白昼夢






「なーに暗い顔してんのよ、梢!」
ヒドイ結果になってしまったテスト結果に落ち込む私に、冴子が明るく笑いながら声をかけてきた。
まったく……そもそもこの娘がテスト前に合コンに連れ回したせいでこんな事になったというのに……そう指摘しても、
「アハハ、ゴメンゴメン。それじゃ憂さ晴らしにさ、カラオケにでも行こっか」
……やっぱり反省してない。タメ息を漏らして、でも憂さ晴らしはしたいので、その話には乗ることにする。
「んー……今はカラオケよりも映画って気分かな。ちょうど観たいのやってるしさ」
「オーケーオーケー。じゃ今度の休みに……」
「二人ともなんの話してんのー? 俺も混ぜてー」
そこに彼が、軽いノリで話に入ってきた。
「あぁ今鳥君。今度の休みに梢と映画観に行こうかって話だったんだけど……今鳥君も来る?」
「うん、行く行くー!」
やっぱり軽いノリでそうなった。

――それは、ごくありふれた日常のやりとり――
――もう……還らぬ日々の思い出――

  △  ▼  △  ▼  △

(見ていて……冴子、今鳥君。アナタ達を殺した犯人は、絶対に私がこの手で……殺してやるから!)
三原梢は心の中でそう繰り返しながら、足早に街道を駆け歩いていた。
吹きつける重苦しい風の中、強張った顔に怒りの形相を浮かべて……

その手には拳銃を握り締め、瞳には憎悪の炎を灯らせながら……

「あっ、ここは……」
ふと、見覚えがある場所に辿り着いた梢はそこで足を止めた。
ここはたしか、私とララが天満ちゃん達に出会った場所……
そして延々とグーパーを繰り返していた場所。
(クスッ)
あの時の少し間の抜けたやりとりを思い出し、険しい表情の中に少しだけ笑みを浮かべて、幾らか冷静に改めて今後の
行動を考えた。
目的は――冴子達の仇を討つこと――ハッキリしている
なら、その為にどうすればいい? どこに向かえばいい?
(まぁ、このまま西を目指せばいいか。先に向こうに行った二人に会えれば、何か聞けるかも知れないし)
とにかく誰かに会って情報が欲しい。そう結論付けると、再び先を急ぐかのように歩み出す。

それからしばらく進んだところで、横手の草むらに不自然な痕跡を発見して足を止めた。
状況から見て、何者かが強引に茂みをかき分けて森の中へと踏み入った跡……つまり……
(この跡を追えば、その先に誰かがいる!)
梢はそう判断し、意を決して森へと踏み込んだ。手に銃を構えて、慎重に周囲を警戒しながら。

  △  ▼  △  ▼  △

――ナポレオンはどこか追い詰められた様子で駆けていた。
今の自分を…この、どうしようもない窮状から救い出してくれる、その存在を求めて。
彼がそのことを認識できたのは、その優れた嗅覚の賜物か―― あるいは眠っていた野生の勘によるモノなのか――
幾多の障害を乗り越え、そしてついに……求めるその元に辿り着いた!

彼はおもむろに鼻を鳴らしながら草むらへと顔と突っ込み……
「ブヒ♪」
**ナポレオンは『食べかけのミルクパン』を手に入れた!**
およそ丸一日ぶりに口にするエサに歓喜の声を上げ、幸せそうにソレにかぶりついた。

しかし彼は気づいていない。この森には彼自身を「エサ」として見つめる目があることを……
そして頭上に集いつつある、数多の黒い鳥たちのことを……

  △  ▼  △  ▼  △

梢は森に残された痕跡を頼りに、ゆっくりと奥へと踏み行っていく。
前にここを通った者はよほど気が急いていたのだろうか、足下の草葉は乱暴に踏み散らされ、覆い被さる木々の小枝は
所々がへし折られ、追跡自体はそれほど難しくはない。

――それは昨夜、田中一也が永山朱鷺の姿を求めた名残りであるのだが、彼女にはそのことを知る由はない――

だが、警戒すれどもここまで誰の気配も感じず、足跡の主も既にずっと先に行ってるのかも知れない。
いい加減無駄足だったかと思って引き返そうとしたところ……
――グァァァァ!! ガァァァァ!!
そう遠くないところで何者かの悲鳴のような、何かが争い合うような声が聞こえた!
(……! 誰かが…いる!)
そう判断すると一層警戒を強め、それでいて足早にそちらへと駆け行った。

――騒ぎの現場……足下の崖下を、梢は何とも形容しがたい表情で見下ろしていた。
(あれは……カラスと…ブタ?)
烏の群れに追い回される子豚……よく分からない光景に戸惑いながら、とりあえず自分には関係ないモノと踵を返そうとした
……が、そこであることを思いついて動きを止めた。

手の中にある銃を見つめ、考えを巡らせる。
扱い方は知っているけど、当然ながら本物の銃を撃った経験なんて無い。そんなことでこれから殺人者と渡り合えるのだろうか?
この騒ぎに駆けつけないのだから、きっと近くには誰もいない。それに幸い、私には弾に十分な余裕がある。
(試し撃ちには…丁度いいよね)
歪んだ笑みを浮かべ、校内サバゲーの際に教わったことを思い出しながら銃を構えて、ターゲットを定める。
(狙いは…ブタ! 美味しく食べてあげるからね……)

――ダァン!!   クァア!!
(…チッ! 外した!)
銃弾は丁度子豚に襲いかかろうとした烏に阻まれ獲物を外してしまい、豚も烏も銃声に驚いて皆散り散りに逃げてしまう。
後に残されたのは撃ち抜かれて即死した一羽の烏と、烏の群れに埋もれていた…一人の女生徒の亡骸だけだった。

(チェッ、ついてな……って、アレは…ウソ!? もしかして当てちゃった!?)
大慌てで崖を駆け下りてその元に駆けつける。
自分が撃ったのかもという疑いは一目見て解消した。状態からして、随分と前に死んだ遺体に烏が群がっていたのだろう……
もうそれが誰なのかも判断が付かない程に損傷した、無惨な状態だった。
(誰…かしら? かおり…それとも永山さん?)
放送された死者を思い出しながら、クラスメイトの女子から推測を立てる。――ある一つの可能性を、無意識に除いて――


――カラン……その傍らに膝をついたとき、ボロボロになった制服の破れたポケットから何かが零れ落ちた。
見覚えのあるエチケットブラシ――その片隅にある『Saeko』の文字がそれの持ち主……この亡骸が誰なのかを理解させる。
「さ…、冴…子……」

その死を聞かされながらも…それでも心のどこかでは、何かの間違いだと信じたかった……
だが無情な現実を目の前に突きつけられて、梢は力無くその場にへたり込み……そして意識を手放した……

  △  ▼  △  ▼  △

――夢を…見ていた……幸せな日々がいつまでも、いつまでも続くという……そんな…夢を――


「うーん、なぁんかイマイチだったよねー、あの映画」
「そうそう、悪いワケじゃないんだけど、ちょっとなー」
テスト明けの休日、打ち上げ…というよりも憂さ晴らしに出かけた途中立ち寄った喫茶店で、冴子と今鳥君はそんなことを言っている。
さっきまで観ていた映画に対する評価のようだ。

『恋人を殺された主人公がその仇…殺人鬼になったかつての親友と闘う』という内容のアクションドラマ。
ストーリーはありふれたモノだけどアクションや演出には凝っていて、私としては満足…だったんだけど、二人はそうでもないらしい。

「だって仇なんか討ってもさー、結局恋人は戻ってこないんでしょ? そんなの結局、主人公の自己満足じゃん」
「そうそう、今どき復讐なんて流行んねーって」
理由を尋ねてみたら二人はそう返し、だから今一つノリ切れなかったのだと言う。
――でもそれだったら、殺された恋人の無念はどうなるの?
「えー、でも俺だったらさぁ、自分のために恋人をあんなメに遭わせる方がヤだぜー」
「私だってそうよ。それにやっぱ、主人公にはもっと前向きな理由が欲しかったのよねー。たとえば『道を踏み外した親友を救うため』
とか、『これ以上被害を出させないため』みたいなカンジでさぁ」
――じゃあ、もし冴子がああいう立場になったらそうするんだ?
「いやいや、そういうのはやっぱり梢サンの役っしょ」
――な、なによそれぇ?
「うーん…なんて言うか…… 友達を崖っぷちから助ける宿命(さだめ)?」
――なにそのイヤな宿命!?
「んじゃ冴子が殺人鬼になった親友役? おぉっ、結構ハマってるじゃん!」
「アハハ、だったら今鳥君が殺される恋人役になっちゃうよー!」
なんだかどんどんズレていく会話に、悪ノリしていく二人……
いつの間にかキャラが入れ替わったり他の友人が登場しても、なぜか主人公役は私だった。

「なぁ三原……たとえ俺達が殺されてもさ、仇を討とうなんて考えなくていいからな」
「そうよ梢……アナタにはいつも、前を向いて生きていてほしいな」
――もぅ! バカなこと言ってないで帰って来なさぁい!


――皆で笑い合う、いつまでも続くと思っていた日々……けれどそれは次第に遠ざかり……やがて見えなくなった――

  △  ▼  △  ▼  △

「…うん…ん……」
冷たい風に頬をなでられてどこか朦朧としながら目を覚ました梢は、目の前の物に意識を引き戻された。
そこに横たわる亡骸――変わり果てた親友の姿に涙が溢れ、その滲む視界の中、つい今し方見た夢の生前の冴子の笑顔が
重なって、そしてその言葉が脳裏に蘇る……
『アナタにはいつも、前を向いて生きていてほしいな』
「もぅ…バカな…言っ…て…帰っ…て…来な……」
泣き声をしゃくり上げながら、途切れ途切れに言葉をつむぎ出す。言葉を続けることで、夢の続きに繋がると信じて……

「ブヒ?」
ふと、すぐ隣で自分のことを心配そうに見上げる子豚に気がついた。
「あなた…もしかして…私を…慰めて…くれてるの……? あなたを…撃とうと…した…私を……?」
あるいは助けられたとでも思っているのだろうか? 妙に人懐っこい視線を向ける子豚と見つめ合い……そして見つけた。
『首輪には盗聴器
 豚を殺すと全員死ぬ
 麻生、サラを守れ
 みんな死ぬな殺すな
 田中』

(……っ! これは…田中君の……遺言……)
記された盗聴器や豚の情報――だが、それよりも最後の一文が梢の心を責め立てる。
――みんな死ぬな殺すな――
今の自分への、真っ向からの否定……
――俺達が殺されてもさ、仇を討とうなんて考えなくていいからな――
――アナタにはいつも、前を向いて生きていてほしいな――
そして今の夢で見た、二人の言葉が頭の中を駆け巡る!

「そんな…こと、言われても…どうしたらいいのよ……みんな…勝手だよ…死ぬなとか…殺すなとか! 勝手すぎるよ……
どうしたらいいのよ私は! そんなの、私…どうしたらいいの? おしえてよ冴子! ねぇ…どうしたらいいのよ! ねえ!
冴子! 冴子! サエ…コ……冴子……さえこぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
混乱した梢は冴子に縋り付き、泣きじゃくりながら問いかけ続ける……

――だが、彼女がそれに応えることは決してなかった――

  △  ▼  △  ▼  △
――タァーーン……
「っ! 今のは銃声か!?」
「ハイ! それも…ここからそう遠くないようです!」
麻生広義とサラ・アディエマスは、田中と永山の埋葬を終えて出発した矢先、その音を耳にして顔を見合わせた。
「向こうの方から…の、ようです! 行きましょう麻生先輩!」
飛び立つ無数の烏からおおよその場所を確かめたサラは、わき目もふらずにそちらへ駆け出した!
「ま、待て! 一人で行くな、危険だ!」
わずかに遅れて、麻生もまたサラの後を追って走り出した。

「たぶんこのあたりだと思うんですが…さっきのは……」
「サラ、もっと慎重に行動しろ! 誰かが銃を撃ったということは…このあたりに危険な奴がいるってことなんだぞ!」
駆け出してからしばらく後、立ち止まってキョロキョロと周囲を見回すサラに、麻生は厳しく注意を投げかける。
だが「でも! だとしたら誰かが襲われているってことじゃないですか!」強い口調で返され言葉に詰まった。

実は…麻生の脳裏には銃声を聞いた時からちらつく、ある一つの影があった。
昨日、この森で自分に銃を向け、そして殺そうとした女性……
――高野晶――
もし彼女であれば、絶対に会いたくない……否、絶対にサラを彼女に会わせたくない!
その思いが麻生に捜索を消極的にさせている。そして彼のそんな様子に彼女が徐々に苛立ち始めた頃、

「向こうから…人の声がします!」
「待て! 俺が行く!」
何者かの声を聞きつけ、再び駆け出そうとするサラを麻生が鋭く制し、押しとどめる。
「で…でも……」
「いいから、お前はここにいろ! わかったな!」
強引にサラをその場に残し、返事も待たずに声の方に向かう。
(もし…高野だったら……)
構えたウージーに力を込めて……

声の主は程なく見つかった。誰かの遺体に縋り付いて泣きじゃくる少女――
(よかった…高野じゃない。あれは…三原…か……?)
とりあえず最悪の遭遇は避けられたことに安堵し、ひとまず銃の構えを解きつつ、それでも警戒は解かずに様子を観察する。
(三原の様子からして…遺体は冴子か? だが、二人が争ったわけでは無さそうだな…冴子の死はずっと前だったし…な……
冴子の遺体を発見した…というところか? しかし、それならさっきの銃声は一体……?)
そうやって観察しているうちにある物を見つけた。見つけてしまった……三原達の元に転がる、その凶器を!
(…っ! あれは! 田中を殺した…ボウガン!)
そう認識した瞬間、彼の思考は怒りで灼熱に染まる!

――ガサッ
思わず茂みから一歩踏み出し、驚いて振り返る三原へとウージーを持ち上げながら、言葉を絞り出す……

「三原…お前が…田中を……」

  △  ▼  △  ▼  △

――ガサッ
突然響いた背後の茂みが揺れる音に驚き、慌てて振り返ると、銃を手にした男子――麻生――と目が合った。
そしてその彼が向ける、激しい殺意の眼差しが……動揺する彼女の心中にある推測を沸き上がらせた!

「麻生君…あなたが…冴子を……」

「「殺したのね(か)!!」」
二人の声は綺麗に重なり、全く同時に銃を互いの敵に向ける!
刹那、周囲が静寂に包まれ、空気がピンと張りつめた――

「やめてください!」
鋭く響く声が張りつめていた空気を打ち破った。

「何を考えてるんですか麻生先輩! 話もせずに、いきなり銃を向けるなんて!」
「放せサラ! こいつは…三原はボウガンを…田中を殺したボウガンを持っているんだぞ!」
「それだけで決めつけるだなんて早計過ぎます! 冷静になってください! 先輩…さっきからおかしいですよ!」
麻生は続いて現れた金髪の少女にしがみつかれ、押し問答を始める。
(あれは確か、一年の留学生の…サラちゃん?)
梢はいきなり変わった状況に戸惑い、それでも構えた銃は降ろさず、唖然として見つめていた。


「すまん、サラ。ちょっと…どうかしてた……」
「謝るのは私にじゃ、ないですよ?」
彼女に説き伏せられて、どうにか落ち着いた麻生は梢に非礼を詫び、サラもまた、真摯な瞳を向けて訴えかけた。
「すみません、いきなり銃を向けてしまって……ですが、信じてください! 私たちは誰も殺したりなんかしていません!
お願いですからその銃を降ろして、話を聞いていただけませんか? えと……ハラミ先輩!」
「ミ…ミハラよ! 私の名前は、三原、梢!」
そう彼女を怒鳴りつけながらもどこか毒気を抜かれ、そして梢はようやく銃を降ろした。

  △  ▼  △  ▼  △

「じゃあ、冴子が田中君を殺したっていうの!?」
麻生達の知る田中の状況、それと冴子の状況を照らし合わせて出た推測に、梢は憤慨の声を上げた。
「その可能性もある…ということだ。なんらかの理由で田中と冴子が争いになり、相討ちになった…という、な」
「もちろん、他にも考えられます。田中先輩からボウガンを奪った人が次に音篠先輩も撃って…使えなくなったボウガンを捨てて

いったのかも知れません」
それにサラが別の可能性を示唆してフォローを入れる。
だがどちらにしろ、梢にとって辛い現実――冴子の死――に変わりはない……
「なんでよ…なんで冴子たちが死ななきゃいけないのよ……なんで私たちが…こんなことしなきゃいけないのよ……」
激昂したかと思えば項垂れて鬱々と呟く……情緒が不安定な梢に、サラは優しく諭すように語りかけた。

「三原先輩……大切な人を失って哀しむ気持ち、よく…分かります。でも生きている私たちには、まだ出来ることが、やるべきことが
あるんです。顔を上げてください…前を向いてください! 死んでしまった、大切な人達のために…何よりも、自分のために!」
「……なによ…なによ! 知ったようなこといって! アナタに…何が分かるっていうのよ!」
そう自分に詰め寄る梢に、どこか痛みを堪えるような微笑みを向け――
「分かるんです……私は――」
「サラ!」
彼女が何を言わんとするかを察した麻生も微笑みで制し、そして語る――

「前の、このゲームの……生き残り?」
「私も…大切な人を、たくさん失いました……でも――」
「いい……ゴメン……」
――そして後には重苦しい沈黙が流れる……そんな中、最初に口を開いたのは麻生だった。

「それで三原…これからどうする?」
「…分かんない…よ……さっきまでは冴子達の仇を討とうって…思ってた……でも…そんなことしたって、死んだ人は戻ってこない…
冴子達も、きっとそんなのは望んでない……それは分かる……分かるんだけど……でも…だからって…そんな簡単に割り切れないよ!」

麻生の問いかけに、答えにならない答えを返す。だが、彼も思うところがあるのだろうか、しばし思いに耽り――
「そう……だな。それなら今は……まずは、冴子を弔ってやろう」
「うん……」

  △  ▼  △  ▼  △

こんにちは、三原梢です。今は冴子のお墓の前で手を合わせています。
私の横では麻生君と一年のサラちゃんが、一緒に冴子の為に祈ってくれています。
二人には私の泣き声をしっかり聞かれちゃってちょっと恥ずかしいし、麻生君とは始めに一悶着あったけど、それが解決してからは彼が
率先して埋葬を手伝ってくれました。
私一人じゃきっとロクな埋葬も出来なかっただろうから、やっぱり二人が来てくれて良かったと思います。

そういえばブタさんはいつの間にかどこかに行っちゃいました。
なんだかあのブタさんが死ぬと全員が死んじゃうらしいです。……弾が当たらなくて良かったです。
でも、なんでそんなルールにしたんだろ? 先生達が何考えてるか、ホントよく分かんないや。

壊れていたボウガンは、修理してサラちゃんに返しました。
とはいっても、切れた弦は目立たないように繋いだけど、実用には耐えられそうもないので、たぶん威嚇用にしかなりませんが……
私はエチケットブラシを形見に貰って、代わりに冴子が好きだった胡桃パンを半分こしてお供えしました。
ゴメンね冴子、今はこれだけしかあげられなくて。いつかきっと、いっぱい持ってくるからね。

それからお互いの知っている情報を交換し合いました。
麻生君達はこの近くで田中君と永山さんを埋葬していたそうです。二人を一緒に弔ってあげられたというのには、少しだけ救われた気がします。
私も知っているだけのことを話しました。ララと天満ちゃんのこと、奈良君と結城さんのこと。それから…播磨君とハリー君のこと……

これから私は、麻生君達と一緒に西へ向かうことにします。
無学寺に残してきた奈良君や結城さんのことは気がかりだけど……だけど、今自分に出来ることを見つけたいから……
その為には、今は麻生君達と分校跡を目指すのが一番だと思います。(それに正直、一人だとやっぱり心細いし……)
二人も賛成してくれて、それじゃ西に向けて出発!
「……あの、三原先輩」
しようとしたら、サラちゃんが話しかけてきました。

「さっきの播磨先輩の話……本当なんでしょうか?」
天満ちゃんと同じ表情……心なしか声も震えています。
あぁ、そっか……播磨君の元カノの八雲ちゃんとは親友同士なんだよね。まったく……ホントに罪な男だよ、播磨君!
親しい人が殺人者だと…そういわれる辛さは私もよく分かります。
大騒ぎになった天満ちゃんの時、それにさっきのサラちゃんを思い出して、今度は慎重に言葉を選んで返します。

「私も結城さんから聞いた話だし、その結城さんだって現場を見たワケじゃないから、もしかしたら何かの間違いかもしれない……けど――」
――けど、彼には『そのつもり』で警戒しなきゃいけない――
そう続けようと思ったけどやめました。きっと言わなくても分かってるハズだから……
だってこの娘は…今この島で一番、このゲームの残酷さを知っている娘なんだから……

だから、代わりに別の言葉を続けることにしました。
「けど……もしそうだったとしたら、彼を…止めてあげないとね」
「はい…そう…ですよね。」
復讐じゃなくて、道を外れた友達を止めるために、もう被害を出さないために…それが冴子達の望んでいたこと……
(でも…やっぱり哀しいよ……冴子……)

  △  ▼  △  ▼  △

(冴子、今鳥君……どうしたらいいのかな? アナタ達はそれを望んでなくても、でも…やっぱり……)
三原梢は心の中で問いかけを繰り返しながら、澄み渡った青空を見上げた。
吹き抜ける柔らかな風の中、寂しげな顔に哀しい憂いを浮かべて……

その手には親友の形見を握り締め、瞳には困惑の揺らぎを宿しながら……

【三原梢】
【現在位置:G-07】
[状態]:健康(やや疲労)、精神やや不安定
[道具]:支給品一式(食料2、水3) ベレッタM92(残弾16発) 9ミリ弾199発 エチケットブラシ(鏡付き)
[行動方針] :音篠、今鳥を殺した相手を探して…その後どうするかは迷っている。
       自分のするべきことを見つける。できれば殺し合いをやめさせたい。
[備考] :ハリーを警戒。結城が心配。
     播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。


【麻生広義】
【現在位置:G-07】
[状態]:健康(やや疲労)
[道具]:支給品一式(食料5、水4) UZI(サブマシンガン) 9mmパラベラム弾(50発) メリケンサック
[行動方針] :サラを護ることが最優先。サラの願いを叶えたい。
       周防を捜す。菅の仇を討つ? 高野に敵対。
       今後、出会った相手は基本的に警戒。播磨とハリーを特に警戒
[備考] :播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。


【サラ・アディエマス】
【現在位置:G-07】
[状態]:健康 
[道具]:支給品一式(食料3、水4) 壊れたボウガン(M-1600) ボウガンの矢5本 アクション12×50CF(双眼鏡)
[行動方針] :反主催・みんなを守る。
[備考]:麻生を信頼、高野を信頼。護るために戦う。
     播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると疑っています。

[共通備考]:盗聴器に気づいています。


【午前:10〜12時】



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