デジャブが繋ぐ2つの魔法
「困ったわね……」
眉間に指を当てながら、巴マミは顔をしかめていた。
ただでさえ魔女退治で忙しいのに、よもやこんなことに巻き込まれるとは。
おまけに厄介なのが首輪だ。
どんな魔法を使っても、外すことも壊すこともできない。
大体、そこに至る状況すらも、とびきり不可解なものときている。
自分の声を封じた力は、魔法少女の魔法なのだろうか?
であれば、中年男性じみた姿は、変身の魔法でも使って取り繕ったのだろうか?
(だいたい、動機も腑に落ちないわ)
そもそもあれは何だったのだ――『視聴者』とやらの言葉を思い出す。
自分の声が自分だけのものではないとは、一体どういうことなのだろうか。
名乗った名前の意味も分からず、まともな思考力のない異常者ではないのかとすら思えてくる。
一体どうしろというのだ。
こうまで訳が分からないと、未知の力への恐怖よりも、頭痛が先に浮かんでくる。
怖がりな自分にそう思わせるのだから、相当な状況なんだろうなと。
そんな風に考えながら、思考を巡らせていると、
「――あのっ! ちょっと、いいかな?」
不意に背後から、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ……ええ、何かしら?」
振り返って、呼び声に応じる。
そこに立っていた者は、同い年くらいの少女だった。
青いボーイッシュな髪型は、魔法少女候補の美樹さやかを想起させる。
しかし、それ以上に目についたのは、身に纏った茶色いスカートスーツだ。
デザイン的には、軍服や、警官の制服に近いだろうか。
少なくとも、中学生の少女には、似つかわしくない装束であるのは確かだ。
「貴方は、その……この殺し合いには乗ってるの?」
「いいえ、乗っていないわ。人が人を殺すだなんて、到底認められることではないもの」
「よかったぁ……実は、あたしもそうなんだ」
ほっとした様子で、少女が言う。
そして内心では、マミもまた、彼女の言葉に安堵していた。
そうだ。殺し合いになど乗れるはずもないのだ。
正義の味方を目指す己には、人を殺すことなど認められない。
出会った相手が乗っていて、自分に襲いかかってきたとしたら、手荒なことをしてでも止めなければならない。
この場に来て一番最初の出会いが、そんな殺伐としたものではなかったことに、マミは心底ほっとしていた。
「自己紹介が遅れたわね。私は巴マミよ。よろしく」
「あ、そだね。あたしはスバル・ナカジマって言います」
「スバル・ナカジマ……日系人の方かしら?」
日本風の名前だが、姓名の順序が日本式とは逆だ。
些細なことだが、そこが気になり、スバルなる少女に尋ねてみた。
「にっ……けい、じん?」
「日本人の血を引いた人のことよ。たとえば、アメリカと日本のハーフだとか」
「……あー……そゆことか。んーとー……これ、言っていいのかなぁ……」
「?」
不可解なリアクションを前にして、マミの頭に疑問符が浮かぶ。
彼女は何故そこで悩んだのか。
自分の国籍を明かすことに、何故そのような逡巡が必要になるのか。
「……ええい、いいや。非常事態なんだし、言っちゃえ言っちゃえ」
結局その答えが出るまでに、30秒ほどの時間が要された。
◆
スバル・ナカジマ二等陸士は、時空管理局の局員である。
時空管理局とは、次元世界の秩序を、魔法の力で維持するため、日夜活動している治安維持組織だ。
要するにスバルは、巴マミの住んでいる地球とは、別の世界からやって来たのである。
そして彼女は、そのことを、マミに簡単に説明した。
本来なら知られない方がいい事実だが、状況が状況だ。知っておいた方がいいと判断したのである。
「本当に、私達の魔法とは全然違うのね……」
意外だったのは、そのマミもまた、魔法と呼ぶ力を持っていたことだ。
と言っても、彼女らの用いている魔法は、自分の知っているものとは、随分と様子が違っていたが。
「そうだよねぇ。魔法少女、なんて肩書きも、あたし達じゃ考えられないものだし」
何でも、地球の魔導師は、少女にしかなることはできないそうだ。
魔導師の資質を持った少女が、キュゥべえという名の生物と出会い、
ソウルジェムというアイテムを渡されることで、初めて使えるようになるのだという。
自らの体内にあるリンカーコアから、自力で魔力を引き出すスタイルとは、まるきり性質の異なるものだ。
「リンカーコアというものは、私達地球人の中にもあるものなのかしら?」
「何人かは持ってると思うんだけどねぇ。あたしの上官にも、地球から来た人が2人いるし」
少なくとも、恩師・高町なのはからは、キュゥべえなどという名前は聞かされていない。
そのことからも、魔法少女と魔導師とは、全くの別物なのだろうということが分かる。
「いずれにせよ、戦える力があるのなら、心強いわね」
とはいえ、そこを気にするのは後だ。
今必要な真実は、この状況を共に戦い、切り抜けられる力があるということだ。
マミの言葉に、スバルは力強く頷いた。
「あたしもマミも、みんなを助けて、ここから脱出したいと思ってる同士……」
「1人では難しいかもしれないけれど、共に戦うことができるなら、可能性はぐっと開けるわ」
だから、共に戦おう。
助けを待っている人々を、私達の魔法で救いに行こう。
形は大きく違ったとしても、同じ名の力を持つ者同士、固く決意を誓い合った。
「……そうだ。1個、気になったんだけどさ」
と、そこで。
スバルは不意に思い出したことを、マミに向かって問い掛けた。
「あたし達って……前に会ったことなんて、ないよね?」
「? そうね……住む世界が違うのなら、そんなことはないはずだけど」
「まぁ、そうだよね……でもさっきから、マミの声って、何となく聞いたことがあるような気がするなー、って思ってて」
恐らくは、単に『視聴者』の言葉を聞いて、意識が過剰になっているだけかもしれない。
それでも、巴マミの発する声には、何故か聞き覚えがあると思った。
過去に会った可能性など、確実に皆無であるはずなのに。
「! ……そう……そうね」
「? どうしたの?」
「言われてみると、確かに……私も、ナカジマさんに似た声を、どこかで聞いたことがある気がするのよ」
「えっ!? マミも!?」
この言葉には、さすがに驚いた。
これは一体どういうことだ。
ミッドチルダの機動六課隊舎と、地球の見滝原市――交わるはずのない土地同士に、奇妙な共通点が浮かび上がった。
自分達は、お互いに、相手の声色と似たような声を、どこかで聞いたような記憶があるというのだ。
「ひょっとしたら……『視聴者』の言ってたことと、何か関係があるのかしら……?
本当は君と同じ声なんて、いくらでもいるんだから。
『視聴者』の語った不可思議な言葉が、奇妙な存在感を伴って、頭の中でリフレインしていた。
【1日目/深夜/E-4】
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:殺し合いを止め、皆で脱出する
1:ナカジマさんと行動を共にする
2:他の参加者を探しに行きたい
3:『視聴者』の言葉が気がかり。自分とナカジマさんが、お互いの声に聞き覚えがあることが気になる
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはStrikerS」の世界観と、時空管理局および魔法についての説明を受けました
※2話終了後からの参戦です
※スバルの声に、暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカの声の面影を感じています。
それがほむらのものであることには、まだ気付いていません
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康
【所持品】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考】
基本:殺し合いを止め、皆で脱出する
1:マミと行動を共にする
2:他の参加者を探しに行きたい
3:『視聴者』の言葉が気がかり。自分とマミが、お互いの声に聞き覚えがあることが気になる
【備考】
※「魔法少女まどか☆マギカ」の魔法についての説明を受けました
※ヴィヴィオを機動六課で預かるようになって以降からの参戦です。
正確な参戦時期は、他の書き手さんにお任せします
※マミの声に、ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerSの声の面影を感じています。
それがヴィヴィオのものであることには、まだ気付いていません
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