三原日記 第三報






 こんばんわ、三原梢です。あれからも私はララとネコちゃんの指し示すままに進んでいました。
現在かなり周りが暗くなってきて、結城さんを結果的にお寺に置いてけぼりにしてしまった事の罪悪感が増しつつあります。
はっきり言って一刻も早くお寺に戻ってあげたいんですが、相変わらずララは全速前進。彼女、止まったら死んじゃうみたいです。
と言う訳で、ずっと南に移動してきたわけですが…砂浜で見つけちゃいました――天王寺君の、死体。
どこか表情が穏やかなのが信じられないくらいの血…血!スキンヘッドが真っ赤になるほどの血!おなか(?)からも血!
多分、傍の崖から突き落とされたんだと思います。…血が、あちこちに飛んでいました。
ちなみに私、こう見えても泣きそうでした。でも耐えます。こんな所で泣いてもどうしようもないし。
で、ララが天王寺を埋めてあげようって言い出して、彼の亡骸をお姫様抱っこして持ち上げました。
…結城さん抱えただけでも私には真似できないのに、あんな巨体を持ち上げたのはもう何と言えばいいのやら…
で、近くにあった窪みに彼の亡骸を移して、二人で土をかけてあげました。…ララも、とても寂しそうでした。
「…アイツは、イイ奴ダ。本当に優しかったんダ…」
彼の顔に土をかける時のララの表情は忘れられそうにありません。
私にとって天王寺君と言えば体育祭で大暴れしていた位の印象しかないけど、そういえば文化祭の喫茶店にも遊びに来てくれたんだよね。
その時の彼は体育祭の時と違って…ああ、やっぱり優しい人だったんだろうな。とっても笑顔が似合ってた…
…そんな彼を、播磨君は殺したんだよね?あんなに酷い殺し方で…

お供え物と言ってはあれだけど、彼の荷物にあったハンバーガーをあげました。
彼がどのパンが好きだったか知ってればそれをあげたんだけど…まあ、ハンバーガーが嫌いな人ってあまりいないよね、って事で。
残りのパンと水は…埋葬料って事で私とララで半分こしました。ごめんなさい。
パンは早速即席のお墓の前で食べたけど、こんな状況じゃなかったらきっともっとおいしく食べられたんだろうな…
波の音がきれいで、本当にいつかサーフィンしたいくらいの海…


 晩ご飯が終わって、じゃあそろそろ結城さんの所に戻ろうかと言おうとすると、ララは早速移動を開始しちゃいました。
ベントウもこっちを向いてるし、私もこっちダ!とか言って今度は今の場所から西の道に入ろうとしてます。
…結城さん、そろそろ目を覚ましてるんじゃないかな?お昼だって食べてないし、絶対おなかすかせてるってのに…
で、さすがに私も頭にきました。ララを追っかけながら言いましたよ。あのね、結城さん今一人で泣いてるかもしれないじゃんと!
そりゃあララが急ぎたい気持ちも分かるよ。天王寺君が実際に死んでるのを見ちゃったんだし、心配だよね、うん。
私だってそうだけどさ、でも結城さんだって大事な訳じゃん?ここは一旦戻ってあげなきゃダメじゃん、と。
それに対して、ララは足を止めてまじまじとこっちを見返してきて一触即発(?)ムードに。…ごめんなさい、ぶっちゃけ勝てません。
いや、銃使っちゃえば別だろうけどさ。でもララだって私にとってはもう友達だし、絶対に撃ちたくないし…

という緊迫した雰囲気をいろんな意味でぶち壊してくれたのは、天満ちゃんと奈良君でした。
「梢ちゃーん!ララちゃーん!…あーっ!いーおーりー!!」
道の横の茂みの中から現れた天満ちゃん、いきなりララ…の背負ってるリュックに抱きつきました。
ネコちゃんが今まで聞いた事もない奇声を上げて飛び出します。天満ちゃん、それを追っかけてネコちゃんと大乱闘…
後ろからポツンと立ってた奈良君も、私も、そしてララさえも呆然としてました。

なるほど、ネコちゃんの名前は伊織っていって、天満ちゃん家のネコちゃんだったんです。
なんでペットまで支給品にしたのかな?ほんと先生達は何を考えているのやら…
で、必死に天満ちゃんから離れようとする伊織を、ララはちょっと寂しそうに見ていました。
…と思ったら、なんと伊織が自分からララのリュックに入って行ったではありませんか!ララの事、気に入ってたのかな?
…いや、天満ちゃんの顔がボロボロにされてるとこを見る辺り、逆に…


一通りのごたごたが済んで、さあ情報交換という事になりました。…と言っても、暗い話しか出てこないだろうけど…
案の定、天満ちゃん達の話も悲惨な物でした。二人は吉田山君とも一緒にいたけど…途中で、誰かに殺されたって。
奈良君、泣いていました。…そうだよね、一緒に居た友達が殺されたんだから…
自分の立場で考えるとぞっとします。冴子、それに今鳥君…今も無事なのかな…?
で、天満ちゃん達が出会ったのはどうやら結局その三人だけだったみたいです。…あーあ、情報無しか。
でも、収穫はありました。天満ちゃんはおもちゃの矢と本物の弓を、そして奈良君は銃の弾を持ってたんです。
しかも、その弾はどうやら私の銃で使えるみたい。やりました。これでがんがん撃てます!…いや、実際にはビビって撃てないけど。
でもまあ、弾だけもっててもしょうがないって事で私が貰う事にしました。ありがとう、奈良君。
…でも、奈良君はずっと泣いてました。話を聞いてみると、彼のリュックは本当は吉田山君のものだったんだそうです。
どこで入れ替わったのか分からないけど、って…ちなみに、彼の元々の持ち物はスピーカーだったそうです。
…吉田山君、友達を助ける為に入れ替えてくれたのかな?多分偶然だろうけど、でも私はそう信じる事にします。

吉田山君の話題になってからは…当然だけど、奈良君はもちろん天満ちゃんもとても悲しそうでした。
特に、天満ちゃんは明らかに無理に笑っています。…彼女、最初からずっと無理をしていたのかもしれません。
で…そんな二人に申し訳ないけど、私は吉田山君がどうやって死んでいたかを聞く事にしました。
分かってます、最低ですよ私。でも、もしかしたらここから先に殺人鬼…播磨君がいるかもしれないんだから。
奈良君は大泣きで…それでも、声を振り絞って教えてくれました。…首からいっぱい血が出ていたって。喉を切られてたって。
天満ちゃんはその事を知らなかったみたいで…とうとう、泣いてしまいました。
二人の泣き声に私も罪悪感で嫌になりそうでしたが、ララが泣いている天満ちゃんをずっと抱きしめてあげていたのが救いでした。


でも、これで私は確信しました。吉田山君は刃物で殺されたのでしょう。
天王寺君も頭の血が凄かったけど、多分あれは傍の崖から落とされたからです。それに、おなかの血はきっと刃物で刺されたから…
だから天王寺君を殺した播磨君は、次に吉田山君まで殺したんです。同じように刃物を使って…
私は…また残酷な事を言うと分かって、それでも三人に言いました。播磨君が、殺人鬼だという事実を…
もう、彼のせいで人が死んではいけない。死んでいい人なんて一人だって居ないのだから。
殺された天王寺君だって、吉田山君だって、いろんな人から想われていたんだから…
一番ショックを受けていたのは、やっぱり天満ちゃんでした。…だって、妹の八雲ちゃんの元カレだもの…
そんな人じゃないよって、彼女は何度も叫んで…でも、そのうち震えだしました。
そして、一言呟いたんです。「最低だよ、播磨君」って…
…言わない方がよかったのかも知れません。でも、彼がもし騙し討ちをしてきたらと思うと…
天満ちゃんは、早く八雲ちゃん達と合流したいと言いました。播磨君に見つかったら危ないって…

 あとは、私達の情報も伝えました。ハリー君に気を付けた方がいい事や、結城さんをお寺に置いてきてしまっている事を。
天満ちゃんはすぐに戻らなきゃと言いましたが…本音は他の人に頼んで、自分はやっぱり八雲ちゃん達と合流したいみたいです。
私だってここまで来てまた元来た道を戻るのは辛いし、それに冴子や今鳥君を探したいのは間違いありません。
ララは…論外です。もう探しに行く気まんまんです。
で、奈良君は…なんか、全然意見を言えてません。しっかりしてよ男の子…
結局結城さんを放っておく訳にはいかないから、チームを分ける事にしました。
半分が結城さんの所に戻って、もう半分がこのまま目的の人を探すという事に…


さて、そうなると誰と組むのか。どっちに行くのか。それによって今後の私達の運命が決まります。
結城さんの所に戻る救出組なら…行きは誰とも会わなかったし、安全な可能性が高いです。でも、今は誰かいるかも知れないし…
そして、このまま西に進む捜索組なら…播磨君に出会ってしまう可能性が高いです。危険大。
だから、西に行くなら強い人と行くべきなので、私としては当然ながらララと組みたい所。
でも、それは天満ちゃんも同じでした。…ララだけでなく、伊織もいるからだろうけど。
奈良君は…何か言いたげだけど言いません。何でもいいから言えっちゅーねん。
で、ララは…やっぱり論外です。もう自分は捜索組に入る気まんまんです。
結局の所、状況を把握すると…飛び道具なら私と天満ちゃん。格闘ならララ。奈良君は…マスコットでいいや。
…さて、奈良君と組むのはいくらなんでも不安だし、天満ちゃんとでも…正直不安です。もうララ以外は無理です。
あまりに結論が出ないので、こうなったら恨みっこ無しのグーパーで決める事にしました。
とりあえず二手に分かれて、そこからジャンケンでどちらの組にするか決めるんです。
ララと天満ちゃんが大きな声で賛成してくれたので、いざ4人で始めたのですが――

な ん で チ ョ キ が 出 る の ?

もうチョキ。恐ろしいほどチョキ。決まってララか天満ちゃんがチョキ。しかも交互に。
あまりにチョキが出るから私もチョキを出したらそんな時に限って皆グー。
で、「梢ちゃーんしっかりしてよー」とか「ハラミ!何やってんダ!」とか言ってきた日にはもうね…
しかも奈良君笑うの堪えてる。あんたほんとしっかりしてくれと。

ついつい変なテンションになっていますが、私はだんだんどっちでもよくなってきました。
それよりも、こんな薄暗い道の中でグーパーしていたくありません。…殺人鬼が、いつ来るかも知れないのに…


【午後:22〜24時】

【三原梢】
【現在位置:G-08】
[状態]:健康(ちょっと疲れ)
[道具]:支給品一式(地図は無い、水3)ベレッタM92(残弾16発) 9ミリ弾200発
[行動方針] :グループを一刻も早く決めたい(ララと組みたい)。冴子、今鳥を探す
[備考] :ハリーを警戒。伊織がちょっと気になる。結城が心配
      播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。

【ララ・ゴンザレス】
【現在位置:G-08】
[状態]:健康 野生の神秘
[道具]:支給品一式×2(水5) 伊織(リュックから顔だけ出してます)
[行動方針]:グループを一刻も早く決めたい(組むのは誰でもいいけど一条を探すため野生の勘を頼りに南へ)
[備考]:ハリーを警戒。播磨が天王寺、吉田山を殺し刃物を所持していると思っています。

【塚本天満】
【現在位置:G-08】
[状態]:健康(頑張って元気よく振舞う)
[道具]:支給品一式 弓矢(矢20本、全てゴム。ただし弓はしっかりしてるので普通の矢があれば凶器)
[行動方針] :グループを分ける(ララと伊織と組みたい)。八雲らと合流。播磨に怒り
[備考]:ハリーを警戒。播磨が吉田山、天王寺を殺し刃物を所持していると思っています。

【奈良健太郎】
【現在位置:G-08】
[状態]:健康(ちょっと疲れ)
[道具]:支給品一式 
[行動方針] :グループを分ける(天満と組みたい)。皆(できれば天満)についていく
[備考]:ハリーを警戒。播磨が吉田山、天王寺を殺し刃物を所持していると思っています。



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