プライド
三沢伸はいかにもきまったぜ、と誰も見ていないのにも関わらずポーズを決めてみたりする。
どうやら彼はサバゲー以来、本格的に銃器に凝り始めているようだ。
「1961年に旧チェコスロバキアが制式採用した小型の短機関銃で東欧では今現在においても〜」
と、某サイトで読んだだけの俄か知識を誰に聞かせるでもなく滔々と語っていたのだが。
「…空しいな」
やがて俄か知識が底をつき、ネタが無くなってしまうと…溜息しか出なくなってしまっていた。
そのまま、溜息ばかりを吐き続けてさらに歩くと、目の前にボロボロのビルが見えてきた
「うわ…きたねぇな」
もう閉鎖してから長い年月が経過しているのだろう、中に入って見上げると天井から青空が見えた。
それでもせめて靴くらいは脱いで休めるだろう、三沢が今にも崩れそうな階段を上ろうとした時だった。
ガサッ!
「うわっ…うわわわわっ!」
反射的に振り返り、スコーピオンの引き金を引く三沢、
「がっ!」
だが、数秒もたず銃を落としてしまう…この銃は破壊力は申し分ないが反動が大きくまた整備も難しい部類に入る。
高校生がちょっとやそっとで扱えるはずが無い。
三沢は慌てて落とした銃を拾おうとして、銃身を持ってしまいその熱さに手を引っ込めてしまう。
そこで初めて音の正体を確認する。
「何だ烏丸かよ」
そこにいたのは烏丸大路、どのクラスにも1人はいるあまり目立たない奴だった。
三沢は相手が烏丸だと知って、いかにも安堵したという様子で肩を落とす、この男にとって
烏丸大路はアウトオブ眼中のようだ、もっとも単に注意力散漫なだけなのかもしれないが、
(薄気味のわりぃ奴だな、相変わらず)
ぼーっと突っ立ったままの烏丸を見て思う三沢、
(そういやこいつがクラスで話してるのを聞いたことがないな)
烏丸の視線と三沢の視線が交錯する。
「何だよ」
「上…あがるんだ」
ボソリと呟いた声を聞いて、ようやく三沢は自分が彼の進路をふさいでいたことに気が付いた。
「たく、こんなとこでこもってても仕方ないだろが」
すれ違いざまに烏丸に言い返す三沢、
「やらないといけないことがあるから」
それだけを答えて、階段を上る烏丸。
「はぁ、それって何だよ、相変わらずわかんねー奴だな」
「それは言えない…ごめん」
今度は振り返らずに答える烏丸、その背中を見てまた溜息をつく三沢。
「わーったよ、勝手にしろ」
踵を返す三沢、つきあっていられない、これが沢近や塚本の妹とかならもっと食い下がるところだが、
実のところはミシミシと軋む階段を見て、後を追う勇気がなかったからかもしれない。
三沢が去っていくのを見送ると、烏丸は二階の扉を開ける、
そこにあったのは埃をかぶった機械と部屋に積まれた茶ばんだ大量のチラシ、ここはかつて印刷所だったようだ。
烏丸大路は相変わらず無表情なままで部屋のさらに奥にある机に向い、作業の続き、連載原稿のネームに取り掛かる。
どうやらこの男にとっては、外界の状況など何ら関係のないことなのかもしれない。
ただ、彼の心にあるのはいかなる場合においても、漫画家としての己の責務を全うしなければという、
プロ意識のみだ。
だから彼は黙々とチラシの裏面にペンを走らせる…もしかしたら世に出ることはないのかもしれない、
原稿のために。
【午後:14〜16時】
【三沢伸】
【現在位置:C-05】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 vz64スコーピオン/残り弾数40
[行動方針] :不明、どうしたいのか自分でもわからない
【烏丸大路】
【現在位置:C-05】
[状態]:健康
[道具]:支給品一式 不明
[行動方針] :原稿を描く
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