川のほとりで
途中までは順調だった。映画のように銃をつきつけ尋問をするのは正直興奮した。
けれど始末にかかる最後の詰めで油断してしまった。その結果がこの有様。
強がってはいたものの、鼻の痛みは収まりそうにない。
「ねえ、大丈夫?血、とまった?鼻で息できる?」
「も、問題ねえ。……っ痛」
斉藤末男と鬼怒川綾乃はあの後、治療を兼ねて北の川まで道を逆走していた。
播磨とまた出会うことを警戒もしたが、杞憂に終わり無事到着。
支給された水は温存し、川の水で血にまみれた斉藤の顔とハンカチを洗浄しておく。
ハンカチは返却するが、斉藤は少しそれが惜しかった。
やがて、播磨の話のウラがとれる。梅津の死の確認。すなわち―――定期放送。
「……なんだよ、やっぱ強い奴らは生き残るんじゃん」
斉藤がぼやく。放送で名が呼ばれたのはクラスでもさほど目立たない者。
そして自分はどちらかといえばそちらのグループに属している。つまり自分と親しい者達ばかり。
体育祭や文化祭でスターになるようなメンバーは全員無事なのだ。
見るからに生命力の高そうな2-Dの天王寺と、サバイバルゲームに詳しい坊乃岬が死んでしまったことが
意外といえば意外ではある。
「……私達みたいにゲームに乗ってる人多いみたいだね。気をつけないと」
「ははっそうだな…っていうか俺達フツーに殺し合いを受け入れてるんだよな。結構冷静っつーか」
「覚悟、決めたからね。さっきみたいな失敗は、もう止めにしないと。気を引き締めて」
バシャバシャと川の水を叩く音がする。鬼怒川が川の水をかきまぜ音を鳴らしていた。
「ところで斉藤君、お腹の調子は大丈夫?」
水滴をすくいながら、鬼怒川が心配そうに問う。斉藤はその意図がわからなかった。
「え?だ、大丈夫だけどそれが…?」
「そっか。別に、たいしたことじゃないの。斉藤君って播磨君に会う前、
ここの水飲んでたから。大丈夫かなーって。変なバイキンとかね」
ドキリとする。あれはもう数時間も前。しかし体に異常はない。汗を一滴たらしながらも、コクリと頷く。
「そう、ありがとう。じゃ、ここでゴハンにしよっか」
『実験マウス』………ふと脳裏におかしな単語が浮かんだが細かいことは気にしない。
鬼怒川は表面のパンの層が隠れるくらいにチョコレートがまぶしてあるチョコパンを、
斉藤は中身の色からしておそらくイチゴ味であろうジャムパンをとりだして食事をとる。
「食料ってさ、あんまりないよね。三食分?やっぱ殺して奪え…そういうことよね」
「あ、ああ…そうかもな。め、メシくらい豪華なの用意しとけってな」
彼女とのはじめての食事。ムードはなく舞台は最悪、食べ物はただのパン。バックミュージックは風と水。
それでも斉藤はこの機会が嬉しかった。学校にいた間は接点を持つことすら難しかったのだから。
あまり体力を使った覚えはないのだが、普段より早いペースで二人は補給を終えてしまう。
早々に地図を広げる鬼怒川の態度が悲しかった。
「さ、これからどうしよっか?播磨君の話を考えると、南の平瀬村には多分誰もいないみたいだけど」
「生きてるのは、な…播磨が会ったのは沢近に嵯峨野だっけ?もしかしてあいつらこの近くにいるかも」
「北は播磨君がいるし、もしかすると鎌石村で誰かに出会ってて…。そうなると私達のことバレてるわね」
つくづくひどい失敗だったと二人は痛感する。
男女の二人組みというゲームにのったとは思えない存在、というのが彼らのアドバンテージだった。
一人も殺せない間にそれが通用しなくなる。その可能性はかなり高い。この時点で北へ行くという選択はなくなった。
「やっぱり平瀬村が一番無難よね。とりあえず誰かいないか探して…
その後分校跡かホテル跡に行って。それでも誰にも会わなかったらもうそこで休もう」
「だな。めざすは南、そんで東。あ、おキヌ体力大丈夫か?」
「へーきだって。アンタこそ鼻はいいの?南の診療所目指したって別にいいよ?」
「…実はかなり痛え。けどまあ一晩休めば多分痛みもマシになるさ」
日は没し、今はもう日陰者の時間。次こそは、と決意を固め二人は動きだす。
各々の銃器を携え隣り合わせに歩いていく。殺し合いに参加するからには、誰も頼れない。信じられない。
それが普通のはずなのに、傍らに命を賭したパートナーがいる。そこには不思議な高揚感と安心感があった。
【18〜19時】
【現在位置:D-01】
【鬼怒川綾乃】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 ショットガン(スパス15)/弾数:5発
[行動方針] 1:平瀬村からホテル跡か分校跡へ 2:斉藤と協力しゲームに乗る
[備考]:播磨が八雲、沢近を探していたと思っています
【斎藤末男】
[状態]:鼻骨骨折(止血済み、痛みあり)
[道具]:支給品一式 突撃ライフル(コルト AR15)/弾数:50発
[行動方針] 1:平瀬村からホテル跡か分校跡へ 2:鬼怒川と協力しゲームに乗る
[備考]:播磨が八雲、沢近を探していたと思っています
前話
目次
次話