大導師の冒険―影と女神と這い寄る☆混沌
本来は喧騒に包まれているであろう、昼下がりの街。
しかし人は全て消えてしまったかのように、静まり返っている。
そんな街並みにたつ、巨大なビルの屋上。
もし地上に人がいたならばおそらくは米粒のようにしか見えないであろう、その場所に。
一人の男は立っていた。
端正な顔つきの、金髪金眼の美青年。
見る者を引きこみそうな美貌を持っていながらしかし、その瞳には、不気味なほどに光がなかった。
男は眼下の光景を眺めながら呟く。
「このようなイレギュラーに合間見ることができるとはな。
退屈していたこの世界も、まだ捨てたものではないということか」
光のない瞳、しかしそこにはほんの僅かに期待と希望を感じているかのような表情があった。
男の名はマスターテリオン。
世界制服を目論む悪の秘密結社、ブラックロッジの首領にして最強最悪の大導師。
彼は自身の首につけられた首輪に触れながら、今の状況について思考する。
「―――『視聴者』。
つまりこのゲームを見ている存在がいるということか。
果たして如何なる邪神か、あるいは神々か。
ナイアよ、やはり君も関わっているのか?」
どこへともなく独りごちるマスターテリオン。
その心には未知なる体験への大きな期待心があった。
幾度となく繰り返された戦いの連鎖。
もはやあの男と戦うことのみが、己に残された存在意義だった。
だからこそ、彼はこの今の状況を心から楽しみたいと、まるで子供のようなことを考えていた。
「ならば、世はこのイレギュラー、心行くまで楽しもうではないか。
そうは思わぬか?そこの者よ」
「フフフ、そうだな
そこから現れたのは、赤いコートを纏った長身の男。
並の人間であれば、身動ぎ一つとることもできなくなりそうな威圧感を放っている。
「ただ者ではない何かがいると感じてここまで来てみれば、まさか魔人がいるとはな」
「ほう、一目でそこまで見抜くか。面白い。
世はマスターテリオン。魔術の真理を求道する者なり。貴公の名を問うておこうか」
「そうだな、名はアーカードだ。
それにしてもマスターテリオン―背徳の獣にして魔術師か。ではお前のことは大導師殿、とでも呼ぶべきかな?」
「ハハハ、何故だろうな。貴公にそう呼ばれると非常に既視感を感じるぞ」
笑うマスターテリオンに、アーカードも顔を吊り上げる。
「しかし、面白い体をしているな。その体に一体どれだけの命を飼っている?」
「さあな。数え切れないくらいたくさん、とでも言っておこうか」
「見たところ魔導書を持っている様子もない、魔術師にも見えない。
人の身がよくぞここまでの魔を生み出したものだ」
「何、所詮人でいることができなかった化け物でしかない」
「ますます持ってあの男のような奴だ。少し遊んでみたくなったな」
と、マスターテリオンは、何の気もなく、まるで川に石を投擲する子供のように。
アーカードに対して一つの呪法を放った。
重力呪法。
相手を重力の結界に閉じ込め押しつぶす魔術。
アーカードが目を見開いたところで、その重力は彼の体を押しつぶした。
骨が折れ、肉が飛び散り、それでも収まらぬ重力はその体を地面に貼り付ける。
「どうした、魔人よ。まだ骨が折れ、内臓が飛び散っただけだろう?
その程度で終わるものではあるまい?」
「そうだな」
次の瞬間、マスターテリオンの背後から巨大な影が襲い掛かった。
黒き凶犬の顎。
地を這う己の影を、彼の背後に解き放ち顕現させたのだ。
それを、マスターテリオンは事も無げに振り払う。
一撃でその体は飛び散る――――はずだった。
しかし影は彼の手刀を受けた瞬間、身を多数の蝙蝠へと変化させ、マスターテリオンの周りを多い尽くした。
これには若干驚いたのか、振り向き光の弾を多数、その手から放つ。
蝙蝠は消滅。しかしそちらに気をとられたことで重力結界も解除された。
すぐさま起き上がり、その心臓に向けて手刀を放つアーカード。
マスターテリオンは受け止めると同時、その手に逆十字の剣を作り出す。
振り払われたそれはアーカードの肉体を真っ二つに切り裂き。
そこから大量の影の獣が生み出た。
だが、獣は食らいつく先からマスターテリオンの剣によって切り裂かれ、消滅していく。
一匹、一匹と真っ二つになり消えていく影。
全てが消えるのに数分と掛からなかった。
『なかなかやるではないか』
「そうか?いささか物足りぬぞ?」
「ゆえに残念だよ、大導師殿。お前が人間であれば心躍る戦いになっただろうがな。
悪魔には、私は殺せん」
影から全ての肉体を再生させたアーカード。
その言葉に対し、マスターテリオンはつまらなそうな顔を見せる。
「そうか、貴公の望みは人間により滅ぼされることか。
羨ましいものだな。人に討伐されることで、死ぬことができるというのは」
「何を言っている?」
「だがな、それでもこの闘争を楽しむこともまた、生きるための刺激には必要とは思わぬか?」
「……それもそうだな」
と、マスターテリオンは剣を再度持ち直し、アーカードはその身を影に変化させた。
その瞬間だった。
二人の間に1本の矢が煌いたのは。
「二人とも、戦うのを止めて下さい!」
そこにいたのは、フリルのついた桃色の衣装を纏った、桃色の髪をした少女。
手には枝のような弓を構え、光の矢をこちらに向けて宙に浮いていた。
「邪魔をしないでもらおうか。主のような子供を相手にしていても退屈なだけだ」
「どうして、戦うんですか!こんな殺し合いなんて、間違ってるとは思わないんですか!」
「世にとってはただの暇つぶしよ。このようなことに巻き込まれるのは前例がない。ならば心行くまで楽しむべきであろう」
「そんな…!」
「小娘よ、どうしても止めたいというのであれば力ずくでくることだ。
その手の武器は飾りではあるまい?まさか祈れば戦いが止まるなど、そのような迷い事を述べるつもりか?」
「―――それでも、私は戦いを止めてほしい…!」
◇
ずっと、今まで見ているだけだった。
マミさんが魔女に食べられていくあの瞬間も。
さやかちゃんが狂気に落ちていくときも。
杏子ちゃんがさやかちゃんを止めるために戦い、傷付いているときも。
ほむらちゃんがワルプルギスとの戦いでボロボロになっていくときも。
だから、戦いに苦しむ皆を救うために、魔法少女になった。
戦うことは間違いじゃなくても。
誰かを傷つける戦いなんて間違っている。
こんな殺し合い、絶対に止めなきゃいけない。
それが、魔法少女となり概念となったはずの少女、鹿目まどかの、戦う理由。
◇
「なるほど、力を封じられているようではあるが、その大きな力の片鱗は見えるな。
面白い。ならばもっと余を楽しませてみせろ」
と、マスターテリオンはまどかに剣先を向けようとし。
「だがその前に。
もう一人、我等の戦いを見ている者がいるだろう?出てくるがよい」
「あれ?ばれちゃいましたか?」
呼びかけに応じて出てきたのは、手にはバールのような何かを携えた銀髪の美少女。
その外見も真の姿でないことは、アーカードとマスターテリオンには気付くことができた。
「さて、この戦いの観客でいたかったのだろうが。こうして見つかった以上、そなたにも参加してもらわねばな」
「え〜、マジっすか」
ものすごく脱力しそうな声を上げる少女。
「どうしてそうやって、無関係な人まで巻き込むんですか!」
「こうやってこの催しに巻き込まれている時点で無関係な者ではあるまい。
特にそこの女、姿は誤魔化せてもその得体の知れぬ気配までは誤魔化せぬぞ。名を名乗れ」
「うえー、面倒なことに巻き込まれてしまい、隠れて乗り過ごせないかなーとか思っているところで、トンでもバトルしてる人達に気を取られたのが運の尽きでしたねー。
では、名乗りくらいはキリッと行きますか」
と、手を伸ばし、何かのポーズをとるかのように回しながら、少女は謎の口上と共に。
「いつもニコニコ、みんなの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプ、です♪」
そう名乗った少女の名前を聞き。
アーカードは高笑いをして。
マスターテリオンは目を見開く。
「ハハハハハハハ!!背徳の獣の次は千の貌を持つものか!!
なかなか面白い人選じゃあないか!」
「驚いたな。まさかあのナイアと同じ名を持った邪神が存在したとはな。
クククク、ハハハハハ!!いいだろう。
魔人、戦女神(ヴァルキリー)、邪神。かの男と比べれば若干役者不足な気がしないでもないが。
まあいいだろう。余を存分に楽しませてみせよ!」
と、マスターテリオンは剣を振りかざし。
まだ見ぬ者達との戦いに胸を躍らせて、戦いの中に飛び込んでいった。
【1日目/昼/G-1 ビルの屋上】
【アーカード@中田譲治/HELLSING】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:闘争を楽しむ
【マスターテリオン@緑川光/機神咆吼デモンベイン】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:このイレギュラーを可能なかぎり楽しむ
1:まずこの余興の戦いを楽しむ
【備考】
※リベル・レギスの召喚は制限されているもようです
※この殺し合いが邪神達による催しである可能性を考えています
※エセルドレーダを呼び出せるかどうかは不明です
【鹿目まどか@悠木碧/魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:殺し合いを止めるために戦う
1:特にマスターテリオンとアーカードに対処
【備考】
※最終回、概念となった後からの参戦です。
※魔法少女の姿を取ることは可能ですが、概念としての能力を使用することはできません。
具体的な戦闘力は後の方にお任せします
【ニャル子@阿澄佳奈/這いよれ!ニャル子さん】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、名状しがたきバールのようなもの@這いよれ!ニャル子さん、ランダム支給品0〜2
【思考】
基本:?????
1:とりあえずこの場から逃げられるように戦う
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