午前11時に近づいた頃、城戸円は分校跡を目指して予定通りにE-03の林の中を進んでいた。
すでにホテル跡は木々の間、遥か遠くに見える。先日は特に何もせずに通り過ぎていったが、今回も立ち寄る予定はない場所だ。
ヘリポートまであってそれなりに設備は充実しているようだが、複数の人間が集まっている可能性を考えれば近寄るのは得策ではない。
それに、彼女が目指す南の地はそこではないのだから。

周辺は地図では分からないが意外と起伏があり、特にE-02からE-03にかけての一帯は最も傾斜がきつかった。
その為、ピークを過ぎた現在は比較的緩やかな下り坂が続いている。
彼女は周囲に敵がいないか警戒をしつつも、ここまでは順調に進んできた。
だが、ここから先には舗装された道路があり、人の往来が無いとも限らない場所だ。
相手が単独で重症を負っており、しかも強力な武器を持っていたら最高だが、現実はそう甘くは無いだろう。
戦うなら、確実に勝てそうな相手を。それ以外なら、見つからずに逃げる。
城戸はあくまでも慎重姿勢を貫くつもりだった。

時を同じくして、ホテル跡周辺。
沢近愛理は、いつしか周防美琴が自分についてきていなくなっていた事にも気付いてはいなかった。
彼女の頭にあるのは、殺人鬼・播磨拳児と決着をつける事だけだ。走る最中、彼女はデザートイーグルを取り出しイメージする。
嵯峨野を殺し、梅津を殺し、自分を裏切った男に弾丸を撃ち込む姿を……

やがて周囲からは林が消え、木や茂みが点在するだけの開けた草原が沢近を迎えた。
目指すホテル跡は前方にそびえ、屋上のヘリポートがその存在を誇示している。
そして……その建物のすぐ前の道に、彼女は一人の男を見た。
見間違える筈がない。自分を裏切り、友達を殺した男。漆黒そのもののサングラスをかけ、呆然とこちらに向き直ったそれは……
「ヒゲェェェェェェェェ!」
怒り、憎悪……沢近の中で溜まった播磨への感情が爆発した。目を見開き、銃を突きつけたまま彼女は走る。
播磨は何かを叫んでいるが、彼女はそれに見向きもせず距離を縮めていった。
最初は沢近に背を向けホテル跡へ引き返そうとした播磨だったが、何故か彼の動きが悪い。
彼の詳しい状態など沢近には分からなかったが、二人の距離が詰められると播磨は再び何かを叫びながら両手を上げた。
恐らく、沢近の持つ拳銃に気付いたのだろう。そして、それから走って逃げる事が困難であろう事も。
「……おい、お嬢! 話を聞け! 昨日のアレは事故だ!」
「……荷物を全部捨てなさい。早く!」
もう、過ちは繰り返さない。昨日の彼は自分達と話をしながら隙を作らせ、油断した所で刃を飛ばしてきた。
だから彼女は播磨に隙を見せないし、逆に彼の僅かな動きも封じるつもりだった。
「早く捨てなさい! ナイフも、嵯峨野さんから取ったバットも、全部!」
「ちょ、ちょっと待て! 俺はナイフを……あ、いや、とにかくバットなんて一度も触ってねえよ!」
「いい加減にしなさい! 嵯峨野さんもあんたが殺したくせに! 捨てなさい!」
全く取り合わなかった成果か、ついに播磨はリュックを投げ捨てた。沢近はその一挙手一投足に冷や汗を浮かべ、肩を震わせる。
彼女にとって昨日の夜は、播磨という恐怖との戦いの時間だった。次に自分を狙いに来るのではという、いつ来るとも知れぬ恐怖だ。
だから彼女は播磨の一瞬の動きにも神経をすり減らし、ナイフを出さないか、いきなり殴りかかってこないかと警戒し続けていた。
過剰なまでの今の彼女の叫び声は、その恐怖の裏返しでもあった。少しでもそれを紛らわせたいが故の……

同じ頃、周防を殺し彼女のリュックを奪ったハリー・マッケンジーは、周防の遺体はそのままに一人西側の林の中に入り込んでいた。
彼女の荷物にノートパソコンがあり、北の鎌石村に充電器がある。そこまではいいが、彼の荷物はすでにかなりの量になっている。
このまま周防のリュックも背負っていたら、いざ攻撃行動に移る際に支障を来すのは間違いない。
そこで多少の荷物整理を行なうべく、人に見つかりにくそうな林の中に足を踏み入れたのだった。
周防と途中まで一緒に居た女子が戻ってくる可能性はあるが、そこは野晒しにしておいた周防の遺体がいい足止めとなってくれるだろう。
だから彼はゆとりを持ってちょっとした斜面を登り、道路をある程度見渡せる場所を確保した。
とりあえず周防のリュックを下ろし、まずは中身の確認をする。
食料が全く無く、あったのは中途半端に中身が残ったペットボトルが一つ。そして……
「パソコンは……やはりバッテリーがナイな。そしてコレは……インカム?」
ハリーが取り出したそれは、恐らくインカムだろう。どこのメーカーかは分からないが、それは一つしか見当たらなかった。
「……主催者のイジワルでないなら、最低もう一つはあるんだろう……フ、フフフ……」
薄ら笑いを浮かべながら、ハリーは周防のリュックのペットボトルをあけ、水を口に流し込む。
二、三回ゆすいで吐き出すと、若干赤黒い水が口から出てくる。ハリーはこれを中身が無くなるまで何度か行なった。
先ほど周防に殴られたせいだが、喧嘩を頻繁にしていた彼にとってはわざわざ怪我と言う程の物でもない。
だが、口の中が鉄臭いのは不快だし、何よりペットボトルは意外とかさばる。荷物の整理を図る上で、中途半端な量は邪魔でしかない。
空のペットボトルを足もとに捨て、ハリーは次に自分のリュックからスピーカーを取り出した。
自分から声を出すような自殺行為をする気は毛頭なかったが、何かの役に立つかもしれないと持っていた物だ。
だが、新しく手に入れたノートパソコンやインカムに比べれば、利用価値が低いのは一目瞭然。これもここに捨てていく事にする。
こうしてスピーカーが無くなった事で、ハリーのリュックにはそれなりのゆとりが生まれた。
チェーンソーの横に押し込むように、彼はノートパソコンを入れておく。
そして……ハリーは、周防のリュックに最後に残ったインカムに目を通し始めた。
あまり見慣れない機種とはいえ、使い方は何となく想像がつく。そして、このインカムを持っている周防には、仲間が居た――
ハリーの笑みは一層細く鋭く横に伸び、眼下の道路を見渡しつつスイッチを入れた。

「くそっ……!」
再び、ホテル前。
ある程度は自分が招いた事とはいえ、播磨は沢近に銃を突きつけられている現在の状況に苛立ちを隠せずに居た。
そもそも彼は沢近から嵯峨野と言われても顔がなかなか思い浮かばなかったし、バットなど拾った覚えがまるで無い。
逆にバットを持っていた筈の沢近はいつの間にか拳銃を持っていて、自分に突きつけてくる始末だ。
沢近と一緒にいた筈の周防もいない。彼女の説得を頼んだ西本は今もヘリポート。彼にでもすぐに理解できる、所謂大ピンチだった。
「んな事、してる場合じゃねーのによ……!」
「喋らないで! 手を上げなさい!」
沢近の声色は、先ほどインカムで会話した時とはかけ離れていた。剥き出しの怒りがひしひしと伝わってくる。
播磨は今すぐにでもここから離れたかったが、沢近の足は体育祭でリレーにも出場しただけになかなか早い。
しかしそれ以上に、蓄積した播磨の疲労は決してバカにできるレベルではなかった。
今まで殆ど眠れず、休息もあまり取れていない状態で逃げた所で、どこまで逃げ切れるか分かったものではない。
周防や西本が居れば話は違うだろうが、右腕に握られた拳銃の存在に気付いた時点で彼は諦めた。
「……ヒゲ、あんたに懺悔の時間をあげるわ。あんたが殺した嵯峨野さんと梅津君に、謝りなさい!」
「お嬢、頼むから話を聞いてくれ! あれは事故だし、俺は誰も殺してねえよ!」
「……救えないわ、あんた」
冷ややかな視線を播磨に向け、沢近は銃口の照準を播磨の顔に合わせた。

「何やってるんダスか……!?」
その頃、西本願司がホテル跡のヘリポートから狙撃銃のスコープを通して見たのは、無防備な播磨に沢近が銃を突きつけている光景だった。
播磨の話にあった通り、確かに沢近のトレードマークのツインテールが片方無くなっている。
だが、それだけで人はあんな表情が作れるというのだろうか。
播磨からは沢近との出来事を聞くには聞いたが、如何せん彼の一方的な主張であり、また他に沢近と居たという女子の名も分からぬ物だった。
実際はもっと深刻な事件があったのかも知れない。場合によっては、播磨が本当に殺人鬼である可能性すらある。
「……ム!?」
西本が狙撃銃を握る力が一層強まった。沢近が銃口を播磨に向けたまま、播磨が捨てた荷物をあさり出したのだ。
今までそんな素振りを見せていなかったのに、突然そんな動きが出た。西本には理由が一つしか浮かばなかった。
インカム。つまり、周防からの連絡だ。そして、沢近と一緒に居た筈の周防がこの場に居ないという事実が、西本の更なる不安を掻き立てる。
周防からの通信も気になるし、何より今は沢近を止めねばならない。西本は完全に筋肉痛が消えない足に鞭を打ち、彼らの元へ走った。

『……美琴? どうしたの?』
ハリーの右耳に当てたイヤホンから聞こえてきたのは、彼の予想に反して女子の声だった。
彼が周防を最初にホテル跡で見た時、一緒に居たのは二人の男だった。彼女はその時別の場所に居たのか、はたまたあの後合流したのか。
何にせよ、インカムで周防と共に居た者と通信し、バッテリーや鎌石村に関する詳細を聞き出す事。それが彼の狙いなのだ。
現在、次の放送までの残り時間はそう多くない。放送があって周防の死を知らされた後では、彼らに通信をしても相手にされないだろう。
今通信すればハリーが周防を殺したと知られる危険性が高いが、それを差し引いても鎌石村に関する情報には価値があるとハリーは踏んだ。
充電器が用意でき、村ともなればそれなりの資材も揃っている。これから自分が向かうのは待ち伏せを行なうにはもってこいの地形なのだ。
誰がいるのか、何があるのか。周防の遺体での足止めも考慮した上で、ハリーは大きな賭けを行なおうとしていた。
「……コンニチワ、お嬢さん。私はハリー・マッケンジー……周防さんとは先ほど合流した」
『美琴と? ……ああ、そういえばあの娘、こっちに来てなかったんだ……私は沢近愛理よ、ハリー君。美琴は今何してるの?』
「……オテアライ、サ」
『ああ、なるほど……』
『おい、周防なのか!? 代わってくれ! あいつは今何してるんだ!?』
『ちょっとヒゲ、黙りなさい! 美琴まで騙そうとして!』
通信相手の沢近の声がどこか刺々しいと思っていたハリーだったが、どうやら彼女はお取り込み中だったらしい。
周防から途中で離れていった女子が居た事には気付いていたが、会話を聞く限りはどうやら沢近だったようだ。そして、そのお相手は……
「……沢近さん、私は周防さんから充電器や鎌石村の事を聞くよう頼まれたんだが……誰か事情を知っている人に代わってくれないカ?」
沢近はしばらく沈黙した後、ちょっと待ってという声を発した。
美琴の為だから、でたらめを言ったら撃つ、変な事をしないでよ――そんな声がやがて遠のき、そして男の声が響き渡る。
『……今代わった。播磨だ。お前ら今どこにいるんだ?』
『ヒゲ、関係ない事言わないで! さっさと大事な事だけ話しなさい!』
『ぐっ……』
妙に殺意に満ちた痴話喧嘩を耳にして、ハリーは苦笑した。体育祭で一緒に踊っている姿も見たし、修学旅行の噂も聞いていたが……
「播磨拳児……君とはな」
ハリーにとっては久々のライバルとなりそうだった男、播磨拳児。
いつかは決着をつけたいと思っていた男と、こんな形で話をする事になろうとは。
せっかくのゲームだ。血と殺意に塗れた再会を心のどこかで待ち望んでいた彼にとって、今の状況は声にも出さずに笑う他なかった。

播磨は周防と合流したと言うハリーに対し、西本や周防にした時と同じような説明を行なっていた。
ノートパソコンを取った際に男(三沢)に遭った事、そして東郷の事については一切触れようとはしなかったが……
『……本当に、それだけなのカ?それでパソコンが手に入ったと?』
それに対し、ハリーは播磨の説明をなかなか納得しようとはしなかった。
それが全てだと必死に話す播磨に対し、ハリーは次々と鋭い指摘を繰り返す。
ノートパソコンが無防備に置いてあった以上、その建物は誰かの拠点だったのではないか。
充電器があると周防も考えていたのだし、やはり他に人が居たのではないか……
播磨は西本達にしたように、今回も話を逸らし、特に東郷との出来事を隠し通したかった。
だが、今の状況はそれを許さなかった。ハリーは的確に遠慮せずつっこんでくるし、何より播磨の前では沢近が睨みをきかせている。
"でたらめ言ったらその場で撃つわよ"……洒落になっていない脅しが、彼の背筋を凍らせていた。
『本当に誰にも遭わなかったのか?人が集まりそうな村に、誰も居なかったと言うのカ?』
「うっ……」
反論出来ない。ただでさえ口下手な播磨にとって、銃口が突きつけられたこの状況で頭を回転させる事など不可能だった。
ここで事実を話し、それを周防に聞かれたら自分が不審に思われるのではないかと不安なのだが、かといって嘘をつけば危険極まりない。
「ちょっとヒゲ、さっきから何話してんのよ!?」
「ちょ、お嬢、待ってくれ!今大事な話をして――」
「こっちには何も聞こえないから何の事だか分かんないのよ!」
……逃げ出そうにも、沢近には拳銃がある。彼女には隙が無いし、閃光弾のような道具も無いから無理やり隙を作る事も出来ない。
何より沢近は酷く苛立っていた。インカムのマイクは周辺の音もよく拾うが、相手の声はイヤホンを装着した人間にしか聞き取れないのだから。

あれこれ考えるうちに脳がオーバーヒートしかけた最中、播磨の脳裏には一人の人物が浮かんだ。……無論、塚本天満だ。
自分は彼女を探さなければならない。その為にも、自分が今ここで死んでしまう訳にはいかないのだ。
彼女の為なら何でもやる。例え他の者にどう思われようと、どうなろうと。
彼女に会えさえすれば、今の彼には他の事などどうでもよく思えてきた。
「……じ、実は……パソコンは昨日の夜、村でマカロニ……東郷と決闘して、勝ったから手に入れたんだ」
「東郷君!? ……あんた、まさか!」
その言葉に誰よりも早く食いついたのは、播磨の目の前の沢近だった。
「ま、待てお嬢! 確かに決闘はしたが、武器なんて使ってねえ! それに、俺は絶対殺してねえよ!」
「じゃあ、二度目の放送で東郷君の名前が呼ばれたのは何で? あんたが殺したんでしょう!?」
「ち、違う! 俺は戦ってる時に気を失って、気が付いたらあいつはいなかったんだ! 信じてくれよ!」
予想通り……いや、それ以上に厳しい反応だ。しかしそれに対してインカムの向こう、ハリーからは何も反応がなかった。
彼が東郷とつるんでいる姿は何度も見ていただけに、播磨は彼からの怒りも買いかねないと不安だったのだが――
『……君の話を信じよう。では、他に誰もいなかったのかナ?』
「え……あ、いや、パソコンがあった建物にもう一人男がいて、俺がパソコンを持って行こうとしてた時に遭った」
声色が今までと違った感じがしたが、予想外にハリーの返答が落ち着いている。
また、彼は自分を責めようとはしなかったので、播磨は心のどこかで安堵していた。
それ故か、もう一人の男についての情報を彼は比較的すんなり話す事にした。
今の彼にとって、自分を信頼してくれたハリーは何よりもありがたい存在に他ならないのだ。
それに、自分を信じてくれ、気遣ってくれた周防や西本に全てを話さずにいる事に少なからず後ろめたさを感じていたのも事実だった。
特に周防は直接現地に向かう以上、本来なら知っている事は全て話しておきたかったのが本音だ。
ハリーを通して周防に情報が伝わり、村でノートパソコンが使えるようになれば言う事無しだ。
「……って訳で、その男は結構背があって……丸鼻だったぜ」
「それ、三沢君の事?」
「いや、名前は知らねーけど……ま、多分そうだろ」
『ナルホド……三沢クン、か』
「……なあ、周防はまだ戻って来ねえのか? ちょっと代わって欲しいんだが……」
相手は納得してくれた。あとはこの場を切り抜ける必要がある。播磨は沢近と仲の良い周防に彼女の説得を頼みたかったが……
『……ああ、彼女なら今……ムッ!? すまない、何か様子が変ダ……』
「へ? おい、どうした? おい!」
ハリーは意味深な言葉を残し、突如通信を切ってしまった。
播磨の心配するというよりもすがる様な叫び声が上がったが、インカムが再び通信を知らせてくる事はなかった。

ハリーは念のために、さも周防の身に何かが起きたというような形で通信を終了した。
少しでも自分が疑われ、ムダに状況を悪くしないようにする為だ。どうせ疑われる可能性は高いが、それでもリスクは下げておく。
しかしそれもあらかじめ、通信を切る時にはこう言おうと決めていた事だった。
問題は、通信を終える時期だった。彼が想定したのは相手からの有益な情報が望めない場合、情報を十分に集めた場合、そして……
「……新しい獲物、だな」
木々の合間、そしてそこから見える道路。
ハリーが見下ろす先には、二人の男がいた。一人は銃を持って前を歩き、もう一人はその後ろでリヤカーを引いている。
リヤカーには先頭の男が背負っている物以外の2つのリュックや、バケツ等の雑貨が入っている。しかし、彼が注目したのはただ一つ。
リヤカーの中心に置かれている、自動車に積まれているようなバッテリーだった。
彼らは周防の遺体がある方向とは反対から進んできている。つまり、鎌石村方面から来ているのだ。
何より、リヤカーに詰まれたバッテリー。これまでの周防や播磨からの情報と、完全に一致する物品だ。
先頭で銃を持つのは、長身で丸鼻の男だった。これも播磨や沢近の情報にあった、三沢という男なのだろう。
「カモに南蛮、ダナ」
自身の発した言葉の意味を特に考える事なく、ハリーは早速これからの行動を思案する。
現在地は道路よりもいくらか高地にあり、木々が多いので隠れて攻撃を加える事に適した場所だ。
しかし、リヤカーを押す眼鏡の男はともかく、三沢はサブマシンガンと思しき銃を持っている。
正面から立ち向かうのはもってのほかだ。迅速で、的確で、意表を衝いた攻撃が求められる。
「……フ、フフフ」
ふと、彼は自らの足元に目を向ける。そこには既に彼にとって不要と見なされたスピーカーと、空のペットボトルがあった。
ハリーはスピーカーの電源を入れて再び地面に置き、ペットボトルをその後ろに転がした。
強襲に備え、投擲ナイフ、そしてサバイバルナイフをいつでも使えるようにスタンバイする。
インカムをリュックに仕舞うと、ハリーは足元のペットボトルを中途半端な力で踏みつけた。
その音はスピーカーにより拡声され、あたかも爆発音のように響き渡る。
突然の爆音に眼下で慌てる二人をよそに、ハリーは回りこむように斜面を駆け下りて行った。

三沢伸と冬木武一はホテル跡を目指し、あまり早いペースとは言えないまでも着実に道沿いに進み続けていた。
E-03に入ってからしばらくは平坦な道が続いていたが、現在は冬木によれば若干登り気味になっているらしい。
歩いている三沢は特に気付かなかったが、結構な重量のリヤカーを引く冬木には、歩くだけでは感じない傾斜が重さとして伝わるのだろう。
途中のもっときつかった坂に比べればましとはいえ、冬木にとっては負担となっているようだった。
とはいえ、三沢が後ろから押して手伝う訳にもいかない。今の道路は周辺が林に覆われており、あまり視界がよろしくないのだ。
特に三沢には播磨が潜んでいるかもしれないという恐怖が根強くあり、銃を手放し二人とも無防備な姿を晒す事をよしとしなかった。
リスクの低い秘密基地での待機を主張していた背景にも、こうした殺し合い、ひいては播磨への恐怖が(本人は否定したかったが)あったからだ。
冬木に代わりリヤカーを引く事も考えたが、万が一播磨等の襲撃を受けた時、疲労が溜まった状態の冬木に迎撃できるかは疑問があった。
それは冬木も同じであり、結局ホテル跡までは極力冬木がリヤカーを引き、体力を温存した三沢がしっかりと彼や物資を守ろう、という事になった。
その責任の重大さ、そしてどこかに播磨が潜んでいるかもしれないという恐怖心を胸に、三沢は先頭を歩き続けていたのだが……
バコン! 突如前方から響いた爆音に、三沢と冬木は戸惑いを隠せなかった。
明らかに自然現象ではない爆音。それは、自分達以外の人間が前方に居る事を示している。
「な、何だ!? 播磨か!?」
「分からない。でも、銃とか爆弾じゃないな。……まるでマイクで拾った音みたいだ」
冬木の声はいくらか冷静だったが、三沢はそうはいかなかった。
彼の呼吸は見る見る荒くなり、冷や汗を浮かべ始めていく。東郷が殺されてから、三沢の精神はどこか不安定な物になっていたのだ。
早期に冬木と再開出来た事で、彼の精神が取り返しのつかない所まで壊れてしまう事は無かった。
だが、東郷が死んでから初めて訪れた恐怖は、彼の精神を再び追い詰めていく。
「くそ、播磨の奴! 俺達を狙ってるのか!?」
「落ち着け、三沢! 播磨かどうかも分からないし、俺達を狙ってるとも限らないんだぞ!」
リヤカーを坂に対し横に止めながら、冬木はリヤカーのスポークにスコップを通していく。
すでにかなり疲労している為か作業はしんどそうだが、今の三沢に手伝う余裕など全く無い。
スコーピオンを握り締め、ただ不安げにあちこちをきょろきょろと見回すばかりだ。

三沢は一刻も早くこの場を離れたかった。例え狙いが自分達ではないにしても、リヤカーは嫌でも目に付いてしまう。
かといって、今からリヤカーを引いて引き返そうにもスピードはてんで出ないだろう。下り坂に任せて勢い良く動かせば、末路は転倒だ。
守るべきバッテリーだけを抱えて逃げようにも、これが意外と重量がばかにならない。
疲れ切った冬木では運べないだろうし、三沢が運んだ所で、疲れた冬木に守りを託すのは不安がある。
結局、バッテリーがある以上はこの場で様子を見ている事しか出来ないのだ。
それを理解していてなお、込み上げて来る不安。三沢の寿命は確実に縮んでいっている事だろう。

パコン! 再び爆音が鳴り響いたが、先ほどに比べて音は随分小さい物だった。
その音に三沢は一瞬怯んだが、すぐに音源と思しき前方西側を睨みつける。どの辺から音が出ているのか、三沢には特定できたようだった。
しかし彼の表情とは裏腹に、スコーピオンを握る彼の手の平は汗で濡れ、呼吸も荒さを増すばかり。
周囲を林に囲まれ、そのどこに居るとも知れない播磨への恐怖が、着々と募りつつある証だった。
「……三沢、落ち着いてくれ。相手は分からないけど、きっとこれは罠だ」
リヤカーから鉄パイプを取り出した冬木が声を掛けるが、今の三沢に一体どれだけ声が届いているだろうか。
「もしも相手が播磨なら、俺達のバッテリーを狙ってくる筈だ。そうでなくても、リヤカーは他の奴らの目に留まる。
 そもそも俺達が狙いかどうかも分からないけど、まずはバッテリーを守ろう。あれは俺達の希望なんだ」
冬木はリヤカーから鉄パイプを取り出し、三沢の横に並び声を掛ける。
だが、三沢はああ、だとかそうだよな、と条件反射で返事を返していくだけ。およそ耳に入ってはいなかった。
ただ大人しく待っているだけで、三沢の心臓は異常な出力で働き続ける。
……いや、むしろただ待っているだけの方が、三沢の心臓にはよほど悪かった。
既にスコーピオンには汗が伝わって垂れており、手の神経がもはやまともに機能していない事が窺える。

そして、三度目の……今までの中で一番小さい爆音が響くと、三沢は何かを叫び、ついに音の鳴った林へ走り出してしまった。
冬木がいくら後ろで呼びかけようと、彼にその声が届く事は無かった。

「ちくしょう、どこだ播磨ぁ! ちくしょう!」
足元の枝を踏み砕き、茂みを掻き分け三沢は林の中を走って行く。
心臓の音が聴覚を支配する。今までに経験した事の無い恐怖心が、三沢の足を動かしてしまっていた。
バッテリーがある。冬木もいる。逃げ出す事が出来ないこの状況で、しかし大人しく待っている事が三沢には耐えられない。
そんな極限の状態など、いくら冬木が一緒でも乗り越えられる筈が無いのだ。
別に彼が人より心が弱い訳ではない。いざクラスメートと殺し合いを始め、まともな精神状態でいられる者が一体何人いたというのか。
彼はこれまでの多くのクラスメートと同じように、既にまともな精神状態を保てなくなってしまっていた。
死への恐怖。播磨を含む、ゲームに乗った者への恐怖。明らかに人間が作り出した爆音は、それらを確実に煽っていく。そして……

「スピー……カー……?」
斜面をしばらく駆け上った三沢が見た物は、地面に置かれたスピーカーと、半端に潰れたペットボトル。ただそれだけだった。
「は? ……じゃあ、これって……!?」
"罠"。三沢がその単語を浮かべた瞬間、彼の恐怖はピークを迎える。
「うわあああああ! ちくしょう、どこだ播磨ぁ! どこに隠れてるんだ!?」
あちこちの木に向かって次々銃口を向け続ける三沢。今の彼には、どの木の陰にも播磨が居るのではないかという錯覚に囚われていた。
そして、どの播磨もナイフを三沢に向けてくる。東郷を殺した物と同じ、刃が飛び出すスペツナズナイフをだ。
長距離用のナイフであるという事は、冬木から聞かされていた。その威力は、東郷が身を持って示した通りだ。
周囲が木々に覆われる中、このスピーカーがある場所だけはそれなりに平坦で、開けていた。逆に言えば、外からは丸見えなのだ。
「ちくしょう、播磨! 俺も東郷のようにナイフでやろうってのか!?」
いつしか目に涙を浮かべ、鼻水を垂らし、かすれた声で三沢は叫ぶ。
大きな声を出す事で、彼は少しでも不安を掻き消そうとしていたのだ。だから彼は叫び続ける。
スピーカーのスイッチが入ったままで、当然彼の声がそこから流れ続けている事にも気付かずに。

「三沢……バカ野郎!」
三沢が林の中に飛び込んでいくのを、冬木は黙って見ている事しかできなかった。
三沢の精神状態は、東郷が死んでから冬木が心配していた事の一つだ。
東郷の死後早めに自分と再会でき、また盗聴器、ノートパソコンの情報など目的や希望を作る事で、三沢は本来の調子を取り戻しつつあった。
だが、その一方で三沢が死の恐怖に怯えていた事は事実だし、死んだ後も彼がどこかで東郷に依存してしまっていると感じていた。
そんな中、初めて訪れた緊急事態。彼の精神が再び平衡を崩してしまったのだろうが、かといって今すぐ彼を止めに走る訳にはいかない。
もしも相手が播磨なら、バッテリーを狙ってくるだろう。これだけは奪われてしまう訳にはいかないのだ。
2、3エリアにまたがる村を捜索して一つしかバッテリーが見つからなかった事を考えれば、このバッテリーは貴重な存在なのだ。
失う訳にはいかないし、破壊させる訳にもいかない。三沢も追いかけたいが、まずはこれからのゲームの切り札の確保を優先する事にした。
三沢は銃を持っているし、生存率も彼の方が高いだろうという考えもある。
……しかし、今までリヤカーをずっと引いてきた冬木は、自身の想像以上に体力を奪われてしまっていた。
冬木に握られ続け、気付けば生暖かくなった鉄パイプ。だが、それを持っているだけでも辛い物がある。
まして、播磨が相手だとすればスペツナズナイフがある。こんな武器では太刀打ちできないのではという不安が、冬木の心をも侵し始める。
『うわあああああ! ちくしょう! どこだ播磨! どこに隠れてるんだ!?』
腕の痛みに苦しむ最中、突如響いた三沢の声。先ほどの爆音と同じように、あたかもマイクか拡声器を通したような音だ。
三沢は拡声器がある場所まで辿り着いたのだろうか。時間的に考えればそう距離が遠く無いようだが、それにしても危険すぎる。
もしも相手が播磨で、スペツナズナイフがまだあるのなら、山中ではどこからでも狙われてしまう。
『ちくしょう! 播磨! 俺も東郷のようにナイフでやろうってのか!?』
三沢はなおも叫び続けている。普段の彼の落ち着きが嘘のようだが、恐怖は人を変えてしまうのだろう。
三沢の悲痛な叫びを聞き続けるうち、いつしか冬木自身もこの場から逃げ出したいという衝動に駆られ始めていた。
何せ現在の自分の体調、そして三沢の精神状態を考えれば、もし敵に狙われれば勝ち目は薄い。あまりにも分が悪すぎる状況だ。
それでも冬木が立ち続けたのは、このゲームを仕組んだ者達への怒り、そして何よりも東郷の意志の支えがあってこそだった。
「――三沢、死ぬなよ」
最悪、三沢が襲われればスピーカーを通して伝わる。その時はバッテリーを守って退却する覚悟を、冬木は固めた。
逆にもし自分やバッテリーを狙ってくるなら、この鉄パイプで可能な限りの抵抗をする。
冬木は三沢の声が聞こえ続ける西側の森を、一時も気を許す事無く見守っていた。

「ヅァッ!?」
そんな彼の背に突如走った痛み。振り返る事すらままならず、もう一度痛みが走る。
三沢の叫び声の合間に聞こえた風を切るような音。冬木がそれに気付いた時には、三度目の痛みが今度は右腕を襲っていた。
振り返ろうとするが、激痛に耐えられない。冬木は手から離れた鉄パイプと同時に背中から地面に崩れ落ち、更なる痛みに襲われた。
「だれ、だ……は、りま……!?」
青ざめた顔を涙で歪め、冬木はそれでも相手を探した。
だが、背中の痛みは激烈だった。血が急速にそこから流れ出てしまっている事も分かる。
手足が、体が冷たい。相手を探そうと上げていた首も、力が抜けてすとんと地面に落ちる。
地面を見ると、背中から流れ出た血が周辺を真っ赤に染め上げてしまっていた。
「は、あ……」
思考が遮られる。感覚が死んでいく。冬木が自分がもう助からないと悟るのにそう時間はかからなかった。
(三沢、気をつけろ。みんな、死ぬな。東ごう、ごめん……おれも、おま え と お な  じ  に……)
最後に自分のズボンのポケットに目をやると、冬木はそのまま意識を手放した。

東郷を埋葬した後、冬木は東郷のメモを彼と同じようにズボンのポケットにしまっておいていた。
自分のもしもの時に……その考えもどこかであったが、それ以上に。冬木は東郷に見守ってもらえる気がすると考えていたからだった。
反主催を声高に叫び、死してなお自分達を鼓舞してくれた東郷。冬木もまた、彼の死後もどこかで彼に依存していたのは間違いない。
そんな彼の直接的なメッセージであり、冬木達にとって希望であった彼からの手紙。冬木はお守りに近い形で入れていたのだが……
冬木は奇しくも東郷と同じように、メモを残して死んでいった。

眼鏡の男の周りに血溜りができ、動かなくなった事を確認して、ハリーはようやく男の元へ近づいた。
その動きは早い。何せ、今までスピーカーの前で叫び続けてた筈の三沢の声が止んだのだ。
恐らく、スピーカーの電源を切ったのだろう。先ほどまでと比べ、いくらか落ち着いてきたと考えられる。
元よりハリーはペットボトルを踏み潰しスピーカーで音を立て、二人が前方に注意を向けた所を後ろから急襲するのが狙いだった。
中途半端な力で踏み潰せば、ペットボトルはそのうち元の形状に戻ろうとして更に音を立てる。こうする事でより注意を逸らせると考えていた。
ペットボトルが元に戻ろうとする音は予想外に小さかったが、それでも三沢達には十分聞こえていたようで、確かな効果があった。
彼の予想と違い三沢が音源まで走り出してしまった為に、どちらを先に狙うか考え直す必要があったが、
ハリーは三沢が錯乱していると読み、狙いをリヤカー側の男にしたのだった。
スピーカーにも気付かず叫び続けるなど、余程のバカか混乱でもしていなければありえない事だ。
そんな相手より、万が一リヤカー側の男に敵に渡さない為にとバッテリーを破棄される事が無いように、そちらの始末を優先したのだ。
それにしても、三沢の声は恐らくホテル跡まで響いた事だろう。播磨達がこの先どうなるのかを想像し、ハリーは一人ほくそ笑む。

――東郷が死んだ事に対し、ハリーの中に少なからず播磨に対する怒りがあった事は事実だった。
彼の話が嘘でない事は三沢達を見れば分かる。つまり、播磨が東郷と決闘を行なったのも事実である可能性が高い。
もとよりハリーは自身が認めた強者との戦いを望んでいた。播磨も当然ながらその強者の一人だ。
だが、ハリーは自己否定しようとしていたが、東郷が殺されたという事実を知った時に衝撃を受けた事は確かだった。
自分を相棒と呼び、暑苦しい事この上なかった東郷。そんな男が、わずか12時間と経たずに殺されたという現実。
彼は東郷を殺した者との対峙を心のどこかで望んでいたが、今になってその相手を知った途端、込み上がってきた感情。
「――本当に、ぬるま湯に浸かり過ぎたナ」
強者との対戦。それが自身の望みだ。ハリーは自分に言い聞かせ、そして思考を現実へと戻した。

それにしても、スピーカーのある位置からはこの辺の道路をある程度確認できる事は、先ほどハリーが三沢達を発見した通りだ。
さすがにサブマシンガンであの位置からこちらを狙ってもそうそう当たる物ではないだろうが、それでも下手に見つかる事は避けたい。
せっかく三沢は播磨が仕組んだ罠だと誤認しているので、今はとりあえず必要そうな荷物だけを奪う事にした。
できればバッテリーを持って行きたいがリュックに入らないし、抱えている時に狙われたら敵わない。リヤカーを引くなど持っての他だ。
結局は放送まであまり時間が無い事を考慮し、一旦最低限の物資だけを奪い、近くに潜伏。三沢がこちらに戻ってきた所を強襲する事にした。
放送を聞けば、嫌でも三沢は冬木の死を知り、こちらに戻ってくる事だろう。
ただでさえ錯乱していた男が更なるショックを受けて戻ってきた所で、対処は問題ない筈だ。
ハリーは血溜りに沈んだ投擲ナイフを引き抜き、冬木が持っていた鉄パイプも回収する。
リヤカーの中身も惜しかったが、今は銃撃に備えて強度がありそうな隠れ場所を探さなければならない。
ハリーは手早く三沢の入っていった方と反対側、道路を挟んで東側の林に入って行った。

リヤカーが十分見渡せる距離にあるそれなりに大きな木を背に、ハリーは腰を降ろした。
二、三度鉄パイプを振っておき、大量についていた血液を振り払う。
ついでに大きさ、重さともに鈍器として手頃な物であると確認し、次にハリーは投擲ナイフに目を向ける。
「……やはり、使い過ぎたか?」
ハリーは溜息を漏らした。ナイフのうち、背中に刺さっていたナイフが二本とも途中で折れてしまっていたのだ。
全体重がかかって体に潰される形になったので止むを得ないのかもしれない。しかしそれ以上に、これまでの酷使の影響が考えられた。
折れたナイフの中には、計三人の血を吸った物もあった。全力で投げられ人体に突き刺さるうち、どうやっても強度が落ちていくのだろう。
「……まあ、それも次の獲物次第ダナ」
サバイバルナイフ、そして投擲ナイフ。狼の牙は着々と脆くなっていく。
だが、彼の獲物は新たな牙をもたらそうとしてくれている。
鉄パイプ、そしてサブマシンガン……強度の落ちた牙を見ながらも、狼は笑った。

依然林の中を歩いていた城戸にとって、初めは響き渡った爆発音に驚きを隠せなかった。
銃か、爆弾か。城戸は警戒しながら近くの茂みに身を隠したが、その間に音は二、三回程鳴り響いていた。
……しかし、そのうち城戸は音がまるでマイクで拾った物のように聞こえ始め、実際にその予感は確信に変わる。
『ちくしょう! どこだ播磨! どこに隠れてるんだ!?』
突然響き渡ったのは、先日東郷を殺した時に同じ建物内にいた、三沢の声だった。
ただし、普段の彼の声からは程遠い、酷く情けない涙声ではあったが。
何にせよ、マイクがあり、三沢がそこで何かを叫んでいる事は間違いない。
幸いにも周囲は木に覆われていて、隠れながら彼の様子を探るくらいは出来なくもない。
もしも何か危険があるのなら、それはきっと辿り着く前に三沢が身を持って教えてくれる事だろう。
仮に三沢の罠なら……それはないと城戸は考えた。マイクで大声を出すなど、人を呼び寄せてしまう自殺行為に他ならない。
いくら彼が多少は演技派とはいっても、あまりに冒したリスクが大きすぎるのだ。
いくつか気になるとすれば、三沢は播磨の名前を叫んでいた事だ。この騒ぎ、彼の仕業なのだろうか。
そして、もう一つ。何故か播磨が東郷を殺したと思われていた事だった。
はっきり言って城戸としては都合がいいが、梅津の事といい、つくづく播磨はそういった星の下に生まれているのかと思ってしまう。
城戸は依然叫び続ける三沢の声の方へ向かっていった。他に誰かいないか、努めて慎重に……

そして彼女が木の陰から三沢を視認できるようになった頃には、三沢は足元にあるスピーカーのスイッチを切ってしまっていたようだった。
肩で息をして、涙も鼻水も拭かずぐしゃぐしゃの顔になってはいるが、確かに居るのは三沢一人。
しかし、それ以上に彼女が注目したのは、彼の右手に固く握られた、銃だった。
誰かを誘い出す罠とは思えない彼の表情。そして、周囲に播磨はおろか、誰も居ない現状。
城戸は紙袋を覗き込み、葉書に挟む形で入れたスペツナズナイフを見た。
金属バットだと叩けば音がするだろうし、やはり静かに、迅速に始末するにはこれしかない。
銃に対し、ナイフ一本……十分に、お釣りが来る買い物だ。
「三沢君、私! 城戸だよ!」
ナイフを用意し、銃撃を警戒して木の裏から声を出した城戸だったが、返ってきたのはあまりに情けない三沢の悲鳴だけだった。


「三沢君、大丈夫? すごい汗だよ……」
「あ、いや、俺は平気……」
ナイフを紙袋に隠した上で三沢を自分がいる木の裏に呼び出し、とりあえず城戸は涙や鼻水についてはつっこまずにいた。
「ところで三沢君、どうしてここに?」
「あ、さっき、爆弾みたいな音がしただろ? それで、俺……」
木を背にしながら城戸は話を進める。万が一誰かに襲撃されても、三沢を盾にできるようにする為だ。
それにしても、改めて彼の表情を見ると、およそこれまで城戸が知っていた三沢ではない。
いくらか落ち着いてきたとはいえ、恐怖に駆られすっかり豹変してしまっていた。
それも自分が東郷を殺した事でこうなったのだとすれば、城戸としては色々と複雑な気がしなくもなかった。
「……でも、播磨君はいなかったんでしょう?じゃあ何だったんだろうね?」
「……!」
急に三沢が青くなりこちらを見る。城戸は自分が疑われたのだと即座に悟った。
「ま、待って! 私じゃないよ! 私、近くを歩いてたらいきなり三沢君の声が聞こえて……気になって来たんだ」
「ほ、ほんとかよ!?」
再び三沢の呼吸が早くなっていく。よほど彼は怯え切っているらしい。
「だって……ほら、これが私の支給品だよ?」
城戸は紙袋から葉書を出して見せる。それを見ると三沢は再び呼吸が落ち着きだし、しまいには城戸に同情までする程だった。
同情ついでにと、城戸は三沢から今回の出来事の説明を巧みに聞き出して行ったが……
「……じゃあ、三沢君がここに来た時には、このスピーカーとペットボトルがあっただけだったんだ」
「そうなんだ! 俺、てっきり播磨の罠だと思って――そうだ、冬木は!?」
冬木の名を叫ぶや、今までで一番蒼白になる三沢。慌てて眼下の道路を見下ろし始める。
城戸は先日三沢の他にもう一人居た事を確認していたが、それが冬木だったのだろう。
彼の現在の状況は知る由も無いが、少なくとも人の心理状態を読む事には長けていたようだし、油断ならない存在ではある。だが……
「う、うわあああああ! 冬木! 冬木ぃぃぃぃぃ!」
叫び声を上げ、その場で蹲る三沢。
城戸が慌てて三沢と同じように下を覗き込むと、そこには沢山の荷物が積まれたリヤカーと、夥しい量の血に染まった冬木の遺体があった。
「……やっぱり、播磨の奴居たんだ……あれで俺を呼び出して、その間に冬木を……!」
怒りとも、怯えとも取れる程体を震えさせ、それでも三沢は蹲ったままだ。
しかしそんな三沢には目もくれず、城戸は眼下を眺めながら状況把握を続けていく。冬木は殺されたが、荷物が奪われた様子はない。
それに、血がまだ赤々としている。先日三人も殺した城戸には、鮮血がどういった物かも分かっていた。
恐らく殺されて間もないのだろう。という事は、冬木を殺した犯人はまだ近くにいる。あれだけ出血させられる程の武器を持つ者が……
三沢があれだけ叫んでいた以上、それが播磨である可能性は高いだろう。いくらなんでも、見晴らしの悪いこの場所で戦いたい相手ではない。

ここから、離れよう。城戸の決断は早かった。

そうと決まれば話は早い。城戸は最後のスペツナズナイフを取り出すと、なおも地面に蹲る三沢の後頭部目掛けて放つ。
刃が当たった瞬間、三沢は一瞬奇異な声を発し、そのままごろりと横に倒れ事切れた。
三沢の後頭部から額まで貫通している事に気付き、改めてこのナイフの威力を知った城戸だったが、それもこれで最後だ。
そして、これからの新しいパートナーである、三沢の銃を手に取る城戸。
時間が無いので他の荷物を移し変えたりはせず、三沢のリュックごと持っていく事にした。
そして、地面に放置されていたスピーカー。城戸は何かの役に立つだろうとこれもリュックに仕舞っておく。
あとは周囲に細心の注意を払いつつ、城戸は素早く撤退を開始した。
スピーカーが使われた以上、他の人間が集まる恐れがある事は分かっている。どの道長居をする訳にはいかない。
だが、今までと違って城戸は必要以上に警戒をする事は無くなってしまっていた。
初めて手に入れた銃が、あっさりと武器を奪えた喜びが、また一人殺せた事の嬉しさが、彼女の足どりを軽くする。
これなら、また攻勢にも出られるだろう。それは教師達の"ご褒美"にも繋がる事だ。
「今覚えば、南ってここの事だったのかな?」
退避中にも関わらず、どこか余裕を持って彼女は笑う。
一応彼女の今後の進路は予定通りだ。分校跡を目指し、そして最終的には氷川村を目指す。
他にも武器は欲しいし、それにそれらの施設に集まっている人間がいれば最高の的になる。
僅か1kg程度の重量しかないスコーピオンが、城戸の心を再び狩人へと戻して行った。

一方、ホテル前の路上。
ハリーからの通信が途絶えた後、播磨は沢近から周防はどうしたのだと何度も尋ねられる事となった。
「だから、向こうが様子が変だ、っつって切れちまってそれっきりなんだよ!」
「何よそれ、美琴に何かあったって事じゃないの!? インカムを貸しなさい! すぐに連絡しないと……」
「だから、こいつは子機だからこっちからじゃかけらんねえって言ってるじゃねーか!」
沢近が周防の事を心配する気持ちは分かるが、銃を向けられたまま何度も同じ事を聞かれるのは播磨にとって気分がいい物ではない。
しかし、依然播磨のピンチである事は変わらない。そして周防という切り札も出てこられない今、いよいよ彼の焦りは頂点を迎えた。
「まあ、美琴は大丈夫よね。……問題はあんたよ、インカムをリュックの所に投げなさい」
言われるがままに播磨はインカムを叩き付ける。沢近が一瞬怯んだが、それも本当に一瞬だった。
「あ、あんた! 自分の立場分かってんの!? 東郷君まで殺してたなんて!」
「だ、だから俺は殺してねえって言ったじゃねーか!」
まるで怯んだ事を否定したいかのように沢近が叫び出す。播磨にしてみればどうでもよかったが、沢近の心情は一気に悪化したようだった。
「……もう一度だけチャンスをあげるわ。嵯峨野さんと、梅津君と……東郷君に、謝りなさい」
同じ問答の繰り返しに、播磨の我慢も限界に達しようとしていた。
元より殺していないのだから謝る筋合いは無いし、少なくとも東郷だって自分では殺していないと信じたかった。
いつまでも銃を向ける沢近が憎くすらある。拳銃さえなければ、とっくに倒しているというのに――
『どこだ播磨、どこに隠れてやがるんだ!?』
そんな時、突然響いた男の声。
「え……三沢君!?」
沢近がそう言うのだから、声の主は三沢なのだろう。つまり、播磨が昨日ノートパソコンを取った際に遭った男だ。
まるでマイクを使ったかのように、三沢の声は周辺まで聞こえている。しかも、それは播磨の名前を叫んでいる……
『ちくしょう、播磨! 俺も東郷のようにナイフでやろうってのか!?』
次の三沢の発言に、播磨はまるで全身が石化したような寒気に襲われた。目の前で沢近が更なる怒りに染まったからだけではない。
播磨には本当に東郷との決闘の行く末が記憶になかった。だから、心のどこかで彼を殺したのではないかと怯えていたのだ。
東郷は天満と仲がよかった。播磨はそれが疎ましくもあったが、だからといって本当に殺してしまったというのか。
記憶が無い以上、否定しようがなかった。もしもそれが本当なら、天満がどれだけ悲しむのだろう。
東郷を殺した自分が彼女と会って、一体何が出来るというのか。どうしようもない虚脱感が、彼を襲った。

がっくりと膝を落とす播磨。それを沢近は、どこか勝ち誇ったように見下ろしていた。
「やっぱり、あんたがやったのね……最悪よ、人殺し!」
いくら沢近の罵声が聞こえようが、もはや播磨には何も反応する気力が無かった。
もう、天満に顔向け出来ない……どんな状況でも決して諦めなかった男は、闇の底へ体を沈めていく。だが……
「ナイフが無いなんて言い訳して、三人も殺して使い切ったってだけじゃない!」
ナイフ……もう聞き飽きた沢近の叫び声が、播磨にかすかな希望をもたらす。
「……そうだ、俺はナイフを持ってねえぞ! だから、俺は東郷を殺しちゃいねえ!」
「まだ、そんな事……いい加減に自分の過ちを認めなさいよ!」
沢近はなおも睨み続けるが、播磨の中には確かな希望が膨らんでいった。例え殺していたとしても、それは殴り合った末の事だ。
自分も東郷も、決闘で武器を仕込むなどという真似は絶対にしていない。それは拳を合わせた者同士でしか分からない事だ。
だから、ナイフが登場する筈がない。東郷がナイフを使ってくる事も、たまたま戦った場所に落ちている事もありえないのだから。

播磨と沢近は全く逆のベクトルで思考を展開していた。
播磨は自分が東郷を殺していないと確信し、沢近は播磨が東郷を殺したと確信する。
『ちくしょう、ちくしょう!』
三沢の声はなおも響き続けるが、播磨も沢近も、それぞれが全く気にしてはいなかった。
それぞれが自分の考えを信じ込み、他者を受け入れない。この世界が生み出した、二人の男女の破綻した思考。
唯一この二人の共通点を挙げるとしたら、それくらいの物だった。
だが、やはり武器の有無が致命的だ。沢近はこれまでふらふらと漂っていた照準を、再び立ち上がった播磨の顔に合わせた。
「じゃあ、死んで償いなさい」
沢近は冷たく言い放つ。それに対し、播磨の表情はどこか穏やかな物だった。
(そうだ、俺は東郷を殺しちゃいねえ……天満ちゃんだって、きっと分かってくれるぜ……!)
追い詰められた人間の末路。破綻を始めていた播磨の精神は、もはや天満への逃避を望んでいた。
そして、思考が完全に天満一色に染まり始める。"彼女に会うには、どうすればいい?"
答えは簡単だった。"沢近を、殺して行けばいい"
その答えが天満の笑顔を奪う結果になる事にも、今の播磨は気付かない。
三沢の叫び声はもはやBGM。通りがかりの店で流れているそれと同じような物だった。
穏やかな表情とは裏腹に、播磨は拳を握り締める。
足の隅までエネルギーを注ぎ込み、力を溜める。沢近との今の間合いを考えれば、十分に蹴りが届く範囲だ。
二人が再会してから、まだ大した時間は経過していない。にも拘らず、二人には数時間にも感じた時間が終わろうとしていた。
引鉄を引く覚悟を、目の前の女を殴り殺す覚悟を決めた二人の男女。いつしか三沢のBGMも止み、激突の時は迫った。

「おーい! やめるダスー!」
その最中、突然入ってきたノイズ。播磨と沢近が声がした方向……ホテル側の道路を見ると、
重そうにリュックを背負い、狙撃銃を両手で抱えた西本が、大きな体を揺すって必死に走ってきた。
「西……」
「西本君……」
二人が西本の名を呟くのは同時だった。しかし今にも飛び掛らんとする播磨と彼に拳銃を向ける沢近に、西本は戸惑いを隠せない。
「播磨君、沢近さん! まずは落ち着くダス!」
「落ち着く? ……西本君、私は冷静よ。このバカは三人も人を殺したわ。だから今ここで止めなきゃ」
特に彼が驚愕したのは沢近に対してだった。聡明な彼女が、このような愚行を平気で行なおうとしている事にだ。
「落ち着くダス! 播磨君の話をちゃんと聞いたんダスか!? 彼が人を殺した所を見たんダスか!?」
明らかに播磨を擁護する発言内容に、当然沢近は眉間に皺を寄せたが、対照的に播磨はそれを聞いて落ち着きを取り戻していた。
どちらも譲りそうに無い場面なら、より聞き分けがいいであろう沢近の事を信じ、播磨の味方をする。
沢近は酷く不機嫌そうだが、代わりに播磨は臨戦態勢を解除していた。
もちろん、沢近に対する戦意はたっぷりと残っているようだったが……ともあれ、これで播磨が今すぐに暴れ出す心配は無いだろう。
「西本君、あなたヒゲの味方をするっていうの!? 下手をすればあなただって殺されていたのよ!?」
その点、沢近はやはり自分の考えを曲げようとはしなかった。
確かに、沢近の意見も本来なら聞くべきなのだろう。だがそれでは、恐らく今まで繰り返されたであろう問答を重ねるだけだ。
「……沢近さん、播磨君から事情は聞かせて貰ったダス。気持ちは分かるダスが、本当に彼がやって……」
「あいつは人殺しよ! 私の髪を見て、あいつがやったのよ! あいつが嵯峨野さんも、梅津君も、東郷君も殺したのよ!
 だからあいつは今すぐ殺さなきゃいけないのよ!」
梅津については播磨から聞いていたし、東郷も……先ほどの三沢が話していた。
だが、嵯峨野については初耳だ。東郷の件も含め、播磨がまだ自分達に話していない出来事があるのだろうか。
……それにしても、このように感情を剥き出しにして喚き散らす沢近の姿など、誰が想像できただろうか。
彼女の髪に関しては播磨の主張を100%信じるわけではないが、恐らくは不幸な事故には違いなかったのだろう。
とはいえ、修学旅行中に急接近した相手からの理不尽な攻撃に、きっと彼女はショックを受け、そして今に至ったのだ。
プライド高きお嬢様。彼女はその気高き心を保つ為に、恋仲同然だった播磨を討つ事を選んだのだろうか。
ギンと播磨を睨み続ける沢近。彼女を説得する術など、西本に思いつく筈が無かった。

「……ところで、さっきの三沢君はどうしたんダスか?」
説得を早々に諦め、西本は話題を逸らす事にした。二人が睨み合う間に入って話をするという、危険極まりないポジションだからだ。
かといってここで放って置けば殺し合いだ。普段あまり関わりがあるとは言えない二人を前に、西本は嫌でも寿命を縮めていっていた。
「三沢君? ……ああ、さっきヒゲが人殺しだって証明してたじゃない」
「……おい、お嬢……俺じゃねえっつってんだろうが!」
「やめるダス!」
どうしろと言うのだろうか。二人の精神は、最早どう考えても破綻してしまっていた。
何を話そうと沢近が播磨を人殺しと叫び、播磨が怒りながら応じていく悪循環。
「さっさと皆に謝りなさいよ! 私はあんたに死んだ皆の前で謝らせなきゃいけないのよ!」
播磨ならまだしも、沢近まで前後の言動が一致していない事に、西本は落胆を隠せずにいた。
殺す、謝らせる……彼女の中の剥き出しの心が、その不一致を生み出しているというのだろうか。
何にせよ、このままではいつかどうやっても激突してしまう。
どちらかに明確に与するつもりはない以上、今の西本にはせいぜい時間を稼ぐ事くらいしか思い浮かばない。
「……とりあえず、もうすぐ放送ダス。禁止エリアの話を聞き忘れる訳にはいかないし、話の続きは放送後ダス」
はっきり言ってその場凌ぎも甚だしい提案だが、沢近も播磨も特に異論を唱えてくる事はなかった。
さすがに自らの命に直結する事なら言う事を聞いてくれる物なのだろうか。
沢近はともかく播磨の目的は知る由も無いが、何にせよ死にたいと思う者などいないのだろう。

播磨と沢近が依然睨みあったまま、三人は爽やかな青空の下で無言を貫いていた。
そんな中で西本は、一人今後の不安を憂うばかりだ。
周防との連絡はどうなったのか。今この場にいない彼女は一体何をしているのか。
三沢の声は何だったのか。沢近は何も気付いてはいないようだが、明らかに三沢の状態はおかしかった。
それに声のした方角には周防だって居た筈であり、彼女は大丈夫なのか。
そして、三沢の発言にあった播磨がナイフで東郷を殺したという発言。あれは一体どうなっているのか。
そもそも三沢の声の前に響いた爆発音のような音は何だったのか。彼らは一切触れていないが、聞こえていなかったというのだろうか。
聞きたい事は山ほどある。だが、今の二人ではどちらから聞く事もままならない。不安定な彼らを刺激してしまう訳にはいかないのだ。
せめて放送で事態が好転してくれればと一瞬考えるが、西本はすぐに否定する。
流れるのは死んだクラスメートの名と、自分達の動きを制限する禁止エリアと、反吐が出るような教師達の声だけなのだから。
せめて周防や三沢や、二人にゆかりのある人物の名が呼ばれる事がないよう、彼には祈る事しかできなかった。

【午前:11〜12時】

【播磨拳児】
【現在位置:E-04 ホテル付近の路上】
[状態]:疲労、精神不安定
[道具]:支給品一式(食料5、水3)、インカム子機、黒曜石のナイフ×1本 (リュックは自分の手前に置いている)
[行動方針] :放送後天満を探す
[備考]:サングラスを掛けなおしました。吉田山が死んだとは思っていません。

【沢近愛理】
【現在位置:E-04 ホテル付近の路上】
[状態]:激しい憎悪、精神不安定、疲労、手、肩に傷(片方のツインテールをばっさり切られています)
[道具]:支給品一式(水2、食料5) デザートイーグル/弾数:8発
[行動方針] :放送後播磨に懺悔させた上で殺す
[備考]:播磨が東郷を殺したと確信。

【西本願司】
【現在位置:E-04 ホテル付近の路上】
[状態]:健康、疲労(精神、肉体共に)、筋肉痛(多少回復)
[道具]:支給品一式(食料4、水4 食料2と水1は周防から預かり) 携帯電話 山菜多数 毒草少々
      ドラグノフ狙撃銃(残弾10発)  山の植物図鑑(食用・毒・薬などの効能が記載)
[行動方針] :1.放送後この場を収める 2.周防を待つ 3.仲間を集める
[備考]:播磨が東郷、嵯峨野、梅津を殺し沢近を攻撃したと聞いています。

【ハリー・マッケンジー】
【現在位置:E-03 道路を挟み東側の林】
[状態]:疲労
[道具]:支給品一式(食料4、水4) UCRB1(サバイバルナイフ) 黒曜石のナイフ×3本(投擲用) 鉄パイプ
     インカム親機 ノートパソコン(バッテリー切れ) MS210C−BE(チェーンソー、燃料1/4消費)
[行動方針] :1.放送後、残り一人(三沢)を始末 2.多すぎる荷物の整理を行なう 3.安全地帯でパソコンを充電する 4.播磨を殺す
[最終方針] :ゲームに乗る。常にクールに行動する。
[備考]:結城の傘を普通の傘と認識。播磨が東郷を殺したと認識。

【城戸円】
【現在位置:E-03 道路を挟み西側の林】
[状態]:やや疲労
[道具]:支給品一式*2(食料5、水4) vz64スコーピオン/残り弾数40 金属バット 紙袋(葉書3枚) 東郷のメモの模写×3 スピーカー
[行動方針]:1.この場を離れる 2.分校跡を目指し、最終的に氷川村へ 3.ゲームに乗り、先生からご褒美を貰う
[備考]:盗聴器に気がつく。主催者とコンタクトを図りたい。播磨が冬木を殺したと認識。

【冬木武一:死亡】

【三沢伸:死亡】

――残り20名


※リヤカーやその中身は冬木の死体の傍にあります。冬木、東郷のリュックやその荷物はリヤカーの中です。
  リヤカーの中身…支給品一式*2(食料のうち一つはカレーパン)、バッテリー、雑貨品(スコップ、バケツ、その他使えそうな物)
  東郷のメモは冬木のズボンのポケットの中です。



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