訪問者
『周囲の見回りをしてくるから』―――そんな名目で雪野を連れ出した後。
岡が篭絡されていることに気付かぬまま、大塚舞は友人二人と話し合いを続けていた。
最初の頃は自分のペースだった。高野に心酔する雪野をたしなめ、警戒心を持つよう説得し、
自分達とのつきあいの長さを強調する。その上で高野が信頼に足る人物か問い詰める。
やや卑怯なやり方だと思ったが、こんな状況だから、と自分を無理矢理納得させる。
しかし、それでも事は思い通りに動くことはなかった。
「…私、それでも……高野さんは信頼できると思う。一緒にいたいかな…」
「〜〜〜〜!」
もじもじと顔を少し赤らめながら雪野は話す。トーンを上げてもう一度聞きなおすが返事は変わらない。
そして、声が大きくなりつつある自分を砺波がなだめ、雪野のフォローに回ったあたりから旗色が悪くなり始めた。
「ねえ舞ちゃん、美奈がこれだけ意見を曲げないって滅多にないことだよ。…高野さんを信頼しても、いいんじゃないかな?」
「ちょ、ちょっと砺波!?」
「!順子、ありがとう。そうだよ、高野さんは強くて優しくて……舞ちゃんの言うような危険な人じゃないよ」
ほう、と憧れの人を語るような目つきで高野を褒め称える雪野。
「で、でもね。…私だって、信用したいけど…高野さんってよくわからないところがあるでしょう?」
「あの人が問題起こした事ってなかったじゃない。さりげなく私を守ってくれたし、さっきも励ましてくれたよ?」
「岡君だってその…あんなことしようとする人じゃなかったけど、でも実際…さあ」
「あ、ほらほら。文化祭でやった演劇の脚本。あれって高野さんがやってくれたんでしょう?」
そういえば、とそのことを思い出す。友人の結城と相談してもまとまらなかった演劇の脚本を、一つのシナリオに
してくれたのは他ならぬ高野本人。その後の練習でも演技指導や演出効果等、惜しみない協力をしてもらえた。
それ以前のサバイバルゲームも…自分は反対だったが、結果としてクラスの結束を高めることになった。
そのことに関しては、彼女の功績と認めざるを得ない。反論はできなかった。
「ね?だからさ、私達も信じてみようよ。美奈が言うような、素敵な一面が見えてくるよ」
「でも…………ううん。わかった、わよ…」
かくして高野の思惑通り、盲目状態となった雪野を砺波が補佐する形で相談は完結した。
折れた側の大塚だったが、心に残るもやのようなものはまだ失われてはいなかった。とはいえそれは言葉にできるものではない。
じゃあ戻ろうか、と50メートル程先のお堂を目指し笑顔で砺波が歩き始める。その時。
「やあこんばんは」
「「「きゃああああっ!!?」」」
背後から聞こえてきた挨拶に、三人全員が飛びのいた。雪野と砺波は驚きのあまりそのまま倒れこみ、
大塚だけがなんとか足を踏み込み持ちこたえることができた。
「だ、だ、だ、誰!?」
「あわわ……え」
「か、かか…」
一体いつの間にそこにいたのか、彼女らが話していた場所のすぐ近くに烏丸大路は立っていた。
殺し合いの舞台においてもいつもの無表情を崩すことなく。平然とそこに、当然のように。
「烏丸君!?う、うう動かないで!!」
半ばパニックになりながらも、大塚は薙刀を構え目の前の人物に突きつける。いきなり何をやっているのかと
理性が自分を叱咤するが、突然の出来事に体がそれを受け付けない。微動だにしない彼を見て、ようやく
落ち着きが戻り始める。そして、右手にある日本刀に目が入った。警戒心が更に上がる。
「か、烏丸君……いきなりで悪いんだけど、その刀…捨ててもらえないかしら…」
なんでこうなるの、と泣きそうになる。高野晶に続いて烏丸大路。何を考えているのか意味不明ランキングの
男女トップと出会うことになるなんて。とにかく彼が危険な存在か確かめねば、と薙刀を握る手に力を込める。
後ろの二人にも早く立ち上がるよう叫びに近い声をあげた。
「………」
挨拶しただけなのに、どうして薙刀をつきつけられ武装解除を要求されているのだろう。
何やら話し込んでいたようなので邪魔をせず、終わったようなので話しかけたのがまずかったのかな。
烏丸大路の率直な感想はそれだった。ゲームが始まってからの彼女らの事情を考えれば止むを得ないものなのだが、
それを知らない彼に受け入れることはできない。彼からすれば舞達こそが『危険な存在』である。
「それはできない。僕には目的がある。君達にやられるわけにはいかない」
「!ッ…わ、私達がやるわけないでしょう!烏丸君こそ……!」
じり、と大塚が距離を縮める。ただならぬ空気を感じ取り雪野と砺波は最悪の光景を想像した。
自分達の親友が刃物で人を傷つけるところなど見たくない。しかし、何故だろう。嫌な予感がする。
彼と戦っても勝ち目がない。生存本能が最大限の警報を発し、そう叫んでいる気がした。
「待って、舞ちゃん!烏丸君、ごめんなさい。舞ちゃんにそんなつもりはないの。ちょっと興奮してるだけなの」
後ろにいたはずの砺波が飛び出したことに気付いたのは声が聞こえた後だった。
と同時に誰かが走り去っていく音がする。『た、高野さんに…!』そんな声がしたがそれどころではない。
「と、砺波!?危ないわよ、下がって!」
「あ、あのね。お昼にちょっと怖いことがあって…舞ちゃんも怖い目にあって…それで私達おびえてるの。
別にこんなことに参加してるわけじゃないの。烏丸君は怖いことしないよね?信じるよ。だから信じて、お願い」
自分の声を無視し、友人は必死で話を続けている。その相手は相変わらず表情を崩さない。それが恐怖をことさら
増幅させるのだが、それでも彼女は引こうとしない。立ちふさがり、無防備のまま説得を続けている。
「も、もういいから!砺波お願い、下がって!」
「わかった。信じるよ」
「ほら!見なさ………………え」
かしゃん、と日本刀が地に落ちる音がする。続いてこれでいいかな?と全く変わらない顔で烏丸が話す。
前にいる砺波がありがとう、と喜んでいるのが分かる。説得が成功したことを悟り、気が抜ける。
とたんに両腕に力が入らなくなり、自然と薙刀が抜け落ちていった。
高野は素敵な勘違いをしてくれている岡に適当に話をあわせ、くつろいでいた。
彼女らの内緒話は終わっただろうか?放送まではあと―――時計を確認するより早く、
ドタドタと激しい足音が室内に響いた。急ぎ岡から体を離し、襲撃に備え入り口からの死角へ急ぐ。
高野さん、高野さんと悲鳴に近い声が聞こえてくる。岡ですら、ただ事ではないと理解できた。
入り口を乱暴に開き、半泣きの状態で雪野が走りこんでくる。
「た、高野さん!大変なの、舞ちゃんが、烏丸君が…!お、お願い助けて!」
「!」
「か、烏丸ぁ!?…よっしゃ任せろ!おい、この鎖を」
要点は抑えられていないが、高野には大方の予想はついた。頭の固い委員長が彼を刺激したのだろう。
馬鹿な真似を、と思う。彼は基本的に人畜無害。だが手を出せばとてつもなく痛いしっぺ返しを食らう。
自分とて下手に手を出したくはない相手だ。懐のシグ・ザウエルに手を伸ばす。
銃の存在がばれてしまうが、この場にいない二人は既に無傷ではないはずだ。
そこを救えば、信頼されこそすれ疑いはされまい。雪野と岡はいくらでも丸め込める。決意を固めるのは一瞬だった。
「雪野さん、岡君の鎖を解いてあげて。そしてここでおとなしくしていてね」
せっかくだし、何やらやる気を出している後ろの彼を解放してやることにする。盾くらいには使えるだろう。
全員の信頼を得るには割に合わない仕事だが、仕方ない。最悪逃亡も考えつつ、意を決し部屋を飛び出した。
てくてくと、ゆっくり三つの足音が重なる。足音と話し声に混じり、鍔鳴りの音が響いていた。
烏丸大路は相変わらずのポーカーフェイス。砺波順子は笑顔で、大塚舞は申し訳なさそうな顔をして。
「大塚さん、僕が武器を持っていていいの?」
「素手ってわけには、いかないでしょう…ごめんなさい。ちょっと頭に血が上りすぎてたわ」
「本当にありがとう、烏丸君。美奈も心配だし、とにかく戻って高野さんと岡君も混ぜて話をしようね」
「…高野さんだ。?今彼女――」
「え、本当!?……いないよー?」
柱の影に隠れたんだよ、と烏丸は補足する。一瞬見えた彼女の表情と握っていた『何か』の正体を少しだけ考えながら。
その視線の先に潜み、高野は今自分が目撃した情報の整理を進めていた。
(どういうこと…雪野さんが嘘をつくとも…読みが外れた?……!いや、説得した?)
注意深く覗き見た外の様子は平和そのもの。烏丸を含めた三人が、何やら談笑しながらのんびりと歩いてくる。
彼と一瞬目があった。気配をおさえ、影から眺めていたつもりなのだが、蝋燭の明かりのせいで完全に隠れ切れなかったらしい。
殺気を読まれたか、構えていたシグ・ザウエルを見られたか…彼とはいずれ接触を持つ必要があるだろう。
鎖から解放され、無意味にやる気を出しながら背後から走ってくる岡が更に気分を苛立たせた。
烏丸の姿を見てパニックになる雪野をなだめ、お堂の中で大塚と砺波が事情を話す。雪野と岡から深いため息が漏れた。
雪野も岡の鎖が外れている理由を述べ、申し訳なさそうに頭を下げる。緊急事態が誤解だった以上、
また縛られるのかと顔を引きつらせる岡。当然よ、と大塚は断じるが今度は体に食い込むほど
きついものではなかった。理由を尋ねるが「ちょっと疲れちゃった」ということらしい。岡は少しだけ委員長に感謝した。
「烏丸君、鎌石村のほうから来たの?誰かに会った?」
疲労を見せる大塚に代わり、砺波が司会役で話が進む。それに特に誰も口をはさまない。
「三沢君と冬木君に。話によると、東郷君もいるらしいよ」
特に口止めも受けなかったため、烏丸は冬木から教えられた情報を全て話した。それに自分も
カレーパンについて尋ねなくてはならない。いかにして自然に話を切り出すか、彼は考えていた。
「探知機つきのパソコンかあ……ねえねえ高野さん!すごいよそれ」
「そうね。禁止エリアのせいで遠回りしないといけないけれど」
「…なあ、烏丸。なんでお前は冬木についていかなかったんだよ。そいつがあれば身を守れるんだぜ?」
迫り来る襲撃者を迎撃し、高野の力になって愛されるという夢をつぶされた恨みか、それとも女だらけの聖地に
男の訪問者は好ましくなかったのか。あるいは純粋な警戒心か。いずれにせよ、岡はあまり烏丸を
好意的に思うことができなかった。疑うような視線を投げつけて問う。
そんな彼の言葉に、『え』と誰かが声を挙げた。
「……僕は」
―――――――キンコンカンコーン
サッと、その場の空気が固まり沈黙が訪れる。烏丸と高野以外の顔色が変わる。放送だった。
笹倉葉子の普段と変わらぬ陽気な声で、嬉しそうに犠牲者の名が挙げられていった。
「……嵯峨野、さん…音篠さん…田中君…東郷…君…」
暗い雰囲気が周囲を包む。先程まで話していた、ノートパソコンや冬木らの存在という明るい話題も意味を成さない。
高野でさえ沈んだ表情を見せる中(少なくとも周囲からはそう見えた)、それでも烏丸の表情は変わらない。
沈黙を破ったのはそんな彼を睨みつけていた岡だった。
「なあ烏丸。お前嵯峨野と一緒にバンドしてたよな。そのわりに反応薄いんだな。……あとな。
…東郷が鎌石村にいて、人の場所のわかるノートパソコン持ってたとしたら、なんで死ぬんだよ」
「ちょ、ちょっと岡君!?」
何を言い出すのかと、砺波があわてふためく。烏丸と岡を交互に見るが、どうすればいいかはわからなかった。
「砺波、やたら烏丸を信用してるみたいだけどな。こいつが嘘言ってるかもしれないんだぜ。
…烏丸、なんで冬木についていかなかった?なんで便利なパソコン持ってる東郷が死ぬんだ?」
「やめてよ岡君!か、烏丸君にだって…事情があるよ、きっと」
「それを聞いてるんだ…答えろよ、おい」
砺波と岡の言い合いを見ながら、雪野はただおろおろと狼狽する。助けを請う目で高野を見るが、
返ってきたのは『あなたまで巻き込まれてしまう』というものだった。
「嵯峨野さんが死んでしまったのは悲しい。辛いよ。…ただどうすればいいか、わからないんだ。誘いを断ったのは、
別の目的があったから。…播磨君を探しているんだ。東郷君が死んでしまったのはわからない。ごめん」
相変わらず表情一つ変えず、眉一つ動かさないで淡々と烏丸は述べる。その声には恐れも後悔も感じられない。
岡の怒りに油を注ぐだけだと砺波はあせり、高野は心の中で苦笑した。
「わからない?ダチが死んで悲しみ方が分からないだと?ふざけんな…そんなわけあるかよ!
…それに、播磨を探してる…?何でだ?このふざけたゲームに一緒に」
「もういいかげんにして!!」
話を断ち切ったのは、放送後一言も喋らなかった大塚だった。うつむいているため、表情は見えない。
しかし、震えた声が彼女の心境を物語っていた。
「……烏丸君がそういう人だったら…私や砺波は死んでたかもしれない。…それでいいじゃない……
…………もう嫌…なんで私達まで疑って、争い合わなくちゃならないの…」
「お、俺はただ……いや……その…………」
軽はずみすぎた。せっかく戒めを緩めてくれた彼女をまた泣かせてしまった。
自分は何をやっきになっていたのだろう。さすがに岡も先程の言動を反省する。
「…悪かった。ごめん、皆…烏丸、わりぃ」
誰に限らず岡は謝罪する。だが会議の終焉は、もはや誰かに止められるものではなかった。
(……僕はここにいないほうがいいのかもしれない)
自分の感情表現の乏しさは自覚している。それによる弊害も。『心に体がついていかない』以前、
学校の帰りにそんなことを特徴的な髪型の少女に話したことを思い出した。
彼女なら、自分の気持ちも理解してくれるだろうか?カレーでも漫画でもなく、
一人の少女のことが頭に浮かぶ。
――――――しかしそれも一瞬。それより、と彼は本来の目的に思考を集中させた。
カレーパン。先程は岡の心境を考えて播磨を探していると無難に答えておいたが、
当然忘れたわけではない。しかし今聞いても余計混乱させ、交渉を難航させてしまう。
朝になれば当然食事がある。その時にカレーパンについて聞けばいい。もしカレーパンがあったら
なんとかして。否。なんとしてでも手に入れて――――この場を立ち去ろう。そう彼は決めた。
(それまでは漫画を描こう)
睡眠の前に、原稿を少しは進めておくことも重要だ。しかしさすがに今この場で漫画を描き始めたら
破り捨てられかねない。観音堂はそう広くはないが、住職や坊主らが寝泊りする個室くらいはあるだろう。
照明用に余っている蝋燭とマッチを借りる。そして部屋を出ようとしたところで声をかけられた。
「烏丸君…どこ行くの?」
砺波だった。心配そうな顔をしている気がする。別の部屋にいるよ、と伝えておく。
「あ、あのね…」
か細い声で彼女が呟く。雪野達から受ける視線を気にしているようだった。
「さっきの岡君の言ってたこと…気にしないでね。皆、不安なだけなの。私は信じてるから。話してくれてありがとう」
こく、と無言で頷く。無表情・無感情の自分にとって、先程のようなトラブルは一度や二度ではない。
ただ彼女のように気にかけてくれるということは珍しかった。学校生活の中で自分を避けず理解しようと
してくれたのは、バンドメンバーや塚本天満くらいのものだったのだから。
「……一応、何があるか分からないから気をつけてね。…交代で見張りをしないといけないから、
後でお願いすると思うけど…いい?」
今度は少し離れた場所にいる大塚だった。出会った時の事を悔いているのか、表情は暗い。
これにも頷いて返事をしておく。続いて彼女からさっきは本当にごめん、と謝辞が述べられた。
烏丸が出て行くと同時に、再び室内は静まり返る。次に動いたのは高野だった。
「皆、ごめん。忘れてたわ。これさっきの放送で言われてた禁止エリア予定地のメモ。一人ずつ書いたんだけど、
受け取ってくれる?烏丸君には後で私から持っていくわ」
あ、すっかり忘れてた…と雪野が驚くと同時に高野を褒める。大塚と雪野もお礼を言いながら
それを受け取る。最後に、縛られている岡がメモを高野に見せられその内容に岡は目を見開く。
『貴方の警戒は間違ってはいない。フォローしてあげられなくてごめんなさい』
禁止エリアとともに、そのメッセージが記されていた。にへら、と顔が歪むのが高野も岡も分かる。
メモをたたみ、そのまま岡のポケットに入れる。好き勝手に解釈して、妄想でも何でもしていればいい。
高野はそう思った。信頼を得るための地道な作業を終えたところで、思考を切り替える。
(烏丸大路か…。できればこんな早くから会いたくなかったわね)
自分とて、彼の全てを知っているわけではないが、少なくとも危害を加えなければ大丈夫ということはわかる。
播磨を探しているというのが本当ならば、その目的は何か。接点は二つ。
塚本天満につながりがあるという点と、同じ談講社で漫画家(播磨は見習いだが)をしているという点。
(後者かしら。この舞台でもプロ根性を忘れない精神は見上げたものだけど、理解はされないわね)
ひとまず敵対はしていないが、今後も行動を共にするには少々都合が悪い。
岡や雪野と違い、彼を操るのは無理だろう。それどころか自分の企みが露見したら、
最悪の障害になりかねない。砺波や大塚とそれなりの関係を築かれてしまったというのも面倒である。
……先手必勝。彼を暗殺するのがベストだろうか。
(銃は音が漏れてしまう。他の武器は……彼に会いに行くのに持っていくのは不自然、か)
いずれにせよ接触してから。他の人間――特に雪野と岡の視線が厳しい中、どうやって彼と
二人になるか思案していたが彼から一人になってくれたのは都合がいい。
口実は作ったのだからいつでも会いにいける。思考を巡らせ、最適手を探し出さなくては―――
「ねえねえ高野さん。見張りのことなんだけど」
割り込んできたのは、相変わらず嬉しそうな顔をしている雪野。いい加減、あわせるのも疲れてくる。
「私と順子が3時まで起きてるよ。で、それからは5時になるまで烏丸君と舞ちゃん。だから」
「間に時間を挟んで寝るのは健康に良くないわ。私と岡君は休ませてもらったし、大塚さん達と
交代したほうがいいわね」
「そ、そうなの……?う、うんわかった。じゃあそうしよっか」
きっぱりと話を断ち切るように告げられて、雪野は少しだけたじろぐ。何か不愉快な思いを
させてしまったのだろうか?しかし憧れの彼女の声は変わらず優しい。気のせいだと思い込んだ。
「ここから部屋続きになって、隣に小さい部屋があるの。畳がしいてあるからそこがいいよ」
「…岡君は当然ダメよ。ここで寝なさい。…いいじゃない、鎖は緩めてあげたんだから」
「高野さん、舞ちゃん、岡君、おやすみ。時間になったら起こしてあげるね」
部屋とお堂の間の扉は薄く、向こう側から明かりと声が漏れてくる。
『高野さんの寝顔を見るんだ♪』という怖気の走る台詞が聞こえた気がした。
同じく部屋にいる大塚からおやすみ、と覇気のない声で話しかけられたため普通に返事を返す。
どうやら自分はひとまず信用されているらしい。相談のほうは思い通りに進んでくれたようだ。
目をつむらず、高野晶は再び考える。これからの行動を。いかにして事を有利に進めるか。
ひとまず見張り順を操作して、こちらから烏丸に接触できる機会は増やしたが、どうするべきか。
―――――考え続けた。
【夜:0〜1時】
【高野晶】
【現在位置:C-06 待機室】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(食料1食分消費) シグ・ザウエルP226(AT拳銃/残弾15発)
[行動方針] :烏丸をどうするか考え、接触する。弾薬の消費を抑えて殺す機会を掴む。
雪野は使えるなら利用する。岡も使えるなら利用する。
麻生と敵対。(ただし優先して排除しようとは考えていない)
[最終方針] :ゲームに乗る。パーティー潜伏型。
【雪野美奈】
【現在位置:C-06 お堂の中】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(食料1食分消費) 工具セット(バール、木槌、他数種類の基本的な工具あり)
[行動方針] 1:高野の為に動く。 2:高野晶、大塚舞、砺波順子と行動をともにする。
【大塚舞】
【現在位置:C-06 待機室】
[状態]:睡眠。高野、烏丸を信用。ややへこみ中
[道具]:支給品一式(食料1食分消費) 薙刀
[行動方針] :ゲームに乗る気なし。みんなを集めてどうにかする。
【砺波順子】
【現在位置:C-06 お堂の中】
[状態]:健康、だいぶ冷静。高野、烏丸を信頼
[道具]:支給品一式×2(食料1食分ずつ消費) パーティーガバメント
[行動方針] :ゲームに乗る気なし。大塚舞、雪野美奈、高野晶と行動をともにする。
【岡樺樹】
【現在位置:C-06 お堂の中】
[状態]:打撲傷多数/鎖鎌のチェーンで体を縛られている(それほどきつくない)、睡眠
[道具]:無し(砺波が持っています)
[行動方針] :「高野の心の支えになるのは俺だっ!」と素敵な勘違い中。
【烏丸大路】
【現在位置:C-06 お堂の個室】
[状態]: 健康、原稿執筆
[道具]:支給品一式(食料はカンパン、カレーパン、水×2) 日本刀
[行動方針] :1.原稿を進めたら寝る。朝になったら出発する 2.カレーパン探し(手段不問、とりあえず朝食時に尋ねる)
3.原稿を描く(播磨に手伝って欲しい)、4.3が終了後冬木らに協力する
※見張りは3時に高野、岡に交代。5時に烏丸、大塚と交代
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