Joker Trick −前半−
「えーまだ遊ぶの冴子!?もうこんな時間だよ?」
「違うでしょ、梢ぇ〜。ま、だ、こんな時間なの。もっと遊んでいこうよ、もうちょっとー」
「だーめだめ。もーっ、テストも近いってのに、冴子の気楽さには感心するよ」
「テストぉ?梢さーん気は確か?テストは追試できるけど合コンには追試が無いじゃん♪」
「・・・本日その合コンを二回も途中棄権したのは誰かしら?」
「えー、アレ合コンだったの?女の子同士でしか盛り上がらなかったから気付かなかったなーー」
「うーん、冴子それキツ過ぎ。ほらほら、帰るよ冴子。今の時間帯ゴリ山見回ってるんらしいんだからさ」
「大丈夫大丈夫ぅ。イザとなったらぁ、ね〜・・・あ、あのオトコノコ、イイかもっ!」
「ちょ、ちょっとー!オトシの冴子にも程があるよ!止めるほうの身にもなってよね!」
・・オトシの冴子。
オトシた男は数知らずといわれているが、本当の意味でオトシた男は実は・・・・・いない。
冴子が男を本気でオトそうとしても、いつも冴子の友人たちが止めてくる。
冴子はそれに対していつも文句を言うが、別段腹を立てているようにも見えない。
――――――彼女は恐らく、友人が止めてくれるのを待っているのだ。
ついついノリで進んでしまう冴子、それを調整してくれる友人。
彼女はきっと楽しんでいたのだろう、そんな飽きない日常を。
このバトルロワイアルで、彼女が開始早々に三原と会っていたとしたら・・・彼女の運命は180°変わっていたに違いない。
「ハア―――――ハア、ハ――――こんなの――ハア――不公平よぅ――」
頬と額の痛みを抑えながら冴子はうめく。血の跡を残しながら、彼女は鬱蒼と茂った森の中をあてもなく彷徨っていた。
・・・結城に所持品を全て奪われたため、地図もコンパスも失ったからだ。
(だって銃よ?銃!)
飯合と坊乃岬の二人を殺したあの感触を思い出す。あの発射音、あの手ごたえ、あの硝煙・・・どれも最強の風格を醸し出していた。
(人を簡単に殺せる銃!なのに何で殺せないの!?何で!!)
憎悪が膨らんでいく。頬と額と共に、思考までもが赤く染まっていく。
(絶対に・・・復讐してやる!)
まずは傷の手当をしなければならない。化膿してしまっては取り返しがつかなくなる。
まだ・・・大丈夫。南には診療所があったはず。
南へ行くには・・・そうだ、道具だ。地図とコンパスが、道具が必要だ。
使える道具。私の手足となって、傷を癒し、復讐を遂行する道具!
(ふふ・・・花井くんを道具にして・・・あいつに絶望を味あわせてやる!)
彼を誘惑し、篭絡し、結城を殺させる。それは・・・とても楽しげな想像だった。
・・・しかし、当然のことながら誰も賛同も否定もしてこない。つまんない。
「ハア―――――ハア、ハ――――」
傷がうめく。冴子は森の中の小さな空き地に思わず腰を下ろした。と、そのとき同時に。
がさり、という音がした。
「―――――――――――――――」
冴子は肩を振るわせた。結城が止めを刺しに戻ってきたと直感し戦慄する・・・こちらには使える道具が何も無い。マズい!
唇をかみ締める。
と、目の前の森の中から息を切らせ、ボウガンを構えた男子生徒が現れた。
「永山――――っじゃない?・・・さ・・・冴子か?・・・!!その傷・・・」
男子生徒に指摘され、思わず冴子は傷を右腕で隠した。とても・・・視線に耐えられない。こんな醜い傷。
(この声は・・・田中君?そういえばさっき永山って・・・あれ、彼女たしか・・・・・)
「待ってろ!今すぐ水を・・・そうだ、麻生!サラも一緒だからなんとか・・・くそ!許してくれるか?さっきのアレを!?」
田中があわてながら、リュックの中をがさごそ漁りながら独り言を繰り返す。
後半の意味がよく分からなかったが、どうやら田中には仲間が居るらしいと冴子は判断した。
助けてくれようとしている・・・ってことは反ゲーム派かな。でも・・・
・・・どうやら運が向いてきたようだ。冴子は思わず微笑みそうになるのを隠す。
(田中君はサッカー部でもかなりウエのほうだし、構えている武器はボウガン。あの防弾傘にはうってつけの武器よね。
それに麻生君まで付いてるなんて、そのうえ、カノジョが死んでるなんて・・・上出来。合格。使える!キミは立派なマーダーになれるよっ?)
冴子の傷を水で洗い流すと、今度は田中がシャツを破り、長袖を包帯代わりに頭を巻きつけてきた。
正直かなり痛いが、冴子はそれどころではない。
「・・・田中君、ありがとう」
「いや、良いって。それよりその怪我・・・っとその前に。聞きたいことがある。永山を」
「永山を知らないか・・・かな?」
「!?」
田中の心臓が大きく跳ねる。……呼吸が潰れるかと思うほどに。
「知ってるよ、私」
「ど・・・こに、どこに居る!!」
田中が涼しい顔をした冴子に詰問する。
「場所は知らない。でも、誰に殺されたかは知ってる」
「・・・・誰だ」
重い声だった。冴子は、勿体つけるとこう言い放った
「結城、つむぎよ」
「結城さんが・・・まさか・・・永山を・・・・!!」
田中は声を震わせ、驚愕しながら冴子を見つめた。信じられないといった風貌だ。
冴子は涙ぐみながら言葉を紡ぎ続ける。
「残念、本当よ。さっき結城さんから襲われた時に聞いたからサ、間違いない」
――――――――――嘘を紡ぎ続ける。
「そ、その傷は結城さんから・・・」
「突然だった。さっきの田中君みたいにいきなり茂みから現れちゃってサ、銃を突きつけてきて。
・・・私のアイテムは殺虫剤だったから、抵抗しないことを証明するためにリュックごと捨てたって言うのに
・・・あのコは襲ってきたの。酷いよね?」
田中の信頼を得るためにはこちらが武器を一切持ったことが無いことを示さなければならない。
冴子は言葉を選びながら、即興で脚本を書いていく・・・復讐の、脚本を。
「結城の・・・アイテムは・・・・・」
重い口を開き、田中は尋ねてきた。
「武器は防弾傘だったよ。それに、銃。私は見ていないけれど、ほかにも持ってたのかも」
田中には結城と戦ってもらわなくてはならない。もちろんあの女のトドメは自らの手で刺すが、さすがにアレだけの装備を前には駒がいる。
冴子は一度あの傘のトリックに破れた。しかし、タネはもう知っている。タネの割れたトリックなど、なんの役にも立たない。
あの忌まわしい傘を破るためには、タネを知った駒が必要なのだ。
田中の様子を見る。先ほどまで興奮していた田中は、今では腕を組み思案している。
・・・イイ。凄くイイ。あまり期待していなかったが、結構冷静な判断が出来るようだと冴子は思った。
ただのスポーツ馬鹿でなく、それなりに成績もいいみたいだし・・・このままオトシてもいいかもしれない。
カノジョ死んじゃったし♪冴子は顔をそむけて明るく笑った。
「銃は、なんの銃だった?」
「うーん、私、銃詳しくないしー。それに、敵がアイテムの説明するわけないでしょ、メイドの土産じゃないんだからサ
・・・でも、銃については一つだけ言ってたっけ、そう。永山さん殺して奪ったって・・・」
ドスン―――――田中が地面を拳で打ちつけた。
「・・・ちくしょう!!!・・・・・結城め・・・」
決まった。あはははは。ここまで上手くいくと笑えて来る。笑みを隠すのが大変だ、あはははは。
「ね、だからさ」
冴子は田中に腕を絡ますと、蠱惑的に唇を震わせ耳元で囁いた。
「私と手を組まない?」
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