?」
「とりあえず、他の参加者を捜そう。君だってお姉さんやナンバーズのことも気になるだろ?
僕も崖と会いたくはないけど、動向は気になるからね。そうして情報を集めていけば、その内打開策も浮かんでくるよ。
……ってのは、流石に楽観的過ぎるかな? ハハハ」
「あ……はい!」
歩き出したホワンに元気良く返事をして付いてくるスバルを見て思う。
本当に屈託の無い奴だ。
そして、腹の中まで素直なのかと。
ここまでのホワンの作戦の経過は上々。
特にスバルと言う扱い易そうな駒を得れたのは大きい。
しかし、油断は禁物。絶対の信頼を置いた者に裏切られるなど、裏の世界では日常茶飯事。
利用はしても、決して過信はしまいと己に言い聞かせる。
誰も信用できない戦場。
絶対の強者たる兄。
この2つを相手にジェームズ・ホワンの戦いは始まった。
(絶対に許せないよ、こんな殺し合い!!)
逮捕され収監されたはずのJS事件主犯格ジェイル・スカリエッティが催した殺し合いに対し
スバルはただ純粋な憤りを覚えていた。
しかし何故か念話は通じない上、相棒のマッハキャリバーも取り上げらていたこともあって
スバル自身、途方に暮れているような状態だった。
しかしそこへ高槻巌が現れてくれて、スバルは内心安堵を覚える。
初めこそ1人で良く喋る巌を怪訝にも思ったが
良く話してみると、こんな異常事態だと言うのによっぽど落ち着いていて
スバルに対し、的確に助言も与えてくれた。
管理局局員として情けないことかも知れないが、頼りになる人物と最初に出会えて助かった。
しかも巌は首輪の解除が可能なのかもしれない。
(でも高槻さんはあくまで一般人、あたしが守ってあげないと)
巌だけではない。ギン姉も。ノーヴェも。他の誰であろうとこんな殺し合いの犠牲にしてはならない。
時空管理局機動六課のスバル・ナカジマ二等陸士として
幼き日の憧れのエース・オブ・エースのように、災厄に襲われた人々を守ってみせる。
決意を胸にスバル・ナカジマの戦いは始まった。
【B-6/闘技場/日中】
【ジェームズ・ホワン@ARMS】
[状態]:健康
[服装]:アロハシャツ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜3(確認済み)
[方針・思考]
基本:どんな手段を使っても生き残る
1:首輪を解析して解除する
2:高槻巌のことを高槻崖だと吹聴する
3:他の参加者を捜して情報を集める
[備考]
※制限により地図外へのリモートビューイングとテレポートの使用はできません。
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:健康
[服装]:機動六課の制服
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品0〜3(末確認)
[方針・思考]
基本:1人でも多くの参加者を救う
1:巌(ジェームズ・ホワン)に付いて行く
2:他の参加者を捜す
[備考]
※制限により念話は使えません。
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