絶体絶命浴びせたい愛の疾走






黒い学生服に身を包み、クリーム色の頭髪と幼い顔立ちを持つ、その少年の名前はロロ・ランペルージ。
兄に当たるルルーシュと同じくランペルージと名字がついているが血は繋がっておらず、そもそも元は兄弟ですらない。
その正体は、ゼロ(=ルルーシュ)率いる黒の騎士団と神聖ブリタニア帝国との大規模戦闘゛ブラックリべリオン゛において敵に捕らわれ、記憶を封印捏造されたルルーシュを、
「弟」という肩書きで監視または抹殺するためにブリタニア王国(正確にはギアス関係の者)から送られた工作員であり、つまりルルーシュの敵なのである。
 
しかし、それは昔の話。
記憶を取り戻したルルーシュは敵同士であったにも関わらず、攻撃を庇ってくれた事に始まり、
ロロはルルーシュに対して本物の兄弟のような敬愛と信頼を抱くようになる。
(実はルルーシュなりの謀略があったのだが本人は知らない)
以降、彼はルルーシュのために黒の騎士団の一員として働くようになる。
そして彼はこの殺しあいにおいても、ルルーシュのためだけを考えて行動している。

 
 
「まさか兄さんがここにいるなんて・・・・・・スカリエッティめ!」
 
参加者名簿を読んだロロは、名簿に兄・ルルーシュの名前が乗っていたことに憤慨する。
 
「兄さんにはギアスと高い知力がある、けど身体は弱いし、もしもの場合もありうる。
早く合流しないと!」
 
自分と同じく殺しあいに身を投じさせられた兄の事が心配で心配でたまらなかった、気が気でなかった。
しかし、任務を全うするために培ってきた冷静な部分が、自身の狼狽を許さなかった。
 
(とにかく、今は兄さんを探すアテがない。
他の人と接触して情報をかき集めよう)
 
ロロは自分に何をすべきかを心の中で言い聞かせ、参加者名簿を読む作業を継続する。
次第に一人の少女の名前が彼の目に入る。
 
(ナナリーもいるのか。
こうなると兄さんは間違いなく殺しあいに乗らないだろうな)
 
ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
本当の血の繋がりを持つルルーシュの妹である。
ブラックリベリオン前は兄妹で暮らしていたが、今は離ればなれだ。

ルルーシュはナナリーをただ一人の肉親として溺愛しており、行動原理の半分以上は彼女を守るためであると言っても過言ではない。
そんな彼女が別の組にいるのに、ルルーシュが殺しあいに乗りはしないだろう。
 
名簿を読み進めていると、そこで自分の中にある疑念が囁いた。
 
(なんで名簿には死んだはずのユーフェミア・リ・ブリタニアの名前が乗ってるんだろう?)
 
ユーフェミアという少女は、ブラックリべリオンの際にルルーシュの手によって死んでいる。
すなわち、ルルーシュとロロが出会う前には故人になっているのだ。
 
(手元に情報が無いままじゃさっぱりわからないな、この疑問は後回しにしておこう――それはそうとして)
 
次の瞬間。
天使のようなあどけなさを持っていた表情が陰り、彼の冷徹な部分が顔を出した。
 
(シュナイゼルやコーネリア、ここに載っているのは本物かわからないけどユーフェミアもブリタニアの皇族・・・・・・兄さんの敵だ。
見つけ次第殺しておいた方が後々のためにも良いかもしれない)
 
とても10代の少年が思い付くとは思えない過激な発想。
だが彼の過激さはそこまでに留まらない。
 
(ブリタニア皇族だけじゃない、兄さんの害になる者は全部排除しなきゃ。
殺しあいに乗った人間はもちろん殺す。
それだけじゃなくて、弱者や能無しも兄さんの生存率を引きさげるからダメだ。
兄さんの顔に泥を塗らないようにダメな奴は僕が密かに消去しよう)
 
殺人者のみならず、戦闘力の乏しい者や技術の無い者も抹殺対象に定める。
確かに敵よりも足を引っ張る無能な味方の方が危険かもしれない。
仲間だからとはいえ、五体満足でない怪我人を連れて歩くのは骨が折れるし、精神薄弱な者に発狂でもされたら目も当てられない。
それぐらいなら一思いに殺すべきだとロロは思い至ったのだった。
 
そうと決まれば行動は早く、ディパックから武器を取り出してこの場から動きだそうとする。
武器になり得るのは日本刀のみ。
他は支給された食料とは別個に支給された大福数個と、どこかの女子高の制服のみ。
しかし、刀一本でもロロには十分であった。
なぜならば――

(――僕にはギアスがある。
並大抵の敵はこれで倒せるハズさ。
それに訓練を積んでない一般人ならギアスなしでも殺せるぐらいの腕に覚えはある)
 
゛ギアス゛
端的に言えば超能力だ。
ロロは周囲の体感時間を止めるギアス「絶対停止の結界」を持ち、ルルーシュは瞳を合わせた相手を服従させるギアス「絶対尊守」を持っている。
このギアスが暗殺を生業にしてきた身の上を重ねて、ロロが己の実力に対する自信を持たせていた。
もっとも副作用があるギアスなので多様はできないが・・・・・・
 
名簿も支給品も把握した所でいよいよロロは出発した。
彼が最初に目をつけたのは、最寄りにある客船であった。港から船を繋ぐ橋を見つけると、船内でいつ襲われても良いように抜刀し、橋を渡っていく。
 
橋を渡る最中、一つの事柄が脳裏によぎる。
 
(ナナリーはどうするべきなんだろう・・・・・・?
同じ組のシュナイゼルを殺して、僕らの組に組み込んでしまえば殺し会う必要もなくなるし、兄さんも十中八九喜ぶかもしれないけど・・・・・・
本物の妹が戻ってきた時、兄さんは僕を今までと同じように思ってくれるのかな?)
 
愛する妹と再開し、少なくとも殺しあいをする必要が無くなれば、ルルーシュは大いに喜ぶだろう。
しかし、その後にルルーシュの愛情はナナリーに傾き、自分の弟としての絆が薄くなってしまうんじゃないかと、ロロは恐れた。
ならば、ナナリーを保護しない方向はどうだろうか?
 
(仮に死んでしまったりしたら、兄弟としての絆は保てる。
けれど、その前に心の支えを失った兄さんは立ち直れなくなってしまうかもしれない。
でもナナリーさえいなければ・・・・・・)
 
兄弟の絆は保てても、愛した妹の喪失はルルーシュに深い絶望を与えるだろう。
目の届かない場所でそうなられては、全域が危険地帯と化している殺しあいにおいては厄介だ。
だが、それでもロロはルルーシュからの愛情を独占したい欲望とナナリーへの強い嫉妬心を捨てきれずにいた。
 
(やめよう。
今は目の前にいない女より探索に集中だ)
 
ナナリーに関しての対処は一旦打ち切る事にした。
こうして複雑な思いを抱きながら、豪華客船に一人の少年が入っていく・・・・・・
 


刀を構え周囲を警戒しながら暗い船内を進んでいくロロ。
探索を始めて間もない頃にロロはあるものを見つける。
 
「足跡?
僕以外の人間がこの船いるのか」
 
床に足跡があった。
土によって象られたそれは、船外からの進入を意味していた。
一先ず、この足跡をつけた人物との接触を計るため、ロロは足跡を辿る事にする。
 
辿っていくとロロはやがて、とある客室の前まで導かれた。
 
「ここに誰かがいるのか。
・・・・・・ん? なんの音だ?」
 
聴覚が部屋の中から発せられた異音を捉え、不信に思ったロロはドアごしに耳を当てて、音の正体を探る。
すると、何かが断続的に弾けたり叩きつけられる音が聞こえてくる。
しばらくして、ロロが異音の正体を口に出した。
 
「シャワーでも浴びてるのか?」
 
どうやら、部屋の中にいる者は入浴中らしい。
それを知ったロロは少々呆れ顔である。
 
「よく危険人物が練り歩いているかもしれないこんな場所でシャワーなんて浴びれるもんだな。
あれ?」
 
今度は念のためにドアを開けられるのか試してみたが、ノブを捻るとあっさり開いてしまった。
鍵もかけてなかったようである。
罠の可能性も考慮して警戒を強めて慎重に部屋に入ってみたが、何かが仕掛けられている様子もなかった。
ちなみにここまで来てシャワールームの者がこちらに気づいている様子もない。
 
(あまりにも無警戒で無用心すぎる。
軍人のような戦いのプロでは無さそうだね)
 
ロロが視線を向ける、小綺麗な客室に備えられたシャワールーム、そこにある曇った硝子戸ごしに見えるシルエットは女性の物であった。
 
女性がシャワールームから出てくる気配はまだ無い。
一秒でも早くルルーシュと合流したいロロには、入浴を終えるまで待つ時間が勿体なく思えた。
そして、焦りはロロを強行手段に走らせる。

「時間が惜しいな・・・・・・仕方がないか」
 
バタンッと、いてもたってもいられなかったロロは硝子戸を強引にこじ開ける。
兄の居所をできるだけ早く掴むための、TPOを無視した突入だ。
 
「な、な、なんですの!?」
 
シャワーを浴びていた茶髪の女性が、唐突に開かれた背後にある硝子戸へと狼狽えながら振り替える。
ロロの視界に美少女の部類に入るだろう丹精な顔、綺麗な肌色、美しい形状で実った2つの胸、しなやかな胴、ほどよい細さと太さを持つ肢体、XX染色体を持たざる者には無い乙女の秘密の領域、束縛を象徴する首輪、それら全てが一糸たりとも隠れる事なく目に入る。
それに加えて、熱いシャワーによって全体がみずみずしい果実のようになっていた。
が、ロロはそれらに何の興味も抱かなかった。
別に不感症ではなかろうが、今は女性の裸で喜んでいる暇はないからだ。
 
反対に茶髪の女性の視点からは、そこには自分に刀を向けた一人の少年がいる。
恥じらいで見られたくない部分を両手で即座に隠しつつ、兼ねて身の危険を感じて必死に叫びをあげる。
 
「い、いやああああああああ!!」
「騒ぐな」
 
叫ぶ女性に対してロロは迷いなく刃を相手の喉元近くまで向ける。
女性は黙り込んだが、恐怖で今にも泣き出しそうだった。
ロロは女性に構わずに質問を投げ掛ける、その顔に表情はない。
 
「あなたには2つほど質問に答えて欲しい。
あなたは何かしらの技術を持ってませんか?
例えば、この首輪を外したりする事ができるとか?」
「ご、ごめんなさい!
私にはとてもできません」
「そうか・・・・・・」
 
ロロは落胆する。
目の前の女性は無警戒・無用心の上に無能力とは、とても仲間に引き入れても役に立つとは思えなかった。
その落胆を表情には出さずに次の質問に移る。
 
「じゃあ、黒髪で紫の瞳を持っている男の人と出会ったり見かけたりしてませんか?」
「・・・・・・」
「答えろ」
「し、知りません、見てません」
 
返答を聞くとロロは急に黙り込んだ。
無表情なのが返って女の恐怖心を煽る。
 
「わ、私はまだ死にたくないんですの!
どうかここは見逃してくださいぃ!」
「もういいよ、さよなら」

2つの質問に対して望まぬ返答が返ってきたのでロロは彼女を処分する事を実行した。
止める者や目撃者は誰もおらず、殺害するには絶好の機会でもある。
女の懇願など耳に入れず、冷酷な一言と共に刀の刃先が無防備な喉を食い込み貫く。
 
 
 
 
「?!」

貫いたハズだが刀を握る手から手応えが全くない事に気づき、冷徹な表情が転じて焦りの物に変わる。
一方で刺されたハズの女は不気味に笑い、少年に言い放つ。

「かかりましたわね」
「なに!?」

すると、茶髪の女は煙のようにたち消えた。
これにはロロも驚かざる終えなかった。

「消えた! いったいどこに?」
「あなたの後ろですわよぉ〜」
「な、いつの間に!?」

言葉通りに後ろを振り向けば、先ほど消えた者と同じ容姿を持つ女が、すぐ近くにある一人用ベットに腰かけており、妖しく微笑みかけていた。
さっきとの大きな違いは、先の気弱さは微塵もなく、裸ではなく体のラインがハッキリしたスキンスーツらしき服を纏っている点と、髪型は2つに別れたおさげで、丸い眼鏡をかけている所だ。

「さっきのは幻覚か!」
「ピンポーン♪ 正解ですわ」

ロロの戦闘勘が先ほど刺したのは幻であると答えを導きだし、答えを聞いた眼鏡の女は、飄々とした態度で正解者に拍手を送る。
その態度がロロの焦りを増大させる。

(この女・・・・・・幻覚を見せるギアスでも持っていたのか?
クソッ、無警戒で無用心だったのは僕の方だったというわけか!)
「それにしても幻覚とはいえ乙女の裸を見て、恥ずかしがる事もヤる事もやらないなんて・・・・・・あなた、女の子に興味ないんですの?」
「うるさい!」
「あらあら、殺気だっちゃってますわねぇ」

女の指摘通り、ロロは殺気だっていた。
甘ったるい声が、さらに神経を逆撫でさせてくる。

(顔を見られてしまった・・・・・・この人を生かしておくと後が怖そうだ。
逃がして殺しあいに乗っているとでも言いふらされたら、自分は元より兄さんも危ない。
ここで確実に殺す、ミスは重ねられない!)

相手の始末を決定した後、ロロは改めて女に刀を向けるが、女は相変わらず余裕の表情だった。

「恨みはないけど、あなたを生かしておけない」
「私を殺る気ですの?
そんなんじゃ、また私の幻覚に踊らされるだけかもしれませんわよ」
「確かにこのまま正攻法で戦ってもダメだと思う。
だけど僕にはあなたの幻覚に負けない奥の手がある」

焦りで歪んでいた顔を冷静な顔に戻し、淡々と死を宣告する。

「へぇ〜、その奥の手って?」
「今から死ぬあなたに教えても意味がないよ。
教えたとしても、あなたにもはや何一つすべはない!」

ロロの右目に翼を広げた赤い鳥のような紋様が浮かび上がる、それはギアス発動の合図。
この瞬間より女の「時間」は止まりマネキンのように動かなくなっている。
しかし、この一室にあるアナログな時計はコチコチと時を刻んでおり、シャワーは湯を放出し続けている。
つまり止まったのは女の思考や感覚などの「体感時間」なのである。

「くっ!」

ロロのギアスは副作用として、使用中は自身も心停止の憂き目に会い、力を乱発したりすると最悪死亡する。
今も心臓が苦しそうだがそこは根気でカバーし踏ん張りをかける。
女の体感時間が止まっている以上、幻覚を見せる事はおろか逃げる事もできなくなり、非常に無防備な状態だ。
あとはたった一歩前進して刀を相手の急所に突き刺せばそれで終わりである。

「色々不気味な人だった、だけどこれで・・・・・・」

そして、ロロは一歩を踏み出して前進して刀を振る――


(う、動けないッ?!)


――それができなかった。
何者かに後ろから両手首を強い力で抑えられて前進を阻害しているのだ。
ロロは焦り、冷や汗を流す。

(まさか、他に人間がいたのか? そんな気配はなかったのにッ!
仮にそうだとしてもギアスの力で動けないハズ。
一体後ろにいるのはどんな奴がなんだ!?)

素早く首を動かし、後方を確認する。
――そこには筋肉質で青と紫を基調とした肌を持つ黒髪の大男がいた。
首輪が無い、殺しあいの参加者ではないようだ。
良く見るとその男は透けており、エネルギーの塊のような質感をしているが、触れられる物体としても存在していた。
眼光は鋭く、幾多の死線を潜ってきたかのような凄まじい威圧感を放っていた。
そんな者にロロは万力のような力で手首を抑えつけられ、抗っても動けず、間接を動かせないため刀を投げつけることもできない。
大男の姿や貫禄を見たロロは率直な感想を述べる。

「あ、悪霊、なのか・・・・・・!?
ぐあああ!」

突然、ロロは苦しみだす。
目の前の女や背後の悪霊に何かをされたわけではない。
ギアスの副作用・心停止による負担が身体にきているのだ。
ただし、その負担は普段より大きい。

(気のせいか、いつもより負担が大きいぞ?!
これ以上は限界だ!)

能力使用の反動に身体が耐えられないと判断したロロは、ギアスをやむを得ず解除した。
結局、一太刀も女に浴びせる事はできずに終わり、ギアスの無駄使いになった。

「――で?」
「あぐっ・・・・・・!」

体感時間を取り戻した女はケロッと微笑み、その笑顔に反して悪霊はロロの手首を掴む力を増していた。
ギリギリと骨を折られる寸前まで締め付けられ、ロロは思わず刀を取り落としてしまう。
こうして彼が唯一できる対抗手段は、相手を睨みだけになってしまった。

「あらあら?」

少年の睨みなど眼中にないかのように女は部屋を見回し、目線が部屋に立て掛けれた時計に向くと何かに気づいた。

「いつの間にか数十秒も経過してる、でも経過した時間分の記憶がない・・・・・・まるで時間が消し飛んだようですわ。
おかしいですわねぇ、私が『時を止めた』間は確かに時計の針は止まってた気がするのに。
あなたも私と似たような力を持っていらっしゃるようで」

ふと、彼女の台詞の中にあるワードに、ロロはピクリッと反応する。

「今、何て言った?
時を止めただって!?
そんなことができるのか?!」
「・・・・・・ええ、そうよ。
私にはある程度の時を止める力がありますわ。
だから、あなたが『奥の手』とやらを使う前に時を止めて、その間にそこのマッチョ君をあなたの背後に回らせて無力化したのよ」

とてつもない事をさらっと答える女に、ロロは驚愕を禁じ得なかった。
自分にも人間の体感を止める力を持っているが、この女も自分と同等の、いや・・・・・・話を信じるならば時計の針=物体の時間まで止められたというわけであり、自分以上の力を持ってるのではないかと考える。
そして、時を止めることができると手の内を教えたのは、絶対に負けない自信があるからだ。
実際、時を止める相手にどうやって勝つのか?
得体の知れない相手を前にして嫌な汗が止まらない。

「あなたはいったい何者なんだッ!?
この幽霊みたいな奴もいったいなんなんだ!」
「申し遅れましたわねぇ。
私はクアットロ、ドクタースカリエッティから作られた、まぁ娘のような者ですわ。
それから、あなたの後ろにいるマッチョ君は幽波紋(スタンド)のスタープラチナちゃんですわ」

クアットロは自分と幽霊の名を語り、さらに己の素性まで明かした。

(クアットロ・・・・・・スカリエッティの娘だって!?
しかし、この女は幻覚に怪力の悪霊に時間停止と、いくつの能力を持っているんだ?
それにスタンドなんてものは聞いたことがない、ギアスじゃないのか?)

ロロの持ち物だった刀とディパックをクアットロは回収し、困惑するロロに近づいて背後に回り込み、ガバッとロロの背中に身を寄せて話しかける。
彼女の吐息が耳元に届くほど互いの顔が近く、服装ごしに胸が当たってるが、ロロは色気を感じることはなく、むしろ大蛇に巻つかれるような気持ち悪さに等しかった。

「くっ・・・・・・」
「武器はもうなさそうですわね、さてお姉さんとちょっとお話しましょうか?
あなたのお名前は?」

「ふんっ、こんな事をしておきながら言うと思ってるのか。
しかもスカリエッティの手先なんだろ?
そんな奴に話すことは何もない!」

聞く耳持たないロロの態度に、クアットロは口元はニヤついてるが笑っていない眼で脅しかける。

「スタンドのパワーで首をへし折っちゃってもいいんですわよ?」
「構うものか、僕は死など恐れちゃいない」
「ドクターから教えられたルールをお忘れになったんですの?
あなたは大丈夫でも、あなたのパートナーさんはどうなるでしょうかね〜?」
「僕のパートナーならきっと、二回の放送を迎える前に別の組に入れるさ!」

ルルーシュはギアスがあり、きっと自分がいなくても相手を従わせる事で組に入れるとロロは信じていた。
・・・・・・というより、このまま兄の役に立てないなら死んだ方がマシだと思ったのかもしれない。
そのあまりの頑固さにクアットロはため息をつく。

「はぁ・・・・・・お若いのに強情ですこと」
「さあ、殺すなら殺せよ。 覚悟はできてる!」
「ずいぶんと興奮してますわね。
このままじゃまともに口を聞けないでしょうねぇ。
スタープラチナちゃん!」
クアットロの声を聞き、スタンドは動き出した。
何を思ったのか、ロロは部屋にあった椅子まで運ばれ、スタンドに掴まれたまま座らされる。

「今度は何を・・・・・・」
「あなたにはま〜だ聞きたい情報や利用価値はたっぷりとありそうだから、すぐに殺しはしませんわ。
でも、利かん坊には少々お仕置きさせてもらいますわよ」

ニヤリと笑いながらディパックからロープを取り出すクアットロ。
嫌な予感しか感じられず、ロロは顔を真っ青にする。

「や、やめ」
「オラオラオラオラオラオラアッ、ですわ♪」
「アーッ!!」

ロロはクアットロに椅子ごとロープで縛る。
関節という関節が動かないほど、無理に動くと肌を傷めそうなほどにロロはガッチリと縛られる。
縛っている側のクアットロは心なしか楽しそうだ。
視覚的にどんな縛り方をしたかは、読者のご想像にお任せする。

「ハァハァ・・・・・・」
「お姉さんに素直に従わないからよ、反省してくださいねぇ。
・・・・・・ふぅ、運動したら良い汗かいたわ」

一仕事終えた後、クアットロは横目でシャワールームを見る。
そして、顔にニッコリと笑みを作る。

「先は長くなりそうだし、今の内にシャワーでも浴びときましょうっと」

幻ではなく、今度は本当に入浴しようとするクアットロ。
スタンドでロロの椅子の向きをシャワールームと逆方向に変えてから、スタンドを己の中に引っ込める。
するすると戦闘服を脱ぎだしていくクアットロのスタイルの良さは、幻と寸分も無い美しさがあった。
椅子が反対向きでなければ、うなじやメリハリのついた背中のラインにぷっくりとしたお尻をロロは見ることができたかもしれないが、どちらにせよ彼には興味がなかった。
彼の強い興味は別のものに向いていた。

「待つんだ」

呼び止められて、クアットロはシャワールームに向かう足を止める。

「なぜ僕を殺さないんだ?
おまえはスカリエッティの娘で、殺しあいに乗ってるんじゃないのか?」
「はぁ〜? 勝手な先入観は持たないでくださるぅ?」
「・・・・・・え?」

ロロの言葉にクアットロは首をかしげながら返答する。
その返答の返答にロロは疑問符を浮かべる。

「だってあなたはスカリエッティに作られた娘だって言ったじゃないか?」
「ええ、そうですとも。
でも私は殺しあいに乗る気はなくってよ?」
「なに・・・・・・嘘だ?!」
「本当よ。
ま、私にも色々事情があるわけで・・・・・・というか、いきなり襲いかかってきたあなたの方が断然殺しあいに乗ってるようにしか見えませんわ」

主催者と親子同然の関係を持ちながら、殺しあいには乗ってないと主張するクアットロ。
だが次に口から出した台詞は、重く語気を強めていた。
眼鏡の奥にある瞳が、客室の照明で反射してよく見えない。

「――ただし、私の気が変わったりしたらその限りではありませんわよ。
そうでなくとも身に降りかかる火の粉ぐらいは払いますし、他人を殺す事自体に躊躇はありませんわ」

ロロの額にまた一筋の汗が流れる。
この女は決して善性で「殺しあいに乗らない」と言ったわけではないと理解したのだ。
生かしているのもあくまで利用価値があるからこそである。

「あなたも、変な期待はしないように。
私が入浴した後に自分の名前すら答えないようなら、今度こそ命は無いですからね」

それだけ言い残すと、クアットロはシャワールームに入り、硝子戸を閉めた。
最後に言い放った言葉は、水に沈む鉛のように重く・凍りついた鋼のように冷たかった。



生まれたままの姿でシャワーから溢れでる温かい湯を浴びるクアットロ。
そんな彼女は無言で考え事をしていた。

(殺しあいに乗れって言ってもねぇ〜)

考えてるのは、この殺しあいとそれを開催したスカリエッティについて。
ロロにも言った通り、クアットロはスカリエッティに作られた戦闘機人12姉妹(ナンバーズ)の一人であり、さながら親子のような関係だ。
他の11人の姉妹同様、ドクターには敬愛と忠誠を持っており、特にどんな手を使っても欲望を達成するという思想は、クアットロが最も同調している。
そしてクアットロ自身、無力な命が苦しむ様を観察するのが大好きという残忍な性格しており、本来ならばこの催しに喜んで参加しそうな質だ。
だが、そんな彼女が催しに乗り気でない。
それには理由があるのだ。

(確かにドクターの言うことは何でも聞いてきましたわ。
でも、もうすぐ『聖王のゆりかご』を起動させるという大切な行事をすっ飛ばしてまで゛殺しあい゛なんてやりますかねぇ?)

スカリエッティとナンバーズは『聖王のゆりかご』を起動させるという重大なイベントが控えていたハズだった。
管理局を襲撃したり、ゆりかごを護衛したり、聖王を覚醒させたりなど、スカリエッティ一行の忙しい時期でもある。
すなわち、クアットロはその時期から参加させられたのだ。
ちなみに殺しあいに関する事前報告も一切なし。
故に殺しあいを開いたスカリエッティの行動を疑問視し、催しへの参加を慎重にさせた。


(管理局相手にあれだけ頑張ったのにこれじゃ骨折り損、しかも聖王のゆりかごを一番起動させたかったのは他でもないドクターの筈。
こんな戯れなんて、ゆりかご起動後にいくらでもできるでしょうに)

考えれば考えるほど疑問はポンポンと出てくる。

(しかも、13番目(ギンガ・ナカジマ)はともかく、捕獲した覚えのないタイプゼロセカンド(スバル・ナカジマ)がなぜここにいるの?
スタンドなんて聞いたこともない力をドクターはいつ知ったの?
今のドクターにはどこか釈然としないものを感じますわよ)

――強い違和感より彼女は、先に主催者として出てきたスカリエッティに対して大まかに3つの仮説を打ち立てた。

a,スカリエッティは偽者
b,平行世界のスカリエッティ
c,スカリエッティが殺しあいを開催しなければいけない事情ができた

aは殺しあいに従う意味ナシ。
bのスカリエッティは、姿や人格が似たような「別人」であるため、これも従う義理はない。
cならば、事情次第だろう。
これが実験ならともかく、何者かに強制されてるようなら助け出さなければいけない。

(果たして答えはどれ?
生き残ればそのうち答えはわかるかもしれないし、それまで安易にゲームに乗るべきじゃないでしょうね)

以上の理由から、あくまで己の生存を優先し、主催者の真意がわかるまで殺しあいには積極的に参加しない方針だ。

(幸い、生き残るための手駒候補も手に入れましたわ)

手駒の確保も生存のために重要ななプロセスである。
戦力・肉壁要員としてはもちろん大切ではあるが、それ以上にルールに設定されているチーム制が絡んでくる。

自分と同じチームである他の二人が死ぬと新たな組を作らなければならない。
組を作る保険として手元に参加者一人がいると安心できるというものだ。
そのために、あらかじめ自分の頭にスタンドDISCを埋め込み、固有能力・IS「シルバーカーテン」で作った幻覚をエサに部屋に誘き寄せ、一定の危険があるようならばスタープラチナ ザ・ワールド(数秒間、時を止める技)で無力化を謀るという作戦だった。
この策にロロはまんまと嵌まったのだ。

(それにしても疲れましたわぁ。
ザ・ワールドは消耗が激しくてとても連続使用できない。
三回も使ったら過労で確実に倒れますわね)

時を止めるという強力過ぎる力への制約だろうか。
クアットロは涼しい顔をしていたが、一度の使用でかなりの疲労がのしかかってる。
消耗の激しさ故に「ザ・ワールド」は使い時を誤れない技のようだ。

(せめて、ノーヴェちゃんとウェンディちゃんがもう少し頼りがいがあればこんな苦労もしないんだけど)

彼女は妹たちである二人をあまりアテにしていない。
ノーヴェとウェンディは、けして弱くはないのだが、片や短気片やお人好しで、戦場では早死にしそうなタイプなのだ。
同じ細胞から作られた姉妹でも、思考には齟齬が出る。
例として三姉妹が「自分はスカリエッティとは関わりがない」と嘘をついたところで、それぞれの内容をまとめると矛盾が出るだろうし、頭を使うのが苦手な他の二人には到底綿密な嘘はつけない、とクアットロは見ている。
奇跡的に三人の嘘が噛み合っても、敵対関係にある管理局のスバルがいるため、自分たちと主催者の関係はとても隠しきるのは不可能に近い。
むしろ関係をバラしてしまった方が、主催者に対する貴重な情報を持つ者として殺されにくくなるかもしれない。
ロロに自分とスカリエッティの関係を隠匿しなかったワケもここにある。

(まぁ良いか、その分あの子に働いてもらいましょう。
あの子にはスタンドと似たような不思議な力を持っている、今殺すのは勿体ない。
できればその力を存分に利用させてもらいましょう・・・・・・大事な手駒としてね)

魔女は声も出さずに妖しく笑った。





「自分を殺しにきた相手を目の前に入浴?!
チッ、僕を思いっきり舐めてるな・・・・・・!」

静かに悪態をつくロロ。
だが、捕縛されたままでは動けず、このままではギアスを使っても意味がない。
事実上無力化されていた。

敵が入浴している合間に、ロロはロープからの脱出を試みるが、縄は硬く結ばれ、縄を切るために尖った物があるかを探しても見つからなかった。
歯で縄を噛み切る荒業も考えたが、ロープを切るよりクアットロがシャワーから上がる方が早いだろう。

(逃げることもできない・・・・・・このままじゃ兄さんの力になれないまま終わるぞ)

脱出叶わず、途方に暮れるロロ。
だが、そこで彼は閃いた。
具体的には「押してダメなら引いてみろ」「返してくれないならあげちゃえばいい」という逆転の発想である。

(そうだ!
勝てず逃げられずの相手なら、敵ではなく味方にしてしまえば良いんだ!)

クアットロを味方にする方法とは――

(合流次第、兄さんに頼んで、クアットロにギアスをかけてもらおう。
一度ギアスにかかったらもう逆らえない、幻覚やスタンドや時を止める力も使い放題だ。
主催者と繋がりがあるのだから、主催者サイドの情報も得られるぞ。
そうなれば生存率はぐっとあがる!)

ルルーシュは相手に逆らえない命令を下せるギアスがある。
ギアスでクアットロに「下僕になれ」と命令を下れば、彼女はルルーシュに付き従う下僕になるのだ。
ロロはこの計画を思いつくと、一人で破顔していた。

(いや、あの女の力が利用できるのは、殺しあいの中だけじゃないハズだ。
黒の騎士団に持ち帰れば、ブリタニアとの戦いも楽になる。
扇を失った分の埋め合わせもできる。
僕は兄さんの役に立てる!)

さらに構想から妄想は広がる。
だが、冷静な部分が皮算用を避けるように、都合の良い妄想にストッパーをかける。

(いけない、この策は僕が生きて兄さんと合流しなきゃなりたたない。
それまでは、あの女に服従するフリをしてでも何としても生き長らえなきゃ)

死ぬ覚悟はあったが、死ぬのはまだ早いと自覚するロロ。
微笑む彼の顔は暗い影が射していた。

(待ってろよクアットロ、今は好きなだけ入浴を楽しむがいいや。
だが兄さんと合流できた暁には――)

辛酸を舐めさせられたロロの中で真っ黒い感情が燃え上がる。

(――散々使い潰したあげく、最後はボロ雑巾のように捨ててやる)

それは皮肉にも、兄のルルーシュがロロを懐柔した時の心の声と似ていた・・・・・・

【A-08/豪華客船/一日目・日中】

【ロロ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態] ダメージ(小) 怒り ロープで捕縛状態
[服装] 学制服
[装備] ロープ@現実(縛られている)
[道具] なし
[方針・思考]
0:ルルーシュを守る事を最優先。
1:ルルーシュと合流するまではクアットロに従うフリをする。
2:ルルーシュにクアットロへギアスをかけてもらい、手駒として利用させる。
3:ブリタニア皇族、殺しあいに乗った者、足を引っ張る約たたずは殺しておく。
4:ナナリーについては――
[備考]
※少なくとも黒の騎士団加入以降、死亡前からの参戦です。
※ギアス「絶対停止の結界」の制限として、心停止の負担が増大しています。本人はまだ制限に確信を持ってません。
※ロープはクアットロの元支給品です。

【クアットロ@リリカルなのはStrikerS】
[状態] 疲労(中) 入浴中
[服装] 全裸
[装備] スタープラチナのDISC@ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン
[道具] 支給品一式、ナンバーズの戦闘服、日本刀@現実、不明支給品0〜1(本人確認済み)   (元・ロロのディパック)支給品一式、苺大福@現実×3、桜ヶ丘高校の制服
[方針・思考]
0:生存優先。スカリエッティの真意を探るまで積極的な殺しあいへの参加は控える。
1:入浴を終えたら、少年(ロロ・名前を知らない)と情報交換する。
2:可能なら少年を手駒として利用する。
3:隠しようがなさそうなので、自分とスカリエッティの関係そのものは特に隠匿しない。
[備考]
※聖王のゆりかご起動前からの参戦です。
※主催者のスカリエッティに対して不信と疑問を抱いています。

【日本刀@現実】
日本から古く伝わる製法の剣。
西洋にある叩いて切る剣より、切り裂く方面に特化している。
西洋の剣より硬度がやや低い印象がある。

【苺大福@現実】
何の変哲もないただの苺入り大福。
食べて体力回復に繋げたり、他者を殺すために毒を仕込んだり、ローゼンメイデン第6ドールの気を引くことができるかもしれない。
通称・うにゅー。

【スタープラチナのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン】
【破壊力-A/スピード-A/持続力-A/射程距離-C/精密動作性-A/成長性-E】
強大なパワーとスピードを誇り、精密動作も得意とする人型スタンド。
武器は拳のみだが、「スタープラチナ ザ・ワールド」という能力で2〜5秒間、時を止める事ができる。
元は空条承太郎(六期)のスタンドだが、ホワイトスネイクもといプッチ神父によって抜き取られたもの。



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