Re-virth






「もう時間がないわ…私を殺しなさい」
それは小さな声だったが、すえた匂いのする老朽船の中ではそれくらいの音量でも大きく響き渡る。
もう2人の膝にまで水が迫っている、予告どおり連中が穴を開けたのだ。

「いやよ!ここまできて…死ぬんなら一緒がいい!」
少女が拳を震わせいやいやをする。
だが…もう1人の少女は悲しげに笑って、そしてため息をつく。
「私はもう助からないわ…」
べっとりと血にぬれた手を、涙を流す自分の親友に示す。
「でも、でも…友達を殺すなんてできない」
「やさしいのね…あなたは」
傷ついた方の少女が、いまだ無傷の少女の頭を抱く。
「だから、かな…守ってあげたいって思えたのは」
それっきり2人は何も言葉にせず、
ただ万感の想いを確認するかのように抱き合っていた、
だが増えていく水嵩が終焉の時を無常にも教えていく。

そしてついに轟音と同時に隔壁が崩れ、大量の水が通路へと溢れ2人を飲み込む、
「必ず生き残りなさい、そして私たちのことなんて忘れて…平和に暮らしなさい
でも…もしも、またアイツらに出会ったら、そのときは…」


『生存者確認、最終生存者はサラ・アディエマス…至急救急班を要請します』


どうやら少し眠ってしまったらしい、
「ひどい顔…」
サラ・アディエマスは泣きはらした赤い瞳を鏡に移して少しだけ笑うが、
「どうして…なんで…なんでなの」
そう呟くとまた、膝を抱えて嗚咽を漏らし始める。

あれは今から3年前…。
私たちは研修旅行という名目でバスへと乗り込んだ…、
しばらくしたら急に眠くなって、気がついたら、

『君たちにはこれから殺し合いをしてもらう』
そして自分たちの体には…忌々しげに首に手をやる。
そこにはあの時と同じように首輪が付けられていた。


それからの数十時間に及ぶ地獄は、忘却したくてももはや適わない。
だが思う、死ぬのも嫌だったが、生き残る方もまた地獄だということを、


数ヶ月に及ぶ入院生活から退院した私を待っていたのは、大量のカメラとマイク。
何でも自分たちは飛行機事故で死んだことになっているらしい。
ヒースローから飛び立った飛行機はエンジントラブルで北海上空で空中分解、
自分はその唯一の生き残り、そういう筋書きだ。

カメラとマイクの前で私は必死で本当のことを訴えたのだが、
それらが報道されることは一切なく、そして私は数日後にはあきらめて、
悲劇の少女という立場を受け入れることにした。


いつしか事件は不自然なほど早く風化し、そして私は日本へとやってきた、
あの国に残っていたら多分、壊れてしまっていただろうから…

「天罰なのかな?」
サラは皮肉な口調で呟く、日本での生活は本当に幸せだった。
でも思っていた、自分の足元にはいつ開くかわからない冥界への入り口があって、
そこから仲間たちが、早く来い…オマエに幸せなど許されないと、
血まみれで自分を責めている、そんな光景を。

だけど…サラはまた思い出す、あの地獄の中でもただ一人、
自分のことを守って戦ってくれた親友のことを、
「お礼…言えなかったな」
最後に残った意識で自分は彼女に何をしたかったのだろうか、と今でもそれだけは、
繰り返し思う、きっと自分はありがとうと言いたかったのだろうと…。
「お礼なんて、望んでなかったと思うけど」

だから…サラは力強く立ち上がる。
もう泣くわけにはいかない、きっとそれは彼女も望んでいないことだと思うから。
だから、今度は自分が彼女のようになろう、これが運命だというのならば…。
涙を袖で拭う、もう泣かない…泣くのはすべてが終わってから、
そう決意した彼女の瞳は、もう悲しみに満ちた赤ではなく、美しいブルーに戻っていた。

【サラ・アディエマス】
【現在位置:I-06】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 ボウガン
[行動方針] :反主催・みんなを守る



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