戦いの果てに!
「ああ、鬱陶しいな」
ナイフを片手に、私……両儀式は嗤っていた。
口元を三日月のように歪めて、この世界に充満する濃厚な”死の気配”を堪能する。
ここはどこなのか、どういうことになっているのか――そんな細かいことはどうでもいい。
どこかに、自分を超える外れた者(アブノーマル)がいる。
とっくに人間なんかやめているヤツも、居るのではないだろうか。
久々に、馳走にありつけそうだ。
腰に提げられたゼットソーとかいうらしい鋸。
兼定でないことが残念といえば残念だったが、そこは目を瞑ろう。
とにかくこの鋸と、そして手元にある果物ナイフが血に濡れて、敵の赤黒い線を掻き切る瞬間を思うと、今からとても盛ってしまいそうな感覚だ。
――――というのが、『式』らしい。
知ったことか。
今日という一日はどうやら『私』にとって特別らしいが、知ったことではない。
妙に身体は怠いし、そのくせ軽くて今なら何だって殺せるような気がする。
それはそれはとても楽しいだろうが、そんなことよりも面倒臭いからとっとと帰らせてほしい。
いつまでもあの廃屋じみた会社を空けていると、トウコや幹也が煩そうだ。
トウコにはいつも用事で世話を掛けてしまったし、いつまでもその件でニヤニヤされるのも鬱陶しいだけだ。
早く戻って、借りはキッチリ返さないと気が済まない。
「それで、オレを呼んだ死にたがりはどこにいるのかな」
帯刀に近い形で装備している鋸を仕舞うことはできないが、ナイフは私の懐にでも仕舞われて貰おう。
布が擦れる音にやや遅れて、物騒な武器は隠匿する。
とりあえず、元の世界に戻るには異常の原因を早急に排さなければなるまい。
本当に面倒臭いが、まさかこのような奇怪な状況で絡んでくる輩が居るとすれば、最悪この会場をうろつく”外れたヤツ”を殺していかなければならないかもしれないが、まずは荒事にならないヤツから捜すことにしよう。
兎角、私は早く帰りたいだけなのだから。
物騒な青い瞳を用いる死神は、さっさと寝床に帰る所存である。
もし私にやらねばならないことがあるというのならば、さっさとその仕事も終わらせて、軽井沢あたりの別荘でのんびりしたい。
私にしては殺害ということに対して、欲求を剥き出しにしない。
成長とはこういうことだろうか、なんて自分を少し褒めてやりながら、最初の一歩を踏み出した。
うん、普段と違う場所でもかなり動きやすい。
この調子なら、元凶にも早く死んで貰えるだろう。
――なにしろ、私は生きているのなら、神様だって殺せる『目』を有しているのだから。
と、思っていたら。
早速、私の視界に『いかにも』なヤツが入ってきた。
余裕のなさそうな表情に血走った目、大方どんな手段を使ってでも帰らねばならない事情持ち、といったところだろうか。
そこいらを歩いている一般人に比べると死の線は……特に違うこともない。
死ににくいわけでも、別段死にやすいわけでもない。
私にはすぐに理解できた。
此奴は、今回の件に対して”生きて帰る”ことしか考えていないのだ。
……仕方ない。
ダメ元だが、声を掛けてみるとしよう。
「おい、そこの女。……悪いけど、質問に答えて貰うぞ」
回りくどい言葉を使うのは慣れていない。
放たれる気配は明らかに”外れたヤツ”だ。
放つ雰囲気は何時かの魔術師に比べれば生易しいが、あの殺人鬼を思い出さなくもない。
対話を拒否されていきなり攻撃でもされようものなら溜まったモンじゃない、情報を確保する前に殺して仕舞わなきゃならなくなるのだから。
わざわざ歩いてまた人間を捜すなんて、そんなめんどくさいことは御免だ。
「……何ですか?」
まったく、お手本のようにあからさまな警戒を示してくれるものだ。
でもこの程度のことに目くじらを立てるほど私も子供じゃない。
だから私は、簡潔に次の言葉を述べた。
「おまえも、何がなんだか分からない――そんな感じか? 違うんなら、ちょっと話が変わってくるんだけどな」
そんな簡単な問いだ。
まさか、質問の意味が分からないなどということはあるまい。
私はぶっきらぼうな態度で質問を投げる。
――ちなみに、質問にすら答えず殺しに掛かってくるようなジャンキーなら、説得してやるのも面倒なので、さっさと殺して終わりにしてしまう予定だ。
「ええ、そうですけど? それを知って何になるんですか?」
対する緑髪の少女は、私のそれが霞むほど態度悪く応じてきた。
態度はともかくとして回答には、内心の落胆を禁じ得なかった。
この事件の真相に近い者であるならば、私にこんな問いを掛けられれば、なんらかのアクションを示してくれるだろうと些か期待はしていたのだ。
しかし、どうも此奴も私と同じに巻き込まれただけの被害者に見える。
話しかけてから、少しだけ後悔した。
これの全身から醸されている明らかな”死の匂い”を改めて考えると明らかに異常で、まったくの一般人ではないようなのだ。
つまり、わざわざ狂犬に喧嘩を売ってしまった、ということになる。
何か大切な目的に向かって急いでいるようで、とにかくとっとと全員殺して帰りたいという感情を隙間無く身体中から吹き出している様は、私のように本質が殺人鬼であるわけでなく、どうにも殺人を楽しむ性ではないらしい。
――なるほど、激突を避けることはどうやら出来なそうだ。
それでも物腰を見れば素人であることは丸わかりだし、殺し合いというフィールドになれば、私に負けの目はないだろう。
思うところがないといえば嘘になる。
だが、いまはそんなことはどうでもいい。
私にはこの女がどう生きてきてこれからどうするかなど、関わりのないことなのだから。
あと少しもしたら、こちらが嫌でも血生臭い殺し合いの開幕だ。
よって、前置きがてら聞けることは聞いておくとする。
「別に。確認しただけだよ、オレは、オレがここに喚ばれた理由と原因を知りたいだけだ。だから、おまえみたいな……オレに限りなく近いヤツなんかに、本来用はない」
その言葉には様々な意味を籠めたつもりだったが、私が彼女の事情に興味がないように、彼女も私の感傷になど興味なんて無いだろう。
だからもうすぐ私達の接点は消える。
少なくとも、どちらかが死ぬことで、だが。
それに此奴の終末は既に此奴を押しつぶしている。
私のような救えない在り方で終わってしまったのならまだしも、此奴は中途半端に救いようがあるときた。
だから、救えない。
気の利かない死神に出来ることは、さっさと片付けることだ。
最悪の手段で――最低の幕引きをくれてやるまでだ。
「質問があれば、一つだけ答えてやるよ。せめてもの礼だ。……いや、冥土の土産かな」
うん、此奴のことは個人的にはかなり嫌いだ。
嫌いなヤツでも一緒にいていいヤツと悪いヤツに更に分類されるのだが、こいつはとにかく嫌いなタイプというか、苦手だ。
初見で嫌悪と警戒をこれほど剥き出しにされては致し方ない。
次いでに言うなら、私に付きまとう此奴なんかよりずっと色濃い”死”からしてそう反応されるのも仕方ない。
つまり私とこの少女は、得るべくしてこういう印象を抱き合うのだろう。
そういうわけで、軽く、遠回しに役立たずと罵倒してやったわけだ。
最大限の皮肉を含んで、だ。
「そうですか、そりゃ生憎様ですね。それと――同類ってどういう意味です?」
随分と私も嫌われたようだ。
私の嫌悪感を随分敏感に察知してくれたらしい。
「アンタと私は違う、一緒にするな……」
俯いて――おそらくは怒りに――身体を震わせて、少女は懐に手を突っ込む。
まあ、こういう危機も元の世界では大分慣れている。
やらなきゃならないか、と気怠い声で呟いて――
口元をふと確認してみたら、私の口元は確かに笑みを称えていた。
「――お前みたいな殺人狂と私を、一緒にするなッ!!」
少女が取り出したのは、まるでヤクザが使うようなドス刀だ。
この人物、見た目は可愛らしいが侮れないかもしれない。
そのねじ曲がった螺旋のような死を掻き切るのは変わらないが、相手の殺人経験は下手をすれば私を超えている。
爆発力で押し切られることも、万一としてはあるかもしれないってことだ。
「そうだな、オレとおまえは違う。だけど」
頭を掻いていた腕を下ろす。
理由は簡単、これからは安穏な話し合いではなくなるからだ。
高速で取り出した果物ナイフで容易くその一撃を防ぎ、私は笑う。
「おまえも大概、狂ってると思うよ」
確かに”コレ”は殺人を楽しむ畜生ではない。
だからまだ、存在としての嫌悪の度合いでいえば低い。
けれどどう足掻いても、コレは救われない。
”もう一回”を要求できるにしては――墜ちすぎている。
「――云っておくけど、おまえじゃオレには勝てないよ」
懲りずに叩きつけてくるドス刀を、スロー再生でも見ているようにのんびりとした口調で私は告げる。
実際、この程度じゃ遅すぎて欠伸が出るというものだ。
もっと速いモノに今まで何度か遭遇しているからそのへんの感覚が麻痺してしまっているのかもしれないが、この程度なら全力の片鱗すら見せてやる価値はない。
彼女の腕に映る赤黒い線(ライン)
それは彼女の持つ、逃れられない絶対の『死』を意味している。
それを平常の手段で断ち切ることは不可能だ。
だが、この私の両目に宿る異能ならば、それを絶つのは赤子を縊り殺すよりも容易い。
――そう。私は、生きているのなら神様だって殺してみせる。
「まずはその腕だ。あっさりと殺られてもらうぜ」
少女は戯言をとばかりに猛攻を続けるが、一発たりとも私の身体には通らない。
ああ、まったく。無駄なことをして、疲れないのだろうか。
仕掛けられてしまった上は、痛い目を見せてやらなければならないだろう。
それに。他でもない此奴のせいで、私は少々虫の居所が悪いのだ。
喧嘩を売ってきたのは他ならぬ其方なのだから、そのくらいは覚悟をしてもらわないと。
次から次へと、殺人への躊躇などいっさいなしに振られる刃の嵐。
それでも遅い。
あの魔術師はこんなものじゃなかったし、私の”後輩”はもっとずっと速かった。
こんなもの、子供騙しにも劣っている。
「そらよ」
私はそれを易々と潜り抜け、凶器を抱いた腕の線を瞬、と断ずる。
「威勢だけはいいですけど、こんな掠り傷じゃあ――――っ!!??」
本来なら少女の言う通り、ちょっと工作で怪我をしたレベルの傷ですらない。
これが私の『直死の魔眼』の能力だ。
死の線を絶たれた部位は傷の深さに関わらず死滅し――どんな手段でも、癒すことは叶わない。
「なによ、これ……手が、動かな…………ッ!?」
終わりだ。
私を”ハイ”にするには、いくらなんでも足りなすぎる。
久々に肉を切る感触が味わえると考えるとほんの少しだけ高揚しないでもなかったが、それでもそんなに良い餌とは思えない。
片手を殺された事実を理解できずに半狂乱になる少女の前へゆらりと立つ。
さっきまでの威勢はどこへやら、怯えたような目を向けてくるのが少しだけ滑稽だった。
「――――なんだ、おまえ、そこまで半端なのかよ」
と、呟きながら。
私はこの救いようもないほどに壊れた少女を介錯すべく、刃を振り上げる。
どっちにしろ面倒は御免だ。
足手纏いを連れて行くのは厭だし、誰が好き好んで爆弾を抱えたいと思うのだ。
私は静かに笑いながら、ゆっくりと振り上げた刃を少女へ向けた。
「――やめろぉぉおぉおおおおおおおおっっ!!!!」
……ナイフを平常通りに振り下ろそうとした矢先、手近な窓が割れた。
チッと舌打ちを一つして、私はガラスを割りながら跳び蹴りでの襲撃をかけてきた男から体勢を立て直すべく、後退を余儀なくされた。
「……邪魔するなよ、ったく」
「何が邪魔じゃ! 怯えてる女の子を殺そうなどと、許せんッ、外道め!!」
乱入者はプロレスラーのような筋骨隆々とした肉体をしている。
ナイフを放り投げて攻撃しようか迷ったモノの、受け止められる可能性が高いことを考慮すれば、やめた方がいいとの結論に行き当たった。
まったく、これだから単細胞ってのは腹が立つんだ。
「誤解だよ、仕掛けてきたのはそっちの――」
「黙れっ! 貴様はこのワシが……『キン肉マン』が! 成敗してくれるーっ!!」
キン肉マンとは、なんとも間抜けな名前だ。
そんな場違いな感想を抱きながら、私は嘆息した。
このまま組み伏せられても面倒だ、何しろ片手を潰してもあの女はいつ襲ってくるか分からない。
……適当に気絶でもさせて、それからやるべきことをやってしまおう。
「煩いよ、おまえ」
男の大声が。
女の狂乱が。
心地よかった死の気配も。
今はこの場にあるすべてが気にくわなかった。
いずれにせよ、あまりここに長居していたくはない。
さっさと片をつけてやる。
兎角、私はこうして不毛な決闘をすることになった。
■ ■
「……どうなってんだよ、こりゃあよう……?」
青年、ジョセフ・ジョースターは下の乱戦模様を見て顔を引き攣らせていた。
柱の男たちを撃破して、愛妻スージーQと静かな夫婦生活を送ろうとした矢先にこれだ。
あまりの異常な状況に、さしものジョセフも事態の理解に数分を要した。
柱の男との戦いは苛烈を極め、数多の努力のもとに漸く勝ち取った勝利だったが、それでもこれほどカッ飛んだ事件に放り込まれることになるとは夢にも思いはしなかった。
おまけに宛もなくぶらついていると正直お近付きになりたくない危険な香りのプンプン匂う二人の女が、今まさに互いの生死を分かたんと殺し合っている光景に遭遇して仕舞う始末だ。
幸先が悪いとか、そういう次元を過ぎてしまっている。
いつも飄々としていて物怖じしない性格の彼でも、これには正直ビビらざるを得なかった。
事が事だけに、今度こそ生きて帰れないのはないか、などという不安さえ胸の内から湧いてくる。
ジョセフはその性格上、その心に義の炎を灯して、黄金の精神でもって敢然と邪悪を罰する戦士として戦う覚悟が大きく不足していた。
当然であろう、彼は紳士を目指した祖父とはあまりにも異なっている。
「オレってばあのカーズを退けたんだぜェ? そろそろ隠居させてくれよな、ったく……」
毒づきながらも、彼はこの闘争に乗るつもりは全くなかった。
いくら悪ぶっていてもその本質は気高き正義の家系ジョースター……気高き血筋は、邪悪には染まらない。
ニヤリと笑んで、ジョセフは堂々と宣戦布告を行う。
「でもまあ見てろよ? ドコで見てんのか知らねえが、テメェにはきっつい波紋疾走(オーバードライブ)をお見舞いしてやっからなァ〜?」
その脳裏に思い描くは亡き朋友の背中だ。
ジョセフは戦う覚悟を完了した。
「……そんで、だ。立華ぁ、おめーはあれ、どうすべきだと思うよ?」
「わからないわ」
そんなジョセフの気が抜けるほどあっさりと返答したのは、白い髪に白い肌の、真っ白な少女だった。
その整った顔立ちに透き通った声色は、妻を持つジョセフでもドキリと来るモノがある程だ。
彼女は立華奏、と名乗った。ジョセフがまだ現状の理解に頭が追いつかずに困り果てていた時に彼女と出会い、成り行きで行動を共にすることになったのだが、このどうも読めないマイペースさに、ジョセフはまだついていける気がせずにいる。
殺し合いには乗っていないなどと言われなくても、まさか彼女が悪の殺人鬼だとは誰も思うまい。
もしも別の誰かなら警戒の少しもするところだったかもしれないが、すっかり毒気を抜かれてしまったジョセフは既に信用するとかしないとかの前に、彼女を同行者として当たり前のように認めてしまっていた。
「だって誰が悪いのか分からないもの。下手に割って入ったら、余計状況を悪くするかもしれないわ」
「そうなんだよなあ……あの緑色のオンナノコは結構危なそうだけどよ」
艶やかな黒髪を靡かせて舞う美人は末恐ろしい程に尖った動きを見せている。
ジョセフたちが呆気にとられるような乱入の仕方を見せた男……堂々と名乗っていたからこの離れた距離でも、彼が”キン肉マン”を自称していることだけは聞き取ることができた。
そして片手を押さえてうずくまり、茫然と二人の戦いを見ている緑髪の少女。確か最初は狂っていることが明らかな猛攻を見せていた筈だが、こうも状況がごちゃごちゃになってくると、誰が正しいのか分からなくなってきてしまう。
(でもこのままじゃ大変なことにもなりかねねえ……見たとこ、そんなに決着まで時間もかからなそうだし、いざって時になったら割って入って、適当に場を収めるとすっか)
既に戦況は決しつつある。
漁夫の利を狙うような真似はお世辞にも褒められたものではないが、要は結果第一だ。
それでいい結末になるならそれでいいだろと、ジョセフは暢気に考えていた。
■ ■
「うりゃああああああっ!!」
その巨体を活かした体術を繰り出すキン肉マンに、さしもの式も息を呑む。
魔眼遣い、俯瞰の悪霊、魔術師、殺人鬼。
多くの難敵を相手にしてきた式だが、この男は肉体武術だけなら最強クラスの評価を下せる。
故にそう、式の心を踊らせるには十分すぎる相手であった。
「……へぇ、やっぱ面白いな、おまえ」
高評価を下してこそいるものの、式は彼の攻撃を一度たりとも受けてはいない。
彼女はプロレスの世界には疎かったが、それでも技の型に填められるのが危険なことは理解できる。
ならば後の話は簡単なことで、攻撃を避けつつ要所要所で傷を与えていけばいいのだ。
さながら舞う白鳥のように美麗に、両儀式は全ての攻撃を避けきっていた。
確かに腕っ節は相当のモノだ。
されどそれはまだどこか甘さを残しており、その甘さこそが式との決定的な格差になっている。
きっと心からこの男は、誰にも死んでほしくないのだ。そのことは式にも十分に伝わっていた。
だが誤解を頑なになって認めないことが和解の道筋を阻んでいる。
式としてもこういう意味のない争いをしている場合ではないのだし、実際のところさっさと終わってほしいとさえ思う。
楽しくはあるが、こいつは明らかに自分の対極に近い存在だ。
決して相容れることはないだろうし、かといって式から殺す対象にはならない。
つまるところ、式にとっては何のメリットもない戦いなのだ。
そんなものに、いったい誰が乗り気になれるというのだろうか。
「けど甘いよ。おまえ、”殺”る気がないだろ」
「……やかましい! ワシはこんなことで、誰かの命が失われるなど許せんのだ!!」
振るわれる豪腕、式はひらりとそれを避ける。
キン肉マンは式の見立ての通り、決して弱い超人ではなかった。
幾多の強敵と切磋琢磨し合うことで、超人の中でもかなりの上位に君臨する強さを持っている。
それが思うように機能しないのは、ひとえにフィールドの違いだ。
キン肉マンはこういった、殺し合いを主軸とした闘争の経験が式に比べて格段に劣る。
命を左右するデスマッチの経験はあっても、格闘技の一切関与しない殺人に関して言えば、彼は素人もいいところだ。
だからこそ、殺すことに精通しすぎた式とは相性が悪い。
これならばと放った自慢の攻撃も全てが未然に防がれ、お得意の必殺技に持って行く暇すらない。
完全な劣勢だった。しかも、式が本気を出していないことが、キン肉マンには分かってしまったのだ。
(悔しい……超人が、勝負の土俵にすらあげて貰えないなど……ッ)
瞳に涙が滲む。
肌をなぞるナイフは傷を増やしていくが、一発とて致命打にはなっていない。
思えばこのナイフを持った女は、腕を斬られた少女を見て微笑んでいた。
なんて殺人狂いだ。狂っているとしか言い様がない。
こうして人の心を踏みにじって苦しめて、そうやって楽しむ手合い。
許せるか――いいや、断じて――
「……許せん!!」
そう叫ぶと、キン肉マンは自らの顔面を覆うマスクに手をかけた。
それは彼が選ばれた者である証の絶技。
彼らキン肉族の中でもごく一部以外の者は使えない――奇跡を起こす技だ。
これで、この戦況を変えてやる。
殺人鬼よ――ここからが、正義超人の本気だ。
ベリッとマスクを外すと、驚くべきことにキン肉マンのそのマスクからは目映い閃光が放たれるではないか。
てっきり愚直な格闘技のみを使ってくるのかと思っていた式は、対応することが出来なかった。
「――――フェイス・フラァァーッシュ!!!!」
その効力は文字通りの奇跡を引き起こすこと。
どぶ川を綺麗にしたり、巨大なシーソーを曲げたり、死人だって生き返らせる。
王家の血筋の更に選抜された者のみが使えるそれを、このキン肉マンは会得していたのだ。
光は闇夜の廊下を照らし、そして両儀式へととある異変を生じさせた。
「ぐッ…………!?」
突如走った閃光に視界を遮られ、だがそれも数秒、対処をしようと目を開いた式は驚愕する。
両儀式の世界にこれまで当たり前に視えていたものが、そこには一本たりとも存在しては居なかった。
――それは『死』のラインである。
断ち切れば誰もが例外なく死滅する、先程まではこのキン肉マンにも視えていたそれが、消えていた。
フェイスフラッシュが今回起こした奇跡は、両儀式から力を奪うこと。
直死の魔眼を彼女から剥奪し、彼女の中に存在する『両儀式』の人格が表面へ出ることすらも封じ込めた。
今や式はただの人間に戻され――そして今後一切、直死の力が戻ることはない。
「……やってくれたな、おまえ」
しかし式はそれでもなお、笑っていた。
キン肉マンはその笑みに戦慄を覚える。
それは最初に見た時の笑顔とも、戦いの最中に薄く浮かべていた笑顔とも違う。
あまりにも鮮烈で艶やかな、死神のような微笑みだった。
「いいよ――やろう。話が通じないんなら、そうするしかないよな」
式はナイフを捨てて、刀のようにしていたゼットソーを抜き払う。
……まったく、つくづく想定外だ。
まさかいきなりこんなにも大きな損害を被ることになるなんて、誰が予想したことか。
けれども式の根本にあるモノは――何も変わってはいない。
魔眼を欠き、『両儀式』の出現を封じ込められてもなお、彼女は冷たき死神だった。
どいつもこいつも腹立たしい。
それなら、殺してまかり通るしかない。
ああ――面倒だ。
「こ……来いッ!!」
「言われなくても行くよ」
超人の鋼の肉体と、死神の鋸が交錯する。
決闘は、これからだ。
そして緑髪の少女、園崎詩音は巡らせていた。
想い人の為に、全てを殺すため。
どうにかしてこの二人を出し抜き殺す術を模索していた。
(悟史くん――)
案など浮かぶわけがない。
これは現実なのだ。
こんな化け物二人を相手に、単なる子供でしかない自分に何ができるのか。
詩音は一人涙を流した。
悟史くんに会いたいと、その口からは声がこぼれた。
■ ■
カラドボルク
「――――偽・螺旋剣」
■ ■
刹那、爆塵が吹き荒れた。
その爆発源となったものは、遥かの彼方より飛来し、割れた窓から進入した螺旋に歪んだ一本の剣。
”それ”は室内へ入るなり、大爆発を引き起こす。
まずは全ての力を失った直死を灰燼と変えた。
多くの敵を討ち、自らの性と戦い続けた少女の、呆気ない幕であった。
次に、彼女とほぼ同座標にいたキン肉マン。
彼の強靱な肉体をしても、零距離でのそれには耐えられなかった。
肉は千切れ飛び骨の髄までを焼き焦がし、勘違いに気付く間もなく彼の命は燃え尽きる。
次は、ずっと二人の戦いを見ていた少女。
彼女の嘆きも祈りも、すべて一瞬の爆塵が無へと呑み込む。
とうとう彼女たちは、何が起こったかなど分からなかったろう。
ただの刹那。たったそれだけで、あまりにも唐突に――彼らの終わりはやってきたのだ。
【両儀式/坂本真綾@空の境界 死亡】
【キン肉マン/神谷明@キン肉マン 死亡】
【園崎詩音/雪野五月@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【残り77人】
■ ■
――どうしてこうなったのか。
その説明をするには、十数分前に遡らねばならない。
惨劇の舞台となった病院より少し離れた場所で、その少年は目覚めた。
「……どうなってやがる……!」
赤銅のような色の頭髪が特徴的な少年は、困惑よりも強い憤りを催しているようだった。
視聴者だかなんだか知らないが、殺し合えとは随分とふざけてくれる。
それも、大切な使命を果たそうとしていた人間を無理に招来してまで、だ。
少年、衛宮士郎は彼の本質にあるとある主義とは違う理由で、激昂していた。
何よりもその理由を端的に表しているのは、その片手に巻かれた赤い聖骸布の存在であろう。
解き放てば終わりのカウントダウンが始まる、赤き先達の腕。
その腕こそが、士郎に”こんなところで油を売ってはいられない”と思わせる。
(早く帰らないと、桜が大変だってのに)
間桐桜。衛宮士郎の大切な後輩で、現在進行形で運命に玩弄されている少女。
士郎には彼女を守るという大切な使命がある。
たとえこの身体が滅びようとも、本望だ。
彼女を深い深い闇の中から救い出して、彼女を脅かす因子は一つ残らず消し去ってやる。
その為に、士郎は疾く帰らなければならなかった。
しかしだからといって彼が殺し合いに積極的であるかといえば、それは否。
彼は根本的に自己犠牲の塊のお人好しなのだ、そんな彼が皆殺しにすることなんて考えられるわけがない。
……それに、そんな理由で誰かを殺すなんて認められない。
拳をぐっと握り締めて、士郎は戦うことを決めた。
けれど悠長にやっている暇はない、やるならさっさと片を付ける必要がある。
「武器らしいものはこのバットだけか――けど……」
金属バットを片手で軽く振りつつ、片腕に視線を落とす。
この聖骸布を解き放った瞬間、彼の世界は激変する。
宝具の投影が可能となり、英霊にすら届く力が手に入ることだろう。
但しその代償は、衛宮士郎という存在の終末。
そう時間を要さずに剣は自身を侵食し、やがては存在そのものを剣に変える。
だからこれを使うのは――なるべくなら、避けたかった。
とはいえ金属バットだけでも武器があるだけ十全だ、後は仲間を募りつつ乗った輩の無力化……ちょっと手荒になってしまうかもしれないが、みすみす口車に乗る方が悪いのだ。自業自得、というやつである。
「うし、そろそろ動いてみるか……」
敢えて独り言を口に出しつつ、士郎は立ち上がって身体を解すようにストレッチをする。
余程のミラクルがない限りは、荒事に巻き込まれるはずだから、身体が鈍っていては危険だ。
目下に見えた一軒の病院をまず目指そうと腰を上げた瞬間、がさりと何かが動く音がした。
ばっと身を翻して音の聞こえた方を見ると、そこにはばつが悪そうに両手を上げた長身の少年。
士郎よりも背丈はあるが、肉の付き方では士郎の足下にも及ばない。
どこか虚弱そう、という印象を受けた。
「すまない、別にお前をどうしようという気はなかったんだが……」
「……おまえも参加者か――って、見れば分かるな」
少年の首にも自分と同じ首輪がしっかりと巻かれている。
『視聴者』が参加者の監視の為に寄越した駒の可能性も一瞬疑いはしたが、この状況で妙な行動を起こそうとすれば制圧するのに苦労はない。
「そう簡単に信用しろとは言わないが、自己紹介だけでもさせてくれ。俺はルルーシュ・ランペルージ。殺し合いには乗っていない」
「……衛宮士郎だ。殺し合いには乗ってないよ」
本来衛宮士郎は、ここまで他人を疑る性格ではない。
だが何故だろう、士郎の直感が、この少年を簡単に信じるなと告げていた。
口では何とでも言える、油断して背中を見せたらドカン――なんて羽目になっては、洒落にならない。
必要以上の警戒を払うのは状況が状況でもあるのだし、仕方ないことだろう。
そんな士郎の態度に気付いているのかいないのか、ルルーシュはフッと小さく笑った。
その笑顔に士郎は怪訝な顔をするが、彼にしてみればそれは致命的な隙だった。
ルルーシュとの距離はおよそ3メートルほど。
銃器であれば、多少荒事に慣れた士郎なら取り出した瞬間に対応できる間合いだ。
彼は気付くことができなかった。
それは既に、ルルーシュ・ランペルージの魔眼(ギアス)の射程内であるということに。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命ずる」
先程までの甘いマスクからは想像もできない邪悪な笑顔が、士郎の目に映った時。
彼はやはりこの危惧は正しかったのだと気付くが、既に何もかもが遅すぎた。
士郎がアクションを起こすよりも先に、ルルーシュの呪言は紡ぎ終えられたのだ。
「――衛宮士郎、俺に従え」
たったの一言だった。
たったそれだけの簡素な命令が、士郎の命運を一瞬で尽きさせた。
正義の味方を志し、後輩を守ろうと鋼の意志を轟かせる英雄箪は――終わった。
「ああ、解った」
紅い瞳でそう答える士郎の姿が、彼が一瞬にして変わり果ててしまったことを示していた。
■ ■
(……これでいい)
長身痩躯の少年・ルルーシュは冷淡に胸中で呟いた。
彼は士郎を自らの術中にハメた後、彼の持つ情報をありったけ引き出した。
そこで得られたのは俄には信じられないソレばかりで、世界を相手に暗躍する革命家(テロリスト)”ゼロ”という素性を持つ彼でも、士郎の記憶にあった数多くのファンタジー小説じみた事柄には驚かざるを得なかった。
曰く、古今東西の英霊を喚びだしての聖杯戦争。
曰く、英霊達の宝具を投影再現できる魔術。
士郎が異常者か怪しい宗教の狂信者なのではと思わないでもなかったが、ほんの一言二言とはいえ彼と言葉を交わしたルルーシュには、衛宮士郎という人間がそういった狂気を内包しているようには感じられなかった。
彼が嘘を吐いている可能性についても否だ。
ルルーシュが彼に施した命令は、まさしく絶対遵守の語に恥じない絶対のものである。
――ギアス。
ブリタニアの魔女と契約して入手したその力を前に、命令に背ける存在は無い。
士郎には自分に従えとの命令を施した。
ならば彼が自分に反抗を示すような可能性は、万に一つもなく摘み取られた、というわけだ。
嘘など吐ける訳がない。信じがたいことだが、これらの情報はどうにも真実であるらしかった。
それを聞いたルルーシュが士郎に命じたのは、片手の聖骸布を解くことだった。
聖骸布の解放がどういった意味合いを持つのかはルルーシュも彼から聞き出している。
現に士郎の体調は明らかに悪そうで――彼の言葉を借りるならば、カウントダウンは始まっているようだ。
彼の事情を聞いて、後ろめたく思わなかったと言えば嘘になる。
ルルーシュは目的の為にならとことん冷酷になれる人間だが、その心の中には確かな人情が存在する。
士郎と桜の馴れ初めを聞けば、それを利用するのに些かの呵責を覚えた。
しかし、折れるわけにはいかなかった。
ルルーシュにだって、退っ引きならない事情があるのだ。
これまでに出してきた多くの犠牲を無為にしない為にも、自分は生き抜かねばならない。
……そうして、世界を変える。
その大儀を果たす上で生じる犠牲ならば、心を鬼にすることさえも厭わない。
彼の覚悟はそれほどまでに頑なで、隙間のない堅牢さなのだった。
そしてルルーシュが、近くの病院で戦闘が起きているのを察知できたのは完全な運だった。
それが誰であるかまでは解らなかったものの、窓を盛大に割って進入した挙げ句、大声でまくし立ててくれていたことが幸いした。
遠目でも、二人の人間が戦いに熱中しているのは窺えた。
ならばそれを狙わない手はないだろう。
只でさえ此方には――衛宮士郎という、規格外の弓兵(アーチャー)がいるのだから。
士郎に狙撃を命じれば、後は容易いことだった。
螺旋の剣は爆発を巻き起こし、あの分では二人とも生きていないことは明らか。
首尾よく、最低でも二名の参加者の処理に成功した――というわけだ。
「……おかしいな。もうちょっと、威力があったと思うんだけど……ッ」
士郎は狙撃を行ったことに悪びれるのではなく、被害規模の縮小に驚いているようだった。
投影使用の反動が響いているのか、表情は苦悶に歪んでいたが、気にしてはいられない。
「成程……強力すぎる力には、制限が科されているというわけか……。
この分では、俺のギアスも例外ではないかもしれないな」
心当たりがあるのは、『死ね』またはそれに準ずる命令であろう。
確かにそこまでやり放題ができるなら、視聴者とやらが望む殺し合いは成立しない。
士郎の言い草から察するに、本当は建物を崩壊させるくらいの威力はあるのかもしれないな、とルルーシュは思う。
(何にせよ、主催もそう容易い相手でないのは確かだ。やはり、反抗は無謀か)
ルルーシュ個人としては、あの視聴者は決して生かしておきたくはない類の人間である。
行く行くはルルーシュの統率するテロ組織『黒の騎士団』でもって、しっかりと始末させて貰うつもりだ。
けれどそれも、少なくともゲームが終わってからの話だ。
生きて帰れる保証がない以上は、自分の感情以前に生きることを第一に据えるべき。
そういう合理主義あってこそ、それは大望に繋がる。
(当分は士郎を利用して参加者を減らしつつ、配下を増やしていくとするか)
心は殺す。
全ては世界を破壊し、そして創造する為に。
既に全ての計画は、じきに完遂される領域まで来ているのだ。
ブリタニア帝国を相手に戦争を起こすところまではたどり着いた。
これから皇帝を殺してその玉座を奪い――”達成”する。
その前に死んでやることは絶対にできない。
全てを無為にしない為にも、自分は罪を背負わねばならない。
(ナナリー、スザク、シャーリー、ユフィ、ロロ……死んでいった者達の為に、俺のせいで人生を狂わされてしまった者達の為に……)
唇をぎゅっと噛み締めて、ルルーシュは誓う。
たとえどれほどの罪を重ねても止まらないことを。
愛しい妹の笑っていられる世界を――新たなる世界を実現するまでは。
(――俺は、戦う)
魔王と呼ばれた若き革命家は、悲愴な決意を今一度固めた。
【一日目/昼/A-2 街】
【ルルーシュ・ランペルージ/福山潤@コードギアス 反逆のルルーシュ】
【状態】健康、強い決意
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:優勝して元の世界へ帰り、目的を果たす
1:当分は士郎を利用しつつ、配下を集めていく
【備考】
※参戦時期はR2、帝国との戦争が開始して以降からの参加です
※ギアスについては『死ね』、それに準ずる自死に繋がる命令は出来ません
【衛宮士郎/杉山紀彰(書き手枠)@Fate/stay night】
【状態】生命のカウントダウン、ギアス
【所持品】基本支給品、ランダム支給品×2、金属バット
【思考】
基本:ルルーシュに従う。
【備考】
※桜ルートで、少なくともアーチャーの腕を移植されて以降からの参加です
※聖骸布を解いたことで生命のカウントダウンが始まりました。
※また、大きな反動を代償として宝具の投影が可能になりました。
※『偽・螺旋剣』については、攻撃の出来る規模が減少しています。
■ ■
「なんだよ……コレ…………っ」
ジョセフは目を見張って、広がる惨状を呆然と見つめる。
彼とその同行者、立華奏は投影宝具の爆撃をどうにか逃れていた。
『視聴者』からの制限により破壊規模を縮小されたことで、元より離れた地点にいたジョセフ達は三人の人間を一撃で焼き尽くすようなそれの被害を受けることを免れたのだ。
冷静沈着な奏もまた、この光景には些かの動揺を隠し切れていない様子だった。
無理もない、彼女は決して安穏たる日常を過ごしたわけではなく、普通なら死ぬような目にも沢山遭ってきた――それでもただの一度とて、それで人間が本当に死ぬ光景を見たことはなかった。
麗しい黒髪の美女も、筋骨隆々の格闘家も、まだあどけなさの残る少女も。
ただの一発の狙撃が、彼女たちに断末魔を叫ぶ暇さえ与えずに焼き尽くしていった。
あまりにも呆気なかった。奏の心だって、決して機械のように冷たいだけのそれではない。
事ある毎に天使と揶揄される彼女ではあったが、そんなことはなく、立華奏は人間である。
「あんな出鱈目できる奴が居るっつーのかよ……」
ジョセフは柱の男という規格外の存在を知っている。
だが彼らのそれと比べても、一撃の威力ならばこの爆撃が勝るだろう。
正直なところ、戦慄を禁じ得なかった。
狙われるのが自分だったとして、自分はそれに対処できただろうか。
奏を守った上で切り抜けることが、本当に可能だったろうか。
ジョセフは原型すら残さない焦げた塊へと静かに黙祷し、奏も従うように黙祷した。
が、ジョセフ・ジョースターは正義の血統を受け継ぐ者である。
彼の心には確かに、下手人への怒りがあった。
『視聴者』に従って、問答すらないままに三人の命を奪い去ったこと。
(ちーっと、オレもピキピキきちゃうよねぇーっ)
このふざけたゲームは自分が潰す。
こんな腐れゲームで誰かが死ぬなんて、考えただけでムカっ腹が立つというものだ。
亡き朋友シーザーならば、きっと同じことをした筈だ。
ならその背中を、自分もまた追いかけよう。
ジョースターの波紋戦士として、強き母の弟子として。
――奏は、思い返していた。
自分がここにこうして存在していることは、根本からして間違っている。
自分はずっと前に死んだ身で、とある後悔を胸に死後の世界を生きていた。
不器用な性格のせいで冷酷な天使と恐れられ、何度も不毛な争いを繰り返した。
でも最後には、好きな人の胸の中で未練を晴らすことができた。
そうして自分は――生まれ変わるために、”消えた”筈だった。
(私は……どうして……?)
まだ自分に、何かをしろというのだろうか。
それなら、応えるしかない。
ジョセフに協力して、殺し合いを打ち砕くという形でではあるが、しっかり応えよう。
ジョセフの話を聞くに、皆が皆”死人”であるというわけでないらしいことにはもう察しがついている。
先程の爆撃で死んだ三人が蘇りの気配を見せないのが何よりの証拠だ。
ここでは――命は一つきり。誰も病まない世界とは何もかもが違う。
(結弦…………)
自分の未練だった少年。
自分の最愛の少年。
どうしても今は彼の顔が見たかった。
その胸に――もう一度でいいから、抱かれたいと、強く思った。
【一日目/昼/B-2 病院】
【ジョセフ・ジョースター/杉田智和@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】健康、視聴者への怒り
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:殺し合いを潰して、『視聴者』をブチのめす
1:奏と行動する。
2:爆撃使い(士郎)には注意する。
【備考】
※参戦時期は第二部終了直後です
【立華奏/花澤香菜@Angel Beats!】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:殺し合いを止めて、生まれ変わる
1:……結弦……
2;ジョセフと行動する。
【備考】
※参戦時期は最終話にて成仏した直後です
※スキルについてはのちの書き手さんにお任せします
※B-2病院一階フロアの一部が酷く荒れています
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