第一回放送






生徒達への配慮のつもりなのだろうか、矢神高校のものと同じチャイム音が島全体に響き渡った。

「こんばんわ、加藤だ。みんな頑張っているかな?これから益々暗くなるから絶好の夜襲タイムだ。
 学生諸君は皆夜は遅いだろうし、これからもペースを落とさず頑張ってくれたまえ。
 うーむ…まだまだ話したい事は山ほどあるが、まずはきっちり仕事をせんとな。
 お待ちかねの死亡者と禁止エリアの発表だ。一度しか言わないからよく聞いて欲しい。

 男子20番 天王寺 昇
 男子 4番 梅津 茂雄
 女子13番 永山 朱鷺
 男子18番 飯合 祐次
 男子16番 坊乃岬 大和
 女子18番 寄留野 香織
 男子19番 吉田山 次郎
 男子12番 野呂木 光晴

   これで残りは33名だ。

 続いて禁止エリアだ。19時にE-08、21時にG-04、23時にC-05が対象となる。

   ちゃんとメモを取れたかな?2-C諸君の事だからこんな時にも居眠りをしていそうで心配だ。
 だがまあ、わずか6時間で8人も減ったのには驚いたよ。君達はなかなか優秀だったようだ。
 このペースで行けば、明日の夕方には終わるかもしれんなあ…
 それでは、次の放送は0時だ。いつも授業中に寝ている君らなら起きていられると思う。以上だ」

再びチャイムが鳴り響き、放送は終わった。


「加藤先生、お疲れ様です。これ、今朝焼いてきたクッキーなんですけど…食べて下さいね」
「おお、姉ヶ崎先生…ありがとうございます」
姉ヶ崎からピンク色の小さい袋に包まれたクッキーを受け取り、加藤は嬉々として自分の受け持ちの座席に付いた。
「…おや、谷先生。もうそんなに食べられたのですか?」
「…お陰さまで」
加藤がすぐ横の谷を見やると、彼はいくつもあるモニターを眺めながらすでにクッキーを半分以上平らげていた。
好きな物は先に食べねばならない。それが谷が隣に座る加藤から得た教訓なのだ。

「ふふ…それにしても、皆さんはゲーム前に誰に賭けてたんですか?私は無難に高野さんですけど」
微妙な雰囲気の加藤と谷にも慣れた様子で笹倉が話しかけた。手には帳簿のような物を持っているようだ。
「そんなのもちろん、ハリオの優勝に決まってるじゃないですか!」
笑顔を輝かせ話に加わる姉ヶ崎。
「我が部の模範生徒、一条ならやってくれますとも!」
「いやいや…2-Cの生徒達では無理でしょう。やはり我が2-Dの学級委員、東郷が…」
同じく、豪快に笑いながら会話に加わる郡山。対して加藤は薄ら笑いを浮かべて応じる。
「…私は自分のクラスの生徒を信じますよ。学級委員の花井をね」
「自分のクラス…か。まあ私も塚本八雲君にしましたけどね」
加藤の視線を気にせず、谷はモニターを見たまま答える。刑部も同じようなものだ。

教師達は、普段の職員室と同じような雰囲気をこの管理室でも作り出していた。…あまりにも不自然な程に。


(一人2万円で賭け…か。生徒を賭けの対象にするのも、殺し合わせるのも正気の沙汰じゃない。
だがこのゲームを管理する事も、こうして賭けをする事も奴らの要求というのならやむを得ないが…)
今ここで笑みを浮かべている教師の中には『奴ら』から生徒達を守るべく、機密情報を一部の生徒に渡した者がいた。
(今この中にも、本当に奴らの犬に成り下がった人間がいるというのに…!)
その教師も他の教師と同じように笑い、束の間の雑談に加わる。『奴ら』とその犬への怒りを募らせながら。

(冗談じゃない…情報をリークしたとバレた時点で全員死んでいたかもしれないのに…これ以上動かれてはまずい)
その一方で、情報が生徒に渡った事を『奴ら』に報告した者がいた。
(一体誰が…それが分からなければ、この先いつどんな目に遭わされる事か…)
その教師は情報を漏らした者を探していた。他の教師達のさり気ない動きまで一つ一つチェックする程に。

情報を漏らした者。それを『奴ら』に伝えた者。そして、何も知らなかった者――
『奴ら』から情報漏洩を知らせるメールが届いて以降、生じてしまった教師間の壁。
何気ない会話の中で、教師達はお互いの心を探り、疑い続ける。
命を奪い合っていないだけだ。疑心暗鬼にとらわれ始めたその姿は、ゲームの中の生徒達と何も変わらなかった。


【1日目 18時】



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