接触を目指して






結局8時になってもパソコンを持った人物は現れなかった。

「じゃあ東郷、俺達は言ってくるぜ」

冬木と三沢はつい先程、二人掛かりで作り上げた土まんじゅうを振り返る。
強引に二人を率いていた熱い男東郷。
彼の死を無駄にしない為にも二人は前に進むと決めていた。

(ちくしょう、泣いてたまるかよ)

冬木は目頭が熱くなるのを必死で堪える。
せめて東郷の墓が見えなくなるまで涙は流したくない。
隣では三沢が鼻水を啜り上げる音がしていた。
別れを済ませると冬木はホテルの方角を向き直り、ゆっくりとリヤカーを動かし始める。
移動にあたり、バッテリー以外にも役に立ちそうなものを集めておいたのだ。
先程墓を作るのに使ったスコップもそこには含まれている。
きっとこれから役に立つはずだ。
リヤカーを引く冬木の姿は完全に無防備で誰かに襲われたらひとたまりも無い。
そこでスコーピオンを持った三沢が若干先行して前方を警戒する。
冬木が疲れたら交代するという約束で両者とも無言のまま前に進む。
その度にリヤカーの車輪がガラガラと耳障りな音を鳴らした。

やがて鎌石村は次第に遠ざかり、苦労して作った秘密基地のあった場所も随分と小さく見える。
一時間ちょっで高原池から流れる川を超え、次第に上り坂が厳しくなってきた。


「すまん、ちょっと後ろから押してくれないか?」
「またかよ、こんな所を襲われたらお陀仏だぞ」

やれやれと言いつつ三沢がリヤカーの後ろに回って力を込める。
もしここで二人が手を離せばリヤカーは坂道をはるか下まで転がってしまうだろう。
そんな事になったら目も当てられない。

「「せーのっ!」」

そのまま力任せに坂を上る。
カーブを曲がると林の間から目的地のホテル跡がはっきりと見えた。

「まだあんなに遠いのかよ…、ちょっとここで休もうぜ」

疲れを隠せない三沢を見て冬木も休憩を取る事にした。
リヤカーを横にしてスコップの柄をスポークに通し、勝手に動かないようにする。
道路脇に腰を下ろしてペットボトルを傾けた。

「なあ冬木、ホテルには誰かいるんだろうな?」

三沢が疑問を口に出す。
パソコンで分かったのは居場所だけでそれが誰なのか特定の手掛かりは何一つ無い。



「そんなの知るかよ、つるみそうな奴なんてクラスに幾らでも…」

冬木はそう言い掛けて途中で黙ってしまった。
あんなに仲が良かった連中同士が互いに疑って殺し合いをしている。
その事を改めて思い知らされ、重い空気が漂う。

「悪りぃ、余計な事言っちまって」

冬木がすまなそうに謝るが三沢は首を横に振る。

「いや、最初に言い出した俺の方こそ悪かった。とにかく言ってみればわかるんだ、急ごうぜ」

そして先程の空気を振り払うように勢い良く立ち上がる。
冬木も大きく頷くとスコップの柄を抜いて出発の用意をした。

(あそこに居るのが誰でもいい、俺達が行くまでゲーム乗るなんて馬鹿をするんじゃないぜ)

2人はそんな事を考えながらホテルの人間と一刻も早く合流しようと再びリヤカーを押し始める。
今現在、ホテルで起こっている事を当然2人には知るよしも無かった。



【午前9時30分】

【冬木武一】
【現在位置:D-03】
[状態]:やや疲労
[道具]:リヤカー、バッテリー、雑貨品(スコップ、バケツ、その他使えそうな物)支給品一式×2(食料のうち一つはカレーパン)、東郷のメモ
[行動方針] :1.反主催をかたく決意 2.ホテルに向かう 3.播磨に会ったら伝言を伝える
       4.パソコンが戻ったら、東郷の残した情報を見る

【三沢伸】
【現在位置:D-03】
[状態]:やや疲労
[道具]:支給品一式 、vz64スコーピオン/残り弾数40、東郷のメモの模写×3
[行動方針] :1.ホテルに向かう 2.東郷の残した情報が気になる

[備考(共通)]:盗聴器に気付いています。



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