晩ごはん






烏丸大路は困っていた。
彼の目の前には支給された3つのパンが並べてあり、
その内の1つには彼の好物であるカレーが含有された揚げパン、略称カレーパンが含まれている。
支給されたリュックを開けてこのパンを見つけた時、彼は表情こそ変わらなかったものの喜んでいる自分を感じていた。
(・・・漫画とカレー。その2つがあれば、僕は生きていける)
そう思った烏丸の脳裏にピコピコ頭の少女が一瞬浮かんだ・・・かは定かでない。
ともあれ、彼が事の重大さに気付いたのはカレーパンを袋から出そうとしたその時だ。
(3つのパンの中にカレーパンは1つだけ・・・)
そう、食べる順番が問題なのだ!
命を賭けたゲームが行われている中、何をつまらんことで悩んでいるのかと言う人もいるだろう。
しかし今だからこそ、これは重大な問題なのだとも言えるのではないか。
1時間程前の放送にあった通り、このゲームでは確かに人が死んでいる。
そして自分もいつ死ぬかは分からない。
せめて最期の食事は自分の好物を選びたいと思うのが人情というものではないだろうか?


しかし、だ。
そうなると問題は自分が死ぬ時期となる。
先程の放送で烏丸はこのC−5エリアから動かなくてはならないことが確定した。
漫画のネームを書くため、再びどこかの建物に篭ろうとは思っているものの、
そこまでの移動中に誰かに襲われて命を落とす事だってありえなくもない。

では今カレーパンを食べてしまおうか?
大事に残しておいた挙句、食べないまま死んだでは元も子もない。

しかし、やはりまだ死なないという可能性も十分にあるのだ。
幸い現在地の隣のエリアにはC−6には観音堂、C−4付近には鎌石村があり、
ネーム作りのしやすい環境を考慮して烏丸は鎌石村に行こうと思っていた。
移動距離が少なければ敵襲に襲われる可能性も少ない。
となると、次の食事時まで生き残る可能性も案外高いかもしれない。


やはり慎重に残しておくべきか?
カレーがそこにあるというのは自分にとって1つの希望となるのだ。
そういったものはどんな状況にも限らず、大事にしなくてはならないものである。
(塚本さん・・・のカレー・・・)
山盛りのそれを食べていた頃を奇妙に懐かしく感じる烏丸であった・・・。

【烏丸大路】
【現在位置:C-05】
[状態]: やや空腹
[道具]:支給品一式 不明
[行動方針] :原稿を描く 23時までにC−5を脱出

【午後:19〜20時】



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