南へ
放送を聞き、パンだけの軽い朝食を済ませた城戸は出発の準備を整えながらどのルートで南に向かうのか考えていた。
郡山の言葉にも暗号が隠されていないか注意したものの、新たなメッセージは見当たらない。
(南に行かないと何も始まらないという事かしら?)
恐らくはそういう事だろうと解釈し、改めて地図を眺める。
南へと行く道はおよそ3つ。
途中にホテル跡のある島の内側を通る道路。
西の海岸沿いを通り広瀬村へ向かう道路。
東の海岸沿いを通る道路。
うち、島の東側を通る道路は複数の禁止エリアに塞がれており真っ先に選択肢から除外する。
西ルートを進んだ場合は広瀬村を大回りして道無き道を突き進む必要がある。
一番支障なく行けそうなのはホテル跡を通る中央ルートだ。
(でも逆に考えれば誰かと会う可能性も一番高いという事ね)
自分の武器は金属バットにナイフ一本。
銃器を持った相手に出会う事を考えれば中央ルートを選ぶ事には不安もある。
先程告げられた死者の名は4人、前回と変わらぬ人数だが今回は自分は一人も殺してない。
これは自分以外にも活発に行動する殺人者が存在する事を示していた。
(人数を減らしてくれるのは嬉しいけど、そんな人達とは良い武器が手に入るまで出会いたくは無い、決まりね)
城戸は西ルートを選択した。
行動は慎重であるべきだ。
少しのミスが命取りになる現状では石橋を叩き過ぎるという事は無いだろう。
そして郵便局を出た城戸は三沢と冬木の潜む建物を避けてC-3、C-2を通る道路を進んで今に至る。
「現在位置は…、先程橋を通ったからD-2の隅近くというところかしら」
あと少し行けばE-1に入るだろう、ここまでは全てが順調だった。
歩き通しだった城戸は道路から離れて生える木の影で休憩を取る事にする。
ここまで誰とも会わなかった以上、袋小路ともいえるこの場所に他者が存在する可能性は低かったが用心にこした事は無い。
ソファで寝た程度では前夜の疲労が完全に抜けておらず、やや身体がだるく感じる。
今夜の寝場所はちゃんとした家にして布団やベッドで寝たいと思った。
ペットボトルの水を飲みながら改めて地図に目を落とす。
城戸の今後の行動予定はE-2、E-3を強引に通ってF-3の道路に出る事、そして分校跡を探索しようと決めていた。
そこで何も無ければさらに南にある氷川村を目指す。
ただ南へというのはあまりにも漠然としすぎているが、目立つ目標を選ぶ事は間違っていないだろう。
ホテル跡も一応は気がかりであるが当初の予定通り今は寄らない方が懸命と判断する。
ここで城戸は嵯峨野を殺した菅原神社に立ち寄るべきか少し考えた。
あの時、嵯峨野に止めをさした後で神社内を探索する予定だったのだが沢近が駆けつけた為にその場から離れたのだった。
さすがに現在も神社に留まっているとは思えないし嵯峨野の荷物も持ち去られているだろう。
「でも武器になるようなものがあるかもしれないわね、どうしようかな」
余計な体力の消耗は避けたい。
それに神社に逃げ込んでいる新たな人間が居ないとも限らない。
悩んでいたのは少しの間だった。
結局当初の予定通り分校跡を目指す事にする。
根拠は『南』と示された場所を城戸が「自分が放送を聞いた場所から南」ではなく「島の南側」と受け取ったからだった。
だからこそホテル跡も積極的に目指すべき場所とは映らなかった。
地図を畳んで立ち上がった城戸は木の陰から出て道路へと戻る。
自分が殺した友人が眠るであろう神社の方角を一度だけチラリと眺めると何の感慨も無く南へと歩き出した。
【午前9時】
【城戸円】
【現在位置:D-02】
[状態]:少しの疲労
[道具]:支給品一式(食料2) 紙袋(スペツナズナイフ1本、葉書3枚) 金属バット
[行動方針]:E-2、E-3を通って分校跡を目指す、何も無ければ氷川村に行く。新しい武器を得るまで戦闘は避ける。
[備考]:盗聴器に気がつく。主催者とコンタクトを図りたい
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