永遠(とわ)なる花よ咲け






「う、嘘ついてんじゃねーよな。バレバレなん、だよ。なぁ、絃子?」
 播磨の問いに答える者など、答えられる者などいなかった。
 3人を射す日差しはあまりに苛烈で、あまりに冷たい。



 12時を告げる放送は3人には残酷な現実でしかなかった。
「美琴、天満。……なんで? どうして?」
 少女には似合わない黒塗りの拳銃を握る力が自然と抜ける。
「うるせー! 天満ちゃんが……塚本が死ぬわけねーだろ。それに周防だってさっきハリーが……。どうせ、どうせ絃子の悪い冗談に決まってんだ!」
 だから、と続ける播磨の言葉を遮ったのは物言わぬ鉄の塊。
 沢近は銃身を播磨の頭に向けていた。数瞬前とは違い、拳銃を強く握り締めて。
「あの放送が真実だって、私は知ってる」
 それはつまり、私が美琴を見殺しにしたということ。
 そう沢近は知っていた。
 酷く歪曲された真実であろうと沢近にはそれが真実だった。
「あの放送が真実だって証明して見せたのはヒゲ、あんたなの」
 嵯峨野の顔が、梅津の顔が浮かんでは消える。
「あんたみたいな人殺しがいなければ誰も死ななかった。あんたみたいなバカを信じなきゃ真実を知らずに済んだ」
 沢近の視界が涙で霞む。もう播磨の顔すら碌にわからないに違いない。
 しかし、沢近にはその方がずっと楽だった。
「あんたみたいな奴はみんな死ねばいいのよ」
 見えないほうがずっと楽に引き金が引ける。
 だって目の前の彼は――。
「……あんたなんか死んじゃえばいいのよ!」

 目の前の彼は――播磨拳児だから。

「止めるダス!」
 放送から衝撃を受けながらも、それでも必死に禁止エリアを書きとめていた西本が狙撃銃を沢近に向けて叫んだ。
 西本は沢近の言葉がきつくなり始めると、手元に置いていた銃をしっかりと握り締めていた。
「そんなことをしても、もう誰も戻って来ないんダス」
 沢近の震える手を、そして相変わらず播磨に向けられている拳銃を見据えながら、尚も西本は続ける。
「そんなことをしても、周防さんも塚」
「だから死んでねー!」
 思いの丈を乗せた叫びだった。
 播磨にとって、否定すべきは自分の罪より少女の死だから。
「死ぬわけねーんだよ。よく考えてみろよ」
 頭に浮かぶのは、もう帰ってこない少女の笑顔。
「あんなに誰にでも優しい塚本を、あんなに素敵な笑顔の塚本を」
 言葉に乗せる思いは、もう二度と叶わぬ恋。
「一体、どこのどいつが殺せるっつーんだよ!」
 泥臭くたっていい。不恰好だっていい。
 それで少女がまた微笑んでくれるのなら、何度だって叫ぶ。
 そう、彼にとって少女の死は自分の全存在を懸けてでも否定すべき事実。
 ――だからこれは。
「あんた、まさか……泣いてるの?」
 ――泣いているわけじゃない。
 頬を伝うのは淡くて綺麗な雫。
 そして瞳は黒塗りのガラスに遮られて見ること適わない。
「……行くダス、二人とも」
 西本は沢近の心の揺らぎを確かに感じた。
 そう、全ての歯車を元通りに直すには今しかなかった。

「真実を確かめに行くダス!」



 ハリーは高ぶる感情を抑え、冷静に放送を聞いていた。
「これで、6人目カ」
 放送を聞く前から分かっていたことだが、その事実は放送によって更なる確信を深める。
 そして、それはやがてハリーの自信となっていく。
 ハリーは既に殺人マシーンと化していた。
「しかし、妙だナ。あの男は三沢と呼ばれていたハズ」
 あそこまで死を恐れていた人間だ。何者かが三沢に手を下したとみるのが妥当。
 ハリーはそう結論付けると出来る限り慎重に冬木の死体まで接近していた。
 使えそうな荷物だけでも持って行ったほうが良いことから、付近に殺人者がいることを覚悟で行動を起こす。
 素早く、静かに、決して誰かに気取られることないように。

「結局は取り越し苦労だったわけカ」
 ハリーは冬木の傍にあった三沢の死体を確認し、三沢の荷物以外の損害がないことに幸運を感じたが多少の疲れに愚痴を零す。
 気持ちの切り替えという点において、その点においては自分はかつて相棒と呼んできた男に劣っていることを自覚していた。
 いや、かつて相棒と呼んできた男は気持ちの切り替えがあまりに速過ぎたのかもしれない。
 相棒だったかのような男との過去を少し思い返す。
 あの頃は周りで起きる全てが新鮮で、全てを楽しめた。純粋に面白かった。
 赤い狼と呼ばれていた時よりも、血に飢える野獣だった自分よりも、いつの間にか2-Dとして過ごしていたあの時のあの自分を好きになっていた。心の底から満ち足りるようになっていた。
 いつか国に帰った時、胸を張って紹介してやりたいと思える仲間も出来ていた。
 隣のクラスとの名誉を懸けた戦いで悔しい思いをすることもあったし、色々と面倒を看なければいけない仲間もいたが、それら全てを自分は愛していた。本当に愛していた。

 しかし、あの頃にはもう戻れない。

 もう既に6人を殺めた。いつの間にか帰り道など失っていた。
 一つ笑いを浮かべると、すぐさま自分が今やるべきことを判断する。
 自分の全感覚を頼りに辺りを探りつつ、残った荷物の確認をするべきと即座に決断し実行する。

 まず見つかったのはリヤカーに入ってる荷物。バッテリーや食品など使えるものばかりがそこにはあった。
 そして、三沢と冬木の死体を探る。
 興味を引くものは入っていないと諦めかけた時、冬木のポケットからなにやら書いてある紙切れが出てきた。
 そこに書かれていた字には見覚えがあった。その筆跡は確かにあいつのものだった。
 締めの一行には、東郷雅一と記されていた。
 それは、『相棒』が生きていた、そして散っていった証だった。
 怒りとはまた違った感情がハリーの胸を満たしていく。

 ガサッ。

 草を踏みしめる音が聞こえる。
 ハリーは東郷のメモをリュックにしまいつつ草木の陰に身を隠した。
 ガサッ、ガサッ。
 その音は徐々にハリーに近づいてきている。
 こちらの姿を悟られないようにハリーは相手を盗み見た。
「……」
 歯が音を立てて軋む。
 瞬間、胸が焼けるように熱くなっていく。
 ――東郷の仇、播磨拳児が近づいてきていた。
 少なくともハリーにとって、仇という架空の事実だけが重要であった。
 胸を熱く焦がしながらもハリーは冷静に敵の戦力を観察する。
 相手は3人。最後尾にハンドガン片手に歩く金髪の少女。一番手前には狙撃銃を抱える太めで坊主の少年。そして二人の間に挟まれているのはハリーお手製の投擲ナイフを握るサングラスの男であった。
 確認するとハリーは一瞬にして分が悪い事を悟る。
 二人も銃器を持つ人間がいることに加え、肉弾戦でも微力ながらも使用できる武器を持つ男までいるのだ。当然のことである。
 しかし、ハリーはこの戦いだけは引くことを強く拒んだ。
 自分の手で仕留めねばならない男を見つけてしまったのだ。
「相棒、か……フッ」
 耳を澄ませば自然と聞こえてきた。
 ――相棒と呼ぶ、東郷の声が。
「相棒はよせ」
 ハリーも何とは無しにそう答える。
「そう、これは聖戦ダ」
 自分に一つ言い聞かせる。
「Dead or Alive?」
 そう呟くと、手には鉄パイプでも投擲ナイフでもなく本来の自分の得物を握り締め、冷静に考えれば無謀とも思われる行動を開始する。
 ハリーは色んな面で高校生離れしていた。
 だがしかし、彼もまだ高校生だった。




 短距離戦までもつれこむ過程で一番やっかいだったのはハンドガンを持つ沢近であるとハリーは確信していた。
 もちろんハリーにとって最も優先して殺すべきは東郷の仇である男だった。
 しかし例えいきなりの襲撃が成功したとしても、最初に播磨を襲えばすぐ後ろで常に前の男を警戒し続けている様子の沢近に、至近距離での銃撃のチャンスを簡単に与えることになってしまう。
 これが危険な戦いだからといって、ハリーは何もそこまで死に急ぐ気はなかった。それに第一撃を決められればこの戦いだって確実に物にする自信があった。
 それは裏を返せば第一撃を決められなければ――という覚悟の上での考えである。
 そして西本達は西本を先頭に播磨、沢近と続いている。
 ハリーにはソコ以外への第一撃はありえないと確信する。
 沢近の首を見るハリーの目は、まさに喉元へ飛び掛ろうとする狼のそれであった。

 西本達は真実を確かめるためにホテルを離れた。
 先の放送で死んでいった者たちの中で、唯一大体の位置の見当が付いていた三沢の下へ向かう。放送のすぐ前まで、確かに命を燃やし続けていた三沢の下へ。
 彼らは今すぐに真実を手にしたかった。
 彼らはもう、信じることで受ける辛さにも、信じられない辛さにも耐えられなくなりそうだった。
「私はあんたがそのナイフを持つこと自体反対なんだから」
 沢近は信じることで裏切られ、信じることを放棄していた。
「変なことをしてみなさい。今度こそ間違いなくあんたの頭を撃ち抜いてやるわ」
「あん?」
 播磨は振り向きつつ返事をする。
 二人の声には明らかな苛立ちが含まれていた。
 ――そんなことを余所に、狼のハンティングは始まる。
「もう止めるダス。今だっていつ襲われるかわからんないんダス。仲間同士でいがみ合ってどうするんダスか」
 やれやれと二人を宥める西本。彼らはあまりに精彩を欠いている。
「こいつのこと、なんか……仲間だなんて、思ってるわけないわ」
「へーそれは奇遇だな。俺もおま」
「だから止めるダス!」
 せっかく近づいてきているというのに離れようとする彼らを、全ての真実が迫ってきているのに揉めることになっている彼らを、西本は理解し難かった。
 ――ゆっくりと迫りつつある危機に気づくものはいない。
「……あんなところにリヤカーみたいな物があるわ」
「……それに……近くに何かが転がっているみたいダス」
 リヤカーと死体に気を取られている。狩りにはもってこいのタイミングだった。
「あれ、は……」
 人が転がっているのだとわかった瞬間、播磨はそれから目を逸らす。
 それは一重に少女の死を認めたくないが故の行動であった。
「チッ」
 決して辺りを警戒したからというわけではない。

「どけっお嬢!」

 だから、飛び掛ってきた狼と目が合ったのは全くの偶然だった。
 銀の刃が煌く。
 播磨が沢近を突き飛ばす。

 ――首の皮一枚。

 まさにそう表現するしかない。
 沢近の首元すれすれをサバイバルナイフの一閃が通過した。
「チッ」
 狼はまた舌打ちを鳴らす。
 沢近の首元すれすれに合ったナイフは今度は播磨に向けられている。
 播磨の持っているナイフはこと近接戦闘においては強度もなければ殺傷力も低い。間合いではサバイバルナイフに勝っているが、それすらも肉を切らせて骨を絶てばいいことである。
 それに播磨との立ち位置が近ければ近いほど援護の射撃も自然撃ちにくくなるというもの。
 そのことを戦闘の流れの中で計算するとハリーは播磨との間合いを一気に詰める。
 しかし、そこは播磨。光物を持つ相手との戦闘経験もないわけではない。そして手には凶器がある。こういう場合はどうすれば良いか体が覚えていた。
 播磨は投擲ナイフを短く持ち、構える。

 ――臆せば死ぬ。

 合間見えようとする二人はそのことを十分に承知している。

 バンッ。

 デザートイーグルが鳴いた。
 沢近は突き飛ばされてすぐ寝たままの体勢でハリーに鉛を見舞っていた。

 ――やったか?

 ハリーと相対している播磨は一瞬逡巡する。

 ニヤリ。

 そう聞こえてきそうなほどの笑みを浮かべてハリーは茂る草木に身を投げる。

 ザクッ。

 ハリーの身投げと同時に播磨が投げたナイフはしかし、ハリーではなく地に刺さる。
 沢近は体を起こしハリーに銃を向ける。
 彼女は迷った。
 障害物が多かろうと数撃つべきか、しかし先程のように無駄撃ちはしたくない。
 結局ハリーが距離をとって木の裏に隠れるのを見守るしかなかった。
 ハリーが離れたのを確認すると播磨はリュックを下ろしてナイフを拾い身構える。
 ふと、高笑いと嘲る声が聞こえてきた。

「銃撃もナイフも、当たらなケレバドウということはナイ」

 ハリーは自分にはまだ運があると確信している。
 標的を仕留め損なったものの、まだ自分にはこの命がある。
 それこそが自分の運の確たる証拠だった。
 これ以上の深追いは無意味、下策、問題外。
 そう理解するとハリーは彼らから逃げ出すための算段を立てる。
 まだ狼の瞳はギラギラと輝いている。


「チェックメイト、DAS」


 西本は最後の一手を狼の向ける。その言葉の真の意味は、狼の『相棒』が教えてくれた。
 輝く銃身。それが確かに狼の頭に突きつけられていた。
 向けられた黒い塊はハリーの希望を奪うには十分の代物だった。
「フッ、眼中にもなかったというのニ……若さゆえの過ちというやつカ」
 熱くなりすぎたことを今さら後悔する。
 ハリーは西本を侮っていた。抱えていた武器は、自分相手には飾りにしかならないと高を括っていた。
 だからこそ、西本の急襲の気配すらつかみ取れなかった。
「認めたく、ないものダナ」
 ハリーはナイフを手放し自分の敗北を悟った。
「……西……本。西本!」
「……西本君!」
 播磨と沢近は嬉しさのあまり西本の名前を叫び手を握りあった。
 当然のように一瞬で互いが互いを突き飛ばし合い、その距離はまた離れる。
「そんなことしてないでワスを手伝って欲しいダス……」
 二人の間にはまた嫌な空気が流れ出すが、今はそれよりも大事なことがあるのだと西本は理解していた。
 先程まで周防と一緒に居て、自分達をいきなり襲い、石山を、そしてたぶん菅までもを殺したナイフをリュックに先端だけ覗くように無造作に突っ込んでいるこの男の存在が一番重要だった。
「ハリー君にはこれから出すワスの質問に答えてもらうダス。答えない時は容赦なく撃たせてもらうダス。……ワスが、答えを嘘だと判断した時も迷わず撃たせてもらうダス」
 西本は自分達も命を狙われたのだから、それくらい当然してやるという具合に脅しをかける。
 実際播磨や沢近は容赦なくハリーを返り討ちにしようとしたことから、この脅しの効果は確かだと思っていた。
 しかし西本にとって、リュックから覗く黒光りする投擲ナイフを見た瞬間から脅しは脅しではなくなっていたのかもしれなかった。
「誰を、殺したんダスか? 一体何人を手にかけたんダスか?」
 その質問は播磨や沢近までをも緊張させるものだった。
「悪いが殺した相手の名前などいちいち全員は覚えてはいないナ。殺った人数は6人ダ」
「どうしたよ? おもしれーくらいに素直にペラペラ言うじゃねーか」
 言葉の中身までが嘘か真かはわからなかったが、話すことで有利になるとは思えないことをハリーはズバズバと言い放った。そのことで播磨はイラつくと共に不信感を抱いていた。
「それが武士道って奴なんダロ? 負けた時は、死ぬ時は潔くサ」
 それは普段のハリーらしいといえば、ハリーらしかった。
 狼の目は既に輝きを失っている。
「人殺しが勝手なこと言ってるんじゃないわよ!」
「まぁまだ落ち着くダス」
 いつ暴走するかわからないほど興奮している沢近を宥める西本も、その実心中穏やかではない。それでも西本には知りたいことが、確かめたいことがあった。
「じゃあ質問を変えるダス。一体どこでどんな姿の人を何人殺してきたんダスか?」
「まず始めにこの島の一番東側でテンノージを殺させてもらっタ」
 依然向けられる銃にも何者にも臆さずに、牙の折れた狼は告げる。
「なってめぇ!」
「あ、あんたも動かないで話を聞きなさい」
 沢近は気丈にそう言い放つが、その声は確かに震えていた。
「その次は山道で金髪のチビを一人」
「……よ、吉田山君、ダスな」
「そしてホテルで君達といた二人の男を殺しタ」
「……」
 腸が煮えくり返る音が聞こえた気がした。
「その後で君達の仲間の格闘もそこそこ出来る女を殺し」
「……」
「最後にソコで眠る眼鏡のほうの男を」


 冷たい音が永遠に響く。

 堪え切れなくなった思いがデザートイーグルに込められた。
 もうそれはどうしようもないことだった。

「あなたが、殺したのは……私の、親友……」

 誰もが口を開こうとはしなかった。
 ただそこには、返り血を浴びた3人の高校生と、頭部などは見るも無残で、髪を真っ赤に染めた狼だった男がいた。
 ハリーの輝きを失った瞳を閉じさせた後、少年は項垂れるお嬢様に声をかける。
「おめぇが殺らなくても、俺が殺ってた」
 慰めの言葉ではない。それは事実。
 けれども、いくら強がっていても心が折れかけている沢近には、その言葉は優しすぎた。
 優しさのかけらもないその言葉が、沢近には優しすぎた。
 だからそれが悔しくて、死ぬほど悔しくて――生まれて初めて、母以外の人前で声を上げて泣いた。
 悲しかったからではない。辛かったからではない。悔しいから泣いているのだと言いたかった。
 けれども次から次へと喉から溢れでる思いが、彼女にそれを許さなかった。
 目の前ですかしている男は死ぬほど憎いはずの相手なのに――けれども、殺したいほど――。



 ハリーからリュックとナイフだけ引き剥がすと、西本達はリヤカーに荷物をまとめた。
 ハリーの死体も放っておく訳にはいかず、播磨と西本で三沢達の傍に横たわらせる。
「三、沢君の頭に刺さっているナイフは……見た限り、確かに飛び出すナイフ、ダス」
 あくまで平静を装って西本は語る。
 ここに来てからというもの死体に慣れてしまった自分がいる、と西本は感じていた。
 先程までは煮え立っていた腸が、今度は食料を求めていることからもそれは明らかだと自覚していた。
「だろ? ……だから俺は誰も殺してねーっつったんだよ……おい、聞いてんのかよ、お嬢」
 播磨の声にもいつものメリハリは感じられない。
「あー、そう」
 誰もが無感動を装う。死体を見ても何も感じていないと言い聞かせるように。
 しかし無理に繕ったその様はあまりに滑稽で、むしろ各々の動揺をありありと伝えていた。
「あーそうって、てめえが色々」
 西本が播磨の話を手をかざして遮る。
「まぁ何はともあれ、これでなんとかちゃんと信じられる仲間も揃ったダス」
 西本は自分の声が震えていることに、果たして気づいているのだろうか。
「でも、大切な人はそれ以上にいなくなったわ」
「……」
 現実から目を背けるのは愚か者のすることで。
 かといってひたすら苛むのはもっと稚拙で。
「……うるせぇよ」
 それでも播磨は、必死に天満の死を受け入れないよう努める。
「あんたにはどうせ、私の気持ちなんてわからないでしょうね」
 沢近は、精一杯に夢見る自分を罵倒する。
「だったらどうしたよ?」
 どちらも間違っている。
「みんなで楽しくエルカドに行って、笑って怒って時には泣いて」
 間違っていることなんかとっくに自覚もしている。
「そんな普通の楽しみすらも奪われた私の気持ちなんて、あんたにわかるはずがないもの!」
 裏返った声が痛々しい。
「だったらどうしたっつってんだよ!」
 震える声は強さを帯びない。 
「止めるダス。沢近さんも播磨君も一緒なんダス。ワスだって……ハリー君だってきっと一緒だったんダス」
 辛いのに、苦しいのに、それでも争う二人が悲しくて。
「みんな、苦しいんダス」
 仏も瞳を輝かせる。
 誰もが不安に雫を輝かせる。

   ――殺し合いが始まったから。
 親しい者達の殺し合いが、始まってしまったから。



 あなたのおかげで幸せだった。
 だから俺は花を咲かそう。
 決して枯れぬ、花を咲かせる。
 『――』という名の、綺麗な花を。

 この――命を懸けて――。



【午後1時〜2時】

【播磨拳児】
【現在地:E-03】
[状態]:疲労、精神不安定、混乱、返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(食料5,水3)、インカム子機、黒曜石のナイフ1本(ボロボロになっている)
[行動方針]:1.天満を探す? 2.絃子を詰問し、事と次第では……?
[備考]:サングラスをかけ直しました。未だに吉田山が死んだとは思っていません。
      天満の死を否定していますが、本当は気づいている(?)

【沢近愛理】
【現在地:E-03】
[状態]:精神不安定、返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(水2,食料5)、デザートイーグル/弾数:6発
[行動方針]:晶などの友人と合流する。
[備考]:播磨を信用しきってはいません。今後の行動目的が今一定まっていません。

【西本願司】
【現在地:E-03】
[状態]:激しい精神的消耗、肉体疲労&筋肉痛(多少回復) 、返り血にまみれている。
[道具]:支給品一式(水4,食料4 ※水1と食料2は周防から預かり)、携帯電話、山菜多数、毒草少々、ドラグノフ狙撃銃/弾数10発、山の植物図鑑(食用・毒・薬などの効能が記載)
[行動方針]:仲間を集める。
[備考]:反主催の意志は固いようです。

[共通備考]:リヤカーを調べる

【ハリー・マッケンジー:死亡】

――残り17名


※リヤカーやその中身は冬木の死体の傍にあります。冬木、東郷のリュックやその荷物はリヤカーの中です。
  リヤカーの中身…支給品一式*2(食料のうち一つはカレーパン)、バッテリー、雑貨品(スコップ、バケツ、その他使えそうな物)
  東郷のメモはハリーのリュックの中です。ハリーのリュックはリヤカーの荷物と一緒に纏めて置いてあります。



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