冤罪






三沢に対しどう対処しようか円が思考していると、こちらに向かって足音が近づいてきた。
建物の影に隠れて足音のする方向を観察する。
やがて暗闇の中から冬木が現れ、三沢のいる建物へと入っていった。中から話し声がする。
(二人…か。)
どうしようか?
手元にある武器は金属バット、そしてスペツナズナイフ一本。
まず一人をこのナイフで殺し、もう一人に金属バットで対抗すれば男子といえども殺すことは可能だろう。
だがあと一本しかないこのスペツナズナイフをここで使うのは少し勿体ない気がする。
ゲームの勝者となるには、この二人よりも強敵になりそうな人物がかなりいる。
(ま、この二人は後回しでもいいかな。)
結局この二人は放っておくことにした円は、物音を立てないようにその場を後にした。


一方その頃、隣りのエリアにいた播磨はというと。
パソコンで参加者の位置を調べた結果、ここから少し東に行ったC-06の地点に六人もの人物がいることが分かった。
そこで播磨はC-06の地点に向かうことにした。
(もうすぐC-05だな。この分ならわりと早く着けそうだ。)
そしてまもなくC-05のエリアに突入しようとした時。
(ん?C-05…?)
何か忘れてないか?C-05、C-05…。
走ったまま地図を確認してみると、C-05のエリアに大きく×が書いてある。
「のわああああああっっっっっっとととととぉぉぉぉ!」
慌てて急ブレーキ。まさにC-05に入るギリギリの所で播磨は踏みとどまる。危うく禁止エリアに突っ込んで自爆するところだった。
「危ねえ危ねえ…。こんなマヌケな死に方をしたら末代までの恥だ…。」
ふーっと深呼吸した後、播磨は道端に腰を下ろして再びパソコンを取りだした。目的地を改めるためである。
先程行こうとしたC-06は禁止エリアのせいでかなり遠回りしなければならないようだ。
他のエリアを探すと、ここから南に行ったホテル跡に四人、さらにその付近にも一人いる。
「南か…。あんまり気が進まねえな。」
夕方斉藤と鬼怒川に襲われた時のことを思い出す。
「待てよ…。もし天満ちゃんが南にいたら、あいつらと出くわす可能性があるって事じゃねえか!」
こうしちゃいられない。すぐに南に向かわなくては。
そう決心した播磨が南に向けて出発しようとパソコンを止めようとした時。
学校のチャイムが鳴った。

(…放送か!天満ちゃん…!)
祈るような気持ちで放送を聞いた。

放送が終わった。天満の名前は無かった。だが播磨は大きなショックを受けた。
「マカロニ…」
そう、先程会ったばかりの東郷が死んだのだ。
「…俺が、殺しちまったのか?」
先程東郷と戦った時のことを思い出す。正直ケンカの最後の方はよく覚えていない。
まさかあの時、勢い余って殺してしまったのだろうか?
「いや、俺が気付いたときは誰もいなかった…。俺が殺したって事は…」
―もしかしたら、屋上から突き落としてしまったのか?
そんなはずは無い、俺は殺してないと頭の中で繰り返すが…自分は絶対に潔白だ、とは言えなかった。
「人を殺した…俺が…マカロニの野郎を…この手で…!?」
思わず手が震える。ケンカに関しては百戦錬磨の播磨でも、今まで人を殺したことは無い。
自分が犯してしまったかもしれない罪の重さに恐怖を感じた。
(違う…俺じゃない俺じゃない俺じゃない…)

ビーーッ!!

突然鳴ったブザーのような音で、播磨は我に返った。
どうやら目の前のパソコンからのようだ。
「どうなってんだ…?」

『はぁ〜い、こんばんわっ!!これで君は半日生き残ったわけだね、おめでとぉ〜!』
「妙さん!?」
モニターに、拍手をしながら笑顔を見せる姉ヶ崎が映し出された。
『君に会うのは二回目かな?でも初めての人もいるかもしれないからもう一回説明するね!』
呆気にとられた表情で播磨は姉ヶ崎の言葉を聞く。
彼女によればこのパソコンは、放送毎に何らかの機能が増えていくという仕組みらしい。この参加者位置を確かめる事が出来る機能も、先程の放送で追加されたそうだ。
『で、肝心の追加機能だけど…。今回追加されるのは「支給品リスト」で〜す。他のみんなにどんな物が支給されているのかを確認することができるのよ。
誰に何が渡っているかはさすがに分からないけど、これで色々作戦を立ててゲームに役立てねっ!』
支給品リストぉ!?
どうやら天満の捜索にはあまり役に立ちそうにない。
『じゃあ、また6時間後を楽しみにしていてね。それまで頑張って生き残ってね!』
姉ヶ崎がそう言うと、パソコンの画面は先程起動していたマップ画面に戻った。

なるほど。放送毎に機能が追加、か…。
だが今回の追加機能「支給品リスト」は、天満の位置を特定する決定打にはなりそうもない。
「ったく。支給品なんてどうでもいいから天満ちゃんの…」
と、そこまで言った時。
播磨は突然自分のリュックの中を漁り始めた。

どうして今まで気付かなかったんだろう。よく考えたら、彼はまだ自分の支給品を確認してなかったのである。
(すっかり忘れてたぜ!何か役立つ物、役立つ物…)
リュックの中をよく調べると、菓子パンの下の方に何か小さな機械が二つ見つかった。
「これは…確か絃子が使ってた…」
そう、その機械は二つのインカムだった。播磨が入院したとき、彼女から渡された物と同じ物だ。
一緒に入ってた説明書によると、この島の中ならどこでも通信できるらしい。
「ちっ、あんまり今の状況じゃ役に立ちそうにねえなあ…。」
播磨はぶつぶつ文句を言いながら、インカムとパソコンをリュックに戻す。
「おし、じゃあ南へ向かうか。」
軽く屈伸をし、播磨は出発の準備を整えた。
―東郷の事は、考えないようにした。考えたくなかった。


播磨が放送を聞いていた頃、円もまた放送を聞いていた。
新たな死者は四人。自分が殺した以外では二人しか死んでいない。なるべく多く減っていて欲しかったがそうもいかないようだ。
放送前に盗聴器で教師達に呼びかけたのに対しても、明確な返答は無かった。
一応放送内容はメモしておいたのだが、もしかしたら隠しメッセージがあるかもしれない。
「やけにクシャミが目立ったけど…これが関係あるのかしら?」
メモを見ながら首をひねる円。その時、
「誰か来る…?」
東の方に人の気配を感じる。近くの建物に隠れて様子を伺った。
大柄な男が、目の前を通過していく。
(誰かしら…?あんな人、ウチのクラスにいたっけ?)
その男は確かに矢神高校の制服を着ていたが、円の記憶には彼の顔が無い。
どう対処しようか。新たな武器が手に入るまでスペツナズナイフの無駄な消費は避けたい。ならばこの金属バットで…。
いや、未知の相手に対して白兵戦を挑むのはリスクが大きい。ここは避けておくべきか…。
円は武器をしまい、その場を後にした。

「ん?」
後ろに人の気配がする。振り向くと、一人の女生徒の後ろ姿が目に入った。
「あ!オイちょっと…!」
慌てて播磨も追おうとするが、すぐに見失ってしまった。
「ちっ。」
播磨は軽く舌打ちする。
まあ後ろ姿を見る限り天満ちゃんじゃなさそうだしいいか。それに天満ちゃんがあんな俊敏に動けるわけがない。
そう思った播磨は無理に探すこともないと判断する。
「さっさとホテルへと向かうか。」


実は円の罪がことのごとく播磨のせいにされているとは、お互い知る由も無かった。



【午前:0時半〜1時半】

【播磨拳児】
【現在位置:C-04南部】
[状態]:健康、精神的な焦り、軽く鬱
[道具]:支給品一式(水と食料二人分)、インカム一組、ノートパソコン
[行動方針] :1.天満を探す為にホテル跡へ 2.沢近の誤解を解く 
[備考]:サングラスを外しています。吉田山が死んだとは思っていません。
    「もしかしたら自分が東郷を殺したのかも…」と思っています。

【城戸円】
【現在位置:C-04】
[状態]:疲労
[道具]:支給品一式 スペツナズナイフ1本 (紙袋が現地調達です)、金属バット
[行動方針]:盗聴器に気がつく、主催にコンタクト
       放送について何かメッセージが無いか考える。


※パソコンの追加機能は「支給品リスト」、参加者に支給されているアイテムが全て載っています。
 ただし誰に何が支給されているかは載っていません。



前話   目次   次話