求心力、ゼロ






寂れた神社の入口に花井春樹は立っていた。
「くそっ、何故こんな事に…」
とにかく冷静になれと自分に言い聞かせたが、このような状況では落ち着く方が難しかった。
平凡な日常から突如切り離され、自分達は殺し合いを強制されているのだ。
できれば夢だと思いたい。これは悪夢だ。しばらくすれば醒めて、いつも通りの朝が来て…。
だが先程の倉庫内で見た光景が、これは現実だと突きつけてくる。
既に、二人のクラスメートが殺されてしまったのだ。
あろうことか、自分達の教師達に。
花井は思わず近くの木の幹に拳を叩き込んだ。
「殺せと言うのか、僕に…。八雲君や周防を…!」
冗談じゃない。
ただでさえ正義感の強い花井に、殺し合うなどという選択肢は存在しなかった。
だが、どうすればいいのだ?
殺し合い以外に、自分達が日常に戻れる方法はあるのか?

パアン!と、花井は自分の頬を両手で叩いた。
(しっかりしろ、花井春樹!)
自分は2−Cの学級委員なのだ。クラスメートを統率し、守る義務がある。
誰も進んで殺し合う事なんて望んでいない。そんな奴はこのクラスにはいないと信じている。
全員、守ってやる。
殺されてしまった二人の生徒の分まで。
守った所で自分達がどうなるのかは分からなかったが、それでも花井は止まっている事は出来なかった。

しばらく道沿いに南下していくと、道端に誰かが座っているのが見えた。
躊躇うこともなく花井はその人物に近づく。
金髪の軽薄そうな男がそこに座っていた。
「今鳥?」
その人物に花井が呼びかける。
「ん?花井か…」
今鳥恭介は面倒臭そうに花井の方を見た。
普段から無気力そうな顔をしているが、今はさらに気の抜けた顔をしている。
「花井、お前俺を殺すのか?」
「何を馬鹿な!」
今鳥の思わぬ質問に、花井は思わず怒鳴ってしまった。
「僕は学級委員だ!クラスメート達を守る義務がある!」
暑苦しく叫ぶ花井とは対照的に、今鳥は冷めた表情で視線を泳がせていた。
「ま、いーや。俺を殺す気が無いなら、さっさと行けよ。」
「お前はここで何をしている?」
花井はただ座り込んでいるだけの今鳥を疑問に思った。
「別に何もしてねーよ。」
思わずずっこけそうになった。
「あのな、お前は今僕達がどんな状況に置かれているのか分かってるのか!?」
「分かってるよ。殺し合いだろ。」
「だったら座り込んでる場合ではないだろう!」
「じゃあどうすればいいんだよ?」
「そ、それは…殺し合いを止めるために…」
少ししどろもどろになりながら花井は答えた。
だが今鳥は相変わらず面倒臭そうにしている。
「あの教師どもの話聞いたろ?最後の一人になるまで殺し合いさせられるんだぜ?
お前は強いから大丈夫かもしれないけどよ、とても俺は自分が生き残れるなんて思えねえよ。
だからってあいつらに逆らえば、首輪の爆弾がドカンだ。ようするに何したって無駄なのさ。だから何もしないことにしたの。」
やれやれと溜息混じりに話す今鳥を見下ろしながら、花井は握り拳を作っていた。

「いっかーーーーーん!!!!」
いきなり叫びだした花井に今鳥もビクッとする。
「貴様、それでも2−Cの一員か!他のクラスメートが危機にさらされているかもしれないというのに、何もしないと言うのか!」
「だから、どーせ無駄なんだって。」
「うるさい!貴様のそーゆー今っぽさに、僕は断固抵抗する!」
それだけ言うと、花井は今鳥の腕を持って強引に立たせる。
「君も僕と来るんだ。共に2−Cのみんなを守るために!」
「はっ、離せよ!やめろって!」
嫌がる今鳥を引きづりながら、花井はさらに道を進んでいった。


【花井春樹】
【現在位置:H-05】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 アイテム不明
[行動方針] :クラスメートを守る

【今鳥恭介】
【現在位置:H-05】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 アイテム不明
[行動方針] :何もする気無し



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