無駄死にでなかった事の、証の為に
「放送、終った……な」
「おい、冬木。やっぱマジで皆、殺し合いしてんだよな」
「そうみたいだな。 ……くそっ!」
やり場の無い憤り。
冬木は自らの無力さを嘆く。
自分達はただここで待っていただけだ。特になにも出来ないうちに、多くの友人が死んでいった。
ついさっきまでは、もしかしたらという希望さえ持っていた。
ここに来るまでに回り道をした三沢でさえも、クラスメイト同士による争いの被害者を見ていなかったのだから。
もしかしたらやる気の奴は一人もいないのかも、とさえ冬木は考えていたのだ。
しかし結果は違った。八人もの死亡者。殺し合いの結果。
今鳥を探しにいった一条はまだ生きているようだ。しかし、五体満足かどうかはわからない。
「覚悟を決める時が来たみたいだな、相棒。状況は切迫してるようだぜ」
「わかってるよ東郷。でも、俺達が殺し合いに参加したら元も子もない。
あくまでも敵はこのゲームの黒幕だ。そうだろう?」
こんな状況でもまったく動揺する様子の無い東郷に厳しい視線をむける冬木だったが、
当の東郷はそんな冬木の心を知ってか知らずかいつもどおりの調子で返す。
「フッ。もちろんだとも。この東郷、約束は違えん」
「はははっ……。頼もしい限りだな、冬木。お前の相棒は」
「安心しろ、お前さんも俺の仲間さ」
「あ、ああ。ありがとう……なのか、ここは?」
暑苦しい男への対応に戸惑い、冬木に助けを求めるような視線を送った三沢だったが、肝心の冬木は一人考え込んでいた。
なにせ具体的な解決案は一つもない。
それに考えてみれば自分の武器であるはずのパソコンはゲームの主催者からの支給品だ。
こんなもので奴らに対抗できるわけが無かった。
いや、気付いてはいたのだ。ただなかなか認めたくなかっただけで。
教師達のいる場所に近づけない以上、直接攻撃も不可能だ。それに仮に可能だったとしても、vz64スコーピオン一丁じゃ何もできない。
「ちくしょう。こんなもん、何に使えって言うんだよ」
冬木は恨めしげに自らの支給品を睨み付ける。
モニターの明かりがこの暗い空き部屋では異質なものに見えた。
バッテリーの接続はうまくいったらしく、充電の度合いを示す発光ダイオードは薄緑に輝いている。
まさか記録をつける為だけに支給されたのではあるまい。だとしたら、メモ帳とかで十分だ。
もしかしたら、これはからかわれているのだろうか。へたな希望を抱かせて、結局無駄だと悟らせることで自分達を絶望へと陥れる。
十分考えられることだ、と冬木は思った。
―――だとしたら、まんまとひっかかったって事かよ。
しかしここで立ち止まっていてもなにも始まらない。
パソコンが何の役にも立たないということがわかった以上、もう少し行動範囲を広げる必要がある。
まずは烏丸に会いに行き、仲間に加わってもらうべきだ。
三沢が殺されなかったのだから、仲間に加えるのに何の不都合もないだろう。
「……なぁ、三沢と東郷。俺ちょっと烏丸のところに行ってこようと思うんだけど」
「あ、そうか。アイツが今いるC-05って、夜には禁止地域になるし。
早く行かなきゃ入れ違いになる可能性もあるのか」
東郷が抱えているvz64スコーピオンを心配そうに見つめていた三沢が、思い出したように冬木に応える。
「その烏丸って男は、信用に足る奴なのかい、相棒?」
「ああ。アイツは何考えてるかよくわかんない奴ではあるけど、人を傷つけられるような奴じゃないよ。大丈夫。俺が保障する」
冬木の真剣な目を、東郷はじっと無言で見つめていた。
こいつ、もしかして“その気”があるんじゃ、などと思い始める寸前で、東郷がやっと言葉を発する。
「……なるほど。お前さんがそういうなら、俺も信じるぜ」
「そ、そうか。まぁ、実際会ってみたらもっと信じられると思うよ」
そう言って、冬木は出発の準備を始めようと決めた。
出発といっても、そんなに遠出するわけではない。
ペットボトルの水さえ持っていけば十分だろう。
そう思い、冬樹が立ち上がった瞬間、
ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
「「「!?」」」
三人がそろって異質音の発生源へと目を向ける。
そこには、冬木のパソコンが存在していた。
ただ、先ほどとは違う。
さっきまでありきたりなデスクトップ画面しか映っていなかったはずなのに、なぜか今は“10”という数字が表示されていた。
三人があっけに取られる中、画面の数字は“9”、“8”……とカウントダウンを告げていき、“0”の数字が消えた後、見慣れた顔があらわれた。
『はーいっ! 6時間ぶりだねっ♪ 見事これまで生き残りオメデトウ。
ちゃんと殺し合いできてるかな? 先生達は皆に期待してるからがんばって!』
「姉ヶ崎……先生?」
画面に出てきたのは、姉ヶ崎妙だった。
普段どおりの明るい笑顔でこちらに笑いかけている。
いつもなら和むような映像だが、先ほどの彼女の行動と今の言動をかんがみれば、空気はただ張り詰めるのみだ。
『これは録画映像だから、今何人くらい死んでるのかわからないけど、出来るだけたくさん死んでくれてればいいなっ!
だって3日も孤島で生活するなんて退屈でしょうがないもん。はやくゲームが終れば、先生達はヘリで矢神までひとっ飛びで帰れるんだから、みんな気合入れて頑張ってねー』
「なっ、ふ、ふざけるなよっ!」
三沢が顔を真っ赤にして、画面の姉ヶ崎に向かって吼える。
「よせ、三沢。画面に怒ったってしょうがない」
「そうだぜ。こういうときこそ、クールにならんとな」
「くっ……」
そんな三沢を馬鹿にするかの様に、姉ヶ崎はあいかわらずの笑顔で話を続けた。
『見事生き残ったアナタには、素敵なご褒美がありまーす。
きっと画面の前のアナタは、このパソコンをどうやって使うのか疑問に思っていたことでしょう。もしかしたら使えないと思って壊しているのかも……。
そしたらこの録画映像もむだになるのかな? メイクに結構時間かかったんだから、ちゃんと観てもらえることを願ってるんだけどね。
まぁ、そんな仮定の話はさておき、先生は先生のお仕事を済ましてしまおうと思います。
今回の話は、“追加機能”のお話ですっ! わぁー。ぱちぱちぱちぱちぃ〜♪』
胸の前で小さく拍手する姉ヶ崎。
冬木は息を飲んでその様子を見守っていた。
“追加機能”とは何なのか。このパソコンが、なんの役に立つというのか。
それは果たして、主催者側に対抗する手段となりうるのか。
もしくは、ゲームに勝つための手段でしかないのか。
そう考えたのは冬木だけではないらしく、東郷と三沢も心配そうな顔で見守っていた。
『これはいわゆる“当たり武器”ってやつだね。放送があるごとにロックが解除され、一つずつお役立ち機能が追加されるという優れものです。
オメデトウ。これでアナタの生存確率はぐぐっとアップしました!
特に最初の機能は超すごいです。この映像の後にデスクトップに表示される“MAP”のフォルダをクリックしてからそこにあるソフトを起動してね。きっとびっくりするから。
それと、さらに今回は出血大サービス! これも映像終了あとに表示されるんだけど、“思い出”っていうフォルダの中身もチェックしてみてね。きっと、面白いものが見れるよ』
「生き残るための武器、か」
明らかに落胆した表情の冬木に、東郷が声をかける。
「どうした相棒。あまり嬉しそうじゃないな」
「ああ。やっぱ、これで奴らに対抗しようとするのは難しいのか」
「それは見てからのお楽しみだ。最後まで諦めんさ」
腕を組みそう威厳たっぷりに告げる東郷を、冬木はどう扱ってよいかわからなかった。
「そう、か」
しかし、決して嫌ではなかった。
根拠のない自信とか期待とか信念とかを持ち続けられる男が傍にいるということは、正直こういう時に助かる。
場が盛り下がりにくいというか。まぁとにかく、気分の問題なのだが。
冬木が同じクラスの学級委員を思い出していると、姉ヶ崎がお別れの言葉を告げようとしていた。
BGMには、なぜか『蛍の光』が流れている。
『それじゃあ、次に映像が流れるのはまた6時間後だね。
それまで少しばかりのお別れです。それじゃあ、また会いましょう。ただし』
妙に真剣な顔をする姉ヶ崎。
その異質な雰囲気に反応して、三人が改めて画面を見つめた。
するとまるでそれに反応するように、姉ヶ崎が笑顔を……ただし先程とは違って、口元だけで笑いかけ、そうして、
『アナタが、生きていればの話だけどね』
ただ一言。そう告げた後、彼女は画面から姿を消した。
残されたのはまたもとのようなデスクトップが表示された画面。
ただし先程はなかったフォルダが二つ、他とは孤立して存在していた。
「……生きていれば、だとさ相棒」
「まぁ、確かにそうだね」
死んだら終わりなのだから、それは当然だ。
今更言われるまでも無い。
「安心しな。俺はやすやすと仲間を死なせるようなマネはしないぜ。
この東郷、義によって立つ漢だ」
「わかってるさ。俺もそう簡単に死ぬつもりはないし。なぁ、三沢」
「あ、ああ。ところでさ、姉ヶ崎先生が言ってた当たり武器って、なんなんだろうな。
つうかパソコンが出来ることってなんだ? 直接的な攻撃力なんかねぇぞ」
「それは今から確認するのさ。なぁ、相棒?」
「ああ、わかってる」
東郷が呼びかけるよりも早く、冬木はパソコンの操作に取り掛かっていた。
操作といっても、指示されたソフトを起動するだけだ。
“MAP”のフォルダの中に入っている“SEARCH”という名のソフトのアイコンをダブルクリックすると、十数秒の読み込み画面となった後、また違う映像が表示された。
「これは、地図か?」
「どうやらその様だな」
「しかしこの、白と黒の点はなんだ?」
東郷が言うように、地図にはいくつかの点が存在していた。
一つだけ孤立するものもあれば、ごちゃごちゃとまとまっているものもある。
「もしかしてこれ、皆の現在位置を示しているんじゃないか」
三沢の適切な指摘をうけ、冬木は改めて画面を見つめなおす。
そんな様子を見て、三沢は得意げに説明を開始した。
「ほらここ。俺達の今いる場所に白い点が3つある。それに、さっき烏丸がいた場所にも1つそれになにより」
「黒い丸が10、か。なるほど、冴えてるぜ」
三沢の台詞を横取りするように東郷が言葉を発する。
三沢は一瞬ムッとした表情を見せたが、すぐに冬木のほうに向き直って興奮したように続けた。
「す、すげぇんじゃないかコレ? さっき妙ちゃんも当たり武器って言ってたし。これを使えば」
「神にも悪魔にもなれる、か」
またも台詞の横取り。
三沢が文句を言おうとしたその時、先に言葉を発したのは冬木だった。
「それは言いっこ無しだぜ、東郷。俺達はコイツも、
そしてコイツも正しい使う。そうだろう?」
パソコンと、vz64スコーピオンを指差して冬木がそう問いかける。
三沢も東郷も、各々うなずいた。
確かに、この新しいパソコンの機能は生き残るために有効だ。
これを使えば、危険から逃げること可能な上、奇襲攻撃をかける事だって容易いだろう。
しかし、自分達の目的はただ生き残ることだけではない。
皆で、生き残ることなのだ。
冬木はそれを改めて心の中で再確認した。
「まぁ、なんにせよ期待以上ではあったな。
これを使えば、お前達の言っている仲間集めも順調に進められるんじゃないの?」
「そうだぜ、相棒。これで無駄に動き回る必要はなくなったってわけだ」
確かに、そうだ。
これを使えば、仲間探しはうまくいくだろう。
しかし、
―――しかしこれを用意した黒幕が望んでいるのは、きっとそんな展開じゃない。
―――やつらの思い通りになってたまるかよ。
そう決意し、冬木は拳を握り締める。
「まぁ、そうかたくなるな」
冬木の肩に、東郷が手を置いてそう告げた。
「俺達が焦ってもしょうがない。
今大事なのは、少しずつでも仲間を集める努力をすることだ。
俺達の熱い魂が伝われば、皆もわかってくれるはずさ」
流石にこんなにも楽観視できる図太さを冬木は持ち合わせていなかったが、説得することを諦めないというのには心の中で賛同した冬木。
とりあえず、姉ヶ崎の言っていた新機能については確認が取れた。
冬木は今度、“出血大サービス”の方のチェックに入った。
「“思い出”、か」
「どういう意味だと思う、相棒? いったい、誰の思い出が入ってるんだろうな」
「妙ちゃんの麗しき成長アルバム、……ではないよな」
冗談交じりで軽口を言いかけた三沢だが、冬木と東郷の刺すような視線に慌てて口を閉じる。
そんな三沢を無視して冬木がフォルダを開くと、そこには数個のテキストファイルがおいてあった。題名の部分には、番号が入力してある。
試しに、“@”のファイルから開いてみる。
そこには、こう記してあった。
『200×年6月14日
糞忌々しいゲームが始まってもう6時間がたつ。もう12人も死んでしまった。誰も信用できない。
しかし使えないと思ってたこのパソコンも、位置把握システムが存在したのは嬉しい誤算だ。これなら、勝てる。
まずは人数が減るまで隠れ続け、最期の一人に奇襲を仕掛ければ』
最初の一つを読み終えた後、しばらく三人の間に会話は無かったが、
「どうやらこれは、前に同じ様なゲームに巻き込まれた奴の記録みたいだな」
三沢の一言で、気まずい沈黙が破られた。
「ああ、そうみたいだ」
「ということは、だ。こんなふざけたゲームが何回か行われたってことか」
「何十回もされたのか、今回を入れて二回だけなのか。その辺はわからんさ。
それよりも重要なのは、このゲームが続いてるってことはいまだ失敗したことがないってことだ。つまり……」
「つまり、主催者への反抗に成功した者がいないって事だな」
今度は三沢が東郷の台詞を横取りする。
してやったり、という顔で東郷をみる三沢だったが、当の東郷はまったく気にしていない様子で、むしろ余裕の笑みを浮かべている。
「だが、今回もそうとは限らないさ。俺達がなんとかすれば、な」
「東郷の言う通りだ」
冬木がそう短く言って、次のテキストファイルを開く。
前の参加者の記録だ。なにか役立つことが書いているかもしれない。
しかしそこには、期待していたこととはまるで違う内容の文章が書かれていた。
『ちくしょう。あんなやつ利用しようとするんじゃなかった。仲間をもっと集めようなんて、正気じゃない。
そんな事して人殺しが紛れこんだらどうするんだ! まぁいい。あんな奴でも銃を残してくれた』
「……」
何も言わず、冬木は次のファイルを開く。
『小林の奴、あんなやみくもに撃ちやがって。おかげでこっちも弾切れだ。まだ10人も敵が残っているっていうのに。ちくしょう、こんな記録つけてるばあいじ』
そのテキストは中途半端なところで終っていた。
おそらく、書いている途中で不測の事態が起こったのだろう。
しかしそんなことはどうでも良かった。
どちらにせよ、冬木はこれ以上この文書を読みたくなかったのだから。
「むなくそ悪い。俺はこんな奴とは違う。
このパソコンの機能を使って、仲間を集めよう!」
再び立ち上がり、冬木が吼える。
こんな風に……“思い出”の中の男のようになってはいけないと、彼は思ったのだ。
護られるだけではいけない。護らなくてはいけない。
皆の命も、信頼も。
「悪くない、提案だ」
真剣な顔つきで、東郷が賛同する。しかし何かを考え込んでいるような素振りだった。
三沢も慌てて口を出す。
「でもよ、もしそれで人殺しが紛れ込んだら」
「俺らが疑ってたら駄目なんだよ。とりあえず、俺はやっぱり烏丸を迎えに行こうと思う」
瞬時の解答。
そう言って、冬木は出発の準備を始めた。
「……まぁ、それはお前の勝手だけどさ」
決意のこめられた言葉を放たれた三沢には、反対することなど出来ない。
どういった態度を取るべきか微妙な三沢に対して、東郷は明らかに賛同を示していた。
「よく言ったぜ相棒! この基地とパソコンは俺にまかしときな。誰からでも護ってみせるぜ」
そう言って、雄々しく vz64スコーピオンを構える東郷。
どうやら三沢の、「だからそれ、俺の……」という呟きは聞こえないようだった。
そんな二人のやり取りを見て、先程まで全身に力の入っていた冬木は少しだけ平常心を取り戻す。
必要なものだけを詰め直したリュックを背負い、東郷に笑いかけた。
「まぁ、頼むよ」
それだけ言い残して、冬木は走り出す。
一刻も早く、仲間を集めるために。
一人でも多く、友人を救うために。
―――待ってろよ、烏丸。絶対、皆で生き残るんだ。
「……行っちまった、な」
「途中でヤル気の奴に会わなきゃいいんだけど」
「それは大丈夫さ。見てみろ、この“SEARCH”を」
東郷が指し示した“SEARCH”の表示。
確かに、自分たちと烏丸の間には、誰も存在していなかった。
ただ、この状況下だと、いつどこから人が移動してくるかわからない。
ましてや今は、行動指針を変えるものが出てくるかもしれない放送直後だ。
三沢の不安は拭えなかった。
「危なくなったら俺が出る。それまで、もう少しこの新機能や昔の記録を検討すべきだ」
そう断言して“思い出”のファイルをもう一度開く東郷。
三沢も、それを後ろから覗き見る。
内容はどれも似たようなものだった。
このゲームがどれだけ残虐なものかが切々と綴られている。
三沢は次第にうんざりしてきていたが、東郷は気にせずどんどんと読み進んでいった。
「オイ、ちょっと読んでみろ」
飽きた三沢が仮眠をとろうと、ウトウトしていたところで、東郷が唐突にそう切り出した。
「あぁ? ……まぁ、いいけどさ」
ムックリと起き上がり、画面を見つめる三沢。
そこに書かれている文章は、確かに最初に書かれていたものとは調子が違った。
『とうとうヤバくなってきた
後ろから足音が聞こえてくる
力が無い俺にはどうしようもない
弱い俺が生き残れたのもこのパソコンのおかげか
疑う事で仲間を作らなかった俺には、仕方ない最期だ
希望を持って、行動すべきだった
最期に、次の犠牲者へと言葉を送る
前だけを見ろ
そして、生きるんだ』
どうやらこれは、記録者の辞世の句らしい。
「前だけを見ろ、か。この状況で、どうしろって言うんだよ」
予想外の前向きな発言だったが、なんの具体的なアドバイスも無い以上、三沢の苛立ちと不安は掻き立てられる一方だった。
「何も感じないのかい」
不敵な笑みを浮かべた東郷が、三沢を見ていた。
「まぁ、死ぬときは皆こんな感じなんじゃないの?」
「……そうか。まぁ、いい」
とりあえず冬木が烏丸とかいうのを連れてくるまで待つとしよう。二度手間は御免だ」
謎の発言をしてから、東郷は押し黙る。
ちょっと気になった三沢だったが、考えることを脳細胞が拒否した。
食料として配布されたパンを食べようとも思ったが、配られたのはわずか三つ。いま手を出すのは躊躇われた。
それ以上の思考を諦めてから、気を紛らわすようにわざと大きな声で呟きをもらす。
「次の機能追加は6時間後か。俺達、それまで生きてるのかなぁ」
「生きるのさ。どうやってもな」
“どうやっても”
かと言って、人殺しはしないんだろうとツッコミをいれたくはなったが、止めておいた。
もしそこで“いいや”と応えられてしまったら、どうすることも出来ないと思ったからだ。
三沢はまだ、東郷を完全に信用できてはいなかった。
―――銃も返してもらえないし。
はぁ、とため息をつき、三沢はまた東郷に声をかける。
「なぁ、東郷。俺らにも、できる事ってないのかな」
「夜道は危険だ。相手を怯えさせる事になる。今は何もできんさ」
パソコンの画面を見つめたままそう告げる東郷に、三沢は
「そう、か」
と、一言返すしかなかった。
そんな三沢の落ち込み具合を感じたのか、東郷が付け足しのように言葉を発する。
「まぁ落ち込むな。朝になればもっと積極的に仲間を探せる。コイツは、それに役立つ」
ぽんぽんっ、とパソコンを叩く東郷。
確かに、彼の言うとおりだろう。
けれどもその朝が訪れるまでに、何人の友人が死んでしまうのだろうか。
ふとそんな考えが浮かんだ三沢は、しかし自分が死ぬよりはいいだろうと思った。
そしてこの時ばかりは、また姉ヶ崎の顔を見られることを祈ったのだ。
【冬木武一】
【現在位置:C-03】
[状態]:健康・気力充実
[道具]:支給品一式
[行動方針] :1.烏丸に会ってみる 2.反主催をかたく決意
【東郷雅一】
【現在位置:C-03】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 vz64スコーピオン/残り弾数40 ノートパソコン
[行動方針] :反主催、反撃の手段を考える 。何かに気付いた
【三沢伸】
【現在位置:C-03】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式
[行動方針] :状況が許すなら東郷達と一緒にいるが、スコーピオンは返して欲しい
【午後18時〜20時】
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