交換日記
こんばんは、三原梢です。
魔のグーパー無限ループが終わってからもうすぐでちょうど一時間……。
結局は、私と奈良君がパーで天満ちゃんとララがチョキっていう、およそまともとは思えない終わり方でグループ分けは終了して、今の私は奈良君と一緒に結城さんのもとに向かっている最中です。
天満ちゃんとララはグループ分けが決まるやいなや、一目散に西へと歩き出してしまいました。勿論、伊織も連れて。
どっちが結城さんのもとに戻り、どっちが目的の人を捜しに行くか、っていう話し合いはしようともせず。結城さんの荷物はおいていってくれたけど。
まぁ、奈良君と二人で捜索に出るなんて危険すぎるマネはできる訳がないから、結果としてはよかったのかもしれないけどね。
それにしてもさっきから奈良君、溜め息つきまくりで正直オツムに大分キてます。そんなに私と組むのが嫌なのかと。そりゃ、ララに比べたら不安かもしれないけどね、言っちゃ悪いけど天満ちゃんよりはマシでしょうよ。
つうか男の子なんだからもっと頼りになる振る舞いってもんがあるでしょうに。
……うぅ、なんだか不安がどんどん増していってる。でも、こうしている今この瞬間に、結城さんはもっと心細い思いをしているかもしれない。
だからここは我慢我慢。足を止めないで、一刻も早く結城さんの所に戻らなくちゃいけません。そう、一刻も早く戻らないといけないんです。
なのになんでヘタれてるの奈良君!?
フゥフゥ言って、生まれたての小鹿みたいにフラフラしちゃって。少しは男の子の意地ってのを見せようとは思わないんかいアンタは。
そんな「リュックが重い……」とか言って捨てられた子犬の様な瞳で見たって私からは何も出てきませんよ?
そりゃ、私が貰ったはずの銃弾をまた持ってもらってるのはありがたいんだけど。……まぁ、奈良君には結城さんの分の荷物も持ってもらってるんだけど。
あぁ、もうわかったから!
そんな初めてのおつかいで頼まれた荷物が重すぎて、精一杯引きずりつつなんとか母親の元に帰ろうとする五歳児の様な姿を見せつけて「頑張るよ……」とか言わないで欲しい!
そんなこんなで、結局銃弾は私が持つ事になりました。
つかコレくらいの重さ、男の子なら弱音吐かずに頑張って欲しいです。そりゃあ、水とかの荷物も含めたら重いだろうけど。
こんな事している内にも、どんどん時間は過ぎていきます。気付けば結城さんの待つ無学寺まであと少しって所で、0時の放送5分前です。
あのベルが鳴ったら、もし結城さんが眠っていたとしても確実に起きちゃいます。その時に一人だったら……不味いです。かなり不味いです。
だから早く着かなくちゃいけないのに……。
「あいたっ!?」
私としたことが、迂濶です。木の根につまづいて転んでしまいました。幸い、どこかを捻ったりはしていない様ですが、困った事に膝を盛大にすりむいてしまいました。
奈良君が顔を青くして「だ、大丈夫っ!?」と言いながら駆けてきます。そりゃ、普段なら傷が残らない様に慌てて病院に向かう所でしょうけど、今はそんな事言ってられません。
奈良君の「汚れを流さないと」の声を無視してずんずん前に進みます。
「待って!」の声も気にしません。「大丈夫だから」の一言で立ち止まるという提案を一蹴します。
だって早く結城さんの所に行かないと。……なのになんで手を掴んで離さないかなこの男はっ!
もううんざりです。理解できません。こんな事なら私一人で来れば良かった。けれど、なんで邪魔ばっかりするの、って文句を言おうと奈良君の顔を見た時、私の言葉は喉の奥で止まってしまいました。
なんだ、ちゃんと男の子の顔できるんじゃない。まぁ、相変わらず間抜け面ではあるけどね。ちょっとだけ安心。
「ちゃんと水で洗わないと、はしょう……なんとかになっちゃうよ」だって。もしかして、破傷風の事?
そう尋ねたら、「ああ、うん、そう」って慌てながら頷いて、奈良君は自分のリュックからペットボトルを取り出して私の膝を洗い出した。ちょっとしみるけど、後で酷くなるよりはマシかも。少しだけ奈良君に感謝。
でも、傷を洗い終わった時、気付けばもう深夜0時になってしまいました。
チャイムがなった途端、奈良君はひどく怯えたようにビクッと反応して、慌ててリュックから地図を取り出そうとし始めました。
私も、禁止エリアとかチェックしないといけないと思って、リュックに手を入れて中の地図を探っていたんだけど……その時、思ってもみなかった言葉が聞こえてきました。
―――女子 3番 音篠 冴子
死者しか読み上げれない放送で、会いたかった親友の名が呼ばれた。
……私は、それ以上、何も考えられなくて。
その場にうずくまって、そして、やっぱり何もできなかった……。
※ ※ ※
どうも、奈良健太郎です。
本当は塚本と組みたかったんだけど、グーパーの変なやり取りに気を取られてるうちにいつの間にか三原さんと組む事に。
別に仲悪いって訳じゃあないと思ってたんだけど、何かイライラしてるみたいで、僕を見る時は常に目が怖いのがかなり気になる。
まぁ、三原さんの武器は銃だから、僕の持っていた銃弾が意味をなすには彼女の力が必要なワケで……。そういう意味では守ってもらう側で文句も言えない立場なんだけど、正直ちょっとヘコむかな。
でも、結城さんの待っているっていう無学寺に向かい始めて大体一時間位たってから流れた放送を聞いた途端、三原さんからそれまでの気迫が消し飛んだみたいで、ちょっと今はさっきまでとは違う意味で困った状況になってます。
「あのぅ……三原さん?」と声をかけても返事はありません。そういえば、さっきの放送で名前を呼ばれた音篠さんと三原さんとは仲が良かったんだっけ。
友達を失って、それで落ち込んでるっていうなら、納得できる。大事な友達を失うっていう事の悲しさと、寂しさと、やるせなさは、僕だって知っているから。
吉田山君は確かに乱暴だったし、無意味に威張ってたし、僕はよく彼の行動に振り回されていたけど、西本君を含めた三人でつるんでる時間は本当に楽しかったなぁ。
そりゃ、ちょっとやだなぁと思う事もいっぱいあったし、僕の目指してたバラ色の高校生活とは正反対の方向に突き進んではいたけど、それでも楽しかったんだ。
……だから、かな。吉田山君の死体を見た時、涙が止まらなかった。
塚本の前で泣いたら、彼女を不安がらせるってのはわかってたけど、止めようがなかったんだ。
けど、僕は塚本を連れて歩いた。勿論できるならその場にうずくまって泣き叫びたかったけど、僕は進み続けた。塚本に吉田山君の死体を見せたくなかったってのもあるけどそれよりも、こんな僕にもまだできる事があると思ったから。
近くに殺人者がいるかもしれない状況で、塚本を一刻も早く危険から遠ざけなければならないと思ったから。
だから今も立ち止まってはいけないと思う。別にすぐ近くに殺人者が潜んでるってワケではないけど、歩くのをやめてはいけないんだ。
まぁ僕も、さっきまでヘバってたから偉そうな事は言えないんだけど。でも、決めた。もう立ち止まらない。
「……行こう」だから僕は三原さんの手をひく。「立ち止まらないで、結城さんのところに」
手を振り払われたって、また掴む。何度振り払われても、そのたびに掴み直す。
僕の方に顔を向けないまま、「冴子が、どうして……」って三原さんが呟いた。僕には答える事が出来ない。だって、吉田山君が死んだ理由だって僕にはわからないから。
三原さんを歩かせるために、僕は言った。「結城さんはまだ生きて、僕らが来るのを待ってるかもしれないんだよ?」って。
そしたら三原さんはやっと顔を上げて「でも、冴子はっ……!」って叫んで、息を詰まらせて、そしてまた黙ってしまった。
うん、わかるんだ。三原さんの気持ち。友達が死んじゃったら、悲しいよね。
でもやっぱり、立ち止まっちゃ駄目なんだよ。僕達は絶対。
「ここで立ち止まって、また悲しむ人を増やすの? 結城さんは、いま悲しんでるかもしれないんだよ。音篠さんが死んじゃって、辛いのはわかるよ。僕も、吉田山君が死んだのは今でも悲しい。
でもさ、だからこそ僕達は生きなきゃならないんだ。そして、皆でこんなゲームの犠牲者をださないように頑張らなくちゃいけないんだと……思う」
それが嘘偽りの無い僕の気持ち。三原さんには辛いかもしれないけど、ここを乗り越えなくてはいけないと思うから。
案の定、三原さんは何も言わず黙ってしまった。だから僕は話すことにした。吉田山君が死んじゃった時、僕がどう思ったか。包み隠さず、全部を。
……全てを話し終わった時、気付いたら僕は泣いていた。三原さんを不安がらせるから、本当は今回も泣きたくなかったんだけど、やっぱり止まらなかった。
気付いたら、三原さんは泣きながら笑っていた。「アンタが泣いてどうするのよ」って言いながら、僕を小突いて。
そうだよね、おかしいよね。だから僕も笑った。泣きながらだけど、それでも笑った。
三原さんが「ほら、行くわよ」って言って僕を逆に引っ張る。さっきまでとまた立場が逆転してしまった。だから僕は、慌ててそれについて行く。
歩きながら、三原さんは涙を拭っていた。僕も拭いながら、歩き続ける。
それから、二十分ほど歩いただろうか。結城さんのいるという無学寺にやっと着いた。三原さんが「結城さんっ! ちょっと留守にしててゴメンッ!」って言いながら先に入っていく。
僕も後から入っていったけど、そこには結城さんはいなかった。無学寺は、まさにもぬけの殻だった。
三原さんは明らかに慌てていた。「だって結城さん、荷物とか持ってなくて……」と言って、僕が持ってきた結城さんの荷物を見る。
僕はとりあえず三原さんを落ち着かせようと努力した。もしかしたら結城さんは、誰かに襲われるかどうかして、三原さんの帰りを待たずにここから出ていったのかもしれない。けれども、放送で名前が呼ばれなかったということは、まだ無事であるということだ。
だとしたら、いずれここに帰ってくるだろう。
だから今はとりあえずここで休むべきだと、そう言うと、三原さんは意外と素直に同意した。たぶん彼女も、疲れが溜まっていたに違いない。
見張りは四時間半交代に決めて、まず三原さんが休むことになった。
傍で女の子が眠っているって状況は、本来ならドキドキするもんなんだろうけど、自然と僕は落ち着いていた。
落ち着いて、そして考える。
―――今頃塚本は、どうしているのだろうかと。
【二日目】
【午後:0〜1時】
【三原梢】
【現在位置:F-08】
[状態]:膝に怪我(ただしちゃんと洗ってある)、睡眠中
[道具]:支給品一式(地図はなし、水3)ベレッタM92(残弾16発) 9ミリ弾200発
[行動方針] :今鳥を探す。夜明けまで無学寺で休む。
[備考] :ハリーを警戒。伊織がちょっと気になる。結城が心配
播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。
冴子は死んだけど、生きようと思う。
【奈良健太郎】
【現在位置:F-08】
[状態]:健康(ちょっと疲れ)
[道具]:支給品一式×2(水4)
[行動方針] :夜明けまで、無学寺で結城を待ってみる。その後の方針は後で考える。
[備考]:ハリーを警戒。播磨が吉田山、天王寺を殺し刃物を所持していると思っています。
天満を心配。
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