静かな狩人






 神社で役立たずを始末した後。道に沿って山を降りる。次の獲物を探すため。
少し開けた街道に出たので用心深く左右を確認するが、誰の姿も見当たらない。
安全を確認したところで音篠冴子はようやくリュックの重さから解放された。

「あ〜肩が痛い。喉もカラカラ。水っ、水。………うわっぬるい。まあしょうがないかあ」
ぶつぶつと誰にも聞こえぬ文句を言いながら口を湿らせ肩をもみ、体を休める。
腕の痺れはほぼ収まった。汗でベトベトする不快感は耐えられないわけじゃない。
頼れる相棒モスバーグM500を片手で撫でながら、なんとなく他の参加者のことを考えてみた。

(……誰が強いかな…やっぱり高野さん?こういう時でも冷静に行動できる人だよね。
やっぱゲームに乗ってるのかな。あ〜できれば敵に回したくないなあ。
沢近さんや周防さんと組んでたりしたら最悪。あ、でもゲームに乗るならそれはないかな?
周防さんといえば麻生君、花井君。沢近さんといえば播磨君。頼れる彼氏がいていいなあ〜
…あ、花井君は違うんだっけ?まあいいや。私も誰か強そうなカレ見つけないと。
でもウチのクラスって真面目なコが多いよね。私みたいなのが少数派か…)

 手にかけることそのものには何の躊躇も無い、むしろ前提で思考を繰り返す。
やはり一人で行動するのは無謀すぎるようだ。さっきの二人とは違う使える奴が欲しい。
そもそも坊乃岬によれば、この一撃必殺の銃の残弾数は4。単純計算で4人殺したら『ハイそれまでよ』。
まだまだ多くの武器が必要だ。だがそれを全部自分で持つのか?
夜はぐっすり眠りたいが、その間の安全を誰が保障する?
…頼れる仲間、いや使える駒が必要だ。友人の三原はああ見えてカタいところがあるから、
一緒に殺ろう!生き残ろう!と言ってもまず無理だろう。そもそも生きて会えるのだろうか?


(じゃあゲームに反対するフリをして、まとめて……数が多いと、一撃は無理よねえ)
 まだ問題はある。自分を上回る身体能力の持ち主は多いし、自分は銃器の扱いに長けていない。
正面からの対決になったら勝ち目が低い。マーダーへの道は思ったより険しかった。
足を伸ばしてため息一つ。風はなく、鳥のさえずりや木々のざわめきも皆無。
目の前の道は東西に伸びており、どちらにせよ先は長そうだった。歩いてる間に夜になるかもしれない。
あれこれと考えている間に、時間だけは確実に経過していった。

 いっそ、誰かがここを通りかかるのを待っていたほうがいいのでは?考えがよぎる。
体力も温存できるし、山の近くだから隠れる場所は多い。夜もきっと安全だ。
(……待った…え〜っと地図地図。……神社から山を道に沿うと…東西の道…うん、今ここね。
西にちょっといけば加えて南の道がある。この近くで待ち伏せして、暗くなったら…)
 三方向ならそれだけ出会いの機会が増える。ただ、眠れるくらい落ち着ける場所がないかもしれないので
日が傾いたら山の麓まで戻って安全を確保する。考えた中では今一番しっくりくる作戦だった。
野宿など本当は真っ平御免なのだが、仕方ない。神社まで戻る手もあるが、
山登りは疲れるし死体の傍で寝たくはない。恐れはないが、夢見が悪そうだ。臭ってくるかもしれない。

「さ、行きますか!」
 リュックを力強く背負い、彼女は笑顔で再び歩き出す。銃さえ手になければその様はまるでピクニック。
既にその精神からは常識や倫理、自制心といった概念は消え失せ、思考はただただ黒く染まっていた。


【14〜16時】
【音篠冴子】
【現在位置:G-05】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式(食料二人分)、散弾銃(モスバーグM500)残弾4、殺虫スプレー(450ml)
[行動方針] :1.G-05の中央、東西南の道がある場所に潜み待ち伏せるが、日が暮れる前に戻る。
2.使える奴を捜す(使えない奴は殺す)



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