山あり谷あり希望あり






 太陽は空より海に近くなり、影が一様にその長さを伸ばしはじめる。
幾多の影の中で、明らかに動きを見せるものが一つだけあった。

「……だんだん、地面が赤くなってきましたね…」
「そうだね、このぶんだとあと一時間ちょっとでお日様が隠れちゃいそう」
 正確には一つではなく、二つ。影が重なり合ったものだった。一条かれんと、彼女に背負われている塚本八雲。
出会ってから一時間弱、八雲は結局一条の世話になっていた。
「あ、見えてきた見えてきた。見える?八雲ちゃん。診療所。今日はもうあそこで休みましょう」
 もうちょっとだから、と八雲を元気づけ自らも奮い立たせ、ややペースを上げる。
この調子なら日が沈む前に余裕で間に合いそうだった。


「…おい今鳥、そろそろおりてくれないか?もう診療所が見えてるぞ」
「お、ホントだ。ん〜そうだなもうちょっと」
 先ほどの野呂木との件を払拭するように、花井は軽口で今鳥に話しかける。今鳥もその意思を汲んでか
それとも素なのか。普段の調子でそれに答えた。少しずつ普段の関係が戻りつつある。
既に二人は氷川村に足を踏み入れており、診療所へ伸びる道の直線上にいた。
家屋が目に入るが、村に人の気配はない。自分達のように村を目指してきた級友はいないのだろうか?
いっそ大声で叫んだほうがいいのだろうか?あれこれと考えながらも足は止めない。
直線の道から、北東・南西に伸びる道への交差点に差し掛かったときだった。
それまで家屋で隠れていた部分の視界が一気に開ける。同時に、人の気配がした。

「ん?」
「あれ?」
 背負う者、背負われる者。同じ組み合わせが二つ。ほんの一瞬、世界が止まる。



 診療所まで目と鼻の先。なんとなく見た方向に少女の顔が。
刹那、花井の脳裏に様々な単語が浮かんでは消える。
(!?……一条君……無事で…今鳥!…よか…た……後ろ………誰……!…や……くも……君!!)
脳からの電気信号――足を動かせ。走れ。それより速く、脊椎から指令が下ったのではないかという反応だった。
一条かれんが状況を理解し、喜びの表情を浮かべるより更に速く。花井春樹の足と口は動いていた。

「八雲君!!!」

 断っておくが、花井春樹には全く悪意はなかった。彼はただ愛しい人の無事と再会を喜んだだけである。
その想いの強さを考えれば、背中に今鳥を担いだまま疾走したのもやむをえないことである。
両手を広げたため彼がその背から落ちたことも、それに気がつかなかったことも仕方がない。
しかし『一条かれんの背にいる』八雲目掛けて走ったのがまずかった。
例え相手がわかっていても、突然叫ばれ走ってこられ、一条かれんに警戒の意思が発生。
結果、彼女は自分を抱擁しようとするその腕を掴み……思いっきりブン投げたのである。頭から。
要するに花井春樹にもう少し冷静さがあればよかったのだ。

(あれ?逆さ……空……地面……逆…………受…………無理…………何で……ヤクモン…)
頭の中が塚本八雲のことで一杯だったのが災いし、受身すらできなかった彼の意識は
しばらくの間フェードアウトする――落下先がコンクリートでなかったのが不幸中の幸いだろうか。
そして、一条が両手を離したため、先ほどの今鳥同様に塚本八雲が落ちる音がした。
ただし、彼女はすやすやと寝息を立てていたのだが。

「え……と………イチさん?……あれ?あれれ?ララ……じゃないよな……??」
 尻餅をつき、目の前の光景に目がついていかない今鳥の声だけが響いた。
「あ、あれれれれあれれ…い、いい今鳥さん…こ、これはそのあのどの……ち、ちが…ご、ごめんなさい!!」
「………………………………」
「だ、だから…今鳥さん無事でよかったですえとそのあの……こ、これはそのつい…え、あ、いや…」
「……ま、まーまーイチさん。……大丈夫だって。花井のやつは……そう、タフなんだし」
「わ、わわ私決して…あの…花井さんを…その…そういうつもりじゃなくて…」
「……わ、わかってるわかってる。…イチさんがそんなことするわけ…ない…いや、してる?」

 自らの暴挙への後悔、大事な人との再会の喜び。二つが混ざり合い一条は混乱していた。恥ずかしさで真っ赤になる。
よりによって彼に見られてしまった。何もこんなときに出会わなくてもよかったのに…
疑われている。絶対に疑われている。どうしようどうしよう…

「と…とりあえず、二人をこの中に運ぼうぜ。診療所ならベッドか何かあるだろ。話はそれから、な?」
「ああっそうです!は、はやくしないと首の骨が…」
 おかしなポーズをとっている(とらされている?)花井をまずかつぎこみ、ベッドに寝かす。多少の埃は気にしていられない。
次に未だ眠り続けている八雲を運んで、支給品の詰まったバッグを枕代わりにした。
彼女はここへ向かう途中、急に眠り込んでしまったとか。
塚本八雲がよく学校で寝ている、という話を今鳥はなんとなく思い出した。

「と、とにかく…今鳥さん、無事でよかったです。本当に…私、とても嬉しいです」
「……ん、あんがと。サンキュ」
「ほ、本当に心配したんですからね!やる気なくしてボケっとしていて危険な人に狙われたらどうしようって、本当に…!」
(当たってるし…危険って…野呂木か?……俺ってそんなにわかりやすいのかね)

 今鳥が口を開こうとしたそのとき。チャイム音が響いた。彼らの高校のそれと同一のチャイムが。
『こんばんわ、加藤だ』




「ちっ……やっぱ……マジでやってんだな、コレ」
「…嘘…8人も…」
 禁止エリアを記す、一条の手が震える。どれだけの筋密度を保っていても、それを動かす心は少女のそれなのだ。
動かなくなった彼女の手に代わり今鳥がメモを記す。野呂木との一件が、この放送に対する覚悟を与えていた。
放送が終わっても、お互い言葉が出てこない。話さなくてはいけないことはあるはずなのに。

「…ねえ…さん…」
 背後から聞こえる声に体が反応する。二人がほぼ同時に振り向くと、そこには目をうっすらと開けた八雲がいた。
「八雲ちゃん…目を覚ましたんだ。大丈夫、ここは診療所よ。安全だから安心して」
「よ、八雲ちゃん。元気?もうちょっと休んだら?」
「…?今鳥…先輩…ですよね。大丈夫…です…そうか、私眠ってしまって…一条先輩、すみません…」

(放送のこと、言わないと…塚本さんやお友達のサラちゃんは呼ばれなかった…でも…)
(やっぱ殺し合いが続いてるって言いづらいよなあ…けど禁止エリアもあるし…)
 起き上がり周囲に目をやる八雲は、当然のごとくベットで眠り続ける花井を発見した。
八雲は何事かと尋ねるが、どうもはっきりとした返事がない。しどろもどろになる一条。今鳥が声をはさむ。

「ここに来る前、クラスの奴に襲われてさ。コイツ、そのときに気絶しちまったってわけ」
「そ、そうそう!今鳥さんがひっぱってきて、たくましかったんですよ!」
 助かったとばかりに一条は今鳥の助け舟にのり、相槌を打つ。
「え!?襲われたって……だ、大丈夫なんですか?ケガとか……そ、その襲ってきた人は…?」
 八雲の当然の質問に対し、しまった、と今鳥は彼にしては珍しく浅慮を悔いた。
しかしここまで来た以上引き返せない。嘘と事実を混ぜて押し切ってしまえと考えた。


――――そいつ、変なクスリでもやってるんじゃないかってくらいハイでさ。でもダイジョブ。
―――――――斧でざっくり体をやってて、血ダラダラで。勝手にバッタリいって、動かなくなってね。
――――――――――えと、その、死んじまったよ。

「え…………………………死…ん………………」
 目が一回り大きく開き、腕が不自然な勢いでダランと垂れる。顔から血色が失せ、体が後方に揺れる。
一条と今鳥が気付き、二人の反応より早く。八雲の体は一気に崩れ落ちた。


「今鳥さん、ちょっとこっちへ!お願いです、お願いします!八雲ちゃん、動かないで!あまり考えないで!」
 返事を待たず、一条は力ずくで今鳥を室外へ連れ出す。口調は荒く、表情は真剣そのもの。
しかしその原動力は怒りではない。戸惑い、悲しみ、そして後悔。
診療所を十分に離れた場所で、一条は八雲から聞いた話を伝えた。
狂人に襲われ、身を守るために相手に致命傷を与えてしまったことを。
そして聞いた。今鳥の話はどこまでが真実なのか。偶然なのか、それとも――

「え、じゃあ……野呂木さんが……」
「…あいつは、八雲ちゃんに会った後、俺に会ったんだろな…そこで……チッ、最低だな俺」
 自分が花井を気絶させてしまったことを隠そうとして、彼はあの話をした。悪くないと思う。
事前に八雲の事情を話しておかず、更に自分の失態を素直に話さず誤魔化そうとした自分の愚かさ。
それこそが原因なのではないかと一条は後悔した。

「今鳥さんは、悪くないです。…ただタイミングが…それに、私にだって責任があります」
「…八雲ちゃんは、やってねえよ。もう一度話してくる」
「え?」


 死んじまったよ。死んだ。殺された。私が殺してしまった。
分かっていた。あれだけのことをすれば死ぬに決まっている。
ためらわず傷つけておきながら、いざ死んだことがわかると自分は激しい後悔に駆られているのだ。
斧を叩き込んでおきながら、涙を流しごめんなさいと必死で謝っている。
あれは正当防衛と主張し仕方のないことだったと腹を決めることも、
自分は我が身かわいさで人を殺めた罪人であると認めることもできない。
心に潜む卑しさと、人の命への覚悟の浅さ。どちらも嫌になる。

 裁かれても許されてもいい。誰かに―――自分が絶対の信頼を置く誰かに決めて欲しいと思った。
そしてそれはおそらくただ一人。大事な大事な、たった一人の姉しかいない。
――姉さん?

 そして思ってしまった。これまでは一度も考えたことのないことを。
『もし彼が無傷のままだったら』『もし彼がそのまま姉と出会っていたら』
前者なら先輩達が殺されていたかもしれない。後者なら、同じく―――
(姉さんが……死…………ぬ……?)
 先ほど今鳥に言われたときとは比較にならない震えが襲う。
あの男子生徒が歪んだ笑顔を浮かべ、笑いながら斧を振り下ろす光景が頭に浮かぶ。凶刃の先には泣き叫ぶ姉の姿――
(…………………………嫌っ……………………)



 罪か否か、塚本八雲は自らの意思だけで答えを見つけることができなかった。
迷い続ける心に決着をつけたのは決して揺るがぬ姉への気持ち。
涙は止まり、手足の振るえは収まりはじめ、心は落ち着きを取り戻している。

 ゲームはいまだ続行中。いつ姉に危機が迫るかわからないのに、泣いて立ち止まっていてはいけない。
行動しよう。自分は姉に許してもらえないかもしれない。自分はまた人を傷つけるかもしれない。
けれど、それでも………


   今鳥は足音を立てないようゆっくりと診療所内を進み、八雲のいるであろうフロアのドアを優しく叩く。
返事に期待はしていなかったが、先輩ですか?と彼女の声が聞こえてくる。涙や鼻水が混じった声ではない。

「……ちょっとは落ち着いたかい?…話、させてくれよ。聞くだけでいい」
「…今鳥……先輩…」
 室内の様子はわからないが、声から安定した状態であると理解する。ゆっくりドアを開いた。
「八雲ちゃんを襲ったって奴…野呂木っていうんだけど、死んだんじゃない。俺がやった。俺が殺した」 
「!?」
「俺と花井が襲われて…このスタンガンでやったんだ。トドメをさした。本当だ。後で花井が起きたら聞いてみてくれ」
 今鳥の手にはあらかじめ取り出しておいたスタンガンが存在していた。そして彼の背後にいた一条にも当然その言葉は届く。
彼女からえっ、という小さな声が漏れた。

「……大丈夫、です。……もう……落ち着きましたから……」
「…………そっか。…………ゴメンな…」
 今鳥恭介は別に誠意ある男子というわけではない。その生活態度や学園生活は決して褒められたものではないし、
彼を非難する人間も少なくない。しかし彼はこと女の子に対する扱いだけには長けていた。
この場で彼に殊勝な態度を取らせているのはその経験。それが洒落やごまかしを選ばせなかったのである。

「じゃ、そろそろ花井も起こして色々話そうぜ……野呂木と八雲ちゃんのことは黙っておくとして、な」
「…………はい……ありがとうございます……」



「いやあよかった。実によかった!!八雲君、君とこんなに早く出会えるとは!」
「花井先輩も、無事でよかったです。ケガしていませんか?ここなら簡単な手当てくらいなら…」
「いや大丈夫。そんなヤワな鍛え方はしていない。安心してくれたまえ」
「………(お前イチさんにあっさり気絶させられてたじゃん)」
「………………(は、花井さんは覚えてないのかな?……だと嬉しいなあ)」

 既に目覚めが近かったのか、少し体を揺するだけで花井は意識を取り戻した。
この薄闇の中で八雲を視認したとたん、やはり叫びだしたが今度は一条が冷静に対処する。
一通り喜びをかみ締めあって花井が落ち着くまでの間に(頭を抑えるたびに一条はとぎまぎしていたが)
八雲は少なくとも見た目は元の状態に戻っていたので、今鳥と一条もペースを戻す。

「あの、ですね…………ここまでの私達の経緯は今言ったとおりなんですけれど、お二人が寝てる間に………
 チャイムの音が鳴って………その………放送があったんです」
「………放送って………あ………!姉さん!姉さんは無事ですか!?」
「……誰かが………!まさか……教えてくれ。頼む」
「だ、大丈夫です。お姉さんの塚本さんと、サラちゃんと、周防さんは呼ばれていません。だから落ち着いて…」
 放送で告げられた8名の名前を順に挙げていく。八雲にとってはほとんど記憶にない名ばかりだったが、
花井は違った。彼が守るつもりでいた友人達が、既に……

「……すまない、少し外の空気を吸ってくる……」
 それだけを話し、花井は立ち上がり診療所を出た。やや足がおぼつかないが、拳は強く握り締められている。
数秒後、何かを強く殴りつけるような音が室内にまで響く。三度までそれらは三人の耳に入ってきた。



 花井が戻ってきた後に、今鳥は続きの情報を話す。禁止エリアである。
「禁止エリアはこことここと……ま、このあたりは問題ねーな」
「ちょ、ちょっと暗くて書き取りにくいですね……」
 各自の地図にマークと時刻を記入する。既に禁止エリアを書き込んでいた今鳥は
「俺、ちょっと腹減っちまったよ。食いながら話そうぜ」
 と言ったとたんに今鳥はリュックを開き、中身を漁りだす。それに従い他の三人も荷物を空けた。

「そういえばさ、皆の支給品って何?俺スタンガン」
 口を動かしながら話しているのであろう今鳥に眉をひそめ、花井がため息をつきながら返事をする。
「僕はこれだ」
 取り出した『それ』のシルエットは円筒のような形をした棒だった。
カチ。音と同時に室内は光で満たされた。

「……先輩…」
「お前そんなもんあるなら最初から出せよ!俺達さっきから真っ暗の中で話してたじゃねーか!!」
「………すまん、忘れてた」
「『忘れてた』じゃねー!わかるだろフツー!」
「あ、あはは…花井さん…」

 花井の持つそれはキャンピングライト。残量も表示されるタイプで、光の弱い状態なら
一晩は持続するらしい。節約のために明るさを落としたが、互いの顔は確認できる。


 ライトを中央に囲み四人が座る。支給品や他の参加者についての情報が飛び交う。
自転車は花井が修理に自信があるというが、工具や機材がそこにないため断念。
一条は鎌石村に東郷と冬木がいることを話し、一度合流しないかと提案する。
そして本来は自分の支給品であるドジビロンのストラップを今鳥に渡す。彼は歓喜の声をあげ、
『イチさんとずっと一緒にいる〜』といつものノリに戻っていた。一条は恥ずかしさでまた赤くなる。

「あとは、八雲君の……えと、なんだったか」
「フラッシュメモリ。何か入ってるのか空っぽなのか、さっぱりわかんねーけどな」
「そう、それだ。……確かパソコンがないと…そして冬木君の支給品が…」
「パソコン、でしたね。最新型って言ってましたよ」
「…決まったな。よし。朝になったらここを発ち、冬木達と合流しよう。見張りは僕がやるから皆は…」
 そう花井がまとめようとしたところで。
「あの……すみません、いいですか?」
 これまでほとんど沈黙を保っていた八雲が口を開く。三人の視線が彼女に集まった。


「あの…今から出発するってできないでしょうか?」
 話を聞いている全員が驚く。しかし即座に反論が来た。
「…駄目だ。八雲君。夜は危険だ」
「そうだよ八雲ちゃん。大丈夫、お姉さんも私達ちゃんと探してあげるから。今日はもう休もう?」
「でも……」
 それでも八雲は引こうとしない。この子はこんなに押しが強かっただろうか?若干の違和感を受けて三人が黙る。


「……もう夜です。きっと他の人達も私達みたいに休んでると思います。私達みたいに、建物の中で。
 …もし、もしこの氷川村に私達以外の誰かがいたら、きっと診療所へ来ると思うんです。
 お薬や食べ物があるかもしれないですし…地図にも載ってます。…でも誰も来ない。
 もうこの村には…私達しかいないんじゃないでしょうか?」

「まあそうだけど、それならそれで安全じゃん?」
 今鳥が口をはさむ。言い方はともかくとして、花井や一条も今鳥の意見に同意していた。

「それに、0時になったら放送がありますからそれまでは…誰かが起きてないといけません。
 その人以外は眠ることになりますけれど、……こんな状況で眠れるでしょうか?
 …私は、緊張してまだ眠れないと思います。……だから、今から平瀬村へ行くんです。
 一条先輩の自転車のペースを考えると…多分平瀬村には1時頃にはつけると思います。
 ライトがあるから暗くても道はわかりますし…光を見て誰かが見つけてくれるかもしれません」

「しかし、危険な人間……残念だがそういう人達もいる。彼らにも見つかるかもしれない」
 既に話がしてある野呂木の姿が思い出される。クラスメイトを疑わねばならない状況に花井は歯噛みした。

「そう、です……けれど……ここへくることもありえると思いますし…
 移動中でも4人いれば……それに、もし朝出発したら到着するのは多分夜です。
 今出発すれば到着は昼。…6時間で、8人…ですから…」
 それ以上八雲は言えなかった。自分達の出発が早ければ多くの人が助かるというのは傲慢だ。
だが大勢で集まればそれだけ守りやすくなるのも事実。花井に迷いが生まれた。
自分の目的は多くのクラスメイトを救うこと。ならば休むより探索したほうが可能性は…


「どーするんだよ、花井。イチさん。八雲ちゃん本気だぜ。これじゃ一人でも行くかも」
「え、ええっと…」
「今鳥、一条君。八雲君も。……まだ動けるか?体力は大丈夫か?」
「!え……先輩……!?」
 花井以外の三人の表情が変わる。今鳥と一条は驚き、八雲は喜び。
やがて一条はしかたないなあ、と笑みを浮かべ今鳥はやれやれとため息をついた。
口には出していなかったが、塚本天満を探したいのだろう。姉を想う妹の気持ちにはかなわない。

「すみません…先輩方……ありがとうございます……」
「いや、気にするな八雲君。僕は君達に出会っただけで満足してしまった。
 他のクラスメイトに危機がせまっているというのに。気付かせてくれたのは君だ。ありがとう」
 義務感に満ちた笑みでリュックを担ぎ、花井は出発の準備をする。その手にランプを持って。
一条と今鳥も各自の荷物を背負い、表情にやる気を見せていた。

「あっちにお姉さんがいるといいね!疲れたらまたおんぶしてあげるから遠慮なく言って!」
「花井〜オレもイザとなったら頼むわ」
(……おんぶ……?何か忘れているような……そもそもなんで僕はここで寝ていたんだっけ……?)

 目指すは北西、平瀬村。既に天の主役は輝かしく存在を誇示する太陽から静寂に佇む月へと交代している。
再び太陽が輝くまでに、妹の願いが届くかはまだわからない―



【夜:18〜20時】

【花井春樹】
【現在位置:I-07】
[状態]:やや疲労
[道具]:支給品一式(食料と水一食分消費) キャンピングライト(弱で10時間ほど稼動)
[行動方針] :平瀬村へ向かう。クラスメートを守る

【今鳥恭介】
【現在位置:I-07】
[状態]:やや疲労
[道具]:支給品一式(食料と水一食分消費) スタンガン(残り使用回数3回) 、ドジビロンストラップ(限定品)
[行動方針] :平瀬村へ向かう

【一条かれん】
【現在位置:I-07】
[状態]:やや疲労
[道具]:支給品一式(食料と水一食分消費) 、折りたたみ自転車(東郷の支給品)
[行動方針] :平瀬村へ向かう。天満を探す、サラを探す
(自転車が分解寸前、要修理。工具があれば花井が補強可)

【塚本八雲】
【現在位置:I-07】
[状態]:疲労中。天満を非常に心配
[道具]:支給品一式(食料と水一食分消費) 256Mフラッシュメモリ1本
[行動方針] :平瀬村へ向かう。天満を探す、サラを探す 、播磨さんに会いたい



前話   目次   次話