Shining&Umbral
桃色の髪が風に揺れ、鳶色の瞳が不安そうにパチパチと開閉する。
頻りに周囲を見回した後、恐る恐る空を見上げる一人の少女。
上空に広がっているのは何処までも広がる青空。
その頂上に君臨しているのは、燦々と輝く太陽だ。
(どうなってるのよ……)
一言で言えば、彼女は混乱していた。
首に巻かれた首輪や、周囲に存在する建物。
それらの全てが、彼女にとって未知なる技術で構築されている。
建物は塔のように長く、首を上げなければその頂点を見ることができない。
彼女の通う学校もそれなりの大きさがあったが、目前の建物は悠にそれを越えていた。
それでいて用いられている材料が石ではない。
大きな建造物は石造りが基本であるにも関わらず、だ。
何枚もの鏡が均等に外壁に貼られ、建物全体の巨大な鏡と化している。
それだけでも十分恐ろしいのだが、混乱は更に彼女を追い立てようとしていた。
目の前に広がっている建物は一つではない。
大小の差はあったが、彼女の周辺にはこのような建物が数えられないほど聳え立っていた。
(なによ、これ)
これは”鏡張りのビル”なのだが、彼女の知識の中には当然そんな言葉はない。
空に届きそうなほどの建物が、彼女の視界を埋め尽くしている。
恐怖を覚えた少女は、すぐに首を引っ込めた。
そうして、また未知なる技術と直面する。
掌に握り締められていたのは数十枚ほどの長方形の紙の束。
そこから捲って一枚のカードを手に取る少女。
札の中央の枠には奇妙な絵が描かれており、その下部の枠には小さな文字がびっしりと収まっている。
文字は読むことができないが、少女は見たことがないわけではなかった。
彼女の使い魔の少年の故郷の文字に酷似しているのだ。
「サイト……」
少女――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは呟く。
未知の道具とはいえ、使い魔の面影を感じられたのが嬉しかったのだ。
だが、喜んでばかりではいられない。
目の前の建物と同様に、この紙束も彼女の知らない技術で作られているからだ。
紙触りは羊皮紙とは比べ物にならないほど滑らかで、文字や絵は明らかにインクで描かれたものではない。
今の彼女の周囲には、未知の技術が溢れすぎていた。
「サイト、何処……?」
辺りを見回しながらルイズは何度も使い魔の名前を呼ぶ。
彼女の世界では魔法が発展しているが、代わりに科学が中世のヨーロッパ程度にしか発展していない。
印刷技術は存在せず、建物は石造りが主流である。
彼女の境遇を述べるのならば、数百年以上タイムスリップした状態だ。
それだけでも頭がいっぱいなのに、さらに殺し合いを強制されている。
信頼できる知り合いを探すというのは当然の判断だろう。
その知り合いが、未知の技術について何か知っているかもしれないとなれば尚更である。
巨大建造物の群れに怯えながら歩を進めるルイズ。
足元を見れば、これまた未知の技術で作られた道路が続いている。
それは”コンクリート製”なのだが、彼女が知るわけも無い。
かつかつと足音を鳴らしながら、ルイズはひたすら歩き続ける。
その間も未知の技術についての思考は続けていたが、一向に答えは出ない。
それに加えて、殺し合いについても考える必要がある。
悪い冗談にしか聞こえないが、万が一ということもある。
積極的に殺し回るつもりはないが、誰かに襲われる可能性はあるだろう。
油断しないように気を配る必要はあった。
例えば背後から武器を構えた人に――――
「すいませ〜ん! そこの人!」
思考が中断される。
背後から迫ってきたのは凶器ではなく声。
それもとびっきり間抜けな声だ。
「……」
呆れ半分に振り返るルイズ。
その視線の先に居たのは、彼女よりもいくつか年下に見える少年だった。
「……なによ、アンタ」
「ハァ……ハァ……えーっと、こんにちは!」
「こんにちは!じゃないでしょう! アンタ、今がどういう状況か分かってるの?」
今まで真面目に考えていたことが馬鹿らしくなる。
殺し合いを全面的に信用したわけではないが、凶行に走る人間がいないとも限らない。
にも関わらず、目の前の少年はあまりにも呑気過ぎる。
自分が危険人物の可能性もあったし、大声を出すなど論外だ。
「殺し合いとか言ってたけど、あんなの嘘に決まってますよね?」
「私もそうだと信じたいけど状況が状況よ、下手な行動は謹んだ方がいいわ」
少年を見ていると妙に冷静になってくる。
彼が余りにも阿呆なためか、自らを省みる余裕ができたのだろう。
溜息を吐きながら、ルイズは改めて少年を一瞥する。
白地の赤のラインが入ったカッターシャツに、同じく赤色のネクタイ。
おそらく学校の制服なのだろう。
童顔なものの比較的整った顔立ちをしている少年だが、それを台無しにしているパーツがあった。
派手な橙色に染まり、後頭部に突き抜けている髪型。
ボリュームたっぷりなそれは、彼の顔面よりも大きい。
どうやって整えているのか疑問に思うほどの奇抜な髪型が、少年の雰囲気を大きく変えていた。
「よかれと思って話しかけたのですが……ごめんなさい」
シュンとした表情で謝罪してくる少年。
先程と一転して落胆している姿を見ると、罪悪感が沸き上がってくる。
「そ、そこまで落ち込むことないじゃない」
慌ててフォローをするルイズ。
元より心優しい性格であるため、年下の少年を消沈させたまま放置することを是としなかったのだ。
「はぁ、とりあえず一緒に行きましょう」
「ホ、ホントですか!?」
「ホントよ、アンタを放っておいたら誰かに殺されちゃいそうだもの」
「そんなぁ、いくらなんでも酷いですよ」
「だから私が守ってあげるわ、平民を守るのは貴族の義務だしね」
少年はいまいち現実を理解できていない。
殺し合いに乗った者がいた場合、真っ先に標的にされるだろう。
ここに来て、ルイズは自らの行動方針を決めた。
弱きを助け、強きを挫く
おそらくこの場には、少年ような荒事に馴れていない人間が大勢いる。
彼女は幾度か騒動を経験しているため、彼のような人間の助けになることができるだろう。
使える魔法も限られているが、やれるだけのことをやるしかない。
「ありがとうございますー! えーと……」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「るいず・ふらわーぶらんど?」
「……ルイズでいいわ」
満面の笑みで人の名前を間違える少年を見て、ルイズはまた溜息を吐く。
彼が殺し合いに乗っている可能性も考えていたが、既に頭の隅から消え去っていた。
「あれ、それって……」
「ん、これがどうかしたのかしら?」
少年の視線はルイズがずっと握り締めていた紙束に注がれている。
「デュエルモンスターズのカードじゃないですか!」
人畜無害な笑みを浮かべながら、少年はルイズの手を握り締める。
「ちょっと! 勝手に手を触らないでよ!」
「あ、ごめんなさい……。つい嬉しくなっちゃって」
「はぁ、次から気をつけなさい、それでアンタはこれを知ってるの?」
「……ルイズさんは知らないんですか?」
怪訝な表情を浮かべながら首を傾げる少年。
まるで知っていることが当たり前だというような仕草である。
「知らないわよ、こんなもの」
「知らないなんてことはないと思うんだけどなぁ……」
「知らないんだからしょうがないじゃない、これはどう使うのよ?」
ルイズが尋ねると、少年は意気揚々としながら紙束の解説を始めた。
しかし興奮しているためか、彼の説明は的を射ていない。
下手糞な説明に苛立ちを覚えながらも、何とかルイズはデュエルモンスターズの全容を把握した。
どうやらこれは遊戯に使用する道具であるらしい。
互いに自らが考え抜いた紙束(デッキと言うらしい)を用いて、己の誇りを賭けた決闘をするのだそうだ。
「じゃあこれは玩具なのね……」
詰まるところ、これはただの玩具なようだ。
魔物が封印されているかもと思ったが、全然違うらしい。
ハズレを支給されたのだと気付き、彼女は思いっ切り落胆してしまった。
「いらないなら僕が貰ってもいいですか?」
「……一応取っておくわ、何かの役に立つかもしれないし」
物欲しそうな目でデッキを見る少年を一瞥しながら、ルイズはデイパックにそれを仕舞う。
別に渡しても良かったのだが、露骨に強請られたためかそんな気になれなかった。
(いや、多分違うわね)
本当の理由に気付き、彼女は心中で自嘲する。
最初に声を掛けられた時から違和感はあったが、デュエルモンスターズの説明の最中にそれは確信に変わった。
少年の雰囲気――――具体的には声が、彼女の使い魔である平賀才人に似ているのだ。
才人と似ていたから、つい意地悪をしてしまったのである。
これが視聴者の言っていた『声』のことなのかと思ったが、それよりも気になる問題があった。
「そういえばアンタ、名前はなんて言うの?」
自分は名乗ったにも関わらず、少年から名前を聞きそびれていたのだ。
「ああ、すいません、僕の名前は――――真月零と言います!」
シンゲツレイ。
やはりサイトと同じ世界から来た人間だと、ルイズは確信する。
「分かったわ、レイ。誰か事情を知ってる人がいるかもしれないし、とりあえず進みましょう」
「よろしくお願いします、ルイズさん!」
使い魔の面影を残す少年を連れ、ルイズは前へと進みだした。
【1日目/昼/F-5】
【ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール@釘宮理恵/ゼロの使い魔】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、誰かのデッキ@遊戯王シリーズ、ランダム支給品0〜2
【思考】
基本:弱い人間を助ける
1:真月を守る
【備考】
※サイトを信頼するようになってからの参加です。
【真月零@日野聡/遊戯王ZEXAL】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:
(はぁ、とりあえず一緒に行きましょう)
(だってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――ッ!!!!!)
目の前を歩く少女を見て、少年の顔が見る見るうちに歪んでいく。
先程まで浮かべていた人畜無害なものではなく、愉悦と嘲笑に塗れた歪な笑顔へと。
(誰かに殺されちゃいそうだぁ? 私が守るだぁ? 平民を守るのが貴族の義務だぁ?)
とりあえず進むわよと宣言し、先陣を切っていったルイズ。
彼女の背後に庇護される形で収まった真月は、被っていた猫を見えないように投げ捨てた。
(イヒャヒャヒャヒャヒャッ!! 俺が殺されるわけねぇだろバァァァ――――カッ!!!)
瞳孔を見開き、目を血走らせ、裂けるほどに口を吊り上げた笑み。
人間では到底浮かべられない醜悪な笑み。
そもそも根本から間違っている。
彼は――――真月零は人間ではない。
いや、それすらも間違いである。
この少年は、真月零ですら無いのだ。
彼の本当の名前はベクター。
バリアン世界という実体の存在しないエネルギー世界の住人。
謂わば異世界人であり、少年の姿も真月零という名前も仮初めのものだ。
本来の彼の姿は、灰色の肌に黒翼を伸ばした悪魔のようなものである。
その姿では人間界で活動することができず、偽りの名前と容姿を用意したのだ。
さて、彼はわざわざ人間に化けてまで何をしていたのか。
それは九十九遊馬に接近し、大いなる力を宿したナンバーズのカードを奪い取るためだ。
危機に瀕しているバリアン世界を救うためには、ナンバーズが必要なのである。
(……ってのも嘘だけどなぁ!)
――――それは建前である。
九十九遊馬に近づいた本当の目的は、五年以上も費やした計画を滅茶苦茶にした彼への復讐だ。
転校生として彼に近付き、偽りの親友を演じ続ける。
そうして信頼を勝ち取った後、正体を明かして一気に叩き落としてやるのだ。
他にもいくつかあるが、これが最優先の目的である。
(だったのによぉ……どうなってんだ一体)
だが、それは頓挫してしまった。
『視聴者』によって、ここに拉致されてしまったからだ。
ふざけた話ではあるが、同時にベクターは首を捻らせていた。
バリアン世界の住人を拉致するなど、並大抵のことでは出来ない。
気取らせずにそれを行ったのだから尚更だ。
『視聴者』の持つ未知なる力には、ベクターでも畏怖せざるを得なかった。
(まぁ、関係ないけどな)
相手の力は未知数だが、殺し合いの体裁をとる以上はそれなりの自由は約束されているはずだ。
ならば、それに乗るまで。
利用されているとしても、相手の力量が分からないなら下手に動くことはできない。
まずは相手の思惑に乗り、様子を見るべきだろう。
(それまではこの貴族様で遊ばせてもらうとするかね)
九十九遊馬で遊ぶのを妨害されたのは不愉快だが、目の前には新たな玩具が転がっている。
ルイズはお人好しで正義感が強く、九十九遊馬と類似している部分は多い。
彼女が真実を知った時、どのような顔をするのだろうか。
想像しただけでも下衆な笑みが湧き出てしまう。
(ウヒャハハ、精々楽しませてもらうぜぇ、ルイズちゃんよぉ)
綺麗な少女の顔が涙と鼻水で彩られ、悲しみと怒りに歪んだ姿を想像する。
それだけで全身が快感で打ち震えそうだった。
(さぁ、よからぬことを始めようじゃないか!!)
人の感情を糧とする悪鬼が、今、動き出す。
【真月零@日野聡/遊戯王ZEXAL】
改め
【ベクター@日野聡/遊戯王ZEXAL】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:真月零を演じて殺し合いに乗る
1:ルイズで遊ぶ
【備考】
※九十九遊馬に正体を明かす前(96話以前)からの参戦です。
※バリアルフォーゼできるかどうかは不明です。
【誰かのデッキ@遊戯王シリーズ】
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに支給。
遊戯王作品の誰かが使用するデッキ。
他のロワのようにカードが実体化するかどうかは不明。
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