解釈






城戸が現在いるのは鎌石局…小さな郵便局だ。
彼女は深夜の移動は体力的に無理があり、また危険であると判断してこの場所で次の放送まで休むつもりだった。
建物の中は既に殆どの荷物が運び出されているらしく、カウンターの上には郵便貯金のパンフレットくらいしか落ちていない。
当然ながらカッターナイフのように武器になりそうな物はないが、未使用の葉書ならいくつか床に散乱しており、紙袋に詰めておいた。
さて、と城戸はカウンター内にあったソファーに腰を下ろすと、リュックから地図を取り出しその裏面を眺め始めた。

みなさんちゃんとメモしくしゅん
なんだか本かく的にかぜひいてくしゅん
みなさん本当にきをつけてくし
人間ゆだんするとすぐかぜひく
けんこうかんたいへん
いいかげんおさまらな
ティッシュ 
それだけです
すみませんいとこさん

城戸は一人溜息を漏らす。
彼女が今見ているのは、先ほどの放送のメモだ(もちろん死者や禁止エリアも別にメモしている)。
急いでメモを取った為に字は読みにくく、しかも発言の全てを完璧にメモできた訳ではない。
途中途中で挟まれたくしゃみのせいで、彼女はメモを取るタイミングがかなり狂わされていたのだ。
…だが、笹倉があれほどくしゃみを連発している所など見たことも無い。
風邪がひどければそのような事にもなるのかもしれないが、どうも城戸には何か別の意図があっての物に思えてならなかった。

「…くしゃみがもし、区切りなら…み、な、み、に、け、い、て、そ、す…何これ?」
そして、三沢のメモを見て気付いた暗号の答え…立て読み。
今の城戸の中で、この発想はかなりの比重を占めていた。村の中で文字列を見るや、すかさず立て読みをする程に。
「南にけい…何だろう?でも、もしかしたら南に何かがあったのかも」
はっきり言って、教師側が自分の問いかけに答えてくれるとは限らない。
もしかしたら最初から盗聴器が無い場合すら考えられる。
それでも城戸は信じていた。――いや、期待していた。
彼女の現状は決して楽観できるものではない。すでに三人を殺したスペツナズナイフが残り一本。
金属バットもあるが、これで戦いを挑むのは、腕力で男子に劣る彼女にとって得策とは言えなかった。
先ほど遭遇した謎の男は恐らく別の場所に向かったのだろうが、この後こちらに戻ってこないとも限らない。
それに隣のエリアには確実に三沢がいて、更にもう一人男子がいる。この武装での戦いは辛いものがある。
だからこそ彼女は僅かな希望に賭けたかったのだが…そんな中、南という単語が城戸の頭の中で繰り返される。
自分勝手な解釈をしただけだが、実際南にはホテル跡、分校跡と人が集まりやすい場所がいくつかある。
もしかしたら、南に行けばより強力な武器を得るチャンスが巡ってくるかもしれない。

さて、と一息つき、城戸はソファーに寝転ぶ。方針を決めたらすぐに寝る。これが一番だ。
ソファーはカウンターの影にある為、もし入り口から誰かが入ってきても自分が見付かる心配は無い。
それにこの郵便局の床は木製で、意外と歩く音が響く。
最初に自分がこの場所に忍び込んだ時も結構な音を立てていたので、侵入者にはすぐ気付けるだろう。

最後に、次に目覚めたときに一人でも多くの者が死んでいる事を祈り、城戸は瞳を閉じた。

【1〜2時】

【城戸円】
【現在位置:C-04】
[状態]:睡眠中
[道具]:支給品一式 紙袋(スペツナズナイフ1本、葉書3枚) 金属バット
[行動方針]:次の放送後、南に移動する。新しい武器を得る。
[備考]:盗聴器に気がつく。主催者とコンタクトを図りたい



前話   目次   次話