Badluck Boy
そして城戸円が梅津茂雄の胸に刺さったままのナイフを回収するのをあきらめて
立ち去ってから、しばらくして。
「ちっくしょー…」
播磨拳児がぜいぜいと息を荒くしながら、廃屋へと足を踏み入れていた。
彼は今まで塚本天満を捜して島中を走り回っていたのだが、やはり彼と言えども
一人での捜索は骨が折れるようだった。
「待ってろ…天満ちゃん、この俺が必ず…でも少し休憩」
バタンと廊下に大の字に寝転ぶ播磨、冷えた感触が心地よい。
そのまま逆さまに中の様子を伺い見る播磨…そこで初めて彼は廊下を進んだ先の部屋で
息絶えた梅津茂雄の遺体を発見するのだった。
「こいつは…」
塚本天満以外は眼中にない男ゆえ、クラスメートの名前など覚えているはずがない。
(そういえば体育祭でオレに絡んできた…ウメとか言ってたな)
「殺されちまったのか…マジかよ」
しみじみとだが今更ながらに思う、自分たちの境遇を。
そして、この次に同じ運命を辿るのは…。
播磨の脳裏に浮かんだ光景、それは血まみれの塚本天満…その隣でナイフを構えているのは、
(てめぇ!烏丸)
恋敵にしてこの世でもっとも憎き男、烏丸大路の姿だった。
「そうだ、あの野郎はきっと天満ちゃんを騙して…こうしちゃーいられねー」
だが、その前に…、
「せめて埋めてやんねーとな」
播磨が梅津の体からナイフを抜いた時だった…。
「は、播磨くん…」
いつの間にか…実は勝手口から進入していた嵯峨野恵が悲鳴を上げた。
それは播磨拳児にとっては、信じられないような悪夢のタイミングだった。
目撃者たる嵯峨野恵はあまりの惨状にパニック状態、
そして播磨もやっぱりパニック状態だった、
(やべぇ、オレやべぇ、このままじゃオレは人殺しだ…何とか何とかしねぇと)
思うより先に体が動く、呪縛の解けた恵が逃げるより先に播磨の手が彼女の体を捉える。
「いやっ、いやっ!離してっ!、人殺しっ!」
「違うっ、オレじゃオレじゃねー」
必死でもがく恵、逃がすまいと押さえつける播磨…足がもつれて転倒する。
そして、さらに悪夢は続く…ナイフを持ったまま、朱鷺の体に馬乗りになった状態の
播磨の視界に新たに入った人影…それは。
「アンタ…何…やってんのよ」
彼がもっとも苦手とする少女、沢近愛理の姿だった。
「ち…違う…違うんだお嬢」
「アタシもね、そう思いたいわ…」
播磨の言葉に冷たく、だが震える声で返す愛理…、
(なんでよ…)
淡い想いを抱いていた相手の裏切りはその顔から血の気を奪っていく、
「信じてたのに…」
白い顔をさらに白くして誰にも聞こえないようにつぶやく愛理…、そこに恵の声が重なる。
「沢近さん逃げてっ!このままじゃあなたまで殺されちゃう!」
「だからオレは何もする気はねー」
泣きながら弁解する播磨、もはやそれ以外彼に出来ることはない。
「だったら何で捕まえるのよ!」
「オメーが逃げるからだろ!」
「人殺しから逃げるのは当然でしょ!」
「だから、オレじゃない、本当にオレならオメーなんざ3秒で殺してる!」
「じゃあ、つまり梅津君は播磨君がここに来たときにはもう殺されていた、そういうこと?」
そんな2人のやりとりを聞きながら、愛理がぽつりと呟く。
一瞬、空気が止まる…コクコクと涙を流して頷く播磨。
「アンタ海でもそうゆうことやってたわよね、まったく」
呆れ顔の愛理、だがその顔には余裕が戻ってきていた。
(よかった…そうよね…ってなんで安心してるのよアタシ!)
(さすがお嬢だ、察しがいい)
やっと誤解が解ける、体の力を抜く播磨の下で、
「いつまでのしかかってるかな?」
恵が不満げな声を上げる、わりぃと播磨が慌てて恵を解放する。
愛理へと駆け寄る恵を見ながら、ここでようやく一息入れる播磨、
(お嬢は扱いにくいが頼りにはなる、それに天満ちゃんとも親友同士だ)
塚本天満救出に大きく前進した、そう彼が思った矢先だった、
その時、彼にとって最大級の悪夢が襲い掛かろうとしていた。
播磨が握ったままのナイフをしまおうと、右手に意識を移した時だった。
そのナイフは特殊な形状をしていた、柄がやや長く鍔が広く、そして鍔の根元にはボタンがあった。
彼が何気なくボタンに触れた時、バネ仕掛けの刃が恐るべき勢いで、
彼の目の前の少女たちめがけ発射されたのだった。
何が起こったのかまるでわからなかった、ただ、播磨君の右手が光ったと思ったら…。
愛理は自分の顔を掠めて壁に突き刺さりビョンビョンとしなる刃を呆然と見つめていた。
足元にふわりとした感触…視線を移すと自慢だったツインテールの片方が、
根元から断ち切られており、床に大量の金髪が舞っていた。
「さわちか…さん」
おずおずと恵が尋ねる、そんな彼女の肩口にうっすらと傷、
刃は恵の肩を掠め、そして愛理の髪を断ち切ったのだ…風が廃屋を舞う…
そして金の髪が部屋全体に浮かんだ時。
「……」
無言で金属バットを構える愛理…鉄錆の味が口中に広がる。
視界が歪んでいく…目の前の男が何かを叫んでいるようだがもう聞こえない、必要ない。
愛理がまさに播磨に飛びかかろうとした時だった。
「やめてぇ!」
必死の形相で叫んだ恵の声が愛理の理性を呼び戻す、そして腕を掴んだ恵に従うかのように、
彼女は播磨を置いて気がついたときにはもう廃屋から脱出していた。
もしここに2人しかいなければ、間違いなく彼女は播磨を殺していたに違いなかった。
走る愛理の脳裏に播磨との出会いから今までの出来事がぐるぐると駆け巡る。
雨の商店街、海、体育祭…全部全部大切な思い出…でもでもそれは自分にとってだけ、
だってもうアイツは…。
「見損なったわ、ハゲ」
視界が涙で歪むのを自覚しながら恵の手を引き、ひたすらに走る愛理だった。
そして…、
(ヤベェ、このままじゃ超ヤベェ!お嬢が天満ちゃんに出会う前に何とかしねぇと)
床を濡らした梅津の血に足を取られて腰を打ち、ひっくり返った状態のままの播磨だった。
【沢近愛理】
【現在位置:F-02】
[状態]:落胆+憎悪(片方のツインテールをばっさり切られています)
[道具]:支給品一式 金属バット
[行動方針] :天満らを捜す(播磨がゲームに乗ったと思ってます)
【嵯峨野恵】
【現在位置:F-02】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 アイテム不明
[行動方針] :天満らを捜す(播磨がゲームに乗ったと思ってます)
【播磨拳児】
【現在位置:F-02】
[状態]:健康(腰を強打し、しばらく動けません)
[道具]:支給品一式 アイテム不明
[行動方針] :天満を捜す、沢近の誤解を解く
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